彼女の生態の裏側


彼女の生態の裏側で


“1・2・3で息を止める-2”


「ですが、このままでは貴方が汚れます」
「良いんだ、そんな事」

下から聞こえてきた怒りを含んだ声に
視線を向けるが表情は見えなかった
髪をすきながら
何かを呟いていたが
よく聞き取れなかった
ようやく腕から解放されたが
そのまま車内に強制的に留まる事となった
依頼主は先の怒り?が嘘のように笑顔だった
車両が移動し始めたので抵抗も反論も飲み込んだ


一体どれほどの富裕層を保護する気なのか、と思わせるような広大なホテル
警備は隅々まで配置され強制とは言え依頼主の車両で自分の状態を改めて見た時気まずくなった

「気にしなくていいよ、セカンドハウスみたいなものだから」

鮮やかな笑顔が更にいたたまれなさを上昇させる
車両はホテルの車両専用エントランスの一角で停車
ドアが開いて降りてきた自分の顔を見て誰もが驚いた
しかし、彼が2、3声を掛けるとすぐに部屋へ案内された

「悪いね、正面からだと他に迷惑が掛かりそうだったから」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。お手間をかけて」
「ハイ、コレ」

部屋に案内されるまで何度も思ったがこの依頼主はとことん話をへし折る
軽やかな笑顔で言われるがまま指先の先へ視線を向けると一着のドレス
手短に部屋の構造を説明されて身体を洗って着替えてくるように指示が出た
その際に強く念押しされたのが血をすべて洗ってくる事
バスルームで身体を指示通り洗浄し用意されたドレスに着替えて最初の部屋へ戻ってくると依頼主が笑顔で迎えた
一体、どうやったのか依頼主も着替えていた
小さなテーブルに置いてあった手のひらサイズの容器から自身の手のひらにクリームをとると
自分の両手をとって塗り始めた
しばらく見ていたが本当に依頼主は自分の手を文字通り汚していないおかげか綺麗だった
花の香りが舞う中で満足したのか片手だけ離して腰に手をまわす

「ワルツ、良いかな」

音源も無いのに同じ曲を聴いているかのように
リズムがずれる事なく互いが自然にステップを踏める
不思議に思ったが
ものを言える立場ではない以上
あるはずの無いワルツを踊り続けた



15/21ページ
スキ