ギルド小話まとめ
今日のお仕事はある迷宮に巣食っているFOE退治でした。
ワカバの怪力とクレナイの剣技でFOEはあっさり討伐されてクエストは完了。報酬でしばらく食い繋げるとコキは大喜びです。
傷ついた体で樹海探索を続けることは危険ということでさっさと引き上げてしまった「キャンバス」の女たち、太陽が地平線目掛けて傾く前にマギニアに帰還しました。
キャンバスのギルドマスター、シノビのコキは自分の部屋に戻っていました。
必要最低限の家具しかない部屋は、彼女にとっては寝て起きて最低限の身だしなみを整える時だけ使う場所、だから戻って早々、夕方まで一眠りしようかと髪を結っていた紐をほどきます。
後は何もかも気にせずベッドに飛び込み眠るだけですが、
「コキ、ごほうび、ほしい」
いつの間にやらベッドの上に正座しているワカバの声で、コキの動きはぴたりと止まりました。
蛇足ですが、この宿は女性専用の特別な宿で、一人につきこのような広くない部屋が貰えます。しかし、ワカバはコキと離れることを嫌がり自分の部屋を使おうともしません。
とはいえワカバに甘いコキ、咎めることなく受け入れて狭い部屋を二人で使うことにしたのです、部屋代も浮いて一石二鳥とギルマス本人談。
「……ごほうび?」
目を白黒させるコキにワカバは大きく頷いて、
「えふおーいーに、トドメ、さした、ごほうび」
「んーあー……んー……」
少し迷いはしたものの、じっと見つめてくる視線には勝てずに大きく息を吐きます。
「しょうがないな」
「やった」
嬉しそうに微笑んだワカバは目を閉じました。
その姿だけで罪悪感に似た感情が芽生えましたが、胸の中に無理矢理ねじ込みます。
髪を結っていた紐をポーチに仕舞ってから、ワカバの頬に触れ、ほんの少しだけ上を向けさせます。
そして、無垢な少女の唇に自身の唇を落としました。
奥へ、でも深くならない程度に、少し触れるだけじゃなく、長く、離れないように……。
ずっとこうしていたい。
日が高い内はまだ理性が働くから、欲に溺れずに済むのだけれど。
互いの柔らかさをほんの少しだけ味わったところで、コキはワカバから離れました。
「おわり?」
「終わりよ」
首を傾げる少女に断言してから小さく息を吐き、体内に湧き始めた熱を排出、良くない思考を頭の中から追い出しました。
「した、いれたかった」
「ダメって言ってるでしょ。変なスイッチが入るかもしれないから……」
「へん?」
「ナンデモナイ」
うっかり声が裏返ってしまったものの、ワカバは気になっていないのかベッドから降りると、
「ごはん、たべる」
それだけ言い残し、部屋から出て行きます。
「お金は使いすぎないようにするのよー」
お腹を空かせたワカバに届いていてないかもしれませんが念のために忠告。早足で駆けていく足音が遠くなっていき、完全に聞こえなくなりました。
「やれやれ……あの子は……」
呆れるような独り言の中だというのに、口元を緩ませ、少しだけ笑みを浮かべたのでし
「コキ…………」
「へ」
地の底から呻くような声が鼓膜に届き、反射的に視線を向けたのは部屋で唯一のドア。廊下へと続く木製のドアが今、木が軋むような音を鳴らしながら開いていきます。
その先に立ち尽くしているのは赤毛に桃色の瞳のショーグン……クレナイでした。
「喋らなければ美人」という言葉を体現している女性ですが、今は口を大きく開け、信じられないモノを見ているような顔で硬直している様は……美人ですね。美人は何をしても美人だとクレナイ談。
「あ、あ……あ、もしかして……ってか、見てたわね……アナタ」
ギルド内外で一番問題行動を起こしている人物にワカバと二人だけの秘密を見られてしまったのです。この後で何を言われてしまうのか……子供のように自由奔放な彼女が何をしでかしてくれるのか想像もつきません。
どう出るか迷っている内に、クレナイは恐る恐る部屋の中に足を進めます。
「コキ……アナタ……アナタって人は……」
「えっと、その……な、なんて言えばいいのか……」
「ご褒美ってなんですの! ワカバちゃんだけご褒美だなんてズルイですわよ!」
予想外の台詞にコキ、唖然。
固まっている間にクレナイは詰め寄ってきまして、
「確かにトドメはワカバちゃんが刺しましたわ! けど、私だって一生懸命頑張って魔物にダメージを与えたではありませんの! なのにワカバちゃんだけご褒美が貰えるだなんて不公平ですわよ!」
