冒険者珍道中
むかーしむかし、具体的には今から10年以上も昔のこと。
とある丘の上に、小さなお墓がありました。
丘の下を景色を一望するように建てられているお墓の前にいるのは、金色の髪の男と、同じく金色の髪をした男の子。
天候はバケツをひっくり返したようなどしゃ降りでしたが、男は傘をさしてお墓の前に佇んでおり、雨合羽を着た男の子は父親のズボンをしっかり握っていました。
「せっかくの命日なのにこんな天気で参っちゃうよねーナギットくん?」
「?」
よくわかっていないのか首を傾げるだけの男の子。不思議そうに目の前の十字架の石をじっと見ています。
「ま、ナギットくんが理解するのはもうちょっと先だよね〜わかってるわかってる」
「てる」
「さあ、そろそろお家に帰ろうか。今日の晩御飯は母さんが大好きだったビーフシチューだよ」
「うん」
父親が男の子の手を引き、お墓に背を向け歩き始めます。
彼が心から愛した妻が死んでもう、3年になろうとしていました。
待望の息子が生まれた矢先、病魔に襲われ何度か危篤状態に陥り結局……自分の子を一度も抱くことも叶わず、亡くなってしまった。
息子は母親のことを何1つ知らないまま、少しずつ大きくなっていく、それと同時に、母親がいない寂しさも少しずつ感じるようになってしまうのだろうか。
不安だけが頭の中を駆け巡る、そんな毎日が……
「おとーさま」
「ん?ナギットくん?どうし」
ばしゃ
すぐ後ろから、雨の音にかき消されそうな、何かが崩れ落ちる音が響きました。
とっさに振り向いた男が見たのは、息子よりも年上そうな子供がお墓の前で倒れ込んでいる光景でした。
「…………」
前髪の隙間から見える瞳が男を睨みつけていましたが、すぐに閉じてしまい、子供はもう動かなくなってしまいました。
「……いや、ここで死んでもらったらフツーに困るんだけどなぁ」
一行が第3迷宮を踏破して戻ってきた翌日。
クロ「温泉イベントなしですか!?!? 」
アオニ「うるさい」
コヌア「おはようございます。パレッテさん。第3迷宮をクリアされたそうですね!先ほど街で聞きました!新人なのにすごいって評判ですよ!」
ナギット「もう噂になってるのか……」
キキョウ「ボス戦で苦戦しなかったって言っても疲れたからギルドに報告しないですぐ帰っちゃったのに、情報のスピードって早いッスねー」
アオニ「あれより軍隊バチの方が強いと思うけどなー」
クロ「私なんて毒を喰らったら確実に死にますよ?水鉄砲より毒の方が恐ろしいですって」
ナギット「なんですかその異常なまでの軍隊バチ推し」
キキョウ「気持ちはわかるけどな。一連のクロを見てたら特に」
アオニ「流れ作業のように死んでたね」
クロ「お恥ずかしい限りで……」
冒険者ギルドに行くために街に出ると、行き交う人々から次々に声をかけられた。
「エタラガムラを倒すなんてすごいねー」
「新人で第3迷宮を踏破した人間はいないんだよ!」
キキョウ「つまり新人で第3迷宮を踏破した俺たちは人間じゃない……?」
「お前ら人間じゃねぇ!」
キキョウ「ほら!」
ナギット「なんで罵倒されてんだよ」
クロ「コヌアさんの言ってた通り、すっかり街で話題のギルドになってますね」
アオニ「いやーアタシも鼻が高いなぁ~あのパレットも最初に第2大地への道を切り開いたギルドだって話題になってたみたいだし?もしかするともしかしてもしかしたりして?」
クロ「世界がフカ子に染まる日も近いですね!わくわくしてきました!」
キキョウ「フカ子に染まるってなんだろう」
ナギット「さぁ……」
行きずりの男「よお~パレッテってお前達のことかよお~!なんか有名じゃないかよお~げへへへへー」
アオニ「おっと新規NPCかな」
クロ「しっかり立ち絵がありますね」
キキョウ「その解説いるッスか?」
ナギット「俺に聞くな」
行きずりの男「そっちばっかで楽しむなよなあ~?それよりちょっと付き合ってくれよ~!なあ~!」
クロ「酔っぱらいの熟女のお相手なら喜んで朝まで付き合いますが野郎は死んでも嫌です」
アオニ「お酒は好きだけどお酒臭いの嫌い」
キキョウ「どっちでもいい!」
行きずりの男「なんだよー連れねえ奴らだなーそこのアンタはどうだいー?」
ナギット「えっ?あっ、おっ、僕ですか?」
行きずりの男「ちょっとで済むからさあーほらほらほらほらー」
ナギット「ああっ!?ちょ、ちょっと!?ってうっわ酒くせぇ!」
キキョウ「ナギットさーん!断るの苦手だからって知らない人についてっちゃダメってご主人様にも言われてるじゃないッスかー!?」
ナギット「好きで行ってるんじゃねぇーーーー!!!」
アオニ「…………行こうか」
クロ「行き先で酒に溺れた熟女との出会いを夢見ます」
ナギット含め一行が連れて来られた先は黄金の麦酒場だった。
ムッコラン「はい!ビアルたくさん!」
行きずりの男「へへへ~!ありがとな~!ねえちゃん~!げへへへへ~!」
ムッコラン「あの人さっきもここで飲んでたのよ。街では有名なんだから、しつこく絡んでくるって」
キキョウ「しつこい人とナギットさんの相性は最悪だから無理もなかったッスね」
ナギット「黙れ」
ムッコラン「じゃ、気を付けてね」
一行に小さく耳打ちをしたムッコランはすぐに戻って行った。
行きずりの男「俺も冒険者なんだ。ここはひとつ乾杯といこうぜえ〜」
アオニ「奢ってくれるならいくらでも飲むよ」
クロ「ささ、遠慮なさらず」
アオニ「途端にウォッカを持ってくるんじゃない」
キキョウ「もぐもぐ……酔わせてどうするつもりなんだか……もぐもぐ」
ナギット「もう食ってやがる……」
クロ「やましいコトなんてしませんし考えてもいません!それに、フカ子はザル中のザルなんですからいくら飲ませようがシラフのようなドライさをキープするんですからね!それで期待なんてするだけ無駄でしょう!」
ナギット「力説してんじゃねぇ」
アオニ「…………」
行きずりの男「ところでよお……言っておくことがある」
キキョウ「もぐもぐ……何だ……もぐもぐ」
行きずりの男「実は俺は……金がない」
アオニ「」
クロ「」
ナギット「」
キキョウ「」
行きずりの男「全く。一銭もだ」
4人『…………』
行きずりの男「だからここの飲み代も払えない。なので悪いが奢ってくれねえかな?げへへへへ〜ついでに金も沢山貸してくれるとありがたいんだが、どうかな〜?」
完全なたかりである。
アオニ「このナレーション文章は一切いじってないからね」
ナギット「誰に言ってるんですか誰に!ちょっと有名になったギルドから金をむしり取ろうって懇談じゃないですか!」
キキョウ「ナギットさんがちゃんと断れないからッスよ」
ナギット「俺のせいかよ!」
キキョウ「うん」
行きずりの男「なあ一生のお願いだあ〜よろしく頼むよ〜げへへへへ〜」
キキョウ「で、どうすんの?まさかの選択肢出てるけど」
アオニ「断る一択。カーソルの初期位置もいいえだからお天道様も断れって言ってるんだと思う」
ナギット「見るからに粘着質な性格っぽいですけど、後で難癖付けられたりしません?」
アオニ「だからってギルドの大切なお金をホイそれと渡せますか。それにちゃっちゃと決着付けて冒険者ギルドに行かないと……クロなんて途中で飽きて向こうの女冒険者一行をナンパしに行っちゃったんだから」
キキョウ「どーりで途中から台詞がなかったと」
ナギット「あの人らしいけど絡まれてるこっちの身にもなってほしい」
アオニ「というワケだからお金は渡せません」
行きずりの男「む?なんだ……?」
アオニ「だからお金はあーげーまーせーんー!1エンもね!」
行きずりの男「なんじゃそりゃ!てめえ!俺は先輩冒険者様だぞ!コラッ!先輩が困ってるっていうのにテメエは礼儀も……」
キキョウ「…………」
その時!店の奥から瓶が飛んできて男の前で派手に割れた!
