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冒険者珍道中

そして、次の朝……

ナディカ「おはようパレッテさん!」
アオニ「おはよー。今日もいい天気だねー」
ナディカ「うん……でも、イルコフさん達大丈夫かな?ちょっと心配だけど……」
コヌア「あら、おはようございます。パレッテさん、ナディカちゃん。ごめんなさいね立ち聞きしちゃって……」
アオニ「いいのいいの、ロビーで話してたら聞こえちゃうのも仕方がないもんね」
コヌア「あの、イルコフさんって冒険者の……?」
ナディカ「うん。実は第5迷宮で……」

話が長いので省略……

コヌア「まあ、そんなことが……」
アオニ「今は安静にしてないといけないみたい」
ナディカ「お医者さんからはお見舞いも控えるようにって言われているの」
コヌア「そうなんだ。お見舞いも行けないのはちょっと心配になっちゃうよね……でも、皆さんの頑張りで命は助かったワケだから……大丈夫よ。時が経てばきっと、イルコフさんもきっと元気になるわ」
ナディカ「うん……そうだよね……きっとそうだよね!」
アオニ「(さっきまであんなに泣きそうな顔してたのに……お姉さん属性強い)」
コヌア「心配は仕方ないとして元気を出さなくちゃ、ね?」
ナディカ「うん!ありがとうコヌアさん!」

冒険者ギルドへ行くと、エミルとネッドが出迎えてくれた。

エミル「やあ!君達♪」
ネッド「第5迷宮ではご苦労だったな……ゲホゲホ……」
アオニ「やっほー2人共。今日もいつもどーりだね、昨日は助かったよ」
エミル「どういたしまして♪あれ?君達とお嬢ちゃんの3人だけ?他に2人いなかったかい?」
アオニ「クロとキキョウ?それなら昨日の出来事を反省させるために早朝から人工芝の上に正座させて膝の上にレンガ10個乗せて宿の裏に放置してきた」
エミル「わお♪」
ナギット「ほぼ自業自得ですがね」
トラオレ「よっ。話は聞いたよ、大したもんだぜ。第5迷宮踏破の報酬だ、受け取ってくれ」

3000エン、アイテム寄せの巻物、あかりの巻物を受け取った!

アオニ「どもども」
エミル「それにしても、パレッテ達はスゴイよね!僕達やイルコフさん達が越えられなかった第五迷宮を踏破しちゃうんだからさ」
アオニ「それほどでもないよーエヘエヘ」
ナギット「嬉しそうだな……」
ネッド「いや、それなんですが若っ……実は私達も踏破したことになっているかと……」
エミル「……えっ?」
アオニ「へ?」
ナギット「は?」
ネッド「一応、私達もあそこの最奥部に到達しましたし……」
ナギット「で、でも、あのサッピアオルコンとは戦って……いませんよね?」
ネッド「それはパレッテが先に倒してしまったので仕方がないと……」
アオニ「……わあーお」
ネッド「というワケで若、私達も無事、踏破ということに……」
エミル「ええ?!そうなの!?トラオレさん!?」
トラオレ「ああ。報酬もさっきネッドに渡したよ」
エミル「げえ〜!?いつの間に〜!?それじゃあ僕が無駄遣いできないじゃん!」
ナギット「おぉーい暴君」
アオニ「ええ根性しとる」
ネッド「だから私が受け取ったんですよ……ゲホゲホ……」
エミル「返せよ!コラッ!」
ネッド「ぐはぁっ……」

エミルの一撃によりネッドは倒れた!

