彼女の生態


彼女の生態

“寡黙は優しいのか”


いつもの朝、エレベーターで悪趣味な男と遭遇する事は無くなったが
代わりに同じ時間、同じ階で乗り合わせる人間が現れた
帽子を深くかぶって薄い色のサングラスの男
むやみに言葉を交わさない方が良いと思ったので
とりあえず自分の降りる階のボタンを押してからその場所より離れて俯いてみた

一方、乗り合わせた方の男は終始無言で身動きも取らないまま
どこかあさっての方向を見つめたままだった

基本、会社勤めなので降りるのは一階
だから、エレベーターや目的地に到着すると足早に降りていた
乗り合わせた人間は相変わらず身動き一つしていなかった気がする

「お前はいつもこの時間に乗るのか」
「へ?」

質問は唐突でその日も乗り合わせたそいつと目を合わせないように俯いていると急に話しかけられた
反射的に顔を上げてハッとして下を向く

“迂闊に情報を仕入れてはいけない”

彼女が教えてくれた生き残る為の基本ルール
とりあえず下を向いたまま返事をしないと

「リーマンなんで」
「そうか」

ソイツは一言返事をして会話は終了した


「多分、情報屋かなー」

首をパキパキ鳴らしながら教えてもらった新裏情報

「でも・・・・イメチェンかな。昔は某クリニックのCMみたいにちょーハイネック着てたんだよねー♪」

“●●ケイかと思ったよー★”

笑いながら付け足された情報に軽く頭痛がした



因みに翌日から乗り合わせる事は二度と無かった

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