ギルド小話まとめ
巷を騒がせる有名ギルド「クアドラ」は金に糸目を付けなければ大抵のことはなんでもやってくれるという噂があります。
なんでもする。とは言っても司令部を襲撃する、クワシルの店で食い逃げをする、マギニアの街の各所に爆弾を仕掛ける、一年と半年ちょっとほど休暇をとって冒険をサボる、はじまり島の農場スペースに第十四迷宮の魔物を放つ、世界樹を枯らす、霊堂の主たちを集めて大怪獣バトルをさせる……と言ったような、誰もがやってはいけないと豪語するような極悪非道な真似はしません。やれと言われたらやれそうなことですがしません。
この噂、クアドラが一度ヨルムンガンドを討伐し、マギニアの英雄ギルドとして謳われていることから人々の噂に尾ひれがついた……というありふれた原因があるわけでもなく。
第一パーティのリーダーアオは追加報酬さえ貰えれば期待以上の仕事をしてくれることや、第二パーティのリーダーアオニは追加の依頼も簡単に引き受けてしまうお人好しであることから「このギルドは報酬を出せばどんな仕事もこなしてくれる」と誰かが囁き始め、最終的に根も葉もない噂が飛び交うことになったのでした。
噂が流れる程度であれば軽く聞き流し、無視し続けてもよかったかもしれませんが……。
「お願いします! どうか……どうかお願いします!」
「いや……その、顔を上げてくださいよ……奥さん?」
「クアドラさんは高額の報酬さえ支払えばどんなことでもしてくれる冒険者さんなんでしょう!? だったらどうか私の依頼を引き受けてください! もっと上乗せしますから!」
「もぐもぐ……って言ってるけど? どうするのアオ? もぐもぐ」
「いつもなら即引き受けているが……今回はな…………あ、ポテトなくなったな、追加を頼むか」
「私はじゃがバターが食べたい」
「今日はお芋料理で統一される日なんだね……?」
「お願いしますお願いします! どうかお願いします! はっ……! 報酬が足りないというのであれば私の体でお支払いしますから……!」
「人妻がそんなこと言っちゃダメです!!」
ヒイロの制止もとい絶叫がクワシルの酒場のど真ん中で木霊し、あっという間に注目を集めます。
絶叫の中心地にいるグループがクアドラだとわかると「また騒いでるのか……」と、喧騒の中心にいることが当たり前のような飽き飽きとした反応をされるだけですぐに視線を逸らされました。
「大盛りフライドポテトとじゃがバターひとつずつね、ケチャップとマヨネーズも付けてといてね」
人々の視線などなんのその、気にしないルノワールは店員の少年に料理の追加を頼んでいました。
「アオぉ……」
注目の的になってしまった羞恥心と、今日初めて出会った女性の対応に困り果て、涙目になってしまったヒイロが助けを求めるようにギルドマスターに視線を向け「お願い……」なんて、すがるように両手を合わせているので、
「はあ……いくら報酬を出そうが無理なものは無理だ。旦那の浮気調査とか俺たちの仕事じゃないだろう」
アオは大きなため息を吐き、頬杖もつきました。
「でも、クアドラさんは金に糸目を付けなかったらなんでもしてくれるって……」
「冒険者の噂を盲目的に信じちゃダメだよ奥さん。僕が宇宙一可愛いのは立証済みだけど、だからと言ってなんでもできるってわけじゃない。全知全能と宇宙一可愛いはまるっきり違う、そこはわきまえておかなきゃ」
真面目な顔で言っていますが話の内容はちんぷんかんぷん。女性はぽかんと口を大きく開けていますが、自称宇宙一可愛いヒーローのトークは止まりません。
「クアドラがギリギリ遂行できるであろう依頼の上限は“ギルドマスター兼悪魔のリーパーがメイドさん姿でオムライスにケチャップでハートマークを描いてからおあがりなさいませご主人たま♡って言わせる”だから。今度からはそれを基準にして依頼してくるといいよ」
「首を死神の鎌で刈り取って巫剣ブッ刺してアート作品に仕上げるぞテメェ」
「メイドさんはとても見たいが」
「座れ」
ギン着席。
