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全国ヒーロー協会

 それから更に更に時が経ち……。
 クアドラは第四の大陸、絶崖ノ岩島にある最後の遺跡、第十二迷宮を探索していました。
 マギニアと海の一族の衝突は回避されたものの、今度はペルセフォネ姫が誘拐されたという大事件が発生。側近でありギルド長であるミュラーは姫の捜索を衛兵に任せ、冒険者たちには秘宝発見という悲願を達成するためにも、樹海探索を進めてくれと命令を下しました。
 ところが、冒険の最中に誘拐事件の犯人が判明。その名はブロート。
 ルノワール曰く全国の可愛いの敵である彼は、世界から争いを無くすというという野望のために世界蛇ヨルムンガンドを蘇らせようとしているらしく、そのためにペルセフォネを拉致し各地の遺跡を巡り、この極北ノ霊堂の奥地を目指しているとのこと。
 野望を阻止するべく実力のある冒険者たちは遺跡の探索を続け、姫の奪還を目指していました。
 クアドラはもちろんマギニアのため……というよりもペルセフォネ救出の際に出るであろう多額の報酬のため、ついでにブロートも捕獲して追加報酬を頂くという野望達成のために探索を続けていました。



 現在、午後零時丁度。お天道様がお空の真上に登り切った時間。
「探索合間のご飯タイムだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「イエェェェェェェェイ!」
 樹海のど真ん中にも関わらず、大望のお昼ご飯ということでこの盛り上がり。叫んでいるのはルノワールとシエナだけです。
 女子が騒いでいる最中、男三名は粛々と準備しますが、
「リスは殺すべしリスは殺すべしリスは殺すべしリスは殺すべしリスは殺すべし……」
 四階に入り氷雪リスという青色のリスの魔物と遭遇してからアオの目付きがいつも以上に鋭く、暇さえあればうわ言のように憎悪の念を呟いていました。
 近くのも躊躇うほどの負の感情を剥き出しにさせるギルドマスターを遠目で見守るヒイロは、哀れみを含む視線を向けていまして、
「……そこまで辛かったのかな、アイオリスの樹海でリスに糸を燃やされたことが……」
 聞いた話によると、アオとルノワールの二人が数年前にアイオリスの世界樹の迷宮を探索していた時、赤いリスの魔物と対峙した際に迷宮探索の命綱とも言える「アリアドネの糸」を燃やされてしまい、それはそれは大変な目に遭ったとか。
 それ以来アオもルノワールもリスという動物を異様に敵視し、このように敵意を剥き出しにしているのです。特にアオが。
「まるで種族の滅亡を心から望み、願望だけでは飽き足らず本当に滅してしまいそうな程の憎悪だな。私には分かる」
 心配するヒイロと違っていつも通りのギンはさておき、荷物を部屋の真ん中にまとめてから、布を敷いて武器は自分たちの側に置き……と、着々と準備を進めます。
 広い部屋の中央で休息するのは、こうして開けた場所なら低い壁の向こう側や茂みの中から魔物が飛び出してきてもすぐに発見できるため、不意打ちを防ぐことが可能になるから。天性の野生の勘を持っている天然系レンジャーがいることもあり、休憩中の奇襲の心配はほぼないでしょう。
「今日の昼食はおにぎりだ」
 お昼ご飯を作ってくれるのはギンです。いつも皆より早く起きてキッチンに立って準備してくれる姿はまるでオカンとルノワール談。
 彼が広げてくれた二段式木製のお弁当箱にはそれぞれありったけのおにぎりが詰め込まれていて、一同はそれを囲むように座りました。
「ギンちゃんギンちゃん、今日のおにぎりの中身は何があるんだ?」
「味付けした山菜があるぞ。肉や米も大切だが、野菜も摂らないと栄養バランスが乱れ、いずれ体調に異変を起こしてしまう。大切な探索の最中に倒れてしまっては元も子もないからな」
「さすが樹海に生きる男……」
 関心するヒイロの横では早速両手を合わせ、おにぎりを頬張るアオとルノワールの姿がありました。早いです。
「おお! 僕の好きな梅干しも入ってるねぇ、さっすがぁ!」
「おかわり」
「たくさん作ってきたからまだまだあるぞ」
「がっつきすぎて喉を詰まらせないようにしてね……あっそうだ、お水っと……」
「うめーぜ!」
 と、楽しいランチタイムが始まった直後。

「たのもう!!」

 よく通る声が部屋に響き、全員の手が止まりました。
 案の定、この広い部屋で一枚しかない扉の前に、声の主と思える男が立っています。男と言っても年頃からして十代後半ぐらいの若者ですが。
