彼女の生態


彼女の生態

“スウィート・デス・マジック”


甘く煮詰める工程は嫌い
まるで心の深くを覗くみたいで反吐が出る
煮詰めれば煮詰めるほど心が暴かれていくような感覚
そんあ感じがして嫌だった
コンロの上に小さな鍋
残った果物が唐突に虚しく思えてジャムにしてみた
均等な味になんて、なるはず無いのに
煮詰めたら何とかなるかな、と思ってやってみた
自分の心の深くが見られるような感じ
嫌な感じ

「焦げてる」

目の前の鍋は見事な黒
異臭に気付いた彼が飛んできて火を止めた
ジャムも元々、火加減を誤れば焦げるのに

「まっくろ」
「大丈夫か?」
「タワシがあるから」
「お前が」

なんか一瞬、心を見られたような気がして露骨に顔ごと目を背けた
不思議がっていた彼はそれ以上何も聞かずにタワシで鍋を洗い始めた
その間も逸らしたままの顔からは何も言えなかった


どうやら鍋はまだ使えるらしい
洗い終えたそれが水切りに立てかけられた
彼は瓶詰のジャムと食パンを持って行ってしまった
戻ってくると今度は自分の手を引いて歩き出した

「やっぱり甘いもんも要るよなー」

食パンにジャムをべっとり塗ったものを用意していた

「いただきます」

本当の事は言えないけどやっぱり美味しかった


43/51ページ
スキ