アオニ「あーあ、最近ぶっ倒れ芸がないと思ったらこうなっちゃったよ」
ナギット「やはり暴君ですね。キキョウのあだ名がこうも見事にマッチングするとは」
エミル「はいそこー毒を飛ばさないの〜やれやれ、ネッドってば都合が悪くなるといつもこうなんだから」
トラオレ「まあとにかく、エミルとパレッテ……この2つのギルドがアントニカに並んだワケだ。いよいよ第6迷宮だぞ」
アオニ「おおお……とうとうナンバーワンギルド到達の目前まで来たって感じだね……!」
トラオレ「第6迷宮はアントニカ達もまだ踏破できない……つまりは、誰も突破できていない、前人未到のダンジョンだ」
ナディカ「相当な難関みたいだね」
トラオレ「まあな。あれほど強いアントニカでさえまだ突破できないんだからな。実は俺もよく知らないし」
エミル「……えっ?」
アオニ「へ?」
ナギット「は?」
トラオレ「わからないんだ。第6迷宮のコトが。いつものようにダンジョンの情報をお前達に伝えたいところだが……生憎何も知らなくてな」
エミル「アントニカさんから貰ってないの?何かしらの情報を?」
トラオレ「第6迷宮に限っては何も教えてくれない。その話になるとアントニカはいつも口をつぐむんでな……理由は分からんが、彼女も何か思う所があるんだろう……」
アオニ「ふーむ、第6迷宮に行けばその理由も分かるかもしれないね」
ナギット「それより直接問いただした方が早くないですか?彼女は今どこに?」
トラオレ「それが、お前達が第5迷宮を踏破した知らせを聞くと突然第6迷宮にアタックをかけると言い出し、今朝出て行った所なんだ」
エミル「僕やパレッテのことをライバル視して燃えたのかな?」
アオニ「焦ってるのかなー?エミルはともかく、アタシたちみたいな新人ギルドに追い越されるのはプライドが許さないとかで」
トラオレ「いや、あれは何かを思い付いたような顔つきだった……考えがあってアタックを掛けに行く、そんな感じだった。だから……」
エミル「わかった。第6迷宮への挑戦はひとまず、アントニカさん達の帰りを待ってからの方がイイってコトだね♪」
トラオレ「そういうことだ」
アオニ「そういうことなら仕方がないね」
ナギット「ですね。第6迷宮への挑戦は後日にしましょう」
エミル「それじゃあそーゆーコトで!行こうネッド、今日は冒険をやめてショッピングだよ♪」
ネッド「がはあっ!ゲホゲホ……」
ナギット「起きた」
アオニ「起きたね。実は気絶してなかったり?」
ネッド「そんなワケないだろう……ゲホゲホ」
エミル「今度のダンジョンは今までとは相当違うみたいだね♪じゃあ♪」
アオニ「じゃーねー」

エミルとネッドはギルドから立ち去った。

トラオレ「というコトだからパレッテも、ひとまずアントニカが帰ってくるまでクエストを受けるなりして待機しておいてくれ」
アオニ「そうさせてもらうよ。よーし!今日はオフの日にしよう!スイーツ屋さん巡りだよ!」
ナディカ「スイーツ!?」
ナギット「ええっ?いいんですかクエストは!?」
アオニ「たまにはいいじゃないパーっと遊んじゃっても!適度にガス抜きしないと体が持たないよー?休みと仕事をキッチリ分けてことちゃんとした社会人というものだ!」
ナギット「はあ、まあ……そうですか」
ナディカ「あ!他の2人は宿に置いたままでいいの?」
アオニ「…………やっぱ連れて行かないとダメ?」
ナギット「キキョウもそうですが、クロも文句を垂れ流す未来しか見えません」
アオニ「しゃーない、宿に戻って回収してやりますか。クロの方がスイーツ店の情報詳しそうだもんね。ガイドブック買ってるし」

一旦宿に戻るべく、冒険者ギルドから出た一行。
その時!急に地面が揺れ始めた!

アオニ「わああ!?また地震!」
ナギット「久しぶりのような気もしますが……!あ、おさまりましたね」
アオニ「びっくりしたなーもうっ。でも今日のはそんなに強い揺れじゃなかったかな、今までのと比べたら」
ナディカ「あ、危ないっ!!」
アオニ「ほえ?」

突然ナディカに突き飛ばされ、その時大きな音が!

