彼女の生態の裏側


どうこうしようが最後は全部胃袋の中

本日のお仕事はいつも通りの解体作業。(多分)
どうしてやろうかと思ったら予想以上に元気だった。
なので煩い口に向かってその辺にあったヘラを突っ込んだ。
普通だったら布なり猿轡なりを入れるんだろうけど。
あんまりそういう事に興味が無いから黙れば何でも良いと思う。
喉を傷つけたのか声が出ない代わりに自分を表現するためか表情は尋常でないくらい歪になった。
眼の前で歪んだ表情をした奴に同情するでもなく、単純に気に入らなかったらと言うだけでプラスドライバーを両目に突き刺した。
泣き顔みたいに両目から血が流れてそれすらも何も思うところはなかった。
「悪いね、詰めが甘くて」
「問題ないです。本日はどうされますか」
声がした方を見やれば久しぶりに見る過去の依頼人。
実家のお得意様だったらしいが今はほとんど別へ外注しているらしい。
そういうところはあまり深入りしない。
いわゆる暗黙のルール。
いつも通りの笑顔で近くまでやってくる。
血が飛び散った際に面倒になるから止めてほしいのだが依頼人は全く気に留めない。
以前に『すぐ着替えるから』と先回りされて一瞬、心を読まれたのかと冷や汗をかいたのが懐かしい。
それ以降は遠慮なく作業をしている。
「今日はそうだな。一度冷凍してみようか」
保存食にでもするんだろうか。
急ぎではなかったが液体窒素の中に死体を入れて1時間程小休止。
その間、依頼人とお茶と称した二人きりの空間を作られてしまったが遺体と同じ空間で紅茶をしばくあたり本当に人間なのかと疑いたくなる。

1時間後。
「まぁ、いいか。じゃあスライスしてみよう」
ん?スライス?どうやって?
にっこり笑って渡されたのは金属製のヘラ。
「ゴメン、ゴメン。説明が至らなかったね。コレで適当に腕1本分削いでこの容器の中に入れて」
「、、、、解りました」
本当に正気なんだろうか。
少し時間をおいたせいか凍った遺体は徐々に遺体特有の温度に戻りつつある。
それに向かってヘラを置いて金槌を打ち込む。
コンコンコンコンコンコンコン。
作業中は依頼人はそばに居ない。
昔は眺めている事があったが今は姿を消して終わる頃に帰ってくる。
腕1本分が終わる頃にやっぱり依頼人は帰ってきた。
「ありがとう。おつかれさま」
削いだ人肉を指定された容器に詰め込み振り返ると笑顔の依頼人。
作業前のスーツと違うスーツ姿。
依頼人は容器の中を覗き込み満足したのか近くにいた男に指示してその容器を回収させた。
その後はもちろん、聞かない。
どうなろうと知ったことじゃない。
「残りはどうしますか」
「そうだな、、、、数分後に柔らかくなりそうだからシュレッダーしよう」
相変わらず良い笑顔で彼はそう言った。
色々な人間を見てきたけど、本当にこの依頼人だけは考えてることがわからない。

「ただいま〜」
「おかえりー」
いつものマンションに戻ればのんびりとした彼がいる。
今日は定時で帰れたらしい。
キッチンで野菜炒めを作ってる。
味は決まって薄い塩に薄い胡椒。
なんでも薄い味でしか作ってくれない。
でもそんなトコロも好き。
ご飯に味噌汁、そしてスーパーで買ったキムチ。
キムチ。
「ゴメン、今日キムチはパス」
「りょーかい」
お察ししてくれるところも優しいって言うのかな。
二度目のシャワーに向かって。
一瞬だけど見えたメニューは野菜炒めに焼き魚とサラダ。
仕事がある日は極力肉料理に触れようとしないのを気づかれたのはいつかは覚えてない。
でも、仕事だし、そういう生まれだし、それ以外特技が無い。

「「いただきます」」
そんな私を好きになってくれた特別な人。
そんな彼を好きになった馬鹿な私。
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