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 気怠い寝室に紫煙がひろがる。
すっかり覚えてしまった戒のタバコの匂いを感じながら、麗は目を閉じていた。戒が夜中こうしてタバコを吸いだすときは、なにか考え事をしているとき。そう心得ていたから、麗は寝た振り、というやつを決め込むことにしたのだった。
 
(戒くんにこんな癖があるって、戒くんに抱かれる女の子は知ってんのかな…)

 独占欲の発露ともとられかねない考えだが、麗自身は戒が誰かのものになっても別に構わない、と考えている。夜、を共にするだけの関係。戒くんがこの関係を辞めたいというなら、何もなかったことにしようと心に決めている。

(…でも、もし、戒くんが俺のことを本気で好きなら…?)

そんな考えが麗の頭をもたげたが、すぐに打ち消された。

(いや、駄目だ。戒くんは俺と一緒になっても幸せになれない。だいいち、誰か祝ってくれるんだ…)

後ろめたい関係だからメンバーにもひた隠しにするのではないか。背徳の関係になることは承知の上で、さみしさを理由に戒の優しさに漬け込んだのは誰だ、と麗は自分に言い聞かせた。

そのとき。

戒の手が、麗の髪を撫でた。否、撫でるというより指の背でやさしく触った、と言ったほうが正しい。おそらく、慈愛に満ちた目で自分を見つめていることを、麗は知っていた。触られた部分から熱を帯びる。

「麗…」

少し掠れた声で呟かれた己の名は、いつも呼ばれるそれとは全然違った魔力を持っているようだった。それは、一人の男の独占欲をかき立てるには十分すぎるほど、甘くか弱い声だった。

(いま、この瞬間の戒くんは、絶対に俺だけのものだ)



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