 頑丈そうな鎧に、パラディンの物よりは小さな盾、派手な装飾の剣……身なりからしてヒーローであることは明白でした。
「おい、お前の同業者だぞ、対応しろ」
 早速アオがルノワールに耳打ちすると、彼女は座ったまま、
「僕の可愛さを求めて来たというのなら残念だったね! 生憎、僕の宇宙一の可愛さはオンリーワンの存在として機能しないと宇宙のバランスが乱れてしまいビッグバンが起こってしまうからその調停を」
「いや、そういう要件ではないんだ」
「は?」
 キッパリ断られた結果、逆ギレ一歩手前で止まりました。それでもおにぎりを食べる手と口は止まりません、食欲が優っている証拠ですね。
 宇宙一可愛いヒーロー特有の理解不能超理論をスルーした彼は、まず丁寧にお辞儀。
「はじめましてクアドラの諸君、俺は全国ヒーロー協会リーダーのエクトル、そしてこっちは相棒のプリュス」
 スッと横に移動したことで、彼の背後に立っていた少女の姿が現れます。
 樹海探索するにはやや不釣り合いの黒いドレスに黒い髪はツインテール、それらはレースのリボンで結っていて風で小さく揺れていました。武具の類は見られません。
「………………」
 紹介されたにも関わらず少女は無言。小さく会釈をしてからエクトルに視線を向けますが、睨んでいるようにも見えます。
「呼び止めたのは他でもない、マギニア有数の凄腕ギルドと称される君たちに少し話が」
「今は昼食中なんだが?」
「え」
 山菜入りおにぎりを食べつつ、一瞥もくれることなくアオが文句をつけるのを皮切りに、
「それぐらい見て分かるでしょ? どんな用事があるのか知らないけど、それはご飯が終わってから! 社会人として当然だと思うけど?」
「食事は大切だ」
「お腹が減ったら戦はできねーんだぞ!」
 ルノワール、ギン、シエナが次々と便乗しまして、エクトルが反論しないことを良いことに食事を再開。
「…………」
 絶句するヒーロー。文句や不満をぶつけられることは覚悟していましたが、この返しは想定外でした。
「よし黙った、残りも食うぞ」
「たくあんも漬けておいた」
「うーまそー!」
「塩っけ丁度良いねぇ! ギンってば将来良いお嫁さんになれるんじゃない?」
「私は嫁を取る方だが」
「そうだったねぇ」
 そして、エクトルを無視する四人に水を配るヒイロは申し訳なさそうに視線を向けて、
「すみません……三十分か四十分ぐらい後に出直してもらっていいですか?」
「…………うん」





 三十五分後。
「再びたのもう!!」
 と、元気の良い挨拶と共にエクトルは戻ってきました。無言のプリュスを引き連れて。
 食事を終えて片付けをしていたところに現れたため、作業をシエナとギンに任せ、残りのメンバーで話を聞いてやることにしますが、
「なんでヒイロまでいるの? ギンたちと一緒にお片付けしてくれていいんだよ? 部外者の相手は僕たちだけでじゅーぶんなのに」
「君たちが無茶して暴れ始めた時は俺が抑えるしかないの」
 ルノワールの疑問にヒイロはきっぱり答えました。アオたちが心配で苦手な樹海探索に身を投じたのですから、一番心配な二人を放置することはどうしてもできないのです。
「あ? お前一人で止められるほど俺たちは弱くはないぞ」
「自分の力がどこまで通用するか自覚してないのぉ?」
「自分たちは誰かに手綱を握られていないと放置できない存在だってそろそろ自覚してほしいんだけど?!」
 露骨に目を逸らされました。自覚はあるようですがそれでも態度を改めない辺り本当にタチが悪いですね。
 素行の悪さはともかく、今はエクトルというヒーローの相手をすることが先決です。
「で、何の用だ」
 腕を組み、あからさまに苛立った態度のアオ。瘴気を使って追い出さない辺り優しいなあと思ったルノワール、今は言葉にしないでおきます。
 威圧感たっぷりでも動じないのはさすがヒーローと言うべきか、エクトルは胸を張って堂々と発言します。
「単刀直入に言おう。此度、君たちは誘拐されたペルセフォネ王女を救出するために第十二迷宮を探索していると聞いた」
「ええっ!?」
 とっさに悲鳴のような声を出したのはヒイロでした。更に続けて、
「どうしてペルセフォネ姫が行方不明だって知ってるの!? 国内外の混乱を避けるために極秘にしているハズなのに!?」
 彼の言う通りペルセフォネの誘拐は極秘。アオやルノワールに「ぽんこつ王女」と呼ばれているとはいえ彼女は一国のトップに立つ人間、マギニアの人々からの信頼も厚い優れた指導者。
 国を導き、民を導く王女が失われてしまっては、国がパニックに陥るのは当然です。