ナギット「アオニ!?大丈夫ですか!?」
アオニ「アタシはへーきだけど……それよりナディカ、いきなりどうし」

アオニの目の前には瓦礫が転がっている。

アオニ「…………」真っ青
ナギット「ナディカが突き飛ばしてくれなかったら大怪我してましたよ……?」
ナディカ「ビックリしたよね……!でも、なんで降ってきたんだろ?これ?」
ナギット「地震の衝撃で壁が崩れたとか?」
アオニ「いや。そんな形跡はない、ね」
ナギット「そんな……ならどうして」
アオニ「2階の窓があるだけだよ」
ナギット「窓……?はっ!まさか!?」
ナディカ「あそこから、誰かが落としたのかな……?」
アオニ「誰かが、ねえ?アタシ達を狙って」
ナギット「気配は感じなかった……クソッ、キキョウの奴を連れておくべきだった」
アオニ「妙に勘が鋭いところあるもんね彼、わかるわかる」
トラオレ「おーい」
ナギット「トラオレさん?どうしてここに?」
トラオレ「さっき地震があったろ?それで外の様子を見にきたんだが……何かあったのか?」
アオニ「実は2階から目薬ならぬ2階から瓦礫がね」
トラオレ「なるほど、ね……まあ、俺は信じたくないんだが、妖魔の仕業というウワサはある」
ナディカ「妖魔……?」
トラオレ「実は街では前から不思議な存在にイタズラされるという事件が起こっていた。しかも、冒険者に限ってな」
アオニ「それは妖魔の仕業じゃないかって囁かれるようになったと」
ナギット「前にイルコフさんの銃が盗まれた事がありましたね。妖魔の仕業だとすごい騒いでた」
アオニ「悪質クレーマーみたいな勢いだったからまだ鮮明に覚えてるよ」
トラオレ「あれも、元にはそんな噂が広まってたからなんだ。なんにせよ、冒険者が妨害を受け続けているコトは事実、妖魔の仕業がどうかはわからんが、お前達も気をつけるこった」
アオニ「うん、わかった。肝に命じておくよ」
トラオレ「じゃあな」

トラオレは戻っていった。

アオニ「うーむ。前の騒動でアタシやナギット、ナディカが妖魔に狙われるのはわかるけど、冒険者だけってどゆこと?」
ナギット「見当もつきませんが、妖魔という程ですし、見境なく危害を加えている可能性は十分あり得ますよ」
アオニ「うー……あーもう!考えたって仕方がないか!甘いもの食べよ甘いもの!クロたち回収してから!ナディカ!何か食べたいものある!?」
ナディカ「え!?あ、えーっと、じゃあ、ケーキがいいなぁ?」
アオニ「ケーキねわかった!クロに言えば迅速に美味しいお店を調べてくれると思うからすぐ行くよ!今すぐ行くよ!倍速で行くよ!」
ナギット「……いいのかなあ……?」

スイーツ巡りで充実した休日を過ごした翌日、一行はクエストのため新しい小迷宮に足を踏み入れるのであった。

小迷宮 アルガの岩場
B8Fにて。

アオニ「砂漠より気温が低いのは楽だよね」
キキョウ「よくみえの薬が落ちてる」
アオニ「おっラッキー。さっそく飲んで」

稀少個体ハウスだ!