アオニ「わっ!」
行きずりの男「ひっ!ひえええ〜〜〜!!」
ナギット「なんだ?!」
「新入り相手にたかって何が冒険者だ!」
クロ「おおお!金髪碧眼にセクシーな体型!気迫から感じる姉御肌に巨人を彷彿させる長身!なんとお美しいことか!!まさに美の女神の化身!!」
ナギット「あ、帰ってきた」
アオニ「クロだからね」
行きずりの男「お……お前は……!アントニカ〜〜〜〜〜!!」
アオニ「あんとにか?」
アントニカ「ロマンもプライドも失くした冒険者は生きる価値もないっ!今すぐ地獄に堕ちなっ!!」
行きずりの男「ヒッ……ヒエ〜〜〜!!」
男は逃げ出した!
アオニ「あ、ありがとう……ございます」
アントニカ「気をつけな。ここには色んな奴がいる」
クロ「助けてくれたお礼に向こうのオシャレなレストランで食事でm」
アオニは無言でクロの脛を蹴った!弁慶の泣き所だ!
クロ「―――――――――!!!」
ナギット「どうして懲りないんですかアナタは」
アントニカ「む?女好きの印術師に深緑色の髪の女……アンタ達かパレッテというのは」
アオニ「もう噂が流れてるの!?」
ナギット「約1名ろくでもない噂が流れてる可能性が高いですが」
アントニカ「ふむ……いい目をしているな。一山当てそうな目だ」
アオニ「そりゃ当然!なんたってアタシ達は……!」
アントニカ「みんな!行くぞ!」
男達『へい!!!』
アオニ「うわっ!ビックリした!なにこれ海賊団!?」
クロ「ああっ!もう帰られるのですかアントニカさん!せめて5分だけでもお話を!!」
ナギット「アナタはもう黙った方がいいですよ」
アントニカとその子分達が立ち去ろうとした時、店の奥からムッコランが現れた。
ムッコラン「ちょっと!アントニカ!待ってよ!瓶投げて勝手に散らかしておいてこのまま出て行く気!?」
アントニカ「あ……ああ、そうだな……ムッコランすまない。みんな!掃除だ!」
男達『へい!!!』
アオニ「あ、ちゃんと掃除してる」
クロ「しっかり訓練された方々ですね。いやはや羨ましい」
アオニ「勝手に行くのはいいけど一生迎えに来ないからね」
クロ「行きませんよー私がフカ子を置いてどこかに行くワケがないじゃないですか」
ナギット「さっき思いっきりナンパしに行ってただろ」
ムッコラン「パレッテさん大丈夫だった?」
ナギット「はい、大丈夫です」
ムッコラン「よかったー。全く、最後は必ずこうなるんだからいつも掃除して帰ってもらってるんだけど」
アオニ「日常茶番時だったんだねあの一連のやりとり……それにしても、すごい人気だしすごい背が高いけどあの人って誰なの?」
ムッコラン「彼女はアントニカ。あんな感じだけど彼女のギルドは凄腕の持ち主達で……世界樹の到達は彼女達が一番近いとまで言われているほどなの」
アオニ「なんと!」
クロ「いやはや、あの美しい方がフカ子のライヴァルだったということですか。私的には非常にオイシイ展開です」
ムッコラン「血の気が多いのが欠点だけどね」
ナギット「そんなすごい人達のギルドメンバーがリーダーの尻拭いてせっせと掃除をしている……シュールな……」
キキョウ「……」
ナギット「おい、キキョウ。もう警戒しなくてもいいから刀から手ぇ離しとけ」
キキョウ「そうッスか!よかったッスーアントニカが乱入してこなかったら酒臭オヤジの手首ぐらい切り落としてたところだったッスよ!」
ナギット「…………親父はお前に何を言ったんだ」
キキョウ「フツーのことッスよ!」
冒険者ギルドにて
トラオレ「おっ!来たな!待ってたんだ!エタラガムラを倒すなんてすげーじゃねえか!」
アオニ「まあねー!」
クロ「エタラガムラより毒の方が怖かったって言うの何度目でしたっけ?」
トラオレ「毒……?まあいい、危険な仕事だったがよく達成したな!報酬だ!受け取ってくれ!」
1200エン、メッキの巻物、世界樹の葉を受け取った!
アオニ「やっぱりお金はあと1桁ある方がバランス的にいいと思うの。これじゃあ初期の砦のすら建てられないもん」
ナギット「それは言わないであげてください」
トラオレ「パレッテ達のこと、街でもだいぶ話題になってるんだぜ?もちろん俺も期待している!これからも頑張ってくれよな!」
アオニ「メインの迷宮終わったらクエストする流れが固定なのかな」
キキョウ「そうぽんぽんと事件が起こるのもめんどくさいからいいじゃーん」
アオニ「悪いとは言ってないもん」
クロ「フカ子、さっき酒場を出るついでにいくつかクエストを引き受けて来たのですが、龍風峠のすぐ近くに小迷宮があるそうでして、そこの踏破と監視砦の建設の仕事がありました」
アオニ「なかなか気が利くじゃーん」
ナギット「砦って一種類じゃないんですね」
アオニ「色々あるんだよねこれがー説明はめんどいから省略するけど」
クロ「今回はクエストをクリアして各施設のレベルを上げていけば色々な恩恵が受けられます。砦は冒険者ギルドの施設レベルを上げることで種類が殖えていきますよ、ついでにバーストスキルも貰えます」
ナギット「そういえばさっき酒場で巻物のような物を貰ってましたね。あれがバーストスキルですか」
キキョウ「ぶっちゃけ、使ってる所あんまり見たコトないッス」
アオニ「にしても、ここにはいないのかなーDOEそれっぽい噂すら聞かないんだけど」
クロ「アスラーガ特有の現象だったのかもしれませんね、てっきりここにもいるのかと思っていたのですが」
一行はクエストをこなすため小迷宮、キリュウ山道へ
軍隊バチの毒針!アオニは毒になった!