「てかさーなんで僕たちに旦那の浮気調査を依頼しようと思ったの? 冒険者じゃなくてもっと別の業者に頼んだ方が良いんじゃない?」
飽き飽きしながら髪をいじるルノワールの意見も最もで、ヒイロが素早く何度も首を縦に振っています。
すると、必死だった女性は急に声のトーンを落とし、目を伏せてしまい、
「夫も……冒険者なんです。そして、浮気相手は夫と同じギルドの女性の可能性が高いんです」
「うん」
「冒険者同士の問題なら冒険者の方が詳しいですしその辺にいる浮気調査業者よりもうまくやれそうじゃないですか。それにクアドラさんはマギニアの英雄ギルドでしょう? だったら浮気調査のひとつやふたつぐらい余裕かと……」
「いや確かに僕は宇宙一可愛くて強いけど、なんでもできるワケじゃないよ? 僕は料理が苦手だし」
「俺は甘い物が苦手だな」
「私はよく空気が読めないと言われる」
「そしてヒイロには彼女がいない」
「やめて!!」
少し前までそのあたりのことでゴタゴタしていたヒイロ絶叫。よくあるいじめの光景です。
「はあ……マギニアで天下を取ったギルドでも、人間らしい欠点があるんですね……」
なんて感心した女性ですがその言い方はものすごくナチュラルに失礼でした。
ヒイロの顔が引きつり、恐る恐るアオを見やりますが、彼は女性の言葉など何一つ気にしていない様子でして、
「冒険者の仕事は樹海の調査をしたり、その障害になる魔物を退治することや素材を採集し市場を潤わせること、金を稼ぐことだ。人間同士のゴタゴタに首を突っ込む趣味はないしそうする義理も理由もない。だからお前の依頼は受けない、以上」
淡々と述べた後、店員の少年が大盛りフライドポテトが運んできてテーブルの上に置いてくれます。小皿に入ったケチャップとマヨネーズも一緒に並べると「ごゆっくり」と一言述べてから早足で去っていきました。
その瞬間、餌を取ってきた親鳥が巣に帰ってきた時の雛のような勢いでアオとルノワールとギンがフライドポテトに手を伸ばしました。そして食べ始めました。
それらの行動をひとまず無視した女性は、
「そうですか……」
ど直球に断られてしまったショックを隠し切れないのか、膝の上に置いた手を握り締め、小さく震えます。
「む? 空腹か? 今日の間食代はヒイロが払うことになっているから遠慮せずに食べて良いぞ。ソースを付けなくても十分に美味だ」
宣言通り空気の読めないギンの余計な気遣いが炸裂しましたが、食事代を奢らされることを初めて知ったヒイロの顔が真っ青になっています。またアオとルノワールが適当に口裏を合わせてギンを丸め込んだのでしょうね、いつものことです。
「シエナ連れて来なくてよかったね、まだまだ純粋なお年頃で、夫婦円満の家庭で育っているんだからこう言ったデリケートな話題に耐性ないだろうし」
「ポテトの取り分も減るからな。アイツ最近、成長期でめちゃくちゃ食べるし」
「ソダネー」
変なところで食い意地の張っているアオの話を軽く流したところで、
「私と夫は……絵に描いたようなおしどり夫婦……ということもなく、なんとなく一緒にいても苦にならない、それなりに居心地が良かったから結婚した程度の仲で……十年間も平穏な暮らしを築いてきました……」
女性は唐突にぽつりぽつりと、身の上話をこぼし始めます。
「でも、最近の夫は私と会話しようともせず、久しぶりに聞いた言葉が“離婚したい”で……最近は役所に行くことを催促するようなことばかり……」
「他に好きな人ができたから離婚したいって言ってないの?」
「浮気しているとは絶対に認めたくないんですあの人。浮気したせいで離婚することになったと私が訴えれば、夫は私に多額の慰謝料を支払わなければならなくなるから……」
「確かに浮気してないと言って離婚すればダメージは最小限に抑えられるからな」
そこそこ真剣に身の上話を聞くルノワールとアオですがポテトを食べる手は止めません。
「子供はいないのか?」
「はい、病気をして子供ができない体になってしまいまして……夫は“俺は子供が嫌いだから気にしない”って言ってくれたので、お陰ですごく気分が楽になったんですけど」
