冒険者珍道中
湖畔の都オーベルフェ。今ここは大いなる賑わいをみせていた。
理由はふたつある。
ひとつは湖に映り込む世界樹の圧倒的な景観を楽しみにやってくる観光客。
そしてもうひとつが一攫千金を求める冒険者達である。
冒険者達の一番の目的は世界樹への到達。まだ誰もなし得てない未知の領域だ。
一説には神の国への入り口があるとも言われているが、本当のところはどうなのだろうか……
その真実に迫ることを夢見て……この街オーベルフェには腕利きの冒険者が集まってきていた。
もちろん君もその一人だ。
街の門をくぐれば大いなる冒険が待っている!
さあ踏み出そう!世界樹への第一歩を!
オーベルフェの青い空の下。ソードマンの少女とルーンマスターの青年がこの地に降り立っていた。
アオニ「うわあ〜!ひーろいなぁ〜!そしてとてつもなく賑やか!」
クロ「なんせ、今まさに売り出し中真っ只中の有名観光地ですからねぇ。あ、ベビーカステラ売ってますよ?買っていきます?」
アオニ「うっ……いや、買わない!アタシたちはここに観光地しに来たんじゃなくて冒険者しに来たんだよ!?忘れたとは言わせない!」
クロ「忘れませんよ、私が可愛い可愛いフカ子との約束を忘れるワケないでしょう?我々の目的は冒険者となり、オーベルフェにある世界樹へ到達すること……でしょう?」
アオニ「その通り!3年前からの悲願だった世界樹の迷宮踏破がいよいよ達成されるのも時間の問題!ワクワク」
クロ「期待に平らな胸を踊らせるフカ子も愛らしい……無理をしてでもオーベルフェ行きのチケットを取った甲斐がありました……」
アオニ「人通りが多くてアタシが手ぇ出しにくいからってさらっとセクハラ発言するんじゃない。相手がアタシならまだ良いものの、知らない人だったら告訴もんなんだからね?」
クロ「ご安心を、私が貴女に遠慮なく発言できるのはフカ子の可愛さと3年に渡り築き上げた信頼関係があってこそ。見知らぬ女性に今のような失言は決してしません」
アオニ「3年どころか出会って数時間で化けの皮剥がしてた奴が何言ってるんだか……それにしても人がめちゃめちゃ多いなぁ。アスラーガといい勝負してそう」
クロ「先ほど土産物店で購入した“オーベルフェ観光ガイド〜森ネズミ級〜”によると、あの湖畔から見える世界樹がそりゃあもう眼を見張るほど美しくて圧倒的な光景なんだそうで、その噂は国境を越えて広く知られているのでこのように連日連夜観光客がやってくるとか」
アオニ「大きな街って何かと世界樹を観光名所にしたがるなぁ」
クロ「あと“午後0時に湖畔で恋人とキスをすると末長く幸せになれる”とか“投げ込んだコインが世界樹のてっぺんに落ちると大金持ちになれる”とか“快晴の日の湖の水を飲むと長生きできる”とか色々なご利益もあるそうですよ」
アオニ「これだけあるならもうありがたみも何もないじゃん!?むしろ胡散臭さがぷんぷんする!」
クロ「え〜?湖畔でキスをすると幸せになれるってロマンチックでいいじゃないですか〜後で試しましょうよ〜」
アオニ「断る。ほら!冒険者ギルド行くよ!」
クロ「はーい……」
冒険者ギルド。
「おっ、冒険者だな。見りゃわかる。新入りだろ?」
アオニ「経験者だけどオーベルフェでは新入りといえば新入りだから新入りでいいよ!」
「へ?」
クロ「細かい話はともかく、ここが冒険者ギルドであっていますか?」
トラオレ「ああ、間違いないぜ。俺はトラオレ、ここでギルドを取り仕切っている」
アオニ「つまりはギルド長だね。早速だけどギルドを立ち上げたいんだけどー」
トラオレ「ほう?やけに慣れてるな」
アオニ「こう見えてもギルド立ち上げは3度目なもんで」
トラオレ「なら話は早い。ここにお前のギルド名を書いてくれ。詳しい説明は必要ないな」
アオニ「3度目ともなれば大丈夫だよ。世界樹の危険さも冒険の過酷さもモンスターの凶悪さも体がちゃんと覚えてるから」
クロ「体が覚えてるなんてちょっと破廉恥な香りがしますね」
アオニ「エロい単語に反応する中学生か」
ギルド名「パレッテ」を登録しました。
トラオレ「ほう、パレッテね……後にこの名が世界にとどろくことになる……かもしれないな!ハハハッ!」
アオニ「とどろくかもしれないじゃなくてとどろかせる予定だもーん!」
クロ「そうですよ!フカ子の可愛さはいずれ世界中に広まる予定なのです!」
トラオレ「自信満々なのはいいことだが過信しすぎには気をつけろよ。いつか足元を掬われるからな」
アオニ「気をつけるって」
トラオレ「次はパレッテに属する冒険者の登録をしてくれ。冒険者は……お前ら2人だけか?」
アオニ「まあね。あと2人はタルシスに置いてきちゃったし」
クロ「内1名はフカ子の逆鱗に触れて消息不明ですがね」
トラオレ「聞かなかったことにしよう。ま、2人でもいいが他に仲間が欲しいとなれば……ここには無名でもお前たちと同じ、野心を持ったヤツらがわんさかいる。中には高いポテンシャルを秘めた冒険者がお前たちの誘いを待ってるはずだ。好きに声をかけて色んな職業の冒険者を集めておきな」
クロ「念のため聞きますけど、必要最低人数は?」
トラオレ「4人だな」
アオニ「ふむう、アスラーガと同じってことか……最低でもあと2人欲しい」
クロ「私はルンマス、フカ子はソードマンですしサポート職の方を仲間にしたいところですねぇ、バランス的にパラディンとかダンサーとか……」
「なあ!お前らもしかして冒険者か!?」
突然、ケンカクの装束に身を包んだ少女(?)に声をかけられた。
アオニ「うん?そうだけど」
「やっぱり!あのさあ、俺たちも世界樹冒険したいんだけど、今の今まで誰も相手にしてくれないんだー酷い話だと思わね?」
アオニ「そりゃひどい」
クロ「いや、酷いのかはともかくそこのアナタ、俺たちとは……?」
「あーそうそう、冒険者になりたいのは俺ともうひとり、ナギ……」
「おいこらキキョウ!なりふり構わず声をかけまくって人様に迷惑かけてんじゃねーよ!誰が尻拭いすると思ってんだ!」
向こうからすごい形相の少年がやってきた。パラディンのようだ。
「ナギットさんッス」
「わかってんならやってんじゃねーよ!!」
「いやーでも女は行動力って言うし、迷ってる暇があったら自由気ままに目的に向かって全力で行動力した方が絶対いいッスよ!もしかするとどこぞかの王族と結婚できて玉の輿に乗れるかもしれないッス!」