軍隊バチの毒針!クロは毒になった!
軍隊バチの毒針!ナギットは毒になった!
ナギットは毒の矢の罠を踏んだ!キキョウは毒になった!
4人『うぜぇぇぇぇぇぇぇええええ!!』
ナギット「ディバイドよりリフレッシュを使った回数の方が圧倒的に多いわ!」
アオニ「チクショー!ガンナーがいないからって画面外から的確な射撃してきてもー!」
クロ「赤獅子より軍隊バチの方がトラウマになりそうな予感がしてきました」
キキョウ「やっぱ世界樹の毒ってえげつないな!」
毒に悩まされながらもしっかり踏破。最終フロアで鍵を忘れた話はしないでおこう。
街に帰還後、温泉にゆっくり浸かり、疲れを癒した一行はすぐに休んだ。
そして翌日。
アオニ「…………」
クロ「おはようございますフカ子。どうかされましたか?神妙な顔をして」
アオニ「いやーなんか変な夢見てさ……ハッキリとは覚えてないんだけど助けてって言われたような」
クロ「たすけて?」
キキョウ「ああ~何度かたすけてって言われた瞬間に画面が赤文字に埋め尽くされるやつか!」
アオニ「どこのホラゲーだ」
夢は夢なので置いておくとして、仕事をもらいに一行は冒険者ギルドへ。
そこにはイルコフがいた。
イルコフ「フンッお前達か。大分有名になったようだがワシは認めんぞ」
キキョウ「一人の偉い人に認めて貰うよりその他大勢100人に認めてもらう方が気分いいから別に認めなくてもいいぞ」
ナギット「煽るな」
アオニ「なんで敵対心剥き出してるの」
クロ「そうですよキキョウ、イコルフさんに敵意を向けたところでいいことなんてありません。もっと平和的にいきましょうよ」
イルコフ「そういうお前も人の名前間違えてるぞ!! 」
クロ「いやはや、仕事に関係のない野郎の名前を覚えるのって疲れるんですよねー」
キキョウ「俺ら同じギルドだから覚えられたのか」
ナギット「複雑」
アオニ「まあクロだし仕方がないよ、クロだし」
クロ「エヘ」
イルコフ「全く……それよりトラオレ!聞いてくれ!やっと新しい銃が手に入ったのだ!」
トラオレ「じゃあいよいよ第5迷宮へ?」
イルコフ「ああ、ちょうど今はエミルのヤツもいないしここで差をつけてやるわ!いざっ!!」
イルコフは出ていった。
アオニ「そういやすっかり忘れてたけどエミルってどれくらいの実力だったんだろう」
クロ「暴君っ気はありそうでしたけど」
トラオレ「イルコフさん、気合い入ってるな。あんまり焦らずアタックしてくれればいいんだけどさ」
キキョウ「第5迷宮って難しいのか?」
トラオレ「ああ。第5迷宮に挑戦したギルドはこれまで2つしかないんだ」
アオニ「もしかしてアントニカとイルコフ?」
トラオレ「そう……って、アントニカとはもう会ったのか?」
クロ「お美しい方でした……」うっとり
トラオレ「そっか。じゃあ知ってるとは思うがアントニカのギルドはここではトップ、第5迷宮を越え、現在第6迷宮に挑んでる唯一のギルドだ。で、ナンバーツーがイルコフさんなワケだがなかなか第5迷宮が突破できない。その上にきてナンバーツーの座も怪しくなってきてな、エミル達が第4迷宮を踏破したからだ」
アオニ「あの暴君一行けっこうやるんだね」
ナギット「ネッドさんは何度死にかけたのやら……」
キキョウ「ははーん!だからイルコフはずーっとピリピリしてたってわけか!」
トラオレ「ああ。エミル達はその内第5迷宮もクリアするんじゃないかってささやかれていから焦ってるんだよ、イルコフさん。エミルのことをよく思ってないし余計に負けたくないんだろうな……周りに当たり散らしてるから心配なんだよ。この前も女の子と口論になってたらしいし」
アオニ「ナディカじゃん」
クロ「ナディカですね」
ナギット「ナディカか」
キキョウ「他にいるとしたら問題」
トラオレ「……?まあとにかく、お前達も次は第4迷宮だな、厳しいぞ」
アオニ「わかってるよ!でも、毒を乗り越えたアタシ達に不可能はない!」
トラオレ「まあすぐにってわけにもいかないからじっくり実力をつけとけよ。あと今日もギルドの仕事ないから」
アオニ「えっ」
クロ「またクエストですねー」
キキョウ「そだな」
ナギット「(そういえば、最近ナディカの姿を見てないな……)」
ダンジョンから戻るとアントニカ達がいた。
アントニカ「パレッテか、奇遇だな」
クロ「こんにちは美しい方!貴女達も冒険の帰りだったんですね?いやはやなんという偶然!この偶然に乾杯し」
アオニ「……」
クロ「痛い痛い痛い腰をつねらないでくださ痛い痛い痛い」
アントニカ「相変わらずだな。こっちはこれから帰って祝杯だ。お宝が大量に取れたもんでな」
キキョウ「おたから!いいなーいいなーおたからッスよナギットさん!夢があるッスね!」
ナギット「お前ロマン主義者だったか?」
キキョウ「あい」
アントニカ「そうだ!パレッテ達もこい!一緒に飲むぞ!」
アオニ&クロ『喜んで!!』
ナギット「いいのかよ!」
アオニ「冒険者としてのライバルとはいえ気前よく誘われたなら乗らない手はないからね!お酒好きだし!」
クロ「私の理由については以下略」
アントニカ達と共に黄金の麦酒場へ。
トラオレ「なんで俺も呼ばれたんだか」
アントニカ「どうせ飲むならたくさんいた方が盛り上がるだろ?」
クロ「冒険者ギルドから無理矢理トラオレさんを引っ張ってくる様はたくましいものでしたよ。いやはや美しさだけでなく男性的なたくましさもお持ちであるとは……」
アオニ「こいつは永遠に無視しときゃいいんで初めてちゃって」
アントニカ「よっしゃ!せーの!かんぱーーーーーーい!!」
『かんぱーーーーーい!!』
アオニ「ぷはーーーー!やっぱりお酒は美味しいなぁ!」
クロ「美女と共に飲める幸せに感謝です」
ナギット「なんでまたこんなことになって……」
キキョウ「ナギットさんお酒飲めないからって拗ねちゃダメッスよ」
ナギット「拗ねてねーし」
アントニカ「ぷは〜〜〜〜〜!うまいっ!生きてるよ私っ!私、生きてるんだよ〜〜〜〜!!」
アオニ「こうやって酒場でお酒を飲んでいると今日も無事に帰って来てよかったなーって思うよねわかるわかる」
クロ「毒とかで死んだら2度と飲めませんものね」
ナギット「まだ毒ネタ引っ張るんですか」
キキョウ「アントニカの仲間達もいい飲みっぷりだな!」
「まあな!」
「今日は大漁だったし余計にうまいぜ!」
アオニ「たいりょーかー。アタシも一度言ってみたいなぁ」
