ギルド小話まとめ

 マギニアにもクリスマスが近付いてきました。
 街はすっかりクリスマスムード、至るところにカラフルなイルミネーションが飾られて夜の街を彩り、街路樹はクリスマスツリー風に飾られ、どこからかクリスマスソングまで聞こえてきますしクワシルは昼夜問わずサンタ帽子を被っています。
 冒険者たちが泊まっている宿もそのムードに侵食されつつあるわけで。
「ジングルベールジングルベール!すっずがーなるー!」
『イエーイ!』
 年中無休で多くの冒険者が行き交う湖の貴婦人亭。
 そのロビーで歌いながらクリスマスツリーの飾り付けをするルノワール、カナリー、ミモザの3人。シエナとレマンは買い物に出掛けているため今はいません。
 天井近くまであるツリーなので低い位置はカナリーとミモザ、高い位置はルノワールが脚立に登って飾り付けしていました。
「可愛い僕の手で緑一色のツリーが可愛く彩られる様はいつ見ても気分がいいなぁ!まあ僕の方が二百倍可愛いけどねー!」
『そうだね!』
 剣士の技術も大人社会の生き方もしっかり学んでいる双子はそれはもう優秀でした。
 非常に空気の読める双子と一緒に、子供のようにはしゃいでいるルノワールに声をかけたのは、冬でも女装で薄着のキキョウでした。
「おー!楽しそうだなー三人とも!クリスマスまでまだ二週間もあるのに」
「いいじゃん!再来週なら明日も当然なんだから!」
『そうだよ!』
「ごめんその理屈はマジでわかんない」
 呆れる彼を尻目にルノワールは鼻歌混じりに飾りつけを続けます。
「そんなに好きなのか?クリスマス」
「うん!美味しいものいっぱい食べられるし街は綺麗に飾られるし楽しいし大好きだよ!それにサンタさんも来るからね!」
「あーそんなのもいたなーすっかり忘れてたわ」
「忘れちゃダメでしょ?まあ……可愛くて良い子の僕は当然プレゼントを貰えるからねぇ、キキョウはどう足掻いてもプレゼントが貰えないのは可哀想ではあるけど」
「……ん?」
 ルノワールの言い方に違和感を覚え、キキョウの言葉は止まりました。
 ツリーに金色のモールを引っかけているため、思考停止する彼の様子に気付かない彼女は更に続けます。
「サンタさんは子供と可愛くて良い子にプレゼントを送ってくれるからねーキキョウのことを悪い子だとはあんまり思ってないけど、僕という全宇宙で唯一の可愛さを持つ存在がいるんだから申し訳ないけどサンタさんのプレゼントは独り占めしちゃうね、こればっかりは仕方ないから諦めてね?うん」
「…………ルノワール、お前まさか」
「待てや……」
 事実に気付いたキキョウがそれを伝えるより先に、うなじに冷たいモノが当たる感触を覚えて固まります。同時に耳に響くドスの効いた声。
「え……なに……何やってんのマイギルマス?」
「それ以上の発言をするなら勝手だが、買ったばかりの剣の切れ味をここで試すことになるぞ……」
「それは死に直結してるんだけどなぁ!?宿を深紅に染める気かよ!?」
「それもありっちゃありだが」
「やめて!言わないから!アンタが望まないことは言わないから!」
 悪魔と呼ばれる彼なら本気でやりかねません。キキョウが絶叫したところでアオは剣を鞘に直すのでした。
「あーこわ……怖すぎるわサブドグマ……」
「どしたの?」
 モールの飾りつけが終わったのかようやく振り向いたルノワール。
 その緑の瞳に顔面蒼白させるキキョウといつも通り無愛想なアオが映るも、何が起こっていたのか分からず首を傾げていました。
「大したことじゃないから気にするな」
「そっかぁ」
 アオが答えただけで納得してしまいました。キキョウが何か言いたげにしていますが、今、迂闊に何かを喋ってしまうと後ろで睨みを効かせてくるギルマスが実力行使に出そうなので喋ることすらままなりません。
「ルノワール!タイヘンたいへん!」
「ツリーにつけるまるいのがないよー!」
「おっと!それはいけない!急いで買いに行こう!」
 足元で騒ぐ双子に気付いてルノワールはすぐ脚立から降りると“買い物行ってくるね!”と元気に言い残して、双子と一緒に宿から飛び出したのでした。
「……」
「まあ、そういうことだからその点には触れないように……特にナギット」
 名指しされた彼はツリーの裏でビクリと震えました。
「あれ?いたんスかナギットさん?」
「大方、ルノワールの手伝いをして話すきっかけでも作りたかったんだろうが、どのタイミングで声をかけていいかわからないままずっと裏で飾り付けしてたんだろう」
「そうですよ!ええああもうそりゃそうです!!」
 やけくそ気味に絶叫したナギット。全て図星だった悔しさからか壁を殴ったのでした。 
「八つ当たりはよろしくないッスよー」
「うるせぇ。つーか、ルノワールさんはあの年でもサンタの正体分かってねーのか……?」
「そうだな、面白いだろう」
「面白いって……」
 どこか満足そうにしているアオに対してのナギットの呆れが止まりません。
「貴族の養子で蝶よ華よと愛されて育ってきたからな……正体を教えるのは残酷だとひた隠しにされてきたらしい。学校にも義理の両親が圧力をかけて徹底的に隠し通したとか」
「ヤベェ」
「詳しいですねアオさん……」
「全部ヒイロ情報だ」
「パネェ」
 ヒイロや義理の両親からの愛されて具合にキキョウ驚愕。ナギット唖然。
 それを面白がるのも悪魔と呼ばれるギルマスらしいな……と、納得しかけたナギットでしたが、ふと気付きます。
「じゃあ、アオさんもルノワールさんの夢を守るために」
「はぁ?」
「は?え?」
「さっきも言っただろう面白いだろうって。俺はアイツの夢を守っているんじゃなくて継続させているだけだ。面白いから」
 ナギットだけでなくキキョウも絶句。
 二人が黙っているその間にアオは続けて、
「成人してあの年になっても毎年毎年純粋に信じ続けているんだぞ?あれがいつまで続くのか興味しかないだろう?クリスマスシーズンになるといつも思うんだ、アイツがいつ“真実”に気付いて何年も保ち続けた夢を粉微塵に破壊されるのかをな……その時を迎えるのが俺の人生の楽しみのひとつではある」
 そりゃぁもう楽しそうです。クリスマスプレゼントを待つ子供のように楽しそうに笑っています。ルノワール曰く“暗黒微笑”の微笑みですが。
「俺は離れたところで見物するから邪魔だけはするなよ。自分からバラすんじゃなくてどこかでうっかり気付く事が重要なんだからな」
「……おお」
 生返事をしたのはキキョウでした。ナギットは言葉を失って立ち尽くしたままです。
 そして、呆然としたままの二人を置いて、アオはさっさと階段を昇って二階へと消えたのでした。
「…………ナギットさん」
「……釈然としねぇけど、クリスマスが終わるまでルノワールさんの夢を守っていこうぜ……」
「……そうッスね」
 聖夜まで残り二週間。
 彼らの戦いが、始まる。


2018.12.15
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