彼女の双子の姉の生態


彼女の双子の姉の生態

“幸せと言うモノが慣れない”


見えすぎるからイケナイんだ
この前見たものは違う
そんなはずじゃない
何かの間違い
きっとそうだ
だから、大丈夫
まだ、大丈夫

「何のこと?」

久しぶりに見た妹は人違いかと思うくらい大人びていた
化粧がどうとかで無く
雰囲気がそうさせていた
どうしたのだろうか
聞いて良いのかよく解らなくて戸惑う

「一緒にいた、その男」

やっと絞り出した一言に合点がいったと言う顔になって妹は口を開いた
現在は自分が定めた運命の人と共にいる
同居もしているそうだ
自分の正体について
いっさい咎めるわけでなく
一緒にいてくれる
いつか正体を明かすことを視野に入れているそうだ
まるで結婚を前提にした付き合い

「そっか、良かった」
「そっちは?彼氏二人だっけ?」

自分の諸事情はコチラが話すより詳しそうだ
彼氏が二人
つい最近リタイアした元社会人
とは言え所属は残っている
指南役みたいなものだ
数え切れない程の犠牲からやっと作り上げた一つ
絶対に手放したくない
許されるなら
このままが良い

「当たり前、普通、知らない事だらけ」
「そうだな」

あまりにも知らないものが多すぎた
そのせいで苦労する事もある
手にした幸せの前に持てる知識は石ころも同然で
私生活の中に《楽しい》なんてものすら無かったから
今が幸せ過ぎる
守りたい、よりも邪魔するなら逆に壊してやる
それしか思いつかなくなった
未来よりも現在、過去よりも現在
障害は破壊すれば良い
ただ願わくば、それをせずに済むなら
それに越したことはない
いつまでも、そうあれば良い
周囲の当たり前は自分達にとっての当り前じゃないと改めて知った
だからこの前、見たものは幻だ

通りすがり
すれ違い様
かつての妹の姿
僅かな血の匂い
濃い色を見せる背中の影
何かの幻だ

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