キキョウ「にしても、アントニカたちって一見海賊みたいな感じだけどなんで?コスプレ?」
「違う違う!俺たちゃ元々ホントに海賊してたんだぜ?」
ナギット「え」
「でも、世界樹にロマンを求めてさ、一時的に海賊をやめてこっちに来てるんだよ」
キキョウ「おお〜ロマン!ロマンか〜いいな〜!なんかカッコいい!」
アオニ「冒険にロマンを求める冒険者心……カッコいいよねぇ……」キラキラ
クロ「あああ、フカ子が久しぶりの憧れの乙女モードに……」
ナギット「なんですかそれは」
「なあ、世界樹の麓には一体何があると思う?」
クロ「オーベルフェ観光ガイドブック〜トノサマカエル級〜によると、一説として神の国の入口があると書かれていますが、実際はどうなんでしょうね」
ナギット「前から思ってたんですけどそれ、どんどん増えていってません?」
アントニカ「誰も知らない……誰も行ったことがない……だからロマンがあるんじゃないか。海の上ですら色んなことが解明されてきている時代だ、そんな世の中でもここにはまだ誰も知らない未知の世界が残っている……だから、私は行くんだ、世界樹の麓へ」
「ついでにお宝もな!」
アントニカ「そう!お宝もだ!」
アオニ「そこらへんちゃっかりしてるあたり海賊らしいというかなんというか」
キキョウ「結局おたから目当てなんだなぁ」
クロ「ロマンだけでなく宝も欲するなんて……美しさに似合わぬ野心……ああ、もうどんなことでも貴女を彩る宝石のように」
アオニ「(無言で背中に氷を入れる)」
クロ「ひゃあ!?」
アントニカ「ばっちり!どっさり!財宝の山を当てるんだ!かんぱーーーーーーーい!!」
アオニ&クロ『イエーーーーーーイ!!』
ナギット「(付いて行けねぇ……)」
数時間後
トラオレ「それで……ヒック……その後、第6迷宮はどうなんだ?……ヒック」
ナギット「全員出来上がってるじゃねーか!」
キキョウ「ナギットさ〜んやっぱりノリ悪いッスよ〜?そんなんだから友達できないんスよ〜?うえいっく」
ナギット「余計なお世話だ馬鹿野郎!つーかそれは俺じゃなくて樽だ樽!」
アントニカ「だあー!!聞くならあーーーー!!あそこはー!鬼門らあーーー!!ヒック!」
アオニ「やっぱりそーなんだねぇー」
ナギット「オーベルフェ1のギルドでも苦戦するのか……」
キキョウ「ナギットさん飲まないんスかー?」
アオニ「それはナギットじゃなくて焼き鳥じゃん」
トラオレ「まーそりゃそうだろうなあーなにせ、あそこは前人未到だからなぁ……ヒック…でも俺は、あそこを突破できるのはアントニカ達しかいないと……」
アントニカ「ああ!いずれ突破してやらあ!突破してみせるぞーーーー!!」
アオニ「おおー!すごい気合い!アタシ達も負けてられないね!」
アントニカ「パレッテ達だって次は第4迷宮だろ?らいじょうぶ!れっらいにらいじょうぶ!ヒック……」
ナギット「呂律の回ってない口調で言われてもなあ……」
キキョウ「アントニカが大丈夫ですよだって言ってるんれすからだいじょうッスよ〜ね〜?」
『ねー』
ナギット「お前はいつの間に海賊達と仲良くなってんだ」
トラオレ「ええ?パレッテ達にはまだちょっと早すぎやしねぇか?ヒック……」
アントニカ「いいんらよ!こうゆーのは勢い!勢いがらんじんなんら!らいじょうぶ!」
トラオレ「わかった!俺も男だ……!ヒック……!パレッテ!明日ギルドに来い!」
アオニ「なんで?」
トラオレ「ちゃんと説明す……ヒック……」
アントニカ「よっしゃー!らんぱーーーーい!!」
『らんぱーーーーーい!!』
ナギット「……明日二日酔いで寝込んで俺以外全滅とかやめてくれよ……?」
アオニ「アタシは大丈夫だけど他のメンバーが心配だねートラオレとか明日ギルドに来れるのかなー?」
ナギット「そういえば、アオニさんは結構飲んでいるはずなのに一切代わりがありませんね……やはり体質ですか?」
アオニ「さーねー」
キキョウ「んあれ?クロはー?」
アオニ「クロならお酒弱いくせに頑張って飲んで向こうで爆睡してる」
クロ「ぐーぐーぐー」
ナギット「……」
夜遅くまで飲んだ一行が宿に帰ってきたのはとても遅い時間で、帰るなりすぐに床に着いた。
そして、その日、アオニは夢を見た。
アオニ「(んあ……なんだろうこの夢……前にみたような……デジャヴかな……?)」
たすけて……
アオニ「(え?誰……?)」
たすけて……誰かたすけて……
アオニ「(だから誰?)」
たすけ…………
アオニ「(…………)」
翌朝。
クロ「おはようございますフカ子。昨日はよく眠れましたか?私はスッキリです」
アオニ「…………クロ」
クロ「どうかしましたか?」
アオニ「なーんか、へんな夢をみたような気がするんだけどさあ……」
クロ「はあ、またですか?」
アオニ「うん、でも……朝起きたら忘れちゃった」
クロ「じゃあ大したことありませんよ。忘れる程度の夢なんて思い出すだけ無駄です」
アオニ「だーよねー」
ナギット「おはようございます。アオニさん、クロさん」
アオニ「おはよーナギット!キキョウはどうしたの?」
ナギット「二日酔いで死んでます」
アオニ「期待通りだった」
とある丘の上に、小さなお墓がありました。
丘の下を景色を一望するように建てられているお墓の前にいるのは、金色の髪の男と、同じく金色の髪をした男の子。
天候はバケツをひっくり返したようなどしゃ降りでしたが、男は傘をさしてお墓の前に佇んでおり、雨合羽を着た男の子は父親のズボンをしっかり握っていました。
「せっかくの命日なのにこんな天気で参っちゃうよねーナギットくん?」
「?」
よくわかっていないのか首を傾げるだけの男の子。不思議そうに目の前の十字架の石をじっと見ています。
「ま、ナギットくんが理解するのはもうちょっと先だよね〜わかってるわかってる」
「てる」
「さあ、そろそろお家に帰ろうか。今日の晩御飯は母さんが大好きだったビーフシチューだよ」
「うん」
父親が男の子の手を引き、お墓に背を向け歩き始めます。
彼が心から愛した妻が死んでもう、3年になろうとしていました。
待望の息子が生まれた矢先、病魔に襲われ何度か危篤状態に陥り結局……自分の子を一度も抱くことも叶わず、亡くなってしまった。
息子は母親のことを何1つ知らないまま、少しずつ大きくなっていく、それと同時に、母親がいない寂しさも少しずつ感じるようになってしまうのだろうか。
不安だけが頭の中を駆け巡る、そんな毎日が……