よほど不服だったのか吠えまくっていますね、内容は完全に子供ですが。
彼女は自分より歳上ですが、こういった言動のせいで歳上として見れない所がこの女性の汚点でしょう。
「え、あ、いや……アレはその、探索のやる気を削がないようにするためっていうか、食べ物だとキリがないから手軽に済ませられるモノにしようって思ったってだけで、深い意味は……」
意味はありますがそこまで言えません。特に彼女に対しては。
「そんなこと言ってるんじゃありませんの! 私だってご褒美が欲しいんですのー!」
「えー……」
面倒臭いなこの女……。
しかし、この大人は構ってあげないと永遠に喚き散らすタイプの人種です。適切な対応をしなければ部屋から出て行ってくれないでしょう。
首筋に針でも刺して眠らせてやれば一瞬で片付きますが、目を覚ました後で癇癪を起こすに決まっています。そもそも、問題を後回しにするのはよくありません。
となれば腹を括る方が早そうです。
「あーもー……しょうがないなぁ……」
「やりましたわ」
ニヤリとほくそ笑んで右手親指を立てるこの女を今後どうしてやろうか思考を巡らせましたが、具体例は出てこないので保留することにするのでした。緊急性のない問題なら後回しにするのが彼女のやり方です。
「人選を間違えたか……いや、絶対間違えた、間違えすぎた。どうも私は人を見る目がない……」
「えーとえーとどうしてもらいましょうか? いざとなると迷いますわねぇ」
「言っとくけど、アナタの指示に従うとかそういうのはないから」
「はい?」
コキは、きょとんとしているクレナイの顎を掴んで持ち上げると、
少し開いている口に、自分の唇を重ねました。
ついでのご褒美ですからこれ以上のサービスはしません。すぐに唇を離し、触れるだけの接吻を終わらせて、
「ホラ、これで満足で……」
言葉は最後まで続きませんでした。
この後、ご褒美に満足して笑顔で帰っていく予定だった彼女が、顔を真っ赤にさせ、顔に驚愕の二文字を貼り付けて固まっているのですから。
「………………ん?」
まるで初心な乙女のような反応にコキも首を傾げます。こんな顔をした彼女を見たことなかったのですから。
「あ、ふぇ、あの……こ、き……?」
「え、えっ? なんで?」
「わ、わっ、ワタクシ……ご褒美って……あみょ、そにょ、新しい、刀……が、欲しくて……」
「んん?」
話が違う。
「き、キス……される、なんて……思っても……なくて……ワタクシ……」
「まっ待って!? アレを見た後にご褒美をねだるから私は、てっきり……」
「だ、だだだって! さっきのはワカバちゃんへのご褒美であって、私は違って……あ、えっと、え……」
互いに動揺のあまりか言葉に詰まり、頭の中がこんがらがって何から説明すればいいのか分かりません。
「その、ええと、あの、コキ……」
「なにっなに、何よ……?」
こんな女でも想い人のカヤ以外とキスに抵抗を抱くということでしょうか、気まずい状況にも関わらず新鮮さを覚えます。
次に発言される前にすぐさま謝るべきか、お詫びとして刀を買いに走るべきか、無言で頭を下げるべきか、弁解すべきか、頭部を殴って記憶を抹消させるべきか、アイディアはいくらでも出てきますが実行には至らず……。
「コキが……気に病む必要は、ありませんわ」
頭を抱えている間にクレナイはそう言いました。
「そもそも私がワガママを言ったせいでこのような誤解が生まれてしまったんですもの……全ての責任は私にあります、コキはただ勘違いしただけ……」
「あ、あれ、クレナイ?」
「私の非礼は詫びますわ。申し訳ありません……刀はお金を貯めて自分で購入するのでご心配なく」
「あのーあのークレナイさーん?」
「一つ誤解されたくないので言っておきますが、私はさっきのキス……嫌ではありませんでしたわよ。アナタがどう感じたのかはわかりませんけど……」
「だったらよか……ああいや良くないっていうか、なんというか」
「それでは、ご機嫌よう」
コキの言葉は聞く耳持たず、会釈したクレナイはその場で回って背を向けると、早足で部屋から出てしまいました。
「ちょっと待ちなさいよ!?」
我に返ってすぐ廊下に出ますが、赤髪の女の背は既に遠くにあり、階段を降りて見えなくなったのでした。
「いつものノリで片付けなさいよ! 不安になるでしょうがぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫は湖の貴婦人亭まで観測されたそうです。