4人 『稀少個体ハウス!?』
アオニ「さっきのモンスターハウスでフルゲイン使っちゃったからバースト足りてないよ!」
キキョウ「わあーキラキラしてて綺麗だなー」
ナギット「帰ってこい!!」

騒動もありつつ迷宮から戻り、船着き場にて

ナディカ「お疲れ様ー今日はまだ明るいんだね」
アオニ「B10Fまでしかなかったもんね」
ナディカ「ねえ見て!湖に映る世界樹がよく見えるよ!綺麗だね~」
クロ「そうですね。しかし、湖畔に映る世界樹よりも貴女の方がずっとキレ」
アオニ「夜叉の構え」
クロ「びくっ」
キキョウ「第6迷宮を踏破したら辿り着けるんスかねぇ。世界樹の麓」
ナギット「どうだろうな……だが、もうすぐだ、もうすぐ親父を……」
キキョウ「その言い方だとサクッと殺っちゃいそうッスよ?」
ナディカ「第6迷宮はまだ誰も踏破できてないから大変そうだけど……パレッテさんならきっと大丈夫!そんな気がする!」
クロ「精霊さんのお墨付きを頂けるなんてありがたいですね。その気になっちゃいそうです」
アオニ「根拠はないけど、こういう激励ひとつだけでも元気出てくるよ」
キキョウ「なーなーナディカー。ナディカって神様にお届け物をするために世界樹目指してるんだよな?お届け物って何だ?宅配ピザ?」
アオニ「ピザだったら今頃カッチカチに冷たくなってるでしょーが」
ナギット「ツッコミ所はそこじゃないかと」
ナディカ「うーん……今は、内緒!」
キキョウ「えーズルいー!気になる気になる!」
ナディカ「ごめんねー。その時になったら絶対話すから!ねっ?」
キキョウ「ぶーぶー」
クロ「女性に無理強いはよくありませんよ」
アオニ「知りたかったら世界樹の麓まで行けばいいだけの話じゃない」
キキョウ「そっか!俺頑張る!」
ナディカ「ふー話してたら喉乾いてきちゃったね。ちょっと井戸で水汲んでくるよ」
アオニ「あー待ってーアタシも行くー」

ナディカとアオニは行ってしまった

キキョウ「ありゃ、取り残されたッスね」
ナギット「そうだな」

キキョウは少し辺りを見回して、クロがオーベルフェ観光ガイドに目を通してるのを確認してからナギットへ耳打ち。

キキョウ「……ナギットさんナギットさん」
ナギット「何だよ」
キキョウ「で、どうなんスか?」
ナギット「何が?」
キキョウ「まったくもーとぼけちゃってー俺はちゃーんと把握してんスよ?よく一緒に行動してること!」
ナギット「だから何を」
キキョウ「っかー!鈍いッスねーナギットさん!アオニッスよ!」
ナギット「アオニがどうかしたのか?」
キキョウ「えぇー……ここまで言ってるのにまだ分からないとか引くわー」
ナギット「殴られてぇのか……?」
キキョウ「ノンノン!俺が言いたいのは、アオニは人見知りなナギットさんに対しても壁を作らないどころか、ナギットさんのためを想って接してくれてる!俺はそれに感激したし未来への可能性を感じたんスよ!ナギットさんももう18でしょう?そろそろ考えとくべきじゃないッスかね!?」
ナギット「お前さっきから何言ってんだ?」
キキョウ「ただ、その場合クロが鬼門なんスよねぇ……どう見ても桃色片想い、ありゃあただの女好きってワケじゃあなさそうだし、衝突は避けられない運命……」
ナギット「次回予告にはまだ早くないか?」
キキョウ「ギルド内で痴情のもつれだなんて考えたくないッスけど、これもナギットさんの子供と遊ぶっていう俺の長年の夢が叶うためだと思えば……」
ナギット「(次回予告の練習だろうか)」
クロ「何の話をしてるんですか?仲間外れは寂しいですよー」
キキョウ「なっ!ななななななんでもないぞぉ!?」
クロ「?」
ナギット「次回予告の練習のようです」
クロ「それなら別に隠す必要なんて……って、あれ?フカ子たちはまだ戻ってないんですか?」
ナギット「ええ、まだ……ですね」
キキョウ「変だなーアオニが一緒にいるなら妖魔に襲われても多少は……」

ぴぎゃーーーーー!!!!