「おとーさま」
「ん?ナギットくん?どうし」
ばしゃ
すぐ後ろから、雨の音にかき消されそうな、何かが崩れ落ちる音が響きました。
とっさに振り向いた男が見たのは、息子よりも年上そうな子供がお墓の前で倒れ込んでいる光景でした。
「…………」
前髪の隙間から見える瞳が男を睨みつけていましたが、すぐに閉じてしまい、子供はもう動かなくなってしまいました。
「……いや、ここで死んでもらったらフツーに困るんだけどなぁ」
一行が第3迷宮を踏破して戻ってきた翌日。
クロ「温泉イベントなしですか!?!? 」
アオニ「うるさい」
コヌア「おはようございます。パレッテさん。第3迷宮をクリアされたそうですね!先ほど街で聞きました!新人なのにすごいって評判ですよ!」
ナギット「もう噂になってるのか……」
キキョウ「ボス戦で苦戦しなかったって言っても疲れたからギルドに報告しないですぐ帰っちゃったのに、情報のスピードって早いッスねー」
アオニ「あれより軍隊バチの方が強いと思うけどなー」
クロ「私なんて毒を喰らったら確実に死にますよ?水鉄砲より毒の方が恐ろしいですって」
ナギット「なんですかその異常なまでの軍隊バチ推し」
キキョウ「気持ちはわかるけどな。一連のクロを見てたら特に」
アオニ「流れ作業のように死んでたね」
クロ「お恥ずかしい限りで……」
冒険者ギルドに行くために街に出ると、行き交う人々から次々に声をかけられた。
「エタラガムラを倒すなんてすごいねー」
「新人で第3迷宮を踏破した人間はいないんだよ!」
キキョウ「つまり新人で第3迷宮を踏破した俺たちは人間じゃない……?」
「お前ら人間じゃねぇ!」
キキョウ「ほら!」
ナギット「なんで罵倒されてんだよ」
クロ「コヌアさんの言ってた通り、すっかり街で話題のギルドになってますね」
アオニ「いやーアタシも鼻が高いなぁ~あのパレットも最初に第2大地への道を切り開いたギルドだって話題になってたみたいだし?もしかするともしかしてもしかしたりして?」
クロ「世界がフカ子に染まる日も近いですね!わくわくしてきました!」
キキョウ「フカ子に染まるってなんだろう」
ナギット「さぁ……」
行きずりの男「よお~パレッテってお前達のことかよお~!なんか有名じゃないかよお~げへへへへー」
アオニ「おっと新規NPCかな」
クロ「しっかり立ち絵がありますね」
キキョウ「その解説いるッスか?」
ナギット「俺に聞くな」
行きずりの男「そっちばっかで楽しむなよなあ~?それよりちょっと付き合ってくれよ~!なあ~!」
クロ「酔っぱらいの熟女のお相手なら喜んで朝まで付き合いますが野郎は死んでも嫌です」
アオニ「お酒は好きだけどお酒臭いの嫌い」
キキョウ「どっちでもいい!」
行きずりの男「なんだよー連れねえ奴らだなーそこのアンタはどうだいー?」
ナギット「えっ?あっ、おっ、僕ですか?」
行きずりの男「ちょっとで済むからさあーほらほらほらほらー」
ナギット「ああっ!?ちょ、ちょっと!?ってうっわ酒くせぇ!」
キキョウ「ナギットさーん!断るの苦手だからって知らない人についてっちゃダメってご主人様にも言われてるじゃないッスかー!?」
ナギット「好きで行ってるんじゃねぇーーーー!!!」
アオニ「…………行こうか」
クロ「行き先で酒に溺れた熟女との出会いを夢見ます」
ナギット含め一行が連れて来られた先は黄金の麦酒場だった。
ムッコラン「はい!ビアルたくさん!」
行きずりの男「へへへ~!ありがとな~!ねえちゃん~!げへへへへ~!」
ムッコラン「あの人さっきもここで飲んでたのよ。街では有名なんだから、しつこく絡んでくるって」
キキョウ「しつこい人とナギットさんの相性は最悪だから無理もなかったッスね」
ナギット「黙れ」
ムッコラン「じゃ、気を付けてね」
一行に小さく耳打ちをしたムッコランはすぐに戻って行った。
行きずりの男「俺も冒険者なんだ。ここはひとつ乾杯といこうぜえ〜」
アオニ「奢ってくれるならいくらでも飲むよ」
クロ「ささ、遠慮なさらず」
アオニ「途端にウォッカを持ってくるんじゃない」
キキョウ「もぐもぐ……酔わせてどうするつもりなんだか……もぐもぐ」
ナギット「もう食ってやがる……」
クロ「やましいコトなんてしませんし考えてもいません!それに、フカ子はザル中のザルなんですからいくら飲ませようがシラフのようなドライさをキープするんですからね!それで期待なんてするだけ無駄でしょう!」
ナギット「力説してんじゃねぇ」
アオニ「…………」
行きずりの男「ところでよお……言っておくことがある」
キキョウ「もぐもぐ……何だ……もぐもぐ」
行きずりの男「実は俺は……金がない」
アオニ「」
クロ「」
ナギット「」
キキョウ「」
行きずりの男「全く。一銭もだ」
4人『…………』
行きずりの男「だからここの飲み代も払えない。なので悪いが奢ってくれねえかな?げへへへへ〜ついでに金も沢山貸してくれるとありがたいんだが、どうかな〜?」
完全なたかりである。
アオニ「このナレーション文章は一切いじってないからね」
ナギット「誰に言ってるんですか誰に!ちょっと有名になったギルドから金をむしり取ろうって懇談じゃないですか!」
キキョウ「ナギットさんがちゃんと断れないからッスよ」
ナギット「俺のせいかよ!」
キキョウ「うん」
行きずりの男「なあ一生のお願いだあ〜よろしく頼むよ〜げへへへへ〜」
キキョウ「で、どうすんの?まさかの選択肢出てるけど」
アオニ「断る一択。カーソルの初期位置もいいえだからお天道様も断れって言ってるんだと思う」
ナギット「見るからに粘着質な性格っぽいですけど、後で難癖付けられたりしません?」
アオニ「だからってギルドの大切なお金をホイそれと渡せますか。それにちゃっちゃと決着付けて冒険者ギルドに行かないと……クロなんて途中で飽きて向こうの女冒険者一行をナンパしに行っちゃったんだから」
キキョウ「どーりで途中から台詞がなかったと」
ナギット「あの人らしいけど絡まれてるこっちの身にもなってほしい」
アオニ「というワケだからお金は渡せません」
行きずりの男「む?なんだ……?」
アオニ「だからお金はあーげーまーせーんー!1エンもね!」
行きずりの男「なんじゃそりゃ!てめえ!俺は先輩冒険者様だぞ!コラッ!先輩が困ってるっていうのにテメエは礼儀も……」
キキョウ「…………」
その時!店の奥から瓶が飛んできて男の前で派手に割れた!
