ガレ魔女
【ハイラブパフューム考察】
ハイラブパフュームとは。
使うことで人形兵の好感度が非常に上がりやすくなる好感度調整用のアイテム。普段は仲の悪い相手同士でもこれを使うことでギスギスした雰囲気がちょっとだけ緩和する……かもしれない。
普通のラブパフュームもあるのですが、こちらは香水型でこっそり体にサッと一吹きするだけで効果が発揮されるお手軽便利アイテム。好感度の調整という目的でなくてもちょっとしたオシャレにも使えそうですね。
で、「ハイ」と名の付くあたり効能は香水の倍近くありそうなこのアイテムは香水ではなく、蜂蜜を仕舞っておくような瓶の中に収まっていまして。
「ず〜っと疑問だったんだけど、どうしてハイラブパフュームって普通の瓶の中にあるんだろうね〜」
ガレリア宮の地下で今日の戦利品を仕分けている最中にニケロはそんなことを言いました。その手にあるのは口述した通りのアイテム、ハイラブパフューム。
迷宮に点在している宝箱から拾ったアイテムのひとつですね。ちなみに一般的に販売されていない一種のレアものです。
何気ない疑問の言葉により、一緒に仕分けをしていたメンバーたちも次々に手を止めて思考を働かせます。
「言われてみれば確かにそうね。ルフランの迷宮で拾ったやつはどっちも香水だったけど、どうしてこっちはただの瓶入りの液体なのかしら」
「使い方が分からないから誰も使ってないんだよなあ」
最初に言葉を発したのはアルスティとレグ。過去の経験からこれがどういったアイテムなのかは知っているものの、使い勝手が異なっていることから迂闊に手を出せていません。
「液体だから飲むのではないのか」
こちらには見向きもしないで発言したオディロン、会話に参加するもののそこまで興味はないのか戦利品の吟味をする手は止めません。今日は大量収穫だったので時間がかかっているのですよ。
「飲むの〜? こんなドロドロの液体を〜?」
煽るような口調でニケロは瓶を右に傾けます。中にある琥珀色の液体は重力に合わせてゆっくりと流れていくことから、中身がただの液体ではないことを物語ってくれました。
まあオディロンは見向きもしてないので、
「なら知らん」
あっさり切り捨てました。すると、
「これは飲み物ではなく体にかけて使うものよ」
音もなくマサーファ襲来。
しかも、横から顔を覗き込むような姿勢で突然現れるものですからオディロン、静かに驚いて言葉が詰まります。
「…………」
「私も気になっていたの。一部のアイテムはルフランの時と効果は同じだけど見た目がちょっと違うからどうやって使うのかしらって。だから“これはなんだろう”って思ったアイテムは一通り試すようにしているわ」
「……喋るなと言っても貴様は一方的に詳細を全て語るつもりだと確信しているから尋ねるが、使ってみたということだな」
「ええ。ハイラブパフュームの瓶を開けて確信したわ。これは服用するのではなく体にかけて使うものだって。香水のように体に吹き掛けるんじゃなくて、ドロドロしてヌメヌメした液体を素肌にべったりしっかり」
「それでそれで?」
「どうなったんだどうなったんだ?」
いつの間にか話に食いついてきたアルスティとレグにニケロの冷ややかな視線が止まりませんが、マサーファは続けます。
「昨晩ベイランで試してみたわ。効果は予想通り発情薬入りの潤滑油のような感じのモノだった。全部使って全身にくまなく塗ってあげたらもうそれはそれは意味深な大変なことに」
「だからべーらん、今日は一度も顔を見てないんだね〜」
遠くでぼやくニケロ。ベイランは全く姿を現していない上に探索にも出ず引きこもっていて疑問でしたが、その理由が明らかになりました。なお、口調は穏やかでも冷ややかな視線はまだ続いています。
オディロンは同情……というよりも、呆れ果ててため息。
「また虐められたのか……普段のじゃれあい程度ならまだいいが、性的行為による虐待は軽いノリや好奇心では済まされないぞ」
「あら、私が彼に“嫌だ”って言われたら絶対に手を出さない性分だって忘れたのかしら」
いつもと変わらない感情のこもっていない淡々とした口調ですが、若干の不満があることは見て取れました。