「お前は男だろ!!」
アオニ「え」
クロ「やはり……」
「えっと……申し訳ありません、ウチのバカがご迷惑をお掛けしてしまって、後でちゃんと殴っておきますので気にしないでください」
アオニ「さらりとドメスティックなバイオレンスの話を持ち出さないの、妙な誤解が生まれようとしてるよ?」
「お詫びの印にアナタたちのご要望に沿った折檻を行いますので」
クロ「そういう特殊プレイはちょっと……女性ならまだしも男性は守備範囲外でして」
アオニ「女の子だったらいいの……?」
クロ「大丈夫ですよ、浮気はしません」
アオニ「そういう意味じゃねぇ」
「……取り込み中みたいだし、このまま黙って去るぞ」
「えー?まだ返事聞いてないのにー?勿体無くないッスか?」
「いいんだよ、最悪俺とお前だけで探索するのもアリなんだろ?だったら早く登録して……」
クロ「ちょっと待ってくださいお2方、もしかしなくてもまだフリーなのでしょう?我々のギルドに来ませんか?」
「え?」
「マジ!?」
クロ「ギルド結成したてホヤホヤで、メンバーが足りなくて困ってたところだったのですよ。丁度4人になりますし、いいでしょうフカ子?」
アオニ「そうだねー君達がいいならアタシはいいよ。ちなみにギルマスはアタシだから!」
「おお〜触りに船!入れてもらいましょうよナギットさん!」
「渡りに船な。そういう話でしたら、是非ともお願いしたいですね」
アオニ「おっけー!んじゃ決まり!今日からアタシたちは一心同体!ダンジョン内で行動を共にするギルドの仲間!おっけー?」
『おっけー!』
「え、あ、おっけー?」
「ノリ悪いッスよナギットさん。そんなんだからご主人様に人見知りだって小馬鹿にされるんス」
「余計なこと言ってんじゃねぇ」
「ギャー!こめかみが!こめかみがぐりぐりでががががががが」
クロ「楽しい人たちですね」
アオニ「人物関係がわかって来たところで軽く自己紹介しとこっか」
クロ「ですね、じゃあまず私から。私はクロ、ルーンマスターです。印術という特殊な術で炎、氷、雷の属性攻撃を繰り出します。攻撃力は高いですが防御力はゴミみたいに低いので守ってくださるとと助かります」
アオニ「上は老女、下は幼女までどんな女の子も守備範囲内のエセ紳士ね。覚えといて」
「特殊だな!」
「犯罪の臭いがしますね」
クロ「初対面からなんたる暴言」
アオニ「次はアタシ、アタシはソードマンのアオニ!攻守共に優れた万能型クラス!剣と突剣の両方を装備できるしリンク系スキルをとれば敵に属性追加攻撃もできるようになる!まさに攻撃の要!ちなみに世界樹踏破は長年の夢だからそこんとこヨロシク!」
クロ「ちなみにサイズは上から」
アオニ「これ以上喋ると首をもぐ」
クロ「はい黙ります」
キキョウ「じゃあ俺な!俺はキキョウ!ケンカク!二刀流が得意!あとナギットさんのお手伝いしてる!終わり!」
クロ「もっと他に言うことがあったのでは……というかフカ子と若干被ってません?」
キキョウ「火力は強ければ強いほどいいって言うぞ!」
アオニ「アタシはその内リンクスキル取るんだし、まーいいんじゃない?」
ナギット「申し訳ありません……アイツは見ての通りの馬鹿なもので。あ、僕はナギットです、クラスはパラディン。防御に特化していて味方が倒れないように勤めます。防御が低いクラスと組ませて損はありませんね」
キキョウ「そして俺のご主人様の子供でもあるぞ!」
アオニ「あ、そこが主従関係じゃなかったんだね」
キキョウ「俺がこうしていられるのはナギットさんのお陰だけど雇ってくれたのはご主人様だからご主人様の方が優先順位が上なんだよ」
ナギット「……お前、あんまり個人情報を漏えいさせるなよ」
「わかってるッスよ〜」
アオニ→ソードマン♀2
クロ→ルーンマスター♂2
ナギット→パラディン♂1
キキョウ→ケンカク♀3(ただし中身は♂)
かくしてギルド、パレッテのメンバーが揃ったのであった。
トラオレ「よし。登録が終わったようだな。なかなか味のあるパーティ編成だな」
キキョウ「味があるって初めて言われた!」
アオニ「ヨカッタネ」
クロ「めんどくさそうに対処しちゃダメですよフカ子、これからきっと長い付き合いになるんですから対応の仕方を覚えていかないと」
キキョウ「今さらっと面倒な奴の対処法みたいなニュアンスだったんじゃ!?」
ナギット「マサカ」
トラオレ「早速打ち解けてきてるとこで水を刺すが、お前達もこれで晴れて冒険できるようになったワケだ」
アオニ「よーやくスタート地点に立てた感じがするね。ここまで大変だった!」
クロ「大変なのはこれからですよ。むしろ何度死にそうな目に遭うか……」
ナギット「やっぱり過酷なんですね、世界樹のダンジョンは……」
トラオレ「積もる話もありそうだし、みんな長旅で疲れてるだろ?ここには多くの温泉宿がある。今日のところは宿を探して……」
クロ「温泉!?」
アオニ「予想はしてたけど興奮するんじゃn」
バタン!
「あ……兄貴!大変だ!!」
4人『ギャアアアアア!!ドッペルゲンガーだぁぁぁぁぁぁ!!』
トラオレ「ドッペルゲンガーじゃなくてこいつはヨボだ。俺の双子の弟なんだが……」
ヨボ「珍しい驚き方をする客人だな……じゃなくて!取り込み中ならすまない!緊急事態だ!」
ナギット「何かあったんですか?」
ヨボ「ガラク工房ンとこの坊主が戻ってこないんだ!」
トラオレ「末っ子のラジムか!?また素材を取りに不思議のダンジョンに!?」
アオニ「むむっ。この流れは……」
ヨボ「ああ、多分な……まったく何度も迷惑かけやがって」
トラオレ「だが困ったな。向かえそうなギルドは今ここには……」
アオニ「じーーーーーーーっ……」
キキョウ「なんという力強い眼差し……あれが経験豊富な冒険者の貫禄!」
ナギット「ぜってー違うからお前は黙ってろ」
トラオレ「……そうだ。登録して早々悪いがお前達が行ってくれないか?人手が足りないんだ、頼む」
アオニ「はいヨロコンデー!」
クロ「久しぶりの不思議のダンジョンですねぇーワクワクしますよ。またフカ子の勇姿が見られます」
トラオレ「あとアイテムも渡しておこう」
パンとアリアドネの糸を受け取った!