 だから今は王女は体調不良で人前に出られないと誤魔化し、内情を知る一部の冒険者に奪還を任されているという状況。一部の貴族には怪しまれているそうですが、政治の問題は冒険者に関係ないため無視して良いモノとしまして。
「アホ」
「痛いぃっ!?」
 突然アオがヒイロの足のスネを蹴り、情けない悲鳴がこぼれ落ちました。
「あっさり白状するな。向こうがカマかけて来てたらどうすんだ」
「ご、ごめんね……つい……」
「仕事だとこんなミスしないのに、どうして樹海内だと感覚が一般人になっちゃうんだろうねぇ?」
「うぅぅう……」
 アオとルノワールに左右から攻められ、いたたまれなくなったヒイロは両手で顔を覆ってしまいました。これがクアドラ内で一日に一度は発生する光景「虐められている最年長の図」です。エクトルたちがぽかんとしていますが無視。
「そのことを知ってるのはミュラーのおっちゃんみたいな司令部のお偉いさんとか一部の衛兵、それから宇宙一可愛い僕みたいな第十二迷宮を探索できる実力があるって認められた冒険者だけなのに、どうして君たちはそれを知っているの?」
「情報収集に長けた知人がいてね、その人に教えてもらったんだよ」
 エクトルは得意げに鼻を鳴らしますが、
「つまり君たちは司令部に実力を認められていないってことなんだねぇ」
「うぐっ」
 的確にプライドに傷を負わすストレートな一言で、彼の表情はほんの少し曇りました。
「と、とにかくっ! マギニアの平和を想い日々戦っている俺たちではなく、君たちのような悪名高いギルドがペルセフォネ姫救出ミッションを受けることに納得がいかないんだ!」
「それでカチコミに来たってことか」
 納得したように頷くアオでしたが、エクトルは即座に首を振り、
「カチコミじゃない! 君たちの正義がマギニアを救うに相応しいかどうか見極めに来た!」
 高らかに宣言しますが、相手の反応は至極薄いモノでして。
「……コイツは何を言っているんだ」
「わっかんない。突然持論をぶちかますヤツの戯言なんて聞くだけ無駄じゃない?」
「それはルノワールが言えたことじゃないと思うなあ、お兄ちゃんは……」
 最後にヒイロが倒置法を駆使した刹那、ルノワールは腰に下げた剣の柄を握り、ほんの少しだけ抜いて白銀の刀身を披露すると、氷の力を纏わせて青白く輝かせました。
「なんでもないですぅ!!」
 自身の命は何よりも大切。即座に否定すれば剣は鞘の中に全て収ってくれました。
「助かった……じゃなくって、えっと? 君さっき、クアドラのことを悪名高いとか言ってなかった?」
 気になった言葉を一つだけ選出すると、エクトルは大きく頷きます。
「そうだ。クアドラの悪い噂はこれまで多く耳にしてきた」
「例えば?」
 代表してアオが尋ねると、返って来たのは至極真っ当な答えでした。
「性別を間違えただけで心身共に深い傷を負わせた上にギルド解散まで追い詰めたこと! 一方的に自身の魅力を語り続けた挙句、解釈違いが起こると理不尽に怒鳴ったこと! 血まみれの魔物の死体をそのままマギニアに持ち込み夜な夜な怪しい解体作業を行なってマギニアの住民の不安を煽っていることだ!」
「クレームの内容に心当たりしかないんだけど!?」
 ヒイロがとっさに振り向くと、腕を組んで真上を見るアオ、口笛を吹きながら後ろを向くルノワール、直立したまま地面を見ているギンの姿が見えました。
「わっかりやすい他人事アピールしないでよ! あとギンは片付けしてくれてありがとうね! シエナも!」
「ああ」
「おう!」
 進んで労働してくれた二人に軽くお礼を述べている間にもエクトルの主張は続きます。
「そうこうした理由があるから俺は君たちにマギニア国家を揺るがす大事件を無事に解決できるとは思えないんだ! 心配なんだよ! よからぬことを企んでいるんじゃないかって!」
 本日が初対面の第三者から説得力のある言葉が次々と飛び出し、クアドラ一行は反論できないまま立ち尽くしています。だって本当のことですからね、真実を否定しようにも否定したところでメリットがありませんし。
 黙り込んでしまった大人たちの代わりに手を挙げて発言するのはシエナです。
「リーダーはよからぬことなんて企んでねーぞ! ペルちゃんを助けてブロちゃんを捕まえた後に司令部からどれだけの報酬が出るかとか、アレコレ文句をつけて追加報酬をどれだけ搾り取れるか考えてるぐらいだ!」
「動機が不純!!」
 誰がどう聞いてもマギニアのためではなく己の懐を暖めることが目的……つまりは金目当てです。最後なんて言い方を変えれば恐喝となんら変わりありません。