「でも浮気されていると」
「はい……」
容赦のないルノワール、女性はもう泣く寸前。ここまで追い詰められているということでしょう。
すると、しばらく黙っていたヒイロがそっと手を挙げて、
「あの〜……さ?」
「どうした財布」
「財布呼ばわりだけはやめて! じゃなくて、アオたちの手に負えないなら、俺が個人的に引き受けても良いかな? 旦那さんの浮気調査」
突然の提案に女性は顔を上げてヒイロを凝視。アオたちも目を丸くして視線を向けるではありませんか。
「いいんですか!?」
「はい。俺、冒険者は副業みたいなもので本職は別で色々やってるので……」
提案したもののやや歯切れが悪いですね、すかさずルノワールが耳打ち。
「いいのいいの? てか暗殺業以外のこととかできるのぉ?」
「できるよ? ウチの仕事は暗殺メインじゃないからね? ただ暗殺とかそういう黒い依頼が多いだけで普通のことも普通にするから」
コッソリしている会話が聞こえていないか心配でしたが、調査依頼を引き受けてくれた喜びか、両手を合わせて幸せそうに微笑んでいるので聞いちゃいないでしょう。
「どんなことをしても常連さんは増やしていけっていうのがボスの方針だから。こういう小さな依頼をきっかけにこれからもご贔屓してくれるかもしれないでしょ?」
「なるほどぉ、浮気の疑惑が確信になって悲しみが殺意にシフトするものの手を汚したくないから旦那の後始末までヒイロに済ませてもらえるってことだねぇ」
「物騒な思考しか働いてないの!?」
出会った頃の純粋なルノワールを返してほしいと心から願わすにはいられないヒイロでした。
「じゃあ浮気調査の件はヒイロに一任する。チャチャっと稼いで焼肉屋に行くぞ」
「私は豚が食べたい」
「アオたちも俺に奢らせる前提で言わないでよ! もうぅ!」
ヒイロの調査で女性の夫が浮気していた証拠を抑えることができたものの、それが原因で泥沼の戦いへと発展していくのですがそれは別のお話……。
2020/8/25
なんでもする。とは言っても司令部を襲撃する、クワシルの店で食い逃げをする、マギニアの街の各所に爆弾を仕掛ける、一年と半年ちょっとほど休暇をとって冒険をサボる、はじまり島の農場スペースに第十四迷宮の魔物を放つ、世界樹を枯らす、霊堂の主たちを集めて大怪獣バトルをさせる……と言ったような、誰もがやってはいけないと豪語するような極悪非道な真似はしません。やれと言われたらやれそうなことですがしません。
この噂、クアドラが一度ヨルムンガンドを討伐し、マギニアの英雄ギルドとして謳われていることから人々の噂に尾ひれがついた……というありふれた原因があるわけでもなく。
第一パーティのリーダーアオは追加報酬さえ貰えれば期待以上の仕事をしてくれることや、第二パーティのリーダーアオニは追加の依頼も簡単に引き受けてしまうお人好しであることから「このギルドは報酬を出せばどんな仕事もこなしてくれる」と誰かが囁き始め、最終的に根も葉もない噂が飛び交うことになったのでした。
噂が流れる程度であれば軽く聞き流し、無視し続けてもよかったかもしれませんが……。
「お願いします! どうか……どうかお願いします!」
「いや……その、顔を上げてくださいよ……奥さん?」
「クアドラさんは高額の報酬さえ支払えばどんなことでもしてくれる冒険者さんなんでしょう!? だったらどうか私の依頼を引き受けてください! もっと上乗せしますから!」
「もぐもぐ……って言ってるけど? どうするのアオ? もぐもぐ」
「いつもなら即引き受けているが……今回はな…………あ、ポテトなくなったな、追加を頼むか」
「私はじゃがバターが食べたい」
「今日はお芋料理で統一される日なんだね……?」
「お願いしますお願いします! どうかお願いします! はっ……! 報酬が足りないというのであれば私の体でお支払いしますから……!」
「人妻がそんなこと言っちゃダメです!!」