ナギット「……これだけ?」
アオニ「最初から糸をくれるなんて……!!」
ナギット「へっ?」
クロ「とても良心的な方々ですね!普通結成したばかりのギルドにアリアドネの糸は支給されませんよ!いい時代になったものです!」
ナギット「…………」
キキョウ「住んでた世界が根本的に違うらしいな」
ヨボの案内で不思議のダンジョンへ向かう際に使用する船着場へ。
ヨボ「そっか。君達はまだここにきて間もないんだな」
キキョウ「トラオレの2Pカラーって感じの人、ここから世界樹に行けるのか?」
ヨボ「出会って数分でもう容赦ないな。ここから直接世界樹には行けないぞ、行けるのは湖の向こう岸の山々にある不思議のダンジョンだ」
クロ「そしてその奥に世界樹と」
ヨボ「その通り、世界樹は不思議のダンジョンを超えない限り到達できないってワケだな」
キキョウ「むー?世界樹の迷宮って自分で地図を描いて冒険するって聞いてたけど、違うのか?」
クロ「はい。ここは迷宮というより不思議のダンジョンという奇想天外難攻不落な厄介な場所でしてね、行く度に地形が変わり、倒れてしまうと持ち物が無くなっていたりするのです」
キキョウ「それはもしやドロボーの仕業!?俺が成敗してやる!」
ナギット「落ち着け」
キキョウ「あう」
ヨボ「アンタら、随分詳しいな」
クロ「以前アスラーガで不思議のダンジョンに入った経験があるので」
ヨボ「経験者がいるなら心強い。ラジムが向かった先は森林の遺跡というダンジョンだ、ここから一番近いダンジョンだからそんなに危険じゃないと思うが……注意してくれよな。すまないが頼んだぜ」
一行は不思議のダンジョンを目指して船に乗り込んだ。
アオニ「アスラーガでは飛行船だったけど、ここは船なんだねー」
クロ「あ、言い忘れてましたが不思議のダンジョンはアリの巣構造になってるので気をつけてくださいね」
ナギット「アリの巣?」
アオニ「うん、あらかじめ支給されてた迷宮マップを見て貰えばわかるんだけど……」
キキョウ「ありゃ?B2Fのフロアがふたつ横並びにある?」
アオニ「こんな感じでダンジョン内はフロアがアリの巣みたいに配置されてるんだ。ちなみにここに行きたかったら一度B3Fまで降りて、別の階段から上がってこないと行けないからね」
キキョウ「や、ややこしいな……」
ナギット「この宝箱のマークは?」
クロ「ガイドブックによるとそれはお宝フロア!いいものがあるそうです!」
キキョウ「いいもの!?つまりお宝!?」
クロ「きっとそうでしょうね。ちなみにここの隅に小さく“ドクロマークのあるドクロフロアには気をつけろ”とあります。魔物の巣窟なんだそうですよ」
キキョウ「それも気になる!なるなるなるる!」
ナギット「うるせぇ」どすっ
キキョウ「ぎゃん」
クロ「お宝かドクロか分からないフロアもあるそうですが、それが出てくるのは中盤ぐらいなんでしょうねぇ〜きっと」
第1迷宮。森林の遺跡
キキョウ「ダンジョンだぁーーー!!」
アオニ「懐かしの不思議のダンジョンよーーー!!」
ナギット「前世で兄弟だったのかよお前ら」
クロ「実際久しぶりなんですよねぇ不思議のダンジョン。フカ子がはしゃぐのも当然ですよ」
ナギット「あれ、そんなに長いブランクがあるんですか?」
クロ「ええ、アスラーガを出てから1度タルシスに戻ったり色々していたので。1年と少しぶりだったりするんですよね」
ナギット「…………」
クロ「そんな不安そうな顔をしないでください。確かにブランクは長いかもしれませんが、不思議のダンジョンの過酷さや危険性は体にしっかり刻み込まれているので、ダンジョンに潜っている内に私もフカ子も感覚を取り戻していきますよ」
ナギット「まあ、それは、わかっていますが……」
クロ「それに、貴方が迷宮踏破を志す理由は知りませんがフカ子は間違いなく世界樹踏破のために全力を尽くします。目指すべき場所が同じ者同士、協力しない手はありませんからね。フカ子は他人を蹴落とすような非道な真似は決してしません、だから信じてくださいな」
ナギット「……そこまで言ってません」
クロ「顔に書いてありますよ。この人達と組んで本当に大丈夫だったのかな……と」
キキョウ「あー!剣が落ちてる!俺が装備したい!」
アオニ「ダメー!剣はソードマンたるアタシが持ってこそ意味があるの!そもそも君は刀がメインでしょ!今は我慢しなさい!」
キキョウ「ちくせう!!」
ナギット「兄弟というより親子の可能性出てきましたね」
クロ「魂の波長合いすぎですものね」
ちょっとずつ絆を深めながら、一行はダンジョン内を進む。
キキョウ「順調じゅんちょー♪」
アオニ「ダンジョン内の動き方とか色々なことは説明がめんどくさいからカットするね!」
ナギット「誰に言ってるんですか誰に」
キキョウ「あれ?あの青いのは何だ?」
クロ「あれは結晶床。踏むと不思議な力によりTPを回復したり、ブラストゲージがたまったりと良い効果が得られますよ。ちなみにブラストとは結晶床を踏んだり敵を倒したりすると増えるゲージが溜まるごとに使える特殊なスキルのことです、ダンジョン探索する上では非常に便利ですよ」
キキョウ「ほ〜なるほど〜さっすが経験者!頼りになるぅ!」
クロ「いやいや、それほどでもありませんよ」
ナギット「この辺りの魔物は大した事なさそうですね」
アオニ「序盤だからねー」
クロ「おや、次は例のお宝フロアみたいですよ」
キキョウ「お宝!なにが落ちてるんだろ!」
一行はお宝フロアに足を踏み入れた!
アオニ&キキョウ『おおおおおおおおお!?』
アオニ「お金!お金落ちてるよ!いっぱい!」
クロ「さまよう宝箱(ターン経過で消滅する宝箱)が金色ですよ!すごいですね!」
キキョウ「鈍器落ちてるッスよナギットさん!持っといたらどうッスか!?」
ナギット「なんだこのはしゃぎっぷり……」
お宝フロアで劇的にテンションを上げた一行はダンジョンをずんずん進む。
アオニ「なんか臭くない?」
キキョウ「まるで甲虫が腐ったような臭いがする」
クロ「わかるんですか?」
キキョウ「うん、1回食わせられかけたことあったし」
ナギット「おい待て初耳なんだが」
天井から蟻のような魔物が降りてきた!
キキョウ「わーお!」
クロ「この迷宮の主でしょうねぇどう考えても」
アオニ「最初のダンジョンからボスがいるなんて聞いてないよ!!どこまでも新しいなぁもうっ!」
ナギット「それよりどうするんですか!階段も塞がれてしまいましたし撤退できませんよ!」
アオニ「この奥にいるラジムって人がいるかもしれないのに逃げるなんてできるかぁ!このまま迎え撃つよ!ボス戦は普通のダンジョンと違ってターンごとにそれぞれのメンバーが操作できるんだから慌てなくて大丈夫!」
キキョウ「操作?」
アオニ「こっちの話!まずは近づいて」
大顎マントンマは大顎投げを使った!アオニとキキョウにダメージ!
アオニ「ふぎゅう」
キキョウ「アイタタ……アオニを投げて俺の顔面に飛び込ませてくるなんて、どこのラブコメ系ヒロインだよ……」
クロ「フカ子とのラブコメフラグなんて立てさせませんよ!!」
ナギット「いちいち食いつかないでください!」
アオニ「いきなり位置を変えてくる攻撃なんてしないでよねぇ全く、初心者が白目向いちゃうでしょうが」
クロ「フカ子、大丈夫ですか?」
アオニ「大丈夫だよアタシが頑丈なことぐらい知ってるでしょ?」
クロ「そうではなくキキョウのラブコメフラグが」
アオニ「ナギット挑発お願いね」
ナギット「わかりました」
クロ「ああんフカ子ー!!」
キキョウ「よくわかんないけど大変だなアンタたち」
アオニ「とにかく!ナギットが挑発してくれてるからしばらく攻撃がそっちに飛んでくれる!その隙にこっちで攻撃がしまくって……」
大顎マントンマは大顎投げを使った!ナギットとキキョウにダメージ!