「アホかお前、善意だけでこんな命がけの迷宮探索をする馬鹿がどこにいる。そっちの方が信用されねーよ」
 呆れ果ててため息をつくアオに続き、すかさずルノワールが、
「コイツは口は悪いしお金には汚い貪欲悪魔の大魔王だけど、根は真面目だから言われた仕事はちゃんとやるんだよ?」
「え、そうなの?」
 このギルマスは嗜虐の限りを尽くす悪人だとばかり考えていたのか、この言葉は意外だった様子。文字通りの意味でキョトンとするエクトル、その横でプリュスが暇そうに自分の髪をいじっていました。
「真面目なのはいいんだけど、悪いこととかを堂々と口に出しちゃうからアレコレ言われちゃうんだと思うんだ……」
「事実を公言して何が悪い。根拠のない嘘に塗りつぶされてしまうよりはマシだ」
「ウチのギルマスは今日も傍若無人……」
「うるさい」
「痛い! 足のスネばっかり蹴らないでよぉ!」
「なるほど、正直かつ暴力的すぎる故に、恐怖を感じた人々が誤解をして悪い噂が飛び交ってしまうということか」
 勝手にまとめあげて納得しましたが、
「だが! それはそれ! これはこれ! やはり俺は君たちがペルセフォネ姫救出の任に就くことに納得ができない!」
「自分が頼られなかったから僻んでるだけでしょ?」
「うごぉ」
 同業者から飛び出した二度目のストレートな一言により、再びエクトルの心にダメージ。
「正義の味方が聞いて呆れるな」
「ぎぐぅ」
 更にアオの追撃によりダメージ増加。まともに立っていられなくなって崩れ落ちてしまい、膝をついてしまいました。
「な、何とでも言うがいい……っ! この世界で誰よりもマギニアのことを想っているのは俺たちなんだ……! マギニアの危機に立ち上がるべき存在なんだ……!」
 正義の心が傷ついても決して諦めることなく、黒い瞳の奥を燃やす姿はヒーローというよりも、諦めが悪い迷惑な冒険者でした。彼を眺めるプリュスの目が呆れているようにも見えます。
「ウッザ」
 吐き捨てるようにアオは言っていますが、ヒイロはこちら側が悪者に見えてきました。
 すると、今までずっと傍観していたギンは声を上げます。
「全国ヒーロー協会の者がマギニアのために尽くしたいという気持ちは理解できた。しかし、第十二迷宮の魔物は手強く、進むのも困難を極める。それを証拠にこちらも何度か全滅の危機を乗り越えている」
「……何が、言いた、い……?」
 声色からしてあからさまに動揺しているのは、明らかに女性らし外見の人間が、男性の低い声で話し始めたからでしょう。改めて見ると違和感が凄まじく、何らかのトリックがあるのかと疑ってしまうレベル。正しい反応です。
「マギニアに貢献していたとはいえ、司令部はお前たちの実力が第十二迷宮踏破に満たないと判断したのだろう。強い想いと信念があるのは素晴らしいことだが、その想いに見合う実力を身につけなければ意味はない。無駄に命を散らし、樹海の養分となるだけだ」
「似たようなこと最初に言ってたんだけどぉ?」
「そうか」
 ルノワールの一言にも表情を変えずに返したギン。本当に全く気にしていない様子でした。
 クアドラのほとんどのメンバーに「実力不足だからやめろ」と遠回しに言われ、何も思わないほど彼は鈍くありません。言葉の一つ一つが刃となり、心という心に深く刺さり、現実に押し潰されそうになります。
 しかし、ここまま折れてしまってはヒーローとしてのプライドと信念に顔向けできません、このまま踵を返して樹海から去れない。
「……確かに、そうかもしれない。俺たちのギルドは街の人々に貢献するばかりで冒険者の本分である樹海探索を満足に行えていないんだ。司令部から何も伝えられていないのは当然だろう」
「わかっているなら帰れば?」
 そろそろ飽きてきたルノワール、横髪に触れながら枝毛を探し始めています。人と話す態度ではない。
 エクトルは歯を食いしばり両足を地にしっかり着けて立ち上がります。そう、ヒーローは復活も早いのです。
「だが! クアドラに全てを託せるかと言われたら答えはノー! だから、俺はお前に勝負を申し込む! 瘴気ノ魔女!!」
 その時、
 ルノワールが、ヒイロが、ギンが、シエナが、ギルドマスターでリーパーの青年を凝視しました。
 絶対に触れてはいけない「あの禁忌」を犯してしまったのですから。
 クアドラのギルドマスター、アオは中性的な顔立ちと成人男性としては低い身長、加えて声変わりしてもあまり変わらなかったという高めの声のせいでよく女性に間違えられるのです。初対面の相手なら必ずと言っていいほど女の子として扱われてしまいます。