アオニ「わっ!」
行きずりの男「ひっ!ひえええ〜〜〜!!」
ナギット「なんだ?!」
「新入り相手にたかって何が冒険者だ!」
クロ「おおお!金髪碧眼にセクシーな体型!気迫から感じる姉御肌に巨人を彷彿させる長身!なんとお美しいことか!!まさに美の女神の化身!!」
ナギット「あ、帰ってきた」
アオニ「クロだからね」
行きずりの男「お……お前は……!アントニカ〜〜〜〜〜!!」
アオニ「あんとにか?」
アントニカ「ロマンもプライドも失くした冒険者は生きる価値もないっ!今すぐ地獄に堕ちなっ!!」
行きずりの男「ヒッ……ヒエ〜〜〜!!」
男は逃げ出した!
アオニ「あ、ありがとう……ございます」
アントニカ「気をつけな。ここには色んな奴がいる」
クロ「助けてくれたお礼に向こうのオシャレなレストランで食事でm」
アオニは無言でクロの脛を蹴った!弁慶の泣き所だ!
クロ「―――――――――!!!」
ナギット「どうして懲りないんですかアナタは」
アントニカ「む?女好きの印術師に深緑色の髪の女……アンタ達かパレッテというのは」
アオニ「もう噂が流れてるの!?」
ナギット「約1名ろくでもない噂が流れてる可能性が高いですが」
アントニカ「ふむ……いい目をしているな。一山当てそうな目だ」
アオニ「そりゃ当然!なんたってアタシ達は……!」
アントニカ「みんな!行くぞ!」
男達『へい!!!』
アオニ「うわっ!ビックリした!なにこれ海賊団!?」
クロ「ああっ!もう帰られるのですかアントニカさん!せめて5分だけでもお話を!!」
ナギット「アナタはもう黙った方がいいですよ」
アントニカとその子分達が立ち去ろうとした時、店の奥からムッコランが現れた。
ムッコラン「ちょっと!アントニカ!待ってよ!瓶投げて勝手に散らかしておいてこのまま出て行く気!?」
アントニカ「あ……ああ、そうだな……ムッコランすまない。みんな!掃除だ!」
男達『へい!!!』
アオニ「あ、ちゃんと掃除してる」
クロ「しっかり訓練された方々ですね。いやはや羨ましい」
アオニ「勝手に行くのはいいけど一生迎えに来ないからね」
クロ「行きませんよー私がフカ子を置いてどこかに行くワケがないじゃないですか」
ナギット「さっき思いっきりナンパしに行ってただろ」
ムッコラン「パレッテさん大丈夫だった?」
ナギット「はい、大丈夫です」
ムッコラン「よかったー。全く、最後は必ずこうなるんだからいつも掃除して帰ってもらってるんだけど」
アオニ「日常茶番時だったんだねあの一連のやりとり……それにしても、すごい人気だしすごい背が高いけどあの人って誰なの?」
ムッコラン「彼女はアントニカ。あんな感じだけど彼女のギルドは凄腕の持ち主達で……世界樹の到達は彼女達が一番近いとまで言われているほどなの」
アオニ「なんと!」
クロ「いやはや、あの美しい方がフカ子のライヴァルだったということですか。私的には非常にオイシイ展開です」
ムッコラン「血の気が多いのが欠点だけどね」
ナギット「そんなすごい人達のギルドメンバーがリーダーの尻拭いてせっせと掃除をしている……シュールな……」
キキョウ「……」
ナギット「おい、キキョウ。もう警戒しなくてもいいから刀から手ぇ離しとけ」
キキョウ「そうッスか!よかったッスーアントニカが乱入してこなかったら酒臭オヤジの手首ぐらい切り落としてたところだったッスよ!」
ナギット「…………親父はお前に何を言ったんだ」
キキョウ「フツーのことッスよ!」
冒険者ギルドにて
トラオレ「おっ!来たな!待ってたんだ!エタラガムラを倒すなんてすげーじゃねえか!」
アオニ「まあねー!」
クロ「エタラガムラより毒の方が怖かったって言うの何度目でしたっけ?」
トラオレ「毒……?まあいい、危険な仕事だったがよく達成したな!報酬だ!受け取ってくれ!」
1200エン、メッキの巻物、世界樹の葉を受け取った!
アオニ「やっぱりお金はあと1桁ある方がバランス的にいいと思うの。これじゃあ初期の砦のすら建てられないもん」
ナギット「それは言わないであげてください」
トラオレ「パレッテ達のこと、街でもだいぶ話題になってるんだぜ?もちろん俺も期待している!これからも頑張ってくれよな!」
アオニ「メインの迷宮終わったらクエストする流れが固定なのかな」
キキョウ「そうぽんぽんと事件が起こるのもめんどくさいからいいじゃーん」
アオニ「悪いとは言ってないもん」
クロ「フカ子、さっき酒場を出るついでにいくつかクエストを引き受けて来たのですが、龍風峠のすぐ近くに小迷宮があるそうでして、そこの踏破と監視砦の建設の仕事がありました」
アオニ「なかなか気が利くじゃーん」
ナギット「砦って一種類じゃないんですね」
アオニ「色々あるんだよねこれがー説明はめんどいから省略するけど」
クロ「今回はクエストをクリアして各施設のレベルを上げていけば色々な恩恵が受けられます。砦は冒険者ギルドの施設レベルを上げることで種類が殖えていきますよ、ついでにバーストスキルも貰えます」
ナギット「そういえばさっき酒場で巻物のような物を貰ってましたね。あれがバーストスキルですか」
キキョウ「ぶっちゃけ、使ってる所あんまり見たコトないッス」
アオニ「にしても、ここにはいないのかなーDOEそれっぽい噂すら聞かないんだけど」
クロ「アスラーガ特有の現象だったのかもしれませんね、てっきりここにもいるのかと思っていたのですが」
一行はクエストをこなすため小迷宮、キリュウ山道へ
軍隊バチの毒針!アオニは毒になった!