ナギット「あでっ」
キキョウ「ほぎゃあ」
クロ「あっ。キキョウが倒れましたよ」
ナギット「しまった!挑発しているからといっても俺だけに攻撃か行くワケじゃないのか!」
アオニ「ああいう攻撃をされると嫌でも巻き添えを喰らうんだよね、にしてもケンカクの防御も低いなぁ」
ナギット「……妙に冷静ですね?」
アオニ「うん、だって世界樹の葉があるからね」
ナギット「は?」
キキョウ「ふっかーつ!」
ナギット「ええっ!?お前さっき倒れたんじゃ……?」
クロ「世界樹の葉が荷物の中にあれば倒れても自動的に復活できるんですよ」
アオニ「なかったらネクタルで代用ね」
ナギット「どういう仕組みなんだ……」
キキョウ「よくわからないッス」
倒れたりもしたがその後は苦もなく勝利した。
アオニ「倒したー!」
クロ「いい感じに燃えましたね」
キキョウ「死ぬかと思ったー」
ナギット「初陣にしては上々ですね」
「いや~ありがとう!助かったよ!」
キキョウ「誰」
クロ「もしや行方不明になっていたラジムという方では?」
ラジム「あれっ、聞いてたのか?武器の素材狩りでこっちに来てたって」
クロ「ええ、ガリさんがとても心配してましたよ」
ナギット「ヨボさんです」
ラジム「そっかー助かったよ!妙なところに来ちまって動くに動けなくってさあ!助けてくれてありがとうな!」
アオニ「アタシたちは当然のことをしたまでだよ。正義の冒険者としてね」
一行はダンジョンを後にして、船着場まで戻った。
ラジム「そっかー!街に来てまだ間もないんだね!道理で見かけない顔だと思……ってか!?太陽がだいぶ傾いてる!」
キキョウ「もう夕方だな、けっこー時間たってる」
ナギット「ダンジョンに入って一時間も経ってないように感じてたけど……まだ無事に戻ってきた感覚がない……」
キキョウ「怒涛の初めての連続だったもんな」
ラジム「来たばっかだし宿はまだ決めてないんだよね?」
アオニ「うん、これから探すとこー」
ラジム「だったら助けてくれたお礼にいいとこ紹介するよ!ついてきて!」
ラジムに案内されたのは温泉宿こもれびという宿泊施設だった。
ラジム「コヌアねーちゃん!お客さん連れてきたよー!」
コヌア「あらラジム。どうしたの?」
アオニ「こんにちはー」
ナギット「実はかくかくしがじか」
以下これまでの敬意を説明。
コヌア「まあ!それはそれは……本当にありがとうございました」
アオニ「いやいや、とーぜんのことをしたまでで」
クロ「そうですよ。冒険者たるものダンジョンに挑むだけではなくこれからお世話になる方や既にお世話になっている方が困っていたら助けなくてはいけません。助け合いは出会いに繋がり、まさに今!私は貴方と運命的な出会いを」
アオニは無言でクロの右足を踏みつけた。まさに静寂なる制裁。
クロ「ーーーーー!!」
キキョウ「なにあれ」
ナギット「悶絶」
コヌア「えっと……」
アオニ「気にしないでいつものことだから。蜜蜂が花の蜜を集めてハチミツをつくることぐらい普通のことだから」
ナギット「普通の表現のためにわざわざ大自然の常識を持ってくるのか……」
コヌア「まあそうですか……小さい宿ですが今日はここでゆっくりしていってくださいね」
ラジム「街に温泉宿はたくさんあるけどここら格別なんだせ!じゃ!」
ばたばたばたばた
キキョウ「賑やかな奴だなあ」
アオニ「君が言うのそれ」
ばたばたばたばた
アオニ「あ、帰って来た」
ラジム「そうだお姉ちゃん!今日のこと父ちゃんや兄ちゃん達には内緒だよ!」
コヌア「内緒にしといてもすぐバレちゃうでしょ?冒険者さんに助けられてるんだから、早く帰って怒られなさい」
ラジム「やだな……でも仕方がない!じゃあ!」
ばたばたばたばた
キキョウ「潔いな」
コヌア「フフッ相変わらずせわしいんだから。とにかく、パレッテさんにはお世話になりました。すぐに温泉の用意をいたしますからゆっくり休んでくださいね」
クロ「温泉!!!!」
アオニ「うるさい」
初めてのダンジョン探索を無事に終えた一行は、温泉宿こもれびの温泉につかる。
……言うまでもなく混浴ではない。
アオニ「ぷはーいい湯―やっぱり温泉はいいねぇ〜」
クロ「そっちは1人で貸切状態なんですよね?どうですか?」
アオニ「いい感じだよー快適快適」
ナギット「露天風呂はこっちの声が届くのか……」
キキョウ「温泉って生まれて初めてー!ウヒョーたーのしー!」
ナギット「泳ぐのはマナー違反だろうが!」
アオニ「てか、キキョウってあのビジュアルで男湯って大丈夫なの?いや男なのは間違いないんだろうけど」
キキョウ「大丈夫って何が?」
クロ「大丈夫ですよフカ子。キキョウはこちら側で全く問題ありません、うっかり確認できてしまったので」
アオニ「そう……君にとっちゃ辛かっただろうに……」
クロ「理解してくれるのはフカ子だけですっ……!!」
キキョウ「なんスかあれ」
ナギット「知らん」
キキョウ「んん?ちょっと気になったんだけどさ、なんでクロってアオニのことフカ子って呼ぶんだ?文字数しか合ってないじゃん」
クロ「ああ、このあだ名ですか?実はアオニという名前は本名ではなくフカ子本人が付けた名前でして……フカ子は本名からとったあだ名なんですよ」
キキョウ「マジ?」
ナギット「偽名を使わないといけない事情でも?」
アオニ「そんな厄介な事じゃないよ……ただ、前の名前がどうしても好きになれなかっただけ。アタシだってもう19だし、自分で好きな名前を名乗ったっていいじゃない」
クロ「私は前の名前も好きですけどねーだから今でもフカ子と呼ばせてもらってますが」
キキョウ「名前変えたならあだ名も変えればいいのに」
クロ「出会った時から彼女はフカ子だったので。私にとってフカ子という呼び名はとても深い意味のあることなのですよ、ええ」
キキョウ「俺たち部外者にはわからないふかーい事情があるってコトかー仲良いんだなー」
クロ「それほどでもありませんよ」
アオニ「悪くはないよねそういえば……うん」
ナギット「(どういう関係なんだ……?)そういえば、拠点の宿はどうするんですか?今日はとりあえずここに泊まりますけど」
アオニ「温泉もいいし晩御飯も美味しかったし、コヌアさんは優しいし……ここにしちゃおうかなーって思ってるよ。また後で話してくる」
温泉で旅の疲れを癒した一行は、その後すぐに床に着いたのであった。
そして、次の朝。
コヌア「おはようございます。パレッテさん。昨夜はゆっくり休まれましたか?何かありましたら遠慮なく……」
クロ「はい、では早速……」
キキョウ「あれ」
ナギット「どうした」
キキョウ「今なにか変な感じが……」
地震だ!