「長い付き合いだからベイランだって私が彼にとって嫌なことを強要しないことぐらい分かっているわ。断られたら自分で試すつもりだって最初に言っておいたし」
「それらを話した上で、奴は使われることを許可したのか」
「そうね」
肯定と同時に「これは一種の性癖暴露なのでは……?」という疑問が一同の間を駆け抜けましたが、ベイランのためにこれ以上は考えないでおくことにしました。
「ふむ……それは失礼したな。我の考えが浅はかであった」
「いいのよ。誤解されやすいことをしているのは確かだし、そういうのには慣れているし」
「慣れている」という言葉に妙な引っ掛かりを覚えましたが、言及はしないでおきました。
「それでそれで? 意味深で大変なことになったベイランをマサーファちゃんはどうしたんだ?」
「面白かったからずっと見てた」
やや興奮気味のレグの質問にマサーファ即答。そして留まる彼の勢い。
「え……見てた……だけ……?」
「楽しかったわよ」
「そっかあ」
そんな気がしていたとは言いません。レグも、周りも。
「使い方はわかったけど、こんなものでドロドロになって発情して周囲から好感度上げようって考えた人、絶対に正気の沙汰じゃないよね〜しかも戦闘中に」
「どちらかというと夜の嗜み用ってやつね」
そう言うと、マサーファは右手と左手にハイラブパフュームをひとつずつ持つと、右手のをアルスティに、左手のをオディロンに渡しました。そして、
「「どうもありがとう」」
二人は粛々とそれをポケットに隠すのでした。
「おい」
ニケロの冷めた声と鋭い眼光は効果がありませんでした。
「あれっ? マサーファちゃん、おじさんにはくれないの?」
「あら、あげて何になるの?」
「おっしゃる通りで!」
そして、戦利品の吟味も終わり一旦解散の流れになりました。
レグとマサーファは「このトレジャーアイテムはこういった意味深な理由があるのではないか」という議論をするために地下に残り真面目な顔をして大変下品な話を続けていますが、アルスティとオディロンは全く興味がないのでさっさと離れました。
ニケロは残っていましたがこういった話に興味があるのではなく、暇なのでレグと一緒にいることを選んだだけなのでしょう。
アルスティも何かぶつくさと独り言をぼやきながらどこかに行ってしまい、オディロンはひとりガレリア宮の廊下に取り残されたわけで。
「さて……問題はこれをどのタイミングで使うかだが……」
ポケットに直していたハイラブパフュームを取り出した刹那、
「我が半身よ! 聞いて驚け! 面白いものを持ってきたぞ!」
まるでタイミングを図っていたかのようにシュザンナが現れ、大手を振ってこちらに来るではありませんか。
今持っている物を見られてしまったらマズイ…………こともなさそうですね。その内に使う予定がある上に、これは側から見れば市販の蜂蜜のようなものなのでいくらでも誤魔化しが効くでしょう。
「とても良いモノを貰ったのだ! 我はちょっとこれ使ってみたいぞ!」
どこか興奮気味で持ってきたのは蜂蜜が入っているように見える瓶。
つまりはハイラブパフュームでした。
「あ」
「あっ」
同じ道具を、自分の意思で受け取って、所持している。
これを使いたいという結論に至った思考回路が酷似しているのは、元は同一人物だからでしょうか。
分かってはいました。
分かっていたからこそ、言葉にできない複雑な感情。喜んでいいのか悲しんでいいのか笑うべきなのか即座に決められません。
こうして、二人は謎の沈黙に包まれました。
一方その頃、ルテューアはカルミアとヨゼと一緒にいまして。
「あーたんが……あーたんが蜂蜜を持ってうろうろしてた……もしかしたら、もしかしたらスイーツを作る気かもしれない……」
「マジかよ! また汚物量産する気があのアマ!」
「お、俺! ユリィカとミーアに言って台所立ち入り禁止にしてもらえるように頼んでくる!」
「オレは死ぬ覚悟であの女を足止めするから、ルテューアはラミーゾラとかに声かけて協力者を集めて来い! 泣いてる場合じゃねえぞ!」
「泣いてないよ! で、でもわかった! ぐずぐずしてたら死んじゃうもんね!」
「あっじゃあまおーさまにも助けてもらわないとな!」
「急げ! 下手したらガレリア宮ごと終わるぞ!」
「あーたんの料理は不可とかオオガラスの仲間じゃないよ!?」
