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ギルド小話まとめ

 レムリアの始まり島に根を下ろしている飛行都市マギニア。
 冒険者たちが在住するマギニアの街では今日も多くの冒険者たちが歩みを進めたり、怒声を上げながら駆け抜けたり、男を女と間違えて顔面を殴られた異音が響いていました。
 マギニアでも一、二を争う有名ギルドとまで呼ばれているギルド、クアドラに所属している冒険者たち……ギン、シエナ、キキョウの三人は快晴の空の下、買い出しのために出掛けている真っ最中。
 ギンとキキョウの間で大きな紙袋を抱えるシエナ、良いことがあったばかりなのかニコニコしながら歩みを続けており、鼻歌まで口ずさんでいます。
 間から響く少女の可愛らしい鼻歌を聞きながら、キキョウとギンは会話の花を咲かせていました。
「ギンちゃんさー何で魚の餌をめっちゃいっぱい買ってたんだ?」
「魚十浪の名を継ぐ魚を見つけるためだな、キキョウは知っているか? 魚十郎のことを」
「マギニアに来て最初のクエストで釣り上げたっていうタイガーフィッシュだろ? 食べ損ねたって前に話してたじゃん、今度こそ食うの?」
「そうだな。魚十浪は酒場に納品してしまったから、今度こそ味を吟味しておきたいんだが……」
「あー!」
 キキョウとギンの会話を遮るほどの大声を出したのはシエナ。足を止めた彼女は二人の視線が注がれる中で、大きく手を振ります。
「カラちゃーん!」
 笑顔の先にいたのはブシドーの青年です。クアドラとは別のギルドに所属している男の名はカラスバ、キキョウの兄。
 人懐っこいシエナは真っ先に彼に向かって駆けて行きますが、
「あん?」
 弟は兄を視界に入れた瞬間、目付きを鋭くさせて、縄張りに入ってきた部外者を目だけで追い出す獣のごとく睨みます。もはや親の仇のよう。
 気の弱い魔物であれば目つきだけで卒倒してしまいそうな迫力がありますがギンは目を丸くさせて感心するばかり、そして、シエナはちょっぴり不満顔。
「むう……きーちゃんめぇ」
「いいんだ、もう慣れたからな」
「何しに来やがったクソカラスバ」
 返答次第では抜刀しそうな気迫と形相です。かつて色々あったのでそこまでのことはしないでしょうが、それでも右手を刀の柄に置いています。
「いや……俺はただギルドのメンバーとここで待ち合わせをしているから待機しているだけなんだが」
「ほーん、待ち合わせねーほーん」
「カラちゃんはこれから探索なのか?」
 鬼の形相のキキョウとは対照的に、シエナは純真無垢な瞳を向ければ、
「ああ、今日は第八迷宮の奥地を探索する予定だ」
「へー! じゃあ、あのワニみたいな魔物! 海水に流されてる姿がマヌケで面白いからちゃんと見ておけよ!」
「そ、そうなのか……」
 戸惑いながらもそう返した時、視界の端にギンの姿が映りました。
「む……」
「ん?」
 じっと見られた事に気付いたものの首を傾げるだけ、キキョウが歯をギリギリ鳴らしていますが今は触れません。
「その金色の瞳……」
「私の目がどうかしたのか?」
 一瞬、面喰らった様子のカラスバでしたがすぐに言葉を続けます。
「我が一族は皆、一部を除いて優れた五感と金色の瞳を持っている。黄昏時の空模様を彷彿させるその瞳は黄昏の瞳とも呼ばれていて……君の瞳がとても似ているような気がしてな」
「私の?」
「もう一族は俺とキキョウしか残っていないが……もしや、君の血縁者の中に我が一族の血をひく人物がいるのだろうか?」
 カラスバの言葉にキキョウの目の色が変わります、ただならぬ様子を察知したのかシエナも目を丸くさせて、ギンとカラスバとキキョウの三人の瞳を何度か見比べて、
「……似てるな!」
 率直な感想でしたが誰も触れませんでした。
「どうだろうな。私は自身の両親についてほとんど知らされていないから、カラスバやキキョウと同じ一族だと断定できる証拠を提示することができない」
 ギンは表情を一切変えずいつも通りの仏頂面で答えると、カラスバの表情にほんの少しの寂しさが生まれました。
「そうか……残念だ」
「もういいだろ! 帰れ帰れ!」
 すかさずキキョウが野良犬を追い払うように手を振れば、シエナが頬を膨らませるのが視界の端に映りました。でも彼は気にしないフリを貫くのです。
「帰るもなにもそろそろ集合時間だからな……」
 ぼやいた直後、遠くからカラスバを呼ぶ声が響きました。
「カラちゃんのギルドの人じゃね?」
「そうだな、失礼させてもらう」
「ばいばいカラちゃん! 気ィつけてな!」
 大きく手を振るシエナに小さく手を振り返し、カラスバは三人に背を向けながら去ったのでした。
「……チッ」
「きーちゃんツンツンしすぎだぞー」
「べっつにツンツンしてないしーフツーだしーつーかアイツ、ぜってーギンちゃんとこと女だって思ってたぞ今!」
「そうなのか?」
「俺のことだってマギニアで最初に見たとき美人な女だなぁって思ってたんだぞアイツは! ギンちゃんのことだって勘違いしてたに決まってる!」
 よく吠える犬を彷彿させる勢いと声量で叫ぶキキョウの言葉に、ギンもシエナもキョトン。
「ほう?」
「どうしてきーちゃんはそれ知ってるんだ?」
「あ、いや、その……な、何でもいいじゃんそんなこと!」
『?』










 自身のギルドの仲間と共にマギニアの外へ歩みを進めるカラスバは、ふと、足を止めて振り返ります。
 もうすっかり小さくなってしまったマギニアの街並み、弟たちの姿は見えませんが、脳裏にはあの銀髪金眼の青年の姿が焼き付いていました。
「あの目立つ銀色の髪……どこかで見たような……いや、気のせいか……」


2019.1.25
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