アオニ「おおおっとお!?」
クロ「あわわわわわわ!!」
キキョウ「でかい揺れだなぁ」
ナギット「動じろ!」
揺れはすぐにおさまった。
アオニ「あーびっくりしたぁ。久しぶりだよこんなでっかい地震」
クロ「幸い、物は倒れなかったようですね、安心しました」
アオニ「まずテーブルの下から出てこい」
コヌア「……おさまったようですね……よかった……」
ナギット「お怪我はありませんか?」
コヌア「はい、ありがとうございます……それより、驚かれましたか?ここではよく地震が起きるんですよ。最近特に多くて、街のみんなはもう慣れっこみたいですが私は未だにハッとしちゃいますね」
アオニ「自然災害の慣れは怖いよ?大丈夫だと思ってたかを括ってたら予期せぬ被害が出て皆がパニックになるときだってあるんだから、コヌアさんぐらいの反応が丁度いいんだよ」
クロ「それはもしや経験論ですか?」
アオニ「どうだか……おさまったところだし、そろそろ出かけよう」
コヌア「今からおでかけですか?でしたらラジムがいるガラク工房へ行かれてみてはいかがでしょうか?ラジムも喜ぶと思いますよ。あと……不思議のダンジョンで倒れるとアイテムやお金がなくなると聞いています。弟を助けてくれたお礼です。こちらをどうぞ!」
アリアドネの糸を3個手に入れた!
アオニ「わあお!いいの!?やったね!」
キキョウ「この毛玉って何の意味があるんだ?」
コヌア「このアリアドネの糸は不思議のダンジョンから安全に脱出できるアイテムです。冒険にはひとつあれば十分かもしれません。残りは私共の倉庫に預けていただければ大切に保管いたします。アイテムだけでなくお金を預かるサービスもやっておりますので、その際には遠慮なく申しつけてくださいね」
アオニ「それじゃあ遠慮なく利用させてもらうよ。いやー助かっちゃうなー」
コヌア「それからサービスでこちらもどうぞ。なくなったらいつでもお作りしますのでじゃんじゃん食べてくださいね」
コヌアのお弁当を手に入れた。
クロ「美女の手作りお弁当!!」
アオニ「うるさい」
キキョウ「いつまでテーブルの下にいるんだよ」
美女の手作り弁当をひっさげ、一行はガラク工房を訪れた。
ラジム「あ!パレッテさん!来てくれたんだ!ありがと!あの後父ちゃんから大目玉食らってさあ~参ったよ」
クロ「想像通りのオチで安心しました」
ラジム「まあ、ダンジョンで素材がとれたからよかったよ。これがないと武器や防具が作れないからね。うちは冒険に必要な武器や防具を作って売ってるんだ」
キキョウ「ほうほう」
ラジム「父ちゃんや兄ちゃん達は奥で鍛冶仕事。んで俺はここで店番ってワケ、でも素材がないと作れない。だからダンジョンで採れた素材を冒険者さん達からいつも買い取ってるんだ!パレッテさんもダンジョンで素材が採れたらじゃんじゃん売ってね!リストも作っておくから!じゃん!」
アオニ「商売上手だなぁーでも正直なのは好きだし利用させてもらうよ」
ラジム「まいどどーも!」
キキョウ「うわー!すげー!武器がいっぱいあるなぁ!」
アオニ「うん?こういう所に来るのって初めてなの?」
キキョウ「まあな!武器って業者の人に頼んで作ってもらうみたいな感じだったから、自分で買いに行くのっていうのはやったことなかったんだよ」
クロ「ほうほう、なるほど……」
ナギット「だからペラペラ喋るんじゃねぇよ」
キキョウ「えーなんで怒るんスかー」
アオニ「そんなことより武器だよ!武器!アタシは突剣を持ちたかったからここでよーやく手に……」
クロ「よかったですねぇフカ子……って、どうしたんですか?突然固まって」
アオニ「突剣……高い……買えない……」
クロ「あらま」
ナギット「一番高い突剣が買えないだけでしょう?安いやつなら買えますよ」
アオニ「嫌だ一番高いのがいい!だって強いから!」
ナギット「えええ……」
ラジム「あっ!そうだ!パレッテさん!冒険者ギルドには行った?まだなら一度ギルドによってみるといいよ!俺を助けてくれた報酬がもらえるんじゃないかな!」
アオニ「ここって国の政をする施設ないの?」
クロ「あるとしても冒険者に協力しないスタンスかもしれませんね、珍しいです」
仕事の報酬を貰いに冒険者ギルドへ。
トラオレ「おっパレッテか。昨日はラジムを助けてくれたそうだな、ありがとう。これは報酬だ。受け取ってくれ」
500エン、大きなパン、アムリタを受け取った!
アオニ「……さっきキキョウの刀を買わないでおけば突剣が買えたのでは……?」
クロ「シーッ」
トラオレ「ここ冒険者ギルドでは冒険者たちをサポートするだけでなく……街で困ったことがあったらそれを仕事として冒険者たちに斡旋しているんだ。だから、なんか仕事が欲しい時はここを覗いてみるといい」
アオニ「ミッションとかの仕事はここで受け取れるのかーなるほど」
クロ「冒険者は冒険者でなんとかしやがれってことなんですかね、この国の政治は」
キキョウ「観光の商売で忙しいんだよきっと」
トラオレ「あと、もっと細かい仕事なら黄金の麦酒場でありつける。弟のヨボがコックをやっている酒場だ、後で行ってみたらどうだ?」
クロ「そっちはクエストですかね」
アオニ「んーじゃあここに仕事がなかったらそっちに……」
ばたん!
女ガンナー「トラオレさんいる!?ちょっと来て!」
四人『!?』
トラオレ「むっ、どうした?」
女ガンナー「さっき地震があったよね?たぶんそのせいだと思うんだけど探索に出ていた冒険者達から報告が」
トラオレ「わかった。案内してくれ」
トラオレは女ガンナーと共に出ていってしまった。
アオニ「お、女ガンナーのグラをそのまま使ってきた……文章だけのモブじゃなかった……!」
クロ「2PカラーのNPCがいるかと思いきや妙なところで豪華というか贅沢というかありがとうございますというか」
キキョウ「よくわからないけどすげーってこと?」
ナギット「たぶん」
トラオレがいなくなってしまったため、一行は黄金の麦酒場へ
「お客さん!いらっしゃーい!好きなテーブルにどうぞ!」
クロ「初めまして美しいひ」
刹那アオニがクロの右足を以下略
「ひ?」
アオニ「お気遣いなく」
ナギット「ええっと……僕たちはトラオレさんからここを紹介されて来たのですが」
「え?トラオレさんから?そっか!冒険者の人達か!」
驚いたような顔を見せた途端、カウンターの奥からヨボが姿を見せる。
ヨボ「おおっ!君達か!ラジムを助けてくれたそうだな!ありがとう!」
「あれ?マスターこの人達と知り合いなんですか?」
ヨボ「ああ、昨日ちょっとな。新人のパレッテだ」
