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UK

スタジオの部屋の前で、ぴたりと麗の足が止まった。

部屋の中に楽しそうに話すれいたと戒がいたからである。

誰にでも優しく、面白いれいたと、よく笑う戒。
二人の間に特別な感情なんて何も無いだろう。
なんてことはない、ただ仲良く二人が話しているだけではないか。長く続けるにつれ、バンドメンバー間の仲は悪くなるところが多いというのに、これはむしろいい事だ。

しかし、いまの麗にはその光景がたまらなく腹立たしいことのように思えた。

(…なにをこんなに苛ついてるんだ、俺は)

最近、メンバーどうしで話していると苛つくことが増えたと麗は思う。全員でのミーティングとか、楽屋でのバカ話とか。選曲会の苛つきとは違う、なにかもっとドロドロした感情に支配されている。
それは嫉妬によく似ていた。

(もしかして、俺嫉いてる?)

では、誰に対して…と考え、はっとする。
苛つく場面にはことごとく、戒がいることに気付いたからだった。とはいっても、戒自身に対して腹立つのではなく、戒が誰にでも笑顔を向けることに対して苛立ちが募っているのを、麗はこのとき初めて自覚した。

麗は思わず赤面する。まさか自分が、戒にそんな独占欲を持っていたなんて。にわかには信じがたく、ぼうっと立ち尽くす。

「おーい、うっさん?なにしてんの?」

そのとき、戒に声をかけられた。麗が物思いにふけっている間にれいたとの話が終わったようだった。
麗は思わず素っ頓狂な声を上げる。

「うわっ戒くん!?」
「なに、人をお化けみたいに!」

戒はけらけらと明快に笑った。

(あ、この笑顔)

麗は、自分の顔が熱を帯びるのを感じた。

(どうか気付かれませんように)


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