2019.6.25
ワカバの怪力とクレナイの剣技でFOEはあっさり討伐されてクエストは完了。報酬でしばらく食い繋げるとコキは大喜びです。
傷ついた体で樹海探索を続けることは危険ということでさっさと引き上げてしまった「キャンバス」の女たち、太陽が地平線目掛けて傾く前にマギニアに帰還しました。
キャンバスのギルドマスター、シノビのコキは自分の部屋に戻っていました。
必要最低限の家具しかない部屋は、彼女にとっては寝て起きて最低限の身だしなみを整える時だけ使う場所、だから戻って早々、夕方まで一眠りしようかと髪を結っていた紐をほどきます。
後は何もかも気にせずベッドに飛び込み眠るだけですが、
「コキ、ごほうび、ほしい」
いつの間にやらベッドの上に正座しているワカバの声で、コキの動きはぴたりと止まりました。
蛇足ですが、この宿は女性専用の特別な宿で、一人につきこのような広くない部屋が貰えます。しかし、ワカバはコキと離れることを嫌がり自分の部屋を使おうともしません。
とはいえワカバに甘いコキ、咎めることなく受け入れて狭い部屋を二人で使うことにしたのです、部屋代も浮いて一石二鳥とギルマス本人談。
「……ごほうび?」
目を白黒させるコキにワカバは大きく頷いて、
「えふおーいーに、トドメ、さした、ごほうび」
「んーあー……んー……」
少し迷いはしたものの、じっと見つめてくる視線には勝てずに大きく息を吐きます。
「しょうがないな」
「やった」
嬉しそうに微笑んだワカバは目を閉じました。
その姿だけで罪悪感に似た感情が芽生えましたが、胸の中に無理矢理ねじ込みます。
髪を結っていた紐をポーチに仕舞ってから、ワカバの頬に触れ、ほんの少しだけ上を向けさせます。
そして、無垢な少女の唇に自身の唇を落としました。
奥へ、でも深くならない程度に、少し触れるだけじゃなく、長く、離れないように……。
ずっとこうしていたい。
日が高い内はまだ理性が働くから、欲に溺れずに済むのだけれど。
互いの柔らかさをほんの少しだけ味わったところで、コキはワカバから離れました。
「おわり?」
「終わりよ」
首を傾げる少女に断言してから小さく息を吐き、体内に湧き始めた熱を排出、良くない思考を頭の中から追い出しました。
「した、いれたかった」
「ダメって言ってるでしょ。変なスイッチが入るかもしれないから……」
「へん?」
「ナンデモナイ」
うっかり声が裏返ってしまったものの、ワカバは気になっていないのかベッドから降りると、
「ごはん、たべる」
それだけ言い残し、部屋から出て行きます。
「お金は使いすぎないようにするのよー」
お腹を空かせたワカバに届いていてないかもしれませんが念のために忠告。早足で駆けていく足音が遠くなっていき、完全に聞こえなくなりました。
「やれやれ……あの子は……」
呆れるような独り言の中だというのに、口元を緩ませ、少しだけ笑みを浮かべたのでし
「コキ…………」
「へ」
地の底から呻くような声が鼓膜に届き、反射的に視線を向けたのは部屋で唯一のドア。廊下へと続く木製のドアが今、木が軋むような音を鳴らしながら開いていきます。
その先に立ち尽くしているのは赤毛に桃色の瞳のショーグン……クレナイでした。
「喋らなければ美人」という言葉を体現している女性ですが、今は口を大きく開け、信じられないモノを見ているような顔で硬直している様は……美人ですね。美人は何をしても美人だとクレナイ談。
「あ、あ……あ、もしかして……ってか、見てたわね……アナタ」
ギルド内外で一番問題行動を起こしている人物にワカバと二人だけの秘密を見られてしまったのです。この後で何を言われてしまうのか……子供のように自由奔放な彼女が何をしでかしてくれるのか想像もつきません。
どう出るか迷っている内に、クレナイは恐る恐る部屋の中に足を進めます。
「コキ……アナタ……アナタって人は……」
「えっと、その……な、なんて言えばいいのか……」
「ご褒美ってなんですの! ワカバちゃんだけご褒美だなんてズルイですわよ!」
予想外の台詞にコキ、唖然。
固まっている間にクレナイは詰め寄ってきまして、
「確かにトドメはワカバちゃんが刺しましたわ! けど、私だって一生懸命頑張って魔物にダメージを与えたではありませんの! なのにワカバちゃんだけご褒美が貰えるだなんて不公平ですわよ!」
よほど不服だったのか吠えまくっていますね、内容は完全に子供ですが。