ムッコラン「そっかー私はムッコラン。よろしくね。ここはマスターの料理が評判のお店なんだけど……やってきたお客さんからクエストと呼ばれる仕事がいつも集まってくるの。内容は素材探しから魔物退治まで様々よ。パレッテさんもよかったら食事のついてにクエストも引き受けてみてね」
クロ「ありがとうございますそうします」
アオニ「食事の値段的に最初はご飯じゃなくてクエストメインになりそうだけどね」
ヨボ「安心しろ、そういう時のためってワケじゃないが、たまーにうっかり作りすぎてしまうことがあるんだ!その時はタダで料理を出すぞ!」
キキョウ「おお〜!タダメシってやつか!しばらく食べ物には困りそうにないッスね!」
ナギット「宿の料理があるだろうが」
いくつかのクエストを引き受けてから、一行は冒険者ギルドに戻った。
アオニ「トラオレさん戻ったかなー」
「……あっ!」
アオニ「え?」
「こんにちは!初めまして!てへっ!」
アオニ「えっ、な」
動揺している間に少女は走り去ってしまった。
アオニ「い、今のは……?」
トラオレ「おおっパレッテ!突然なんだが頼みができた、砦を建て直してくれないか?」
女ガンナー「ゴメン、私がいけばいいんだけど今は手が離せなくて」
キキョウ「そりゃ別に構わないけど砦ってなに?」
クロ「砦は冒険者みんなで建ててきた拠点です。世界樹までの道は不思議のダンジョンが阻んでいるので一筋縄にはいきません。そこで、世界樹に少しずつでも近付けるようダンジョンに拠点を築いているのですよ」
トラオレ「山登りで言う山小屋みたいなもんだな」
女ガンナー「さっきの地震で第2迷宮B1Fの砦が壊れちゃったの。申し訳ないけど引き受けてくれない?」
アオニ「そりゃあもちろん!」
キキョウ「あれ、ここでわざといいえを選んで反応を楽しむやつするんじゃないのか?」
アオニ「ああうんぶっちゃけボタン連打しててつい」
ナギット「おい」
トラオレ「おおっ!引き受けてくれるか!ありがたい!1500エンやるから持っていくがいい」
キキョウ「やった!前金ってやつ!?」
クロ「報酬の前金ではなく砦を建てるためのお金です。結構な額が動くんですよあれは」
キキョウ「……」
ナギット「そんな顔するな」
女ガンナー「ほんと助かる!第2迷宮B1Fに着いたら砦を建ててね!あと、地震のせいか第2迷宮のヌシが暴れてるの。ちょっと気が荒くなってるだけだから倒せば正気を取り戻して大人しくなると思う!だからヌシを見つけたらついでに鎮めといてね!シクヨロ!」
女ガンナーは走り去っていった。
ナギット「……はぁ!?面倒な仕事を押し付けるだけ押し付けて逃げたぞあいつ!!」
キキョウ「用事があるって言ったじゃないッスか」
ナギット「そりゃそうだけど!ヌシなんて大物の魔物の討伐をそう簡単に……」
アオニ「ついでぐらいの気持ちで言ったんだろうし大したことないんじゃない?」
クロ「警戒するにこした事はありませんが、可愛らしい女の子の頼みとあれば断れません。砦のついでにサクッと倒してしまいましょう!」
ナギット「……いいのかよ……」
キキョウ「いいんじゃないッスか?本人達がそう言ってるなら」
第2迷宮に行くため船着き場を訪れると、さっきの少女が近づいてきた。
「あっ!さっきギルドで会ったね!」
アオニ「あ、うん?そうだね」
キキョウ「なんだよその馴れ馴れしい態度!失礼だなー初対面相手に!」
ナギット「お前が言うか?」
クロ「可愛らしいお嬢さん。お名前は?」
ナディカ「私はナディカ。カナハルタから取材でやってきたの、世界樹に挑む冒険者の取材にね、こう見えても記者をやってるの!」
アオニ「カナハルタ……?聞いたことないなぁ、クロは?」
クロ「私も初めて耳にする土地です」
ナギット「僕もですね」
キキョウ「おなじく!」
ナディカ「ねえ君達!これから不思議のダンジョンに行くんでしょ?」
アオニ「うん。急いでるから取材は後で……」
ナディカ「私も連れてってくれないかなぁ?迷惑かけないから!お願い!」
クロ「はい!!」
アオニ「まっすぐな笑顔やめろ!ダメダメ!武器もない素人をダンジョンに連れて行って、もしも何かあったら責任とれません!」
ナディカ「ええーどうしても……ダメ……?」
クロ「そんなことありませんよ!」
アオニ「太文字やめろ!ダメだってば!」
ナディカ「そっか……足手まといにもなるもんね……仕方がない。今回は別の冒険者を当たってみるよ」
クロ「えっ……」
ナギット「すっげぇショック受けてる」
キキョウ「ロリコンすか」
ナディカ「じゃあこれあげる!冒険がんばってね!今度また取材させてね!」
アオニ「うんうん、取材だけならなんでもいいからまた別の機会にね」
アオニにアムリタを渡したナディカはそのまま去って行った。
アオニ「まあ他を当たっても結果はここと同じだと思うけどね」
ナギット「ちゃんと言ってあげててくださいよ……鬼ですかアナタ」
【次回予告】
アオニ「やっほーアタシアオニ!花もときめく可憐な女子冒険者!よろしくね!」
ナギット「えっ、何が始まったんです?」
アオニ「今日も元気に冒険だーって思った矢先!ダンジョンまでの道のりを塞ぐのは宿命のライヴァルギルドのみなさんだった!」
キキョウ「グフフフフ……お前たちをダンジョンに行かせなければいつまで経っても名声は貰えず人々は我らを讃え、崇め、お布施とかくれる!こんなぬるぬるのぬるま湯にぬくぬくと浸かる日々を邪魔されてたまるかぁ!」
ナギット「ライバルギルドってお前かよ」
アオニ「なにおー!アタシがこの程度の妨害に屈すると思っているのか!こうなったらその場のノリで変身よ!しゃらーんきらーんぴらららーん」
キキョウ「うおっまぶしっ」
アオニ「変身完了!美少女冒険者アオニちゃんの正体は!悪いことをする邪悪な冒険者達を成敗し、ダンジョンの秩序を守る魔法少女だったのだ!この魔法のキングスライサー(追加効果即死)で切り刻んんであげる!」
キキョウ「ギャー!タスケテー!せめて短冊切りにしてー!」
アオニ「次回!魔法冒険者アオニの軌跡、第2話!必殺!二刀流スライサーの悪夢!ダンジョンの平和はアタシが守る!」
ナギット「なんだこの頭の悪い会話……」
理由はふたつある。
ひとつは湖に映り込む世界樹の圧倒的な景観を楽しみにやってくる観光客。
そしてもうひとつが一攫千金を求める冒険者達である。
冒険者達の一番の目的は世界樹への到達。まだ誰もなし得てない未知の領域だ。
一説には神の国への入り口があるとも言われているが、本当のところはどうなのだろうか……
その真実に迫ることを夢見て……この街オーベルフェには腕利きの冒険者が集まってきていた。
もちろん君もその一人だ。
街の門をくぐれば大いなる冒険が待っている!
さあ踏み出そう!世界樹への第一歩を!