2021.8.9
ハイラブパフュームとは。
使うことで人形兵の好感度が非常に上がりやすくなる好感度調整用のアイテム。普段は仲の悪い相手同士でもこれを使うことでギスギスした雰囲気がちょっとだけ緩和する……かもしれない。
普通のラブパフュームもあるのですが、こちらは香水型でこっそり体にサッと一吹きするだけで効果が発揮されるお手軽便利アイテム。好感度の調整という目的でなくてもちょっとしたオシャレにも使えそうですね。
で、「ハイ」と名の付くあたり効能は香水の倍近くありそうなこのアイテムは香水ではなく、蜂蜜を仕舞っておくような瓶の中に収まっていまして。
「ず〜っと疑問だったんだけど、どうしてハイラブパフュームって普通の瓶の中にあるんだろうね〜」
ガレリア宮の地下で今日の戦利品を仕分けている最中にニケロはそんなことを言いました。その手にあるのは口述した通りのアイテム、ハイラブパフューム。
迷宮に点在している宝箱から拾ったアイテムのひとつですね。ちなみに一般的に販売されていない一種のレアものです。
何気ない疑問の言葉により、一緒に仕分けをしていたメンバーたちも次々に手を止めて思考を働かせます。
「言われてみれば確かにそうね。ルフランの迷宮で拾ったやつはどっちも香水だったけど、どうしてこっちはただの瓶入りの液体なのかしら」
「使い方が分からないから誰も使ってないんだよなあ」
最初に言葉を発したのはアルスティとレグ。過去の経験からこれがどういったアイテムなのかは知っているものの、使い勝手が異なっていることから迂闊に手を出せていません。
「液体だから飲むのではないのか」
こちらには見向きもしないで発言したオディロン、会話に参加するもののそこまで興味はないのか戦利品の吟味をする手は止めません。今日は大量収穫だったので時間がかかっているのですよ。
「飲むの〜? こんなドロドロの液体を〜?」
煽るような口調でニケロは瓶を右に傾けます。中にある琥珀色の液体は重力に合わせてゆっくりと流れていくことから、中身がただの液体ではないことを物語ってくれました。
まあオディロンは見向きもしてないので、
「なら知らん」
あっさり切り捨てました。すると、
「これは飲み物ではなく体にかけて使うものよ」
音もなくマサーファ襲来。
しかも、横から顔を覗き込むような姿勢で突然現れるものですからオディロン、静かに驚いて言葉が詰まります。
「…………」
「私も気になっていたの。一部のアイテムはルフランの時と効果は同じだけど見た目がちょっと違うからどうやって使うのかしらって。だから“これはなんだろう”って思ったアイテムは一通り試すようにしているわ」
「……喋るなと言っても貴様は一方的に詳細を全て語るつもりだと確信しているから尋ねるが、使ってみたということだな」
「ええ。ハイラブパフュームの瓶を開けて確信したわ。これは服用するのではなく体にかけて使うものだって。香水のように体に吹き掛けるんじゃなくて、ドロドロしてヌメヌメした液体を素肌にべったりしっかり」
「それでそれで?」
「どうなったんだどうなったんだ?」
いつの間にか話に食いついてきたアルスティとレグにニケロの冷ややかな視線が止まりませんが、マサーファは続けます。
「昨晩ベイランで試してみたわ。効果は予想通り発情薬入りの潤滑油のような感じのモノだった。全部使って全身にくまなく塗ってあげたらもうそれはそれは意味深な大変なことに」
「だからべーらん、今日は一度も顔を見てないんだね〜」
遠くでぼやくニケロ。ベイランは全く姿を現していない上に探索にも出ず引きこもっていて疑問でしたが、その理由が明らかになりました。なお、口調は穏やかでも冷ややかな視線はまだ続いています。
オディロンは同情……というよりも、呆れ果ててため息。
「また虐められたのか……普段のじゃれあい程度ならまだいいが、性的行為による虐待は軽いノリや好奇心では済まされないぞ」
「あら、私が彼に“嫌だ”って言われたら絶対に手を出さない性分だって忘れたのかしら」
いつもと変わらない感情のこもっていない淡々とした口調ですが、若干の不満があることは見て取れました。
「長い付き合いだからベイランだって私が彼にとって嫌なことを強要しないことぐらい分かっているわ。断られたら自分で試すつもりだって最初に言っておいたし」