ナギット「なっ!?何ですか今の天地が避けそうな悲鳴!」
クロ「この悲鳴はフカ子の……!?ま、まさか!」
キキョウ「うえっ!?どこ行くんだよクロー!」
ナギット「追いかけるぞ!」

悲鳴が聞こえた方向を辿り、草むらに入った3人は驚くべき光景を目の当たりにする!

ナディカ「あわわ……」
ナギット「ナディカ!……と」
キキョウ「ギャー!なんだあれ!でっかいうわばみだ!」
クロ「ああっ!やっぱり!フカ子!」
アオニ「(ぶるぶる……)」
キキョウ「え?なんでアオニ生まれたての小鹿みたいに震えてんの?」
クロ「フカ子は蛇が苦手なんですよ!大きければ大きいほどダメなんです!今の悲鳴はレベル5ぐらいですね!」
ナギット「なんですかレベル5って!とにかく二人を!」

その時!舐め回すようにナディカを見ていた白蛇が一瞬のうちにナディカを丸飲みしてしまった!

4人 『ギャァァァァァァァァァ!?食ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
アオニ「タベチャウゾ、タベチャウゾ」
クロ「ああっ!フカ子が錯乱に!錯乱にぃ!」
ナギット「アンタも落ち着け!急いでナディカを助けるぞ!」
キキョウ「俺に任せろ!ずりゃああっ!」

キキョウは白蛇の首をはねた!

キキョウ「一・撃・必・殺!」
クロ「お見事!」
ナギット「ナディカは!?無事か!?」
クロ「切断面から手が見えます!」
キキョウ「急いで引っ張るぞ!」

切断面からナディカを救出することに成功した。

ナディカ「はあ……はあ……」
キキョウ「ギャー!真っ青じゃん!よくわからん液体と血でベトベトだし!」
クロ「飲み込まれたショックが大きくてパニック状態になっているのでしょう!早く宿まで運ばないと!」
ナギット「はい!」
キキョウ「アオニは俺に任せてくれ!」
クロ「わかりました!急ぎましょう!」

慌てて宿まで戻った一行は、ナディカを温泉に入れてやり、早めに休ませてあげた。
一段落してから一行も温泉に浸かる。

アオニ「(ずーん)」
ナギット「お、落ち込まないでくださいよアオニ……トラウマなら仕方がないじゃないですか」
キキョウ「クロから聞いたぞー子供の頃に毒蛇に噛まれて死にそうになったって。1度生死の境をさ迷うハメになった相手を前にして動けなくなるのも無理ないって」
クロ「結果的に、ナディカは助かったんですからよかったじゃないですか。フカ子が責任を感じる必要はありませんよ」
アオニ「…………もう、出るから」