オーベルフェの青い空の下。ソードマンの少女とルーンマスターの青年がこの地に降り立っていた。
アオニ「うわあ〜!ひーろいなぁ〜!そしてとてつもなく賑やか!」
クロ「なんせ、今まさに売り出し中真っ只中の有名観光地ですからねぇ。あ、ベビーカステラ売ってますよ?買っていきます?」
アオニ「うっ……いや、買わない!アタシたちはここに観光地しに来たんじゃなくて冒険者しに来たんだよ!?忘れたとは言わせない!」
クロ「忘れませんよ、私が可愛い可愛いフカ子との約束を忘れるワケないでしょう?我々の目的は冒険者となり、オーベルフェにある世界樹へ到達すること……でしょう?」
アオニ「その通り!3年前からの悲願だった世界樹の迷宮踏破がいよいよ達成されるのも時間の問題!ワクワク」
クロ「期待に平らな胸を踊らせるフカ子も愛らしい……無理をしてでもオーベルフェ行きのチケットを取った甲斐がありました……」
アオニ「人通りが多くてアタシが手ぇ出しにくいからってさらっとセクハラ発言するんじゃない。相手がアタシならまだ良いものの、知らない人だったら告訴もんなんだからね?」
クロ「ご安心を、私が貴女に遠慮なく発言できるのはフカ子の可愛さと3年に渡り築き上げた信頼関係があってこそ。見知らぬ女性に今のような失言は決してしません」
アオニ「3年どころか出会って数時間で化けの皮剥がしてた奴が何言ってるんだか……それにしても人がめちゃめちゃ多いなぁ。アスラーガといい勝負してそう」
クロ「先ほど土産物店で購入した“オーベルフェ観光ガイド〜森ネズミ級〜”によると、あの湖畔から見える世界樹がそりゃあもう眼を見張るほど美しくて圧倒的な光景なんだそうで、その噂は国境を越えて広く知られているのでこのように連日連夜観光客がやってくるとか」
アオニ「大きな街って何かと世界樹を観光名所にしたがるなぁ」
クロ「あと“午後0時に湖畔で恋人とキスをすると末長く幸せになれる”とか“投げ込んだコインが世界樹のてっぺんに落ちると大金持ちになれる”とか“快晴の日の湖の水を飲むと長生きできる”とか色々なご利益もあるそうですよ」
アオニ「これだけあるならもうありがたみも何もないじゃん!?むしろ胡散臭さがぷんぷんする!」
クロ「え〜?湖畔でキスをすると幸せになれるってロマンチックでいいじゃないですか〜後で試しましょうよ〜」
アオニ「断る。ほら!冒険者ギルド行くよ!」
クロ「はーい……」
冒険者ギルド。
「おっ、冒険者だな。見りゃわかる。新入りだろ?」
アオニ「経験者だけどオーベルフェでは新入りといえば新入りだから新入りでいいよ!」
「へ?」
クロ「細かい話はともかく、ここが冒険者ギルドであっていますか?」
トラオレ「ああ、間違いないぜ。俺はトラオレ、ここでギルドを取り仕切っている」
アオニ「つまりはギルド長だね。早速だけどギルドを立ち上げたいんだけどー」
トラオレ「ほう?やけに慣れてるな」
アオニ「こう見えてもギルド立ち上げは3度目なもんで」
トラオレ「なら話は早い。ここにお前のギルド名を書いてくれ。詳しい説明は必要ないな」
アオニ「3度目ともなれば大丈夫だよ。世界樹の危険さも冒険の過酷さもモンスターの凶悪さも体がちゃんと覚えてるから」
クロ「体が覚えてるなんてちょっと破廉恥な香りがしますね」
アオニ「エロい単語に反応する中学生か」
ギルド名「パレッテ」を登録しました。
トラオレ「ほう、パレッテね……後にこの名が世界にとどろくことになる……かもしれないな!ハハハッ!」
アオニ「とどろくかもしれないじゃなくてとどろかせる予定だもーん!」
クロ「そうですよ!フカ子の可愛さはいずれ世界中に広まる予定なのです!」
トラオレ「自信満々なのはいいことだが過信しすぎには気をつけろよ。いつか足元を掬われるからな」
アオニ「気をつけるって」
トラオレ「次はパレッテに属する冒険者の登録をしてくれ。冒険者は……お前ら2人だけか?」
アオニ「まあね。あと2人はタルシスに置いてきちゃったし」
クロ「内1名はフカ子の逆鱗に触れて消息不明ですがね」
トラオレ「聞かなかったことにしよう。ま、2人でもいいが他に仲間が欲しいとなれば……ここには無名でもお前たちと同じ、野心を持ったヤツらがわんさかいる。中には高いポテンシャルを秘めた冒険者がお前たちの誘いを待ってるはずだ。好きに声をかけて色んな職業の冒険者を集めておきな」
クロ「念のため聞きますけど、必要最低人数は?」
トラオレ「4人だな」
アオニ「ふむう、アスラーガと同じってことか……最低でもあと2人欲しい」
クロ「私はルンマス、フカ子はソードマンですしサポート職の方を仲間にしたいところですねぇ、バランス的にパラディンとかダンサーとか……」
「なあ!お前らもしかして冒険者か!?」
突然、ケンカクの装束に身を包んだ少女(?)に声をかけられた。
アオニ「うん?そうだけど」
「やっぱり!あのさあ、俺たちも世界樹冒険したいんだけど、今の今まで誰も相手にしてくれないんだー酷い話だと思わね?」
アオニ「そりゃひどい」
クロ「いや、酷いのかはともかくそこのアナタ、俺たちとは……?」
「あーそうそう、冒険者になりたいのは俺ともうひとり、ナギ……」
「おいこらキキョウ!なりふり構わず声をかけまくって人様に迷惑かけてんじゃねーよ!誰が尻拭いすると思ってんだ!」
向こうからすごい形相の少年がやってきた。パラディンのようだ。
「ナギットさんッス」
「わかってんならやってんじゃねーよ!!」
「いやーでも女は行動力って言うし、迷ってる暇があったら自由気ままに目的に向かって全力で行動力した方が絶対いいッスよ!もしかするとどこぞかの王族と結婚できて玉の輿に乗れるかもしれないッス!」
「お前は男だろ!!」
アオニ「え」
クロ「やはり……」
「えっと……申し訳ありません、ウチのバカがご迷惑をお掛けしてしまって、後でちゃんと殴っておきますので気にしないでください」
アオニ「さらりとドメスティックなバイオレンスの話を持ち出さないの、妙な誤解が生まれようとしてるよ?」
「お詫びの印にアナタたちのご要望に沿った折檻を行いますので」
クロ「そういう特殊プレイはちょっと……女性ならまだしも男性は守備範囲外でして」
アオニ「女の子だったらいいの……?」
クロ「大丈夫ですよ、浮気はしません」
アオニ「そういう意味じゃねぇ」
「……取り込み中みたいだし、このまま黙って去るぞ」
「えー?まだ返事聞いてないのにー?勿体無くないッスか?」
「いいんだよ、最悪俺とお前だけで探索するのもアリなんだろ?だったら早く登録して……」
クロ「ちょっと待ってくださいお2方、もしかしなくてもまだフリーなのでしょう?我々のギルドに来ませんか?」
「え?」
「マジ!?」
クロ「ギルド結成したてホヤホヤで、メンバーが足りなくて困ってたところだったのですよ。丁度4人になりますし、いいでしょうフカ子?」
アオニ「そうだねー君達がいいならアタシはいいよ。ちなみにギルマスはアタシだから!」
「おお〜触りに船!入れてもらいましょうよナギットさん!」
「渡りに船な。そういう話でしたら、是非ともお願いしたいですね」
アオニ「おっけー!んじゃ決まり!今日からアタシたちは一心同体!ダンジョン内で行動を共にするギルドの仲間!おっけー?」
『おっけー!』
「え、あ、おっけー?」
「ノリ悪いッスよナギットさん。そんなんだからご主人様に人見知りだって小馬鹿にされるんス」
