彼女の双子の姉の生態


彼女の双子の姉の生態

“キレイなものはやっぱりキレイ”


歌をうたう
彼女はキレイな声で歌う
誰もが羨むような声を、俺はあまり聞かない
殆ど最中の声か日中の声くらい
一度好奇心で歌を聞きたい、と伝えたらはぐらかされて結局聞けなかった
逆に何故人前で歌うのが苦手なのか聞いてみたらよくある

《下手だから》
《キンチョーするから》

とかだった
なら、誰が彼女の歌を褒めるんだ?
誰が彼女の歌を聞いたんだ?
誰の前なら歌えるんだ?
そんな事を考えてるうちに呼ばれている事にすら気付かなかった

「大丈夫?」
「あぁ、悪ぃ。ボーとしてた?」

単純な理由だけど元がもとだから心配されるのは当然
もしくは怖がられる
(彼女は一度も無いけど)

「誰にだったら歌ってくれんのかなぁ、て」
「ウタ?」

彼女は少し考えるように視線を彷徨わせて
俺の隣に座った
ゆっくりと身を預けるように寄りかかる
目を閉じたので眠ったのかと思った

「~~♪」

知らない歌詞に、知らないメロディー
ゆっくり歌い続ける彼女
すっげーキレイ、高い音になっても
耳を刺すような金切り声でなく、かすれて消えそうなソプラノ
低い音になっても重苦しくない小石を拾ったようなアルト
波のように繰り返しながら
念願の歌が聞けて嬉しいのに彼女をこの場から出すのが怖くなった
このキレイな声が誰かに奪われるかもしれない、と思うと
そんな事などあるはずないのに無性に怖くて仕方なかった

歌を歌う、彼女は姿も声もキレイ

だから《後の祭り》なんて後悔するんだ

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