アオニは早々に立ち去ったようだ。

キキョウ「ありゃりゃあ」
クロ「やはり責任を感じているようですね……フカ子らしいですが」
ナギット「大丈夫でしょうか、アオニ」
キキョウ「アオニってさ、自分は正義の冒険者だーとか言ってたじゃん。正義感強すぎるから思い詰めてないか俺も心配」
ナギット「どうしてあの人は、そこまで正義にこだわるんだろうなぁ」
クロ「……それは、フカ子が自分の正義を貫く人になりたいから、ですよ」
キキョウ「どして?なんかあったの?」
クロ「ご存知の通り、フカ子はタルシスの迷宮を踏破したパレットというギルドに憧れています。あの人達は自分の正義を貫いて迷宮を踏破した伝説のギルド、フカ子は誰よりも彼らを尊敬し、彼らと同じ生き様を志し、彼らのようになりたいと心から願っています」
キキョウ「それが謎なんだよなー?どうしてそこまで熱心に憧れてるんだ?」
クロ「だから前に言ったじゃないですか。彼らはフカ子の恩人だって」
ナギット「どうして恩人なんです?」
クロ「何年も前、それこそタルシスの世界樹の迷宮が踏破される前、世界樹の麓付近には帝国と呼ばれる科学技術の発展した大きな国がありました。フカ子の故郷ですね」
ナギット「故郷……」
クロ「帝国は大地の汚染により作物が育たず、滅亡の危機に瀕していました。国を上げて解決のための方法を模索し……1つの解決策として世界樹の巨人の力を使う事になったのです」
キキョウ「巨人?なにそれ?」
クロ「タルシスの世界樹の正体は遥か昔に人間や、人間が作った亜人達に封じられた巨人なんですよ。巨人は大地を浄化する力を持っており、帝国の人々はその力を蘇らせて大地を蘇らせようとしていました」
ナギット「国を救うために過去の怪物の力を借りようとした……という事ですか」
キキョウ「良いことじゃん。巨人を使って戦争でも起こそうとしたワケじゃああるまいし」
クロ「それだけならよかったのかもしれませんねぇ。巨人の力を使ってしまうとその代償として、亜人達が滅びさえしなければ」
ナギット「ん?」
キキョウ「え?」
クロ「強大するぎる力のせいで、亜人達が住む地にまで影響が及び、種族もろとも滅ぼしてしまう……帝国はそれを分かっていながら計画を進めていましてねぇ……それが、フカ子の強い正義感に火をつけたのですよ」
キキョウ「どうしてそこでアオニが出てくんの?帝国の人はみんな知ってたのか?」
クロ「一応軍や王家だけが知ってる機密情報だったそうですが、フカ子はお姉さんが軍人で、お父さんが砲剣職人、フカ子自身も軍人でなくてもお姉さんのお手伝いのような事をしていたそうですし、耳に入れてたとしても不思議じゃなかったそうです」
ナギット「それで……あの人は、反対したんですか?」
クロ「ええ。2つの種族を滅ぼしてまでする事なのか、それで本当に帝国が救われるのか……と。外部に漏らすワケにはいかないのでこっそりと、家族や軍人の方々に抗議していたそうですが、誰も相手にされなかったそうです。それだけならまだしも、フカ子の言動を不愉快に感じた人達からの嫌がらせもあったそうです」
ナギット「……!」
キキョウ「ひっどい奴らだなー俺が斬ってやろう!」
クロ「はい是非。話を戻しますが、元々フカ子は正直というか、正義感が強すぎてどうしても浮いてしまう事が幼い頃からあったそうなんです。その度に酷い目に遭っていたそうで、それが積み重なって今回の件で心が折れそうになっていました……そんな時だったんですよ、パレットが復活した巨人を倒したのは」
キキョウ「あーらら、巨人復活してたんだ。その後どうなったんだ?」
クロ「計画は凍結、帝国民はタルシスに移住する事になり問題は解決しました。まあ1つの問題が解決しただけで、他の問題がまだ山のようにあるワケですが、そこは冒険者が介入するような事ではありませんし、ひとまずは一件落着という結果になりましたね」
キキョウ「めでたしめでたし?」
ナギット「だから、アオニはパレットを尊敬するようになったと」
クロ「ええ。無力で、口ばかりで何もできなかった自分の代わりに事を解決してくれた伝説の人だとか言ってましたね……壊れてしまいそうになっていた自分の正義を貫く心を取り戻してくれたと。だから、自分もパレットみたいな人になるんだーと崇拝レベルで尊敬しているのですよ」
キキョウ「でも今その目標のせいで潰れそうになってね?」
クロ「大丈夫ですよ、フカ子は強い子ですから。明日には立ち上がっていますよ」

翌朝。

ナディカ「おはよう!みんな!」
キキョウ「ナディカ!」
クロ「よかった、元気になられてホッとしましたよ」
ナディカ「うん、心配かけてゴメンね。みんながいなかったら今頃……」
キキョウ「そーゆー話はナシナシ。今は無事を喜ぼうぜ」
ナディカ「うん」
アオニ「うんよかった!本当によかった!!」
ナギット「わっ!びっくりした!いたんですか!?」
キキョウ「昨日部屋に帰ってこないから心配してたんだぞ?」
アオニ「ごめんねーナディカが心配でずっと看病してたの。アタシの責任もちょっとはあるワケだしさ、ほっとけなくってね」
クロ「私も付いていたので問題ありませんよ!」
ナギット「聞いてねーし」
キキョウ「つーかいつの間に」