ヒイロの制止もとい絶叫がクワシルの酒場のど真ん中で木霊し、あっという間に注目を集めます。
絶叫の中心地にいるグループがクアドラだとわかると「また騒いでるのか……」と、喧騒の中心にいることが当たり前のような飽き飽きとした反応をされるだけですぐに視線を逸らされました。
「大盛りフライドポテトとじゃがバターひとつずつね、ケチャップとマヨネーズも付けてといてね」
人々の視線などなんのその、気にしないルノワールは店員の少年に料理の追加を頼んでいました。
「アオぉ……」
注目の的になってしまった羞恥心と、今日初めて出会った女性の対応に困り果て、涙目になってしまったヒイロが助けを求めるようにギルドマスターに視線を向け「お願い……」なんて、すがるように両手を合わせているので、
「はあ……いくら報酬を出そうが無理なものは無理だ。旦那の浮気調査とか俺たちの仕事じゃないだろう」
アオは大きなため息を吐き、頬杖もつきました。
「でも、クアドラさんは金に糸目を付けなかったらなんでもしてくれるって……」
「冒険者の噂を盲目的に信じちゃダメだよ奥さん。僕が宇宙一可愛いのは立証済みだけど、だからと言ってなんでもできるってわけじゃない。全知全能と宇宙一可愛いはまるっきり違う、そこはわきまえておかなきゃ」
真面目な顔で言っていますが話の内容はちんぷんかんぷん。女性はぽかんと口を大きく開けていますが、自称宇宙一可愛いヒーローのトークは止まりません。
「クアドラがギリギリ遂行できるであろう依頼の上限は“ギルドマスター兼悪魔のリーパーがメイドさん姿でオムライスにケチャップでハートマークを描いてからおあがりなさいませご主人たま♡って言わせる”だから。今度からはそれを基準にして依頼してくるといいよ」
「首を死神の鎌で刈り取って巫剣ブッ刺してアート作品に仕上げるぞテメェ」
「メイドさんはとても見たいが」
「座れ」
ギン着席。
「てかさーなんで僕たちに旦那の浮気調査を依頼しようと思ったの? 冒険者じゃなくてもっと別の業者に頼んだ方が良いんじゃない?」
飽き飽きしながら髪をいじるルノワールの意見も最もで、ヒイロが素早く何度も首を縦に振っています。
すると、必死だった女性は急に声のトーンを落とし、目を伏せてしまい、
「夫も……冒険者なんです。そして、浮気相手は夫と同じギルドの女性の可能性が高いんです」
「うん」
「冒険者同士の問題なら冒険者の方が詳しいですしその辺にいる浮気調査業者よりもうまくやれそうじゃないですか。それにクアドラさんはマギニアの英雄ギルドでしょう? だったら浮気調査のひとつやふたつぐらい余裕かと……」
「いや確かに僕は宇宙一可愛くて強いけど、なんでもできるワケじゃないよ? 僕は料理が苦手だし」
「俺は甘い物が苦手だな」
「私はよく空気が読めないと言われる」
「そしてヒイロには彼女がいない」
「やめて!!」
少し前までそのあたりのことでゴタゴタしていたヒイロ絶叫。よくあるいじめの光景です。
「はあ……マギニアで天下を取ったギルドでも、人間らしい欠点があるんですね……」
なんて感心した女性ですがその言い方はものすごくナチュラルに失礼でした。
ヒイロの顔が引きつり、恐る恐るアオを見やりますが、彼は女性の言葉など何一つ気にしていない様子でして、
「冒険者の仕事は樹海の調査をしたり、その障害になる魔物を退治することや素材を採集し市場を潤わせること、金を稼ぐことだ。人間同士のゴタゴタに首を突っ込む趣味はないしそうする義理も理由もない。だからお前の依頼は受けない、以上」
淡々と述べた後、店員の少年が大盛りフライドポテトが運んできてテーブルの上に置いてくれます。小皿に入ったケチャップとマヨネーズも一緒に並べると「ごゆっくり」と一言述べてから早足で去っていきました。
その瞬間、餌を取ってきた親鳥が巣に帰ってきた時の雛のような勢いでアオとルノワールとギンがフライドポテトに手を伸ばしました。そして食べ始めました。
それらの行動をひとまず無視した女性は、
「そうですか……」