 育ての親曰く、可愛らしい外見のせいで同年代の友人からよくからかわれた結果、性別を間違えられることが大嫌いになり、殴る蹴るの暴力行為に走り言葉ではなく体で分らせてやる大人に成長してしまったのです。
 だから、今後の展開なんて火を見るより明らか……ですが。
「…………」
 彼は腕を組んで沈黙を守ったまま。青と赤の瞳はヒーローの少年を睨みつけているものの、怒鳴り声も拳も足も飛ばす気配はゼロです。
 初めての反応にメンバーたちはポカン。まさか聞こえなかったのでは……? とも考えましたが、あれほど高らかに木霊していた声が近距離にいた彼に届いていないとは考えにくい。
 ましてや魔女です。いくつもの樹海を踏破する実力を持つ上に、一般のリーパーとは異なる特殊な瘴気を扱うことも相まって畏怖されたのか「瘴気ノ魔女」という彼にとっては非常に不愉快な通り名で呼ばれることが多くなり、キレる機会も爆発的に増えたというのに。
 アオは、黙り続けていました。
「リーダーがキレないなんて珍しいなー」
「おかしいなぁ……いつもはこんなんじゃ………………あっ、まさか」
 何かに気付いたルノワールが続けようとする前に、
「僕たちのギルドがクアドラに勝利し、その強さを示せば司令部だって納得するはずだ! 勝った方がペルセフォネ姫救出の任に就く! どうだ!」
 待つこともなく勝手に主張を強めるエクトル。彼はまさかクアドラの禁忌に触れたなんて夢にも思ってないことでしょう。知らないって幸せですね。
 後はアオの返事次第。メンバーが固唾を飲んで見守る中、彼は答えます。
「……いいだろう」
「いいの!?」
 びっくりしたのはヒイロでしたが、
「ぴいっ!」
 このうるさい最年長の足を蹴ってしばらく黙らせてやることにしました。
 アオの反応が気になるところでしたがまだ確信ではなく疑問の段階のため、ルノワールはそこに触れずに別の質問。
「全国ヒーロー協会が勝ったらぽんこつお姫様救出ミッションを受領した権利を譲るとして、こっちが勝ったら君たちは何をしてくれるの?」
 発言した本人は素直に尋ねるだけでしたが「ぽんこつお姫様」という聴き慣れないどころか場合によっては死罪にもなりそうな失礼な単語にエクトルは目を丸くさせています。
「え、ぽ、ぽんこ、つ?」
「動揺する前に答えてよ」
「あっ、あ、えっと、そうだな。我ギルドに伝わる家宝を授けようではないか!」
 聞き捨てならない台詞でしたが今はひとまず置いておき、エクトルは腰に下げた剣を抜くと、それを掲げて披露します。
 正午を過ぎた太陽に照らされた剣は美しく輝き、剣先に当たった光は虹のような輝きを放ちながら反射しています。鏡のような刀身にはクアドラ一行の姿がハッキリ写っていました。
「この剣は元騎士だった祖父から譲り受けた物なんだが、およそ三十年間刃こぼれすることなく今も現役バリバリで働き、悪しき魔物を成敗している! 俺は武器の良し悪しについてはイマイチ分からないのだけれど、鍛冶屋曰く、希少な鉱石を使って打った物だろうとのことだ!」
「ふむ、その話が本当だとすると、かなり希少価値の高い武器となるだろうな」
「わかるの? 野生児」
「私は武具についての知識はよく分からない。調理器具なら詳しいのだが」
「そっかぁ」
 ルノワールとギンの気の抜けた会話はともかく、あの武器であればギルド同士の戦いにおける勝者の証として贈呈されるには相応しいと言えるでしょう。
 理解を得たと判断したエクトルは武器を収めます。
「さて、勝負の具体的な内容だが……シンプルかつ冒険者らしく、魔物退治はどうだろう。このフロアには巨大な蛙の魔物がいるの知っていると思う。そこで、どちからがより早くその魔物を討伐できるか……その速さを競う戦いだ」
「……なるほど」
 アオは静かに納得している様子ですが、他のメンバーは怪訝な顔。
 こういう場合に真っ先に疑問を口にするのはルノワールだと相場が決まっていまして、
「相手したことのないFOE討伐勝負でこの極悪人は納得しているけど本当にそれでいいの? そっちは君とそこの女の子だけなんでしょ?」
 クアドラは五人メンバーで探索を行っていますが、エクトルたち全国ヒーロー協会は彼とプリュスの二人ぼっち。他の人間は見当たりません。
 勝負する以前に迷宮内で生き残れるか怪しいほどの少人数編成。人数的に不利なことは目に見えて分かります。それを分かっていて勝負を申し込んで来ましたし、提案したのも向こうです。
「君の言う通り、僕たちはギルドを立ち上げて結構な月日が経つけど、メンバーは全く増えずに未だに二人だけのまま……そんな中、魔物退治勝負をふっかけておいて何がしたいんだと疑問に思うのは分かるよ」