彼女は自分より歳上ですが、こういった言動のせいで歳上として見れない所がこの女性の汚点でしょう。
「え、あ、いや……アレはその、探索のやる気を削がないようにするためっていうか、食べ物だとキリがないから手軽に済ませられるモノにしようって思ったってだけで、深い意味は……」
意味はありますがそこまで言えません。特に彼女に対しては。
「そんなこと言ってるんじゃありませんの! 私だってご褒美が欲しいんですのー!」
「えー……」
面倒臭いなこの女……。
しかし、この大人は構ってあげないと永遠に喚き散らすタイプの人種です。適切な対応をしなければ部屋から出て行ってくれないでしょう。
首筋に針でも刺して眠らせてやれば一瞬で片付きますが、目を覚ました後で癇癪を起こすに決まっています。そもそも、問題を後回しにするのはよくありません。
となれば腹を括る方が早そうです。
「あーもー……しょうがないなぁ……」
「やりましたわ」
ニヤリとほくそ笑んで右手親指を立てるこの女を今後どうしてやろうか思考を巡らせましたが、具体例は出てこないので保留することにするのでした。緊急性のない問題なら後回しにするのが彼女のやり方です。
「人選を間違えたか……いや、絶対間違えた、間違えすぎた。どうも私は人を見る目がない……」
「えーとえーとどうしてもらいましょうか? いざとなると迷いますわねぇ」
「言っとくけど、アナタの指示に従うとかそういうのはないから」
「はい?」
コキは、きょとんとしているクレナイの顎を掴んで持ち上げると、
少し開いている口に、自分の唇を重ねました。
ついでのご褒美ですからこれ以上のサービスはしません。すぐに唇を離し、触れるだけの接吻を終わらせて、
「ホラ、これで満足で……」
言葉は最後まで続きませんでした。
この後、ご褒美に満足して笑顔で帰っていく予定だった彼女が、顔を真っ赤にさせ、顔に驚愕の二文字を貼り付けて固まっているのですから。
「………………ん?」
まるで初心な乙女のような反応にコキも首を傾げます。こんな顔をした彼女を見たことなかったのですから。
「あ、ふぇ、あの……こ、き……?」
「え、えっ? なんで?」
「わ、わっ、ワタクシ……ご褒美って……あみょ、そにょ、新しい、刀……が、欲しくて……」
「んん?」
話が違う。
「き、キス……される、なんて……思っても……なくて……ワタクシ……」
「まっ待って!? アレを見た後にご褒美をねだるから私は、てっきり……」
「だ、だだだって! さっきのはワカバちゃんへのご褒美であって、私は違って……あ、えっと、え……」
互いに動揺のあまりか言葉に詰まり、頭の中がこんがらがって何から説明すればいいのか分かりません。
「その、ええと、あの、コキ……」
「なにっなに、何よ……?」
こんな女でも想い人のカヤ以外とキスに抵抗を抱くということでしょうか、気まずい状況にも関わらず新鮮さを覚えます。
次に発言される前にすぐさま謝るべきか、お詫びとして刀を買いに走るべきか、無言で頭を下げるべきか、弁解すべきか、頭部を殴って記憶を抹消させるべきか、アイディアはいくらでも出てきますが実行には至らず……。
「コキが……気に病む必要は、ありませんわ」
頭を抱えている間にクレナイはそう言いました。
「そもそも私がワガママを言ったせいでこのような誤解が生まれてしまったんですもの……全ての責任は私にあります、コキはただ勘違いしただけ……」
「あ、あれ、クレナイ?」
「私の非礼は詫びますわ。申し訳ありません……刀はお金を貯めて自分で購入するのでご心配なく」
「あのーあのークレナイさーん?」
「一つ誤解されたくないので言っておきますが、私はさっきのキス……嫌ではありませんでしたわよ。アナタがどう感じたのかはわかりませんけど……」
「だったらよか……ああいや良くないっていうか、なんというか」
「それでは、ご機嫌よう」
コキの言葉は聞く耳持たず、会釈したクレナイはその場で回って背を向けると、早足で部屋から出てしまいました。
「ちょっと待ちなさいよ!?」
我に返ってすぐ廊下に出ますが、赤髪の女の背は既に遠くにあり、階段を降りて見えなくなったのでした。
「いつものノリで片付けなさいよ! 不安になるでしょうがぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫は湖の貴婦人亭まで観測されたそうです。
2019.6.25