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大部離れた話

ある日、殺人事件が起きた。

とある要人の妻が殺された。
夫となる要人は涙を流して心痛を語った。
世間ではよくある殺人と流されそうになったが手口が酷かった。
妻は自宅のリビングにて応接用テーブルの上に死体となって仰向けに倒れていた。
腹を刃物で深く切られ内蔵の大部分が遺体の周囲に放り出されていた。
残虐性の酷さから怨恨が見られたが手がかりは何も出てこなかった。
人の出入りもなく犯行現場は閉鎖的な空間。
自殺と判断できない事態に周囲は恐怖した。
メディアでもその報道は大きく取り上げられ近しい人間や現地の周辺民家への取材が絶えなかった。

それから数日経たないうちに別の要人の子供が殺された。
子供部屋の学習机にうつ伏せになるように座らされていた。
首を縄のようなもので締められ左足が付け根から切断されており切断された足はベッドに放り出されていた。
両親は涙を流して犯人に対して怒りを語った。

相次ぐ、要人の家族の殺人事件に警察の操作を笑うかのように痕跡が出てこない。
手がかりは愚か犯人がいるならば当然出てくるだろう足跡も凶器も出てこない。
メディアの報道だけが加熱した。
中には連日の報道に『行き過ぎた行為』だとクレームを入れる者も居たがそれでも止まる事は無かった。

それから更に時間が経過した頃に要人の秘書が殺された。
マンションのダイニングで頭部を鈍器のような物で叩いたのか頭蓋骨が割れていた。
仰向けに倒れていた遺体は無表情だった。
身内だけに起こるとされていた事件がとうとう周囲の人間にまで及んだ。
騒ぐ報道、焦る近隣住民、抑止を叫ぶコメンテーター。
偶然とは言い切れない事件の発生に誰もが恐怖した。
笑っていた、第三者も明日は我が身と疑心暗鬼にもなる。
しかしマンションでの犯行ということで今度こそ手がかりが出ると誰もが思ったが出てこなかった。
足跡も凶器も。
疑心暗鬼に拍車がかかっただけだった。

更に数日が経過した頃、殺人事件が発生した。
女子大生が路上で仰向けに遺体となって発見された。
背中を刃物で肩から腰にかけて切りつけられ左足の太腿を数回刺されていた。
両親は悔しさや怒り悲しみを訴えたがメディアの取材には一切応じなかった。
犯行現場が路上であった事から報道は周囲の人間や店舗へ取材を入れる。
先に手を回していた警察より確定的な証言は無かったがそれでもメディアには充分な映像が入った。
路上ですぐに犯人が捕まるだろうと誰もが思ったが痕跡も凶器も気配も何も出てこなかった。
そして、この事件に関する報道は数日で消えた。

要人の殺人事件の犯人が見つかっていなかったから。

そこで小さな噂が流れ始めた。
最初はSNSで投稿されたものが数分としないうちに拡散した。
《とある組織と共通点があるらしい》
そんな手がかりとも言い難い噂は真実だろうが嘘だろうが面白半分に拡散されてしまう。
注意喚起がされるも発信点が削除されてしまい、情報だけが独り歩きしていた。
噂はあらゆる人が手を加えて変化する。
《組織の家族だから殺された》
《組織の人間を庇ったから殺された》
《組織に金を渡したから殺された》
中でも一番に目を引いたのは

《組織に関わりある本人の身内だから殺された》

そうすると周囲を疑う者や保身に走るものが出てくる。
当然、関連が疑われるが己可愛さに否定するしか無い。
認めたら最後、殺される。
そうこうしているうちに女子大生事件が類似していると新たな噂が流れ始めた。
室内ではないものの残虐性、見つからない凶器に痕跡。
中には持論を展開する者まで出てくる始末。
表現の自由が恐怖と好奇心を生み出した。

更に通日後、殺人事件が発生した。
今度は誰が殺されたのかと注目を引く中でとある男性だった。
喉を切りつけ胴体から頭部を切断し頭部を腹の上に乗せた遺体だった。
場所は地方の村の林の中だった。
誰もが興味を無くすかと思いきやまた噂が蒸し返される。
その男性の親族が組織と関わりがあったらしい。

更に通日後、殺人事件が発生した。
被害者は女性で心臓を一突きにされ仰向けで倒れていた。
両目をくり抜かれて両手に乗せられていた。
先の男性同様に地方の町の一軒家の庭で見つかった。
更には親族が組織と関わりがあったらしい上に元恋人らしい。

徐々に組織との関係性を意識し始める。
だが、不確実な情報は別の事態を引き起こす。
子供は無邪気で情報に流されやすくどこまで信じるかの判断力がまだ未成熟な事が多い。
だからこそ《いじめ》が起きやすい。
事実を見極めないまま疑わしい者や都合の悪い人間を簡単に標的にしてしまう。
学級内部で時に教師を巻き込み、教育そのものを巻き込んで世の中に発信されてしまう。
擬似的でも殺人に近い扱いをしている事に気づくだろうか。
未来にどれだけのものが残るかも知らないまま拡散されて意図しない世界まで巻き込んだ。

犯人が見つからないとなると犯行に関する情報から模倣犯が生まれる。
本当の犯人が代理に裁かれるだろう、安易な考えが模倣犯達の足元を全て捉えた。

今度こそ本当の犯人だと誰もが望むが捕まるのは模倣犯ばかり。
次第に犯人と模倣犯の境界線が無くなり始めた。

区別は殺人かそうでないかに分けるくらい。
そんな曖昧なもので誰が納得できるだろう。

殺人の境界線も凶器によるものや病死や事故に見せかけるなどやり方は様々ある。
ただ、《組織に関わりがあるから殺されたらしい》事件の犯人は必ず凶器を使っていた。
どの遺体もどこかに傷があり性別も年齢も地位も名誉も関係無い。
犯行の対象ななるのが《組織に関わりがある》らしい身内の者。
直接的な関連でない事が更に事件を難解にした。
次の標的となる可能性のあるものが無限に広がってしまっているから。

人が人を疑い、事実を正確に把握出来なまま今日もどこかで人が死んでいく。

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