「勝算があるの?」
「あるぞ! それは、俺の正義の心だ!」

 ―――コイツ駄目だ、もう駄目なヤツだ。

 エクトル以外、全員の心の声が一致しましたが、
「……と、言いたいところだけど、実は蛙の魔物は俺と彼女の二人だけで何度か相手をしていてね。討伐した経験も決して少なくないんだ」
 ちらりとプリュスに目配せすると、彼女は無言のまま頷きました。
「だから経験上は俺たちが有利、そしてお互いがお互いをカバーしあえる五人パーティの君たちは人数的に有利、互いにフェアということだ」
「そうか」
 アオは静かに肯定し、勝負を完全に受け入れました。
「勝負だクアドラ! だが命だけは何よりも優先させるように! さあ行こう!」
 高らかに宣言し踵を返した刹那、エクトルはすってんころりん、前にすっ転びました。
「ぶへ」
 情けない悲鳴のオマケ付き。側から見守るプリュスが首を傾げています「どうしたの?」とでも言っているかのように。
「あ、え……動かな、い……?」
 立ち上がろうと腕に力を込めるにも、およそ十八年間ものあいだ苦楽を共にした体はまるで石のように固まり、筋肉を動かそうとする力を受け付けてくれません。
「え……は……? えっ、ええっ、へっ……?」
 唐突に起こった肉体の変化でパニックに陥っていると、
「このように、瘴気の毒に全く耐性のない人間が相手になると、ほんの少しの瘴気だけで動けなくなる」
『なるほど〜』
 冷静かつ丁寧に解説するアオと感心する他メンバーの声がして、全てを察しました。
「なっ、ななっ……! まさか、これはお前のしわ」
 ざ。
 と、言い切る前にアオはエクトルの脇腹を蹴りました。宙に飛ばさなかったのは鎧が重いからでしょう、きっと。
「ぐへっ」
「邪魔者を足止めして何が悪い。互いに攻撃しないというルールはないから、妨害工作をしてもルール違反にはならないだろう」
「出たよルールの穴という穴を突く男」
「リーダーは今日も超ずる賢いヤローだぜ!」
 ルノワールが呆れ、シエナが歓喜していますが一瞥もくれず無視。
 しかし、その言葉はしっかりエクトルの耳に届いていました。
「へ、あ、え、男……? え、魔女……あれ? れ?」
 自分の認識と事実のズレに気付いた刹那、今度は頭部を思い切り踏まれました。
「ごえ」
 濁った声が響く中でプリュスが静かに拍手しています。この二人の信頼関係はどうなっているのでしょうかね。
「なんだ? 反撃してこないのか? 俺たちみたいな悪いギルドに一泡吹かせてやるのがお前の仕事じゃないのか? 自称正義の味方野郎がよ」
「……」
「随分と安っぽい正義だな」
「……」
「この程度の実力で正義の味方なんて笑わせる。いいか、この世は勝った方が正義だ。正義が勝つって言葉があるのは正義が強いから勝つんだよ。だから俺が正義だ、分かったか」
「……」
 エクトルは答えませんがプリュスは大きく頷いています。極悪寄りの良い性格をしていると誰もが思いました。
「リーダーすげー。悪役の教科書みたい」
「こちらが悪役呼ばわりされたとしても弁護できない程悪役をしているな」
「魔女って通り名も間違ってないよねぇ。男なのに」
「誰が女だ!!」
 大声で否定して、エクトルの疑念が確信となったところで彼の頭から足を離し、
「恨むならまんまと瘴気の毒に侵された自分の体の脆さを恨むんだな」
 なんて吐き捨ててから踵を返すと部屋からさっさと出て行ってしまうので、仲間たちも続きます。
「やっぱり口程にもなかったんだねぇ〜」
 クスクス笑いながらルノワールはヒーローを侮辱し、
「健闘を祈る」
 無表情のままのギンは感情の篭ってない声色で励まし、
「リーダーの瘴気で動けなくなっても、しばらくすればちゃんと治るから大丈夫だぞ! 心配だったらテリアカβを使ってもいいからな!」
 応急処置の方法を簡潔に説明したシエナは笑顔でグーサインを送り、
「ごめんね……」
 非常に申し訳ない顔をするヒイロは小さく謝りながら、部屋を出たのでした。





「勝負の具体的な内容と賞品の詳細を知ってから確実に仕留めるって寸法だったから、魔女って言われてすぐ殴りに行かなかったんだねぇ」
「見境なく殴り飛ばしたら重要項目を聞き逃すこともあるからな、まずは一旦待って、相手の出方を伺ってから歯を折るようにしている」
「結局殴るんかーい」
 極悪非道のギルドマスターはルノワールの呆れ声を無視しました。
 第十二迷宮の探索を再開したクアドラ一行は、休憩した部屋から出て南に進み始めます。
