副編集長からの贈り物
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
松山さんと呼びかけられた方を見ると、見慣れた顔があった。
「副編集長。どうしたの?」
「これをあなたに渡そうと思って」
どうぞと言って渡されたのは封筒だった。何だろうと思い受け取ると、中を見るように促された。
中に入っていたのは書類。びっしりと文章が書かれている。
「え、呪文?脅迫状?」
「そんな訳ないでしょう。よく見てちょうだい」
「インタビュー録?これってテニス部の?」
「そうよ。ずっと渡そうと思っていたのに、バタバタしていてこんな時期になっちゃってごめんなさいね。関東大会前、委員長と来ていたあの時のよ」
「ああ!期末考査を終えた後の練習の時ね!確か関東大会前だったわね」
そうそうと頷く副編集長。懐かしいなと思いながら、書類をパラパラと眺めると、レギュラー陣のそれぞれのインタビュー内容が記されていそうだった。
「新聞に載せられなかったカットしたものよ。じっくり読んでちょうだい。まあ赤面必須かもしれないわね」
「え。そんな恥ずかしい内容を言ってたの」
「読めば分かるわよ」
そう言われ、後で読むようにというようなジェスチャーをされ、促されるまま封筒に書類をしまう。きっと俺様の美技に酔いなとか省略アルファベットとか寝言とかウスとかミソとか下剋上とかもう色々カオスなんだろうな。大人しくしまった私に頷く副編集長。彼女の顔を見て、そういえばと今まで気になっていたことをふと口にしてみた。
「ずっと気になっていたんだけどさ、副編集長って誰の親衛隊なの?」
「え。べ、別にどなたでもいいでしょう。そうね、うん。テニス部箱推しよ」
「そっか。箱推しか」
だが、あの動揺っぷり。怪しい。クールな副編集長の珍しいその様子に好奇心がうずく。
「な、なんですの?」
「怪しい。誰か一人とびぬけている人がいそうね」
「……うっ。テ、テニス部の方々には内緒よ?」
「ええ」
微かに俯きながら、手をもじもじさせて小さく彼女が口を開いた。誰だろう、跡部と言われたらどうしようなんて今更ながら頭によぎる。
「萩之介様」
彼女が小さく告げた名前。萩之介。萩之介?
「って、たたた滝?!」
「はい」
滝の親衛隊って存在していたんだ、なんて彼女の前では口が裂けても言えないが、まさかの内容に驚く。いや、滝は普通にいい奴だしモテるのも納得だけど、今まで全くそんな様子も話も聞かなかったから開いた口が塞がらない。
フリーズしている私に、伝えたことで何か栓が取れたのか、彼女が滝の魅力を熱く語り始めた。そのあまりの熱烈な内容に情報が完結しない。彼女が完全に滝狂いをしているというのは分かった。
「ひっそりと活動しているの?」
「ええ。萩之介様はあの性格でしょう。静かに、陰ながらひっそりとけれど芯をもって応援をする。それが萩之介様の親衛隊のモットーなのですよ」
しかも結構規模が大きいらしい。すごいな滝親衛隊。なんか愛され過ぎていて逆に滝に伝わっていないのがもどかしく感じる。
「そう言う松山さんこそ、跡部様とはどこまでいったの?」
「?!」
彼女に感心するように聞いていたが、突然のとんでもない質問に動揺を隠せなかった。
「な、なんで跡部が」
「隠しても無駄よ。報道委員の眼力をなめないで頂戴」
流石滝親衛隊。妖艶に微笑むその姿はまさに滝の現身のようだ。困った。
そう、私と跡部は確かに付き合っている。だが、レギュラー陣以外には公表はしていないのだ。
跡部としては公表しても問題ないし、何なら全校生徒の前で告げるとかとんでもない晒し刑をしようとしていたみたいだが。相手はあの跡部なのだ。私が彼の堂々と隣に並び立てる自信がまだなかった。
だからもう少し待って欲しいと告げた。そう告げた時も、跡部は隣にいても何ら問題ないだろ何を言っているというようなことを言ってきたが、突然の告白だったのだ。私としても跡部の隣にいたいとは思ったが、気持ちの整理と自信を持ちたかったのだ。家のことでもまだごたごたしてたし。
なんでばれたんだと驚く私をまっすぐに副編集長は見つめている。これはもう確信している様子だ。言い逃れもできなさそうだ。
「副編集長の思っている通りよ。けど、このことは」
「分かってるわよ。まあ跡部様と貴女のことだから、きっと何か理由があるのよね」
「ありがとう」
「安心して頂戴。私たち親衛隊は推しの幸せが一番大切だもの」
そう微笑む副編集長。ファンの鏡のような人だ。で、どこまでいったの?なんて改めて聞かれて困惑する。この質問をたけたちからされるたびに戸惑っているのもまた事実。
「実は、恋人らしいことはまだ全然」
「え。そうなの?」
このまま自然消滅……なんて思いが微かによぎる。少しずつ進んでいこうとは思っているが、なかなか難しいものだ。そんな不安を口にする。
「自然消滅?ふふ。貴女本気でそんな心配しているの?」
「?」
「まあこれでも見てよく考えることね。さっきなんでばれたのかっていうような顔をしていたわね。その答えもこれを見れば分かるわ」
そう彼女がまた封筒を私に差し出した。先ほどより封筒のサイズは小さいが、受け取るとズシリと重い。
「これは私と委員長、一部の報道委員からのプレゼントみたいなものよ。じゃあまたね」
どういう意味かと思いながら封筒を開ける。中には写真のようなものが何枚も入っていた。
自信を持ちなさいと、と笑顔で告げて背を向ける副編集長。贈り物と応援をくれたことをその背中に向けてお礼を言う。少しこちらに振り返り、まあ最初に渡したインタビュー録と合わせて見て見なさいなと促すように手を振り去っていった。
1/7ページ