彼女の生態


彼女の生態


“白雪姫に投げつけた目覚まし時計”―1



「お、は、、よ、、」
「ッ!?」

ある朝、目覚めたら彼の首を締めてた
心底苦しそうな彼はなんとか一言発すると気を失った
訳が解らず咄嗟に後ずさりしてすぐに心臓の音に耳をすます
生きてた

信じてもらえるかは解らない状態で代理に休暇申請
幸い、対応してくれたのはいつか会った事があるらしい彼の同僚だった
表現につまる状態に先方は一言『ゆっくり休ませてやって』とそれ以上言及をしなかった

小一時間経過して彼が目を覚ました

「マジで驚いた」
「ゴメン」
「なんか、あった?」

正直、先程から言葉が詰まって何も思い付かない
いつもの軽々しい言い訳も
誤魔化しきれない、焦る自分とは裏腹に彼は視線を逸らしながら更に口を開いた

「殺したから?」

コロシタ、カラ?

なんでと聞くよりやっと環境が可笑しい事に気付いた
付きっぱなしの換気扇
網戸のままなベランダ
扇風機はずっと外を向いている
しかも彼の視線の先には血痕
素人目には見えないそれは逆も然りで

「夜中、さっきみたいな状態でドアノブ壊れんじゃねえか、て勢いで」

彼、曰く
正気を無くしたまま帰宅した自分の姿を見て尋常で無いのはすぐに察知した
全身至る所に血に濡れている
とりあえず、暴れる様子は無かったので
彼女の身体を洗いつつ、空いたバケツやら桶は全部染み抜き用に専用洗剤を突っ込んだ

「そんで朝起きたらアレ」
「ゴメン」

もう誤魔化しきれない
笑っていた記憶も全部処分する時がきた

「共謀罪とかにはならない、から」
「うん」
「一人で殺ってきたし」
「うん」
「もう、消えるから」
「やだ」

彼は自分の首に手を添えて目を閉じた

そりゃ、今日みたいに間違えたりするかもしんない
二度と帰って来ないかもしれない
それでも、やっは今までの生活が楽しい、てのは本当
だから、今日も明日も、今までみたいに一緒にいたい

「そういえば、さ」

今度は彼が気まずそうに切り出した
視線の先は血が付着していたであろう衣類が沈んでいるバケツ

「血の染み抜きって漂白剤で良いんだっけ?」

この日、始めて黒のスーツを漂白剤に浸ける人類と遭遇した
なんでも漂白剤、て


白雪姫に投げつけた目覚まし時計―2
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