ど直球に断られてしまったショックを隠し切れないのか、膝の上に置いた手を握り締め、小さく震えます。
「む? 空腹か? 今日の間食代はヒイロが払うことになっているから遠慮せずに食べて良いぞ。ソースを付けなくても十分に美味だ」
宣言通り空気の読めないギンの余計な気遣いが炸裂しましたが、食事代を奢らされることを初めて知ったヒイロの顔が真っ青になっています。またアオとルノワールが適当に口裏を合わせてギンを丸め込んだのでしょうね、いつものことです。
「シエナ連れて来なくてよかったね、まだまだ純粋なお年頃で、夫婦円満の家庭で育っているんだからこう言ったデリケートな話題に耐性ないだろうし」
「ポテトの取り分も減るからな。アイツ最近、成長期でめちゃくちゃ食べるし」
「ソダネー」
変なところで食い意地の張っているアオの話を軽く流したところで、
「私と夫は……絵に描いたようなおしどり夫婦……ということもなく、なんとなく一緒にいても苦にならない、それなりに居心地が良かったから結婚した程度の仲で……十年間も平穏な暮らしを築いてきました……」
女性は唐突にぽつりぽつりと、身の上話をこぼし始めます。
「でも、最近の夫は私と会話しようともせず、久しぶりに聞いた言葉が“離婚したい”で……最近は役所に行くことを催促するようなことばかり……」
「他に好きな人ができたから離婚したいって言ってないの?」
「浮気しているとは絶対に認めたくないんですあの人。浮気したせいで離婚することになったと私が訴えれば、夫は私に多額の慰謝料を支払わなければならなくなるから……」
「確かに浮気してないと言って離婚すればダメージは最小限に抑えられるからな」
そこそこ真剣に身の上話を聞くルノワールとアオですがポテトを食べる手は止めません。
「子供はいないのか?」
「はい、病気をして子供ができない体になってしまいまして……夫は“俺は子供が嫌いだから気にしない”って言ってくれたので、お陰ですごく気分が楽になったんですけど」
「でも浮気されていると」
「はい……」
容赦のないルノワール、女性はもう泣く寸前。ここまで追い詰められているということでしょう。
すると、しばらく黙っていたヒイロがそっと手を挙げて、
「あの〜……さ?」
「どうした財布」
「財布呼ばわりだけはやめて! じゃなくて、アオたちの手に負えないなら、俺が個人的に引き受けても良いかな? 旦那さんの浮気調査」
突然の提案に女性は顔を上げてヒイロを凝視。アオたちも目を丸くして視線を向けるではありませんか。
「いいんですか!?」
「はい。俺、冒険者は副業みたいなもので本職は別で色々やってるので……」
提案したもののやや歯切れが悪いですね、すかさずルノワールが耳打ち。
「いいのいいの? てか暗殺業以外のこととかできるのぉ?」
「できるよ? ウチの仕事は暗殺メインじゃないからね? ただ暗殺とかそういう黒い依頼が多いだけで普通のことも普通にするから」
コッソリしている会話が聞こえていないか心配でしたが、調査依頼を引き受けてくれた喜びか、両手を合わせて幸せそうに微笑んでいるので聞いちゃいないでしょう。
「どんなことをしても常連さんは増やしていけっていうのがボスの方針だから。こういう小さな依頼をきっかけにこれからもご贔屓してくれるかもしれないでしょ?」
「なるほどぉ、浮気の疑惑が確信になって悲しみが殺意にシフトするものの手を汚したくないから旦那の後始末までヒイロに済ませてもらえるってことだねぇ」
「物騒な思考しか働いてないの!?」
出会った頃の純粋なルノワールを返してほしいと心から願わすにはいられないヒイロでした。
「じゃあ浮気調査の件はヒイロに一任する。チャチャっと稼いで焼肉屋に行くぞ」
「私は豚が食べたい」
「アオたちも俺に奢らせる前提で言わないでよ! もうぅ!」
ヒイロの調査で女性の夫が浮気していた証拠を抑えることができたものの、それが原因で泥沼の戦いへと発展していくのですがそれは別のお話……。
2020/8/25