「それらを話した上で、奴は使われることを許可したのか」
「そうね」
肯定と同時に「これは一種の性癖暴露なのでは……?」という疑問が一同の間を駆け抜けましたが、ベイランのためにこれ以上は考えないでおくことにしました。
「ふむ……それは失礼したな。我の考えが浅はかであった」
「いいのよ。誤解されやすいことをしているのは確かだし、そういうのには慣れているし」
「慣れている」という言葉に妙な引っ掛かりを覚えましたが、言及はしないでおきました。
「それでそれで? 意味深で大変なことになったベイランをマサーファちゃんはどうしたんだ?」
「面白かったからずっと見てた」
やや興奮気味のレグの質問にマサーファ即答。そして留まる彼の勢い。
「え……見てた……だけ……?」
「楽しかったわよ」
「そっかあ」
そんな気がしていたとは言いません。レグも、周りも。
「使い方はわかったけど、こんなものでドロドロになって発情して周囲から好感度上げようって考えた人、絶対に正気の沙汰じゃないよね〜しかも戦闘中に」
「どちらかというと夜の嗜み用ってやつね」
そう言うと、マサーファは右手と左手にハイラブパフュームをひとつずつ持つと、右手のをアルスティに、左手のをオディロンに渡しました。そして、
「「どうもありがとう」」
二人は粛々とそれをポケットに隠すのでした。
「おい」
ニケロの冷めた声と鋭い眼光は効果がありませんでした。
「あれっ? マサーファちゃん、おじさんにはくれないの?」
「あら、あげて何になるの?」
「おっしゃる通りで!」
そして、戦利品の吟味も終わり一旦解散の流れになりました。
レグとマサーファは「このトレジャーアイテムはこういった意味深な理由があるのではないか」という議論をするために地下に残り真面目な顔をして大変下品な話を続けていますが、アルスティとオディロンは全く興味がないのでさっさと離れました。
ニケロは残っていましたがこういった話に興味があるのではなく、暇なのでレグと一緒にいることを選んだだけなのでしょう。
アルスティも何かぶつくさと独り言をぼやきながらどこかに行ってしまい、オディロンはひとりガレリア宮の廊下に取り残されたわけで。
「さて……問題はこれをどのタイミングで使うかだが……」
ポケットに直していたハイラブパフュームを取り出した刹那、
「我が半身よ! 聞いて驚け! 面白いものを持ってきたぞ!」
まるでタイミングを図っていたかのようにシュザンナが現れ、大手を振ってこちらに来るではありませんか。
今持っている物を見られてしまったらマズイ…………こともなさそうですね。その内に使う予定がある上に、これは側から見れば市販の蜂蜜のようなものなのでいくらでも誤魔化しが効くでしょう。
「とても良いモノを貰ったのだ! 我はちょっとこれ使ってみたいぞ!」
どこか興奮気味で持ってきたのは蜂蜜が入っているように見える瓶。
つまりはハイラブパフュームでした。
「あ」
「あっ」
同じ道具を、自分の意思で受け取って、所持している。
これを使いたいという結論に至った思考回路が酷似しているのは、元は同一人物だからでしょうか。
分かってはいました。
分かっていたからこそ、言葉にできない複雑な感情。喜んでいいのか悲しんでいいのか笑うべきなのか即座に決められません。
こうして、二人は謎の沈黙に包まれました。
一方その頃、ルテューアはカルミアとヨゼと一緒にいまして。
「あーたんが……あーたんが蜂蜜を持ってうろうろしてた……もしかしたら、もしかしたらスイーツを作る気かもしれない……」
「マジかよ! また汚物量産する気があのアマ!」
「お、俺! ユリィカとミーアに言って台所立ち入り禁止にしてもらえるように頼んでくる!」
「オレは死ぬ覚悟であの女を足止めするから、ルテューアはラミーゾラとかに声かけて協力者を集めて来い! 泣いてる場合じゃねえぞ!」
「泣いてないよ! で、でもわかった! ぐずぐずしてたら死んじゃうもんね!」
「あっじゃあまおーさまにも助けてもらわないとな!」
「急げ! 下手したらガレリア宮ごと終わるぞ!」
「あーたんの料理は不可とかオオガラスの仲間じゃないよ!?」
2021.8.9