 石畳の地面、至る所にある低い壁とそれに上るための蔦……と言った遺跡の雰囲気は、以前に探索した東土ノ霊堂、真南ノ霊堂、西方ノ霊堂の四つとほとんど同じ。ギン曰く、風の吹き方や土の匂い、水源の水質に釣れる魚といった細かい点もほぼ一致しているそうです。
 ここまでソックリだと以前の遺跡に入ったのではないかと錯覚するかもしれませんが、迷宮の構造と魔物は全く異なるため勘違いすることは意外と少ないそうな。
 何故、一致しているモノとしていないモノとの差があるのかは……未だに良く分かっていません。謎ですね。
「というか、意外だったねぇ。君がその蛙討伐勝負を受けるなんて」
「ああいったタイプの人間は無視したところで自分が納得するまで絡んで来るからな。適度に相手をしてやった方がまだ気が楽だ」
「……どうして僕を凝視しながら言うのかなぁ?」
 アオは悪友から目を逸らしました。
 樹海内でクアドラ第一パーティの歩き方は、まずギルマスかつ地図描き担当のアオが先頭を進み、ルノワールが魔物を警戒しつつ並んで歩きます。続いてヒイロが魔物に怯えながら続き、シエナが面白いモノはないかと探し、最後尾を警戒するのはギンのお仕事です。
「あれ? 勝負を引き受けたのって家宝目当てじゃないの?」
 ヒイロの疑問は最もです。いくらしつこいヒーローのあしらい方が適当に構ってやることじゃなかったとしても、大事な探索の時間を割いてまで相手をするのですから、やはり希少価値の高そうなあの剣が欲しくて応じたのだと思っていました。彼だけでなく、他の皆だって。
「それもある」
「やっぱりリーダーは貪欲だったなー」
「あの蛙はまだ、俺たちもアオニたちも討伐していないからな。アレの素材でネイピアの所の職人が何を作るか興味はあるから丁度いいだろ」
 と言いつつ素早く後ろに下がるとシエナの頭にゲンコツを一撃。貪欲という一言が気に入らなかったようです。
「ギャン!」
 この男のゲンコツは母のゲンコツよりも重くて痛いので悲鳴を上げたシエナは涙目になりながら頭を押さえますが、殴った本人は知らん顔をして先頭に戻りました。
 大人気ない大人を咎めることなく……というか咎めても無駄なので何も言わないパーティメンバー。
 内一人のギンは慰めるようにシエナの頭を撫でながらも、自身の意見をハッキリ言います。
「蛙の素材を得ると同時に肉も食せるからな」
 そこかよ。
 シエナの面倒を一番に見ていて、彼女が樹海で怪我をしないようにいつも神経を尖らせ、共に過ごす時間も多く、本当の妹のように可愛がっているので文句の一つや二つ出ると思っていましたが、言うだけ無駄だと分かっていて言わなかったのでしょう。それでも蛙の話を続けるのはどうかと。
「……肉は好きにすればいいだろ」
「ああ。唐揚げにしようと思っている」
 まるで「言われなくても分かっているぞ」と言わんばかりの、やや嬉しそうな声色にアオはノーコメント。内心実は楽しみにしているのですが絶対に言いません。意地っ張りなので。
「勝負が完全についでになってるねぇ」
「アオらしいけどね……」
「リーダーの拳は今日も重いぜ……」



 無駄話を続けている間にも、一行は低い壁を登り下りし、北へ北へと進んでいきます。
 人間一人がギリギリ通れる狭さの通路があるのでそこを慎重に進み、再び現れた広い通路の突き当たりを東へ進めば、蛙のFOEが生息している大部屋にたどり着きます。
 そこは、大広間と呼ぶにふさわしい広大な部屋でした。
 こうも広く、身を隠す場所が少ないと魔物や動物は自然と減り、姿形も見れないのが定積ですが、例外が一つだけ、ありました。
「……いたな」
 部屋の隅、恐らく奥へと続く通路を塞ぐように鎮座する、身の丈以上の巨体を持つ蛙の魔物。
 司令部からFOEに指定された魔物の名は「飛び跳ねる殿蝦蟇」
 霊堂名物低い壁や蔦、極北の霊堂名物移動する足場が部屋の端の方に集中していているのは、これを駆使してFOEから逃れろという先人たちの隠れたメッセージかもしれません。
「で、ど、どど、どうするの……?」
 剣の柄を握り締め、ヒイロは体と声を震わせて魔物を指しています。一刻も早くここから逃げたいという気持ちが勝りますが、それを許さないのがここのギルマスです。
 FOEは部屋に入ってきた侵入者の存在にまだ気付いていないのかのんびり日光浴を楽しんでいます。蛙は水源のあるジメッとした場所を好むハズですが……人間の常識がまた一つ、打ち破られた瞬間でした。
「アレの顔は間抜けだが縄張り意識と警戒心が強く奇襲は難しい。正面から特攻するしかないな」
「あい……」
「泣いちゃダメだよヒイロ。蛙がこっちに気付いたら目潰し作業っていうお仕事があるんだから」