問題がなくてよかったところで、一行は冒険者ギルドへ

トラオレ「おっ、パレッテか。いい所に来た」
ネッド「アントニカ殿がまだ戻って来られないのだ……」
クロ「なんですって心配ですねえ早く様子を見に行きましょう!」
アオニ「これ以上ない饒舌で喋ってんじゃない」
ナギット「踏破するにしても失敗するにしても、帰って来てよさそうな時間ですが……」
トラオレ「今回に限って音沙汰がないんだ。アイツらが強いって言ってもちょっと心配になってきてな……」
エミル「それで、僕かパレッテで見てこようかって話してたんだ♪第6迷宮に行けるのは僕達のギルドしかないからね」
トラオレ「どうだ?お前達」
アオニ「やらせていただきます!!」
クロ「期待通りの返答ありがとうございます。私は言うまでもなくOKですよ」
キキョウ「上に同じ!」
ナギット「以下同文」
エミル「僕もオッケーだよ♪」
アオニ「満場一致だね。アタシはアントニカのことも心配だし早く行きたいよ。彼女、イルコフみたいなヘマはしてないと思うけどさ、様子を見に行きたいじゃん」
クロ「フカ子に同じ」
ナギット「はい」
エミル「あ、僕はいつものようにマイペースでやるからあまり期待しないでね。アントニカさんの事も僕は心配してないし。だって彼女相当強いもん」
キキョウ「マイペース、ここまで行くと、暴君だ」
エミル「というワケで!全てはここにいる大型毒舌新人パレッテに期待してね!」
アオニ「さらっと毒言われとるやん」
クロ「納得の二つ名ですがね」
エミル「じゃ、そういうコトで!シーユー♪」
ネッド「では御免……」

エミルとネッドはギルドから出て行った。

アオニ「今日は倒れなかったね」
キキョウ「俺は今、仮病の可能性を視野に入れ始めた」
トラオレ「何はともあれすまんなパレッテ。前も言った通り、今回のダンジョンの情報が全くなくて申し訳ないが……第6迷宮に行ってみてくれ」
アオニ「結局こっちに一任されるんだねぇ。わかってたよ、こっからは任せといて。正義の冒険者としてアントニカ達を探し出して見せるから!」

第6迷宮、幻想白森

虚空を視る邪眼の狂気の瞳!ナギットは混乱した!

ナギット「あっは!あははははははははは!あーっはっはっはっはっはっはっは!!
キキョウ「ギャー!ナギットさーん!!」

ついでに麻痺にもなった!

ナギット「…………」しーん
キキョウ「ナギットさーん!踏んだり蹴ったりッス!」

死霊の兵士の攻撃!ナギットにダメージ!ついでに麻痺がとけた!

ナギット「グハッ」
キキョウ「よかったッス〜麻痺治ったッス!」
アオニ「主人攻撃されて喜ぶ従者とはいかに」
キキョウ「まだちゃんとした従者じゃないからセーフ!」
ナギット「この世に必要なのは圧倒的な権力と財力!俺にはその力がある!俺以外の人間なんて全て下等の下等の下等の下等!わかってんのかゴミクズがぁぁぁぁぁ!!
アオニ「混乱して暴君要素全開してない?」
クロ「魔物も倒しましたし、面白そうなのでしばらく放置しておきましょうか」
キキョウ「ヤベーわ」

ナギットのヤバさはさておき、一行は順調に進みようやくB11Fへ
死霊の兵士は武器弾きを使った!ナギットの英気のオーブが弾き飛ばされた!