軍隊バチの毒針!クロは毒になった!
軍隊バチの毒針!ナギットは毒になった!
ナギットは毒の矢の罠を踏んだ!キキョウは毒になった!
4人『うぜぇぇぇぇぇぇぇええええ!!』
ナギット「ディバイドよりリフレッシュを使った回数の方が圧倒的に多いわ!」
アオニ「チクショー!ガンナーがいないからって画面外から的確な射撃してきてもー!」
クロ「赤獅子より軍隊バチの方がトラウマになりそうな予感がしてきました」
キキョウ「やっぱ世界樹の毒ってえげつないな!」
毒に悩まされながらもしっかり踏破。最終フロアで鍵を忘れた話はしないでおこう。
街に帰還後、温泉にゆっくり浸かり、疲れを癒した一行はすぐに休んだ。
そして翌日。
アオニ「…………」
クロ「おはようございますフカ子。どうかされましたか?神妙な顔をして」
アオニ「いやーなんか変な夢見てさ……ハッキリとは覚えてないんだけど助けてって言われたような」
クロ「たすけて?」
キキョウ「ああ~何度かたすけてって言われた瞬間に画面が赤文字に埋め尽くされるやつか!」
アオニ「どこのホラゲーだ」
夢は夢なので置いておくとして、仕事をもらいに一行は冒険者ギルドへ。
そこにはイルコフがいた。
イルコフ「フンッお前達か。大分有名になったようだがワシは認めんぞ」
キキョウ「一人の偉い人に認めて貰うよりその他大勢100人に認めてもらう方が気分いいから別に認めなくてもいいぞ」
ナギット「煽るな」
アオニ「なんで敵対心剥き出してるの」
クロ「そうですよキキョウ、イコルフさんに敵意を向けたところでいいことなんてありません。もっと平和的にいきましょうよ」
イルコフ「そういうお前も人の名前間違えてるぞ!! 」
クロ「いやはや、仕事に関係のない野郎の名前を覚えるのって疲れるんですよねー」
キキョウ「俺ら同じギルドだから覚えられたのか」
ナギット「複雑」
アオニ「まあクロだし仕方がないよ、クロだし」
クロ「エヘ」
イルコフ「全く……それよりトラオレ!聞いてくれ!やっと新しい銃が手に入ったのだ!」
トラオレ「じゃあいよいよ第5迷宮へ?」
イルコフ「ああ、ちょうど今はエミルのヤツもいないしここで差をつけてやるわ!いざっ!!」
イルコフは出ていった。
アオニ「そういやすっかり忘れてたけどエミルってどれくらいの実力だったんだろう」
クロ「暴君っ気はありそうでしたけど」
トラオレ「イルコフさん、気合い入ってるな。あんまり焦らずアタックしてくれればいいんだけどさ」
キキョウ「第5迷宮って難しいのか?」
トラオレ「ああ。第5迷宮に挑戦したギルドはこれまで2つしかないんだ」
アオニ「もしかしてアントニカとイルコフ?」
トラオレ「そう……って、アントニカとはもう会ったのか?」
クロ「お美しい方でした……」うっとり
トラオレ「そっか。じゃあ知ってるとは思うがアントニカのギルドはここではトップ、第5迷宮を越え、現在第6迷宮に挑んでる唯一のギルドだ。で、ナンバーツーがイルコフさんなワケだがなかなか第5迷宮が突破できない。その上にきてナンバーツーの座も怪しくなってきてな、エミル達が第4迷宮を踏破したからだ」
アオニ「あの暴君一行けっこうやるんだね」
ナギット「ネッドさんは何度死にかけたのやら……」
キキョウ「ははーん!だからイルコフはずーっとピリピリしてたってわけか!」
トラオレ「ああ。エミル達はその内第5迷宮もクリアするんじゃないかってささやかれていから焦ってるんだよ、イルコフさん。エミルのことをよく思ってないし余計に負けたくないんだろうな……周りに当たり散らしてるから心配なんだよ。この前も女の子と口論になってたらしいし」
アオニ「ナディカじゃん」
クロ「ナディカですね」
ナギット「ナディカか」
キキョウ「他にいるとしたら問題」
トラオレ「……?まあとにかく、お前達も次は第4迷宮だな、厳しいぞ」
アオニ「わかってるよ!でも、毒を乗り越えたアタシ達に不可能はない!」
トラオレ「まあすぐにってわけにもいかないからじっくり実力をつけとけよ。あと今日もギルドの仕事ないから」
アオニ「えっ」
クロ「またクエストですねー」
キキョウ「そだな」
ナギット「(そういえば、最近ナディカの姿を見てないな……)」
ダンジョンから戻るとアントニカ達がいた。
アントニカ「パレッテか、奇遇だな」
クロ「こんにちは美しい方!貴女達も冒険の帰りだったんですね?いやはやなんという偶然!この偶然に乾杯し」
アオニ「……」
クロ「痛い痛い痛い腰をつねらないでくださ痛い痛い痛い」
アントニカ「相変わらずだな。こっちはこれから帰って祝杯だ。お宝が大量に取れたもんでな」
キキョウ「おたから!いいなーいいなーおたからッスよナギットさん!夢があるッスね!」
ナギット「お前ロマン主義者だったか?」
キキョウ「あい」
アントニカ「そうだ!パレッテ達もこい!一緒に飲むぞ!」
アオニ&クロ『喜んで!!』
ナギット「いいのかよ!」
アオニ「冒険者としてのライバルとはいえ気前よく誘われたなら乗らない手はないからね!お酒好きだし!」
クロ「私の理由については以下略」
アントニカ達と共に黄金の麦酒場へ。
トラオレ「なんで俺も呼ばれたんだか」
アントニカ「どうせ飲むならたくさんいた方が盛り上がるだろ?」
クロ「冒険者ギルドから無理矢理トラオレさんを引っ張ってくる様はたくましいものでしたよ。いやはや美しさだけでなく男性的なたくましさもお持ちであるとは……」
アオニ「こいつは永遠に無視しときゃいいんで初めてちゃって」
アントニカ「よっしゃ!せーの!かんぱーーーーーーい!!」
『かんぱーーーーーい!!』
アオニ「ぷはーーーー!やっぱりお酒は美味しいなぁ!」
クロ「美女と共に飲める幸せに感謝です」
ナギット「なんでまたこんなことになって……」