「がんばる……」
 もう泣きそうを通り越してもう泣いているヒイロです。FOEや迷宮の主と戦う前はいつもだいたいこんな感じなので「なんでコイツ樹海に来てるの……?」とギルド内外からよく言われる始末。
「泣くなヒイロ、この戦いを制するかどうかはお前のナイフ投げの腕にかかっている。気を引き締めろ」
「ギンってこういう時だけメチャクチャ厳しくなるよね……」
「そうだろうか」
「ギンちゃんは早く蛙の肉が食いてぇだけだぞ!」
「なるほど」
「何でシエナの解説で言った本人が納得してんだよ」
「いいから早く喧嘩売りに行こーよ」
 ルノワールが呆れたところで会話は一旦お開きとし、クアドラ一行は蛙を目指して一歩二歩と足を進め、
「!」
 数十歩ほど歩いただけで蛙が一行を向き、黄色の丸い目が侵入者の姿を捉えました。
「久しぶりに見たな、あの蛙」
「アイオリスにはいなかったもんねぇ、なんだか懐かしいや」
「どうやって戦っていくんだ?」
 シエナは杖をギュッと握り締め、アオとルノワールに意見を求めれば。
「古来より蛙は物理に強く氷に弱く、足を封じればただのぬめっとした置物になる」
 極悪人と称されることの多いギルマスですがこういう時は真面目に回答してくれます。誤解しないように。
「なるほど〜足を封じて氷で倒せばいいんだな!」
 目を輝かせて納得するシエナ。鞄から不思議な種の入っている袋を取り出し、封じ攻撃の準備を整えました。
「頑張って種を撒くんだよシエナ、サブクラスをシノビにしているのに影縫できないナイトシーカーと、リーパーの瘴気を使いこなすことに必死で相手の足を縛れないレンジャーのことは気にしなくていいからね」
「おう!」
 元気よく答えたシエナの横でヒイロとギンが目を逸らしていました。否定できませんもの。
「……俺の巫剣の術も相手をバステにさせないと発動できないからな。安易に狙えるモノじゃないか」
 アオがぼやいた刹那、蛙が飛び上がりました。
 あの強靭な脚から生まれるのは巨体には似合わない速度の跳躍、それは空高く跳ぶだけでは終わりません。
 巨体を持ち上げる強い脚力は強い風を巻き起こしました。
『!?』
 一同が驚愕する間もなく、正面からぶつかった強烈な追い風により、目を開けることも動くこともできなくなります。
「蛙も飛べば竜巻を呼べるんだねぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「呼んでたまるかああああああああああああああ!!」
「新発見だな」
「レムリアクオリティやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 ヒイロが叫ぶレムリアクオリティとは、タルシスやアーモロードといったレムリア以外の迷宮に生息している魔物がレムリアでも確認された際、その生態や特徴、使用する技が異なっている現象を指しまして、クアドラの冒険者たちはそう呼称しています。
「いやーん♡」
 大人たちが絶叫する最中、シエナはスカートを抑えてながら、恥ずかしさの欠片も無くふざけていました。
 迷宮ではその油断が命取り、ふと、足元から不思議な感覚が、
「あれっ」
 浮いてる? という疑問が確信に変わる前に、少女の小さな体は強風に押し上げられてふわりと浮きまして。
「うーわ――――――――!?」
 悲鳴を上げた頃にはもう肉体は空高く飛び上がっていき、少女は放物線を描きながら藪の向こうへ消えてしまいました。
『シエナ――――――――――――――――!!!!』
 木々の上に落ち、枝が連続で折れる音が確認できた頃に風は止みました。
 大空からの闖入者驚いた鳥たちがギャーギャーと騒ぎ立て、訳も分からないままパニックに陥っている様子。
 鳥はうるさいものの、飛ばされた少女が生きているのかすら確認できません。パーティの生命線ともいえるメディックがいないことも相まって危機的状況です。
「おっおっ俺! 探してくる! というかシエナを探して来てもいいよね!? いいよね!?」
 真っ先にヒイロが言い出し、シエナが落ちた方角を指せば、
「今すぐ回収して来い!」
「なるはやでシクヨロ!」
「頼んだ!」
 いつも自分勝手好き勝手に行動して問題行動ばかりが目立っている三人でも、幼い命の窮地となれば最年長のヒイロに託すものです。
 彼は大きく頷いてから武器を収め、ナイトシーカーの俊敏さを果敢に生かした駆け足を駆使して藪の方へ消えて行きました。
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