ナギット「あっ!?」
アオニ「わーお装備剥がし!」
クロ「鎧系の魔物は装備にも何らかの攻撃を与えてくる種類のようですね」
ナギット「すぐ後ろの壁にぶつかったのはよかったけどさ、これって水辺に落ちたら2度と拾えないよな……」
アオニ「コイツと戦う時は場所をちゃんと見ておかないといけないね。ただでさえ防御力高くて厄介なのになぁ」

一行はB16Fへ辿り着く

キキョウ「森はすっごいキレイなのはいいんだけど、やっぱ敵の攻撃は激しいよなー」
アオニ「そろそろ魔物素材を売りに戻ってもいい頃かもしれないね。撤退を視野に入れて……」
ナギット「あれ?向こうに人影がありませんか?」
アオニ「んあ……本当だ。こっちに来るね、魔物じゃなくて人間だ」
キキョウ「ああっ!アイツらは!アントニカのギルドの奴らだ!」
「あっ!いたぞ!おーい!」
アオニ「やあやあ探したんだよ!アントニカが消息不明になっちゃって冒険者ギルドじゃあそりゃもう心配して!」
クロ「見た所貴方達だけのようですが……アントニカさんは何処へ?」
「お頭はここにはいねぇ……!でもよ!お頭は、お前達が来るのを信じてたんだ!」
「俺達はお頭からの伝言をお前らに届けるように言われてんだよ!」
アオニ「……伝言って?」
「お頭の伝言は……“ヤテベオに気をつけろ”」
アオニ「ヤテベオ」
クロ「ヤテベオ」
ナギット「やてべお」
キキョウ「やべーの?」
「お頭は既に下層まで進んでいる」
「今度こそ第6迷宮を踏破したいんだ。早く合流してお頭を助けてやってくれよな……」
「じゃあ!」

言い終わるとアントニカの仲間達は去ってしまった。

アオニ「え?ええぇー?」
クロ「何で帰るんですかね」
キキョウ「お頭ピンチっぽいのにどうしてこうアッサリしてるんだろうなー?」
ナギット「実はピンチじゃなかったりしてな……」
キキョウ「あっ!前のツケ代払ってもらう約束してたのに!逃げられた!」
ナギット「それは自分でどうにかしやがれ」





【次回予告】
アオニ「ワタクシの名はアオニ。聖シンジュク女学院の生徒ですわ」
ナギット「もう原型留めてませんね、世界樹の」
アオニ「たくさんのお友達に囲まれ、恵まれながらも平凡で退屈な学園生活を送っていましたわ……学園にあの新任教師が来るまでは……」
クロ「ああっ!貴女こそ私が追い求めてきたこの世で最も尊き存在!人生をかけて美を追求してきた芸術家が全裸で逃げ出す美しさ!ああっ、かの女神でさえも貴女の前だとかすんでしまうのでしょう!!」
ナギット「やっぱりお前か」
アオニ「常識外れながらも情熱的なアプローチ。最初は嫌悪感を抱いていたワタクシも、次第に心の氷を溶かされ、彼に惹かれていく……」
キキョウ「ダメですわよアオニさんっ!ソイツはソドゥィス家の財産が目的の間男!アナタにはもっと相応しい相手がいるはずですわよですわよ!例えばわたくしとか!」
ナギット「お前は何キャラなんだ」
アオニ「飛び交う疑惑、囁かれる噂、茶柱が立ったお茶……ああ先生、ワタクシは本当にアナタを信じていいのでしょうか……?女神様、どうか教えて下さいまし……」
クロ「愛は障害があればあるほど燃え上がるもの!貴女の美のためならばこの身が炎に焼かれようとも!焼かれようとも!!」
アオニ「次回、聖シンジュク女学院の恋、第5話“儚き命”……ああっ、先生……アナタと結ばれないというなら、ワタクシは……」
クロ「フカ子さーーーーーん!!」
ナギット「…………今日の晩飯、なんだろう」
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