キキョウ「ナギットさんお酒飲めないからって拗ねちゃダメッスよ」
ナギット「拗ねてねーし」
アントニカ「ぷは〜〜〜〜〜!うまいっ!生きてるよ私っ!私、生きてるんだよ〜〜〜〜!!」
アオニ「こうやって酒場でお酒を飲んでいると今日も無事に帰って来てよかったなーって思うよねわかるわかる」
クロ「毒とかで死んだら2度と飲めませんものね」
ナギット「まだ毒ネタ引っ張るんですか」
キキョウ「アントニカの仲間達もいい飲みっぷりだな!」
「まあな!」
「今日は大漁だったし余計にうまいぜ!」
アオニ「たいりょーかー。アタシも一度言ってみたいなぁ」
キキョウ「にしても、アントニカたちって一見海賊みたいな感じだけどなんで?コスプレ?」
「違う違う!俺たちゃ元々ホントに海賊してたんだぜ?」
ナギット「え」
「でも、世界樹にロマンを求めてさ、一時的に海賊をやめてこっちに来てるんだよ」
キキョウ「おお〜ロマン!ロマンか〜いいな〜!なんかカッコいい!」
アオニ「冒険にロマンを求める冒険者心……カッコいいよねぇ……」キラキラ
クロ「あああ、フカ子が久しぶりの憧れの乙女モードに……」
ナギット「なんですかそれは」
「なあ、世界樹の麓には一体何があると思う?」
クロ「オーベルフェ観光ガイドブック〜トノサマカエル級〜によると、一説として神の国の入口があると書かれていますが、実際はどうなんでしょうね」
ナギット「前から思ってたんですけどそれ、どんどん増えていってません?」
アントニカ「誰も知らない……誰も行ったことがない……だからロマンがあるんじゃないか。海の上ですら色んなことが解明されてきている時代だ、そんな世の中でもここにはまだ誰も知らない未知の世界が残っている……だから、私は行くんだ、世界樹の麓へ」
「ついでにお宝もな!」
アントニカ「そう!お宝もだ!」
アオニ「そこらへんちゃっかりしてるあたり海賊らしいというかなんというか」
キキョウ「結局おたから目当てなんだなぁ」
クロ「ロマンだけでなく宝も欲するなんて……美しさに似合わぬ野心……ああ、もうどんなことでも貴女を彩る宝石のように」
アオニ「(無言で背中に氷を入れる)」
クロ「ひゃあ!?」
アントニカ「ばっちり!どっさり!財宝の山を当てるんだ!かんぱーーーーーーーい!!」
アオニ&クロ『イエーーーーーーイ!!』
ナギット「(付いて行けねぇ……)」
数時間後
トラオレ「それで……ヒック……その後、第6迷宮はどうなんだ?……ヒック」
ナギット「全員出来上がってるじゃねーか!」
キキョウ「ナギットさ〜んやっぱりノリ悪いッスよ〜?そんなんだから友達できないんスよ〜?うえいっく」
ナギット「余計なお世話だ馬鹿野郎!つーかそれは俺じゃなくて樽だ樽!」
アントニカ「だあー!!聞くならあーーーー!!あそこはー!鬼門らあーーー!!ヒック!」
アオニ「やっぱりそーなんだねぇー」
ナギット「オーベルフェ1のギルドでも苦戦するのか……」
キキョウ「ナギットさん飲まないんスかー?」
アオニ「それはナギットじゃなくて焼き鳥じゃん」
トラオレ「まーそりゃそうだろうなあーなにせ、あそこは前人未到だからなぁ……ヒック…でも俺は、あそこを突破できるのはアントニカ達しかいないと……」
アントニカ「ああ!いずれ突破してやらあ!突破してみせるぞーーーー!!」
アオニ「おおー!すごい気合い!アタシ達も負けてられないね!」
アントニカ「パレッテ達だって次は第4迷宮だろ?らいじょうぶ!れっらいにらいじょうぶ!ヒック……」
ナギット「呂律の回ってない口調で言われてもなあ……」
キキョウ「アントニカが大丈夫ですよだって言ってるんれすからだいじょうッスよ〜ね〜?」
『ねー』
ナギット「お前はいつの間に海賊達と仲良くなってんだ」
トラオレ「ええ?パレッテ達にはまだちょっと早すぎやしねぇか?ヒック……」
アントニカ「いいんらよ!こうゆーのは勢い!勢いがらんじんなんら!らいじょうぶ!」
トラオレ「わかった!俺も男だ……!ヒック……!パレッテ!明日ギルドに来い!」
アオニ「なんで?」
トラオレ「ちゃんと説明す……ヒック……」
アントニカ「よっしゃー!らんぱーーーーい!!」
『らんぱーーーーーい!!』
ナギット「……明日二日酔いで寝込んで俺以外全滅とかやめてくれよ……?」
アオニ「アタシは大丈夫だけど他のメンバーが心配だねートラオレとか明日ギルドに来れるのかなー?」
ナギット「そういえば、アオニさんは結構飲んでいるはずなのに一切代わりがありませんね……やはり体質ですか?」
アオニ「さーねー」
キキョウ「んあれ?クロはー?」
アオニ「クロならお酒弱いくせに頑張って飲んで向こうで爆睡してる」
クロ「ぐーぐーぐー」
ナギット「……」
夜遅くまで飲んだ一行が宿に帰ってきたのはとても遅い時間で、帰るなりすぐに床に着いた。
そして、その日、アオニは夢を見た。
アオニ「(んあ……なんだろうこの夢……前にみたような……デジャヴかな……?)」
たすけて……
アオニ「(え?誰……?)」
たすけて……誰かたすけて……
アオニ「(だから誰?)」
たすけ…………
アオニ「(…………)」
翌朝。
クロ「おはようございますフカ子。昨日はよく眠れましたか?私はスッキリです」
アオニ「…………クロ」
クロ「どうかしましたか?」
アオニ「なーんか、へんな夢をみたような気がするんだけどさあ……」
クロ「はあ、またですか?」
アオニ「うん、でも……朝起きたら忘れちゃった」
クロ「じゃあ大したことありませんよ。忘れる程度の夢なんて思い出すだけ無駄です」
アオニ「だーよねー」
ナギット「おはようございます。アオニさん、クロさん」
アオニ「おはよーナギット!キキョウはどうしたの?」
ナギット「二日酔いで死んでます」
アオニ「期待通りだった」