「余計なこと言ってんじゃねぇ」
「ギャー!こめかみが!こめかみがぐりぐりでががががががが」
クロ「楽しい人たちですね」
アオニ「人物関係がわかって来たところで軽く自己紹介しとこっか」
クロ「ですね、じゃあまず私から。私はクロ、ルーンマスターです。印術という特殊な術で炎、氷、雷の属性攻撃を繰り出します。攻撃力は高いですが防御力はゴミみたいに低いので守ってくださるとと助かります」
アオニ「上は老女、下は幼女までどんな女の子も守備範囲内のエセ紳士ね。覚えといて」
「特殊だな!」
「犯罪の臭いがしますね」
クロ「初対面からなんたる暴言」
アオニ「次はアタシ、アタシはソードマンのアオニ!攻守共に優れた万能型クラス!剣と突剣の両方を装備できるしリンク系スキルをとれば敵に属性追加攻撃もできるようになる!まさに攻撃の要!ちなみに世界樹踏破は長年の夢だからそこんとこヨロシク!」
クロ「ちなみにサイズは上から」
アオニ「これ以上喋ると首をもぐ」
クロ「はい黙ります」
キキョウ「じゃあ俺な!俺はキキョウ!ケンカク!二刀流が得意!あとナギットさんのお手伝いしてる!終わり!」
クロ「もっと他に言うことがあったのでは……というかフカ子と若干被ってません?」
キキョウ「火力は強ければ強いほどいいって言うぞ!」
アオニ「アタシはその内リンクスキル取るんだし、まーいいんじゃない?」
ナギット「申し訳ありません……アイツは見ての通りの馬鹿なもので。あ、僕はナギットです、クラスはパラディン。防御に特化していて味方が倒れないように勤めます。防御が低いクラスと組ませて損はありませんね」
キキョウ「そして俺のご主人様の子供でもあるぞ!」
アオニ「あ、そこが主従関係じゃなかったんだね」
キキョウ「俺がこうしていられるのはナギットさんのお陰だけど雇ってくれたのはご主人様だからご主人様の方が優先順位が上なんだよ」
ナギット「……お前、あんまり個人情報を漏えいさせるなよ」
「わかってるッスよ〜」
アオニ→ソードマン♀2
クロ→ルーンマスター♂2
ナギット→パラディン♂1
キキョウ→ケンカク♀3(ただし中身は♂)
かくしてギルド、パレッテのメンバーが揃ったのであった。
トラオレ「よし。登録が終わったようだな。なかなか味のあるパーティ編成だな」
キキョウ「味があるって初めて言われた!」
アオニ「ヨカッタネ」
クロ「めんどくさそうに対処しちゃダメですよフカ子、これからきっと長い付き合いになるんですから対応の仕方を覚えていかないと」
キキョウ「今さらっと面倒な奴の対処法みたいなニュアンスだったんじゃ!?」
ナギット「マサカ」
トラオレ「早速打ち解けてきてるとこで水を刺すが、お前達もこれで晴れて冒険できるようになったワケだ」
アオニ「よーやくスタート地点に立てた感じがするね。ここまで大変だった!」
クロ「大変なのはこれからですよ。むしろ何度死にそうな目に遭うか……」
ナギット「やっぱり過酷なんですね、世界樹のダンジョンは……」
トラオレ「積もる話もありそうだし、みんな長旅で疲れてるだろ?ここには多くの温泉宿がある。今日のところは宿を探して……」
クロ「温泉!?」
アオニ「予想はしてたけど興奮するんじゃn」
バタン!
「あ……兄貴!大変だ!!」
4人『ギャアアアアア!!ドッペルゲンガーだぁぁぁぁぁぁ!!』
トラオレ「ドッペルゲンガーじゃなくてこいつはヨボだ。俺の双子の弟なんだが……」
ヨボ「珍しい驚き方をする客人だな……じゃなくて!取り込み中ならすまない!緊急事態だ!」
ナギット「何かあったんですか?」
ヨボ「ガラク工房ンとこの坊主が戻ってこないんだ!」
トラオレ「末っ子のラジムか!?また素材を取りに不思議のダンジョンに!?」
アオニ「むむっ。この流れは……」
ヨボ「ああ、多分な……まったく何度も迷惑かけやがって」
トラオレ「だが困ったな。向かえそうなギルドは今ここには……」
アオニ「じーーーーーーーっ……」
キキョウ「なんという力強い眼差し……あれが経験豊富な冒険者の貫禄!」
ナギット「ぜってー違うからお前は黙ってろ」
トラオレ「……そうだ。登録して早々悪いがお前達が行ってくれないか?人手が足りないんだ、頼む」
アオニ「はいヨロコンデー!」
クロ「久しぶりの不思議のダンジョンですねぇーワクワクしますよ。またフカ子の勇姿が見られます」
トラオレ「あとアイテムも渡しておこう」
パンとアリアドネの糸を受け取った!
ナギット「……これだけ?」
アオニ「最初から糸をくれるなんて……!!」
ナギット「へっ?」
クロ「とても良心的な方々ですね!普通結成したばかりのギルドにアリアドネの糸は支給されませんよ!いい時代になったものです!」
ナギット「…………」
キキョウ「住んでた世界が根本的に違うらしいな」
ヨボの案内で不思議のダンジョンへ向かう際に使用する船着場へ。
ヨボ「そっか。君達はまだここにきて間もないんだな」
キキョウ「トラオレの2Pカラーって感じの人、ここから世界樹に行けるのか?」
ヨボ「出会って数分でもう容赦ないな。ここから直接世界樹には行けないぞ、行けるのは湖の向こう岸の山々にある不思議のダンジョンだ」
クロ「そしてその奥に世界樹と」
ヨボ「その通り、世界樹は不思議のダンジョンを超えない限り到達できないってワケだな」
キキョウ「むー?世界樹の迷宮って自分で地図を描いて冒険するって聞いてたけど、違うのか?」
クロ「はい。ここは迷宮というより不思議のダンジョンという奇想天外難攻不落な厄介な場所でしてね、行く度に地形が変わり、倒れてしまうと持ち物が無くなっていたりするのです」
キキョウ「それはもしやドロボーの仕業!?俺が成敗してやる!」
ナギット「落ち着け」
キキョウ「あう」
ヨボ「アンタら、随分詳しいな」
クロ「以前アスラーガで不思議のダンジョンに入った経験があるので」
ヨボ「経験者がいるなら心強い。ラジムが向かった先は森林の遺跡というダンジョンだ、ここから一番近いダンジョンだからそんなに危険じゃないと思うが……注意してくれよな。すまないが頼んだぜ」
一行は不思議のダンジョンを目指して船に乗り込んだ。
アオニ「アスラーガでは飛行船だったけど、ここは船なんだねー」
クロ「あ、言い忘れてましたが不思議のダンジョンはアリの巣構造になってるので気をつけてくださいね」
ナギット「アリの巣?」
アオニ「うん、あらかじめ支給されてた迷宮マップを見て貰えばわかるんだけど……」
キキョウ「ありゃ?B2Fのフロアがふたつ横並びにある?」
アオニ「こんな感じでダンジョン内はフロアがアリの巣みたいに配置されてるんだ。ちなみにここに行きたかったら一度B3Fまで降りて、別の階段から上がってこないと行けないからね」
キキョウ「や、ややこしいな……」
ナギット「この宝箱のマークは?」
クロ「ガイドブックによるとそれはお宝フロア!いいものがあるそうです!」
キキョウ「いいもの!?つまりお宝!?」
クロ「きっとそうでしょうね。ちなみにここの隅に小さく“ドクロマークのあるドクロフロアには気をつけろ”とあります。魔物の巣窟なんだそうですよ」
キキョウ「それも気になる!なるなるなるる!」
ナギット「うるせぇ」どすっ
キキョウ「ぎゃん」
クロ「お宝かドクロか分からないフロアもあるそうですが、それが出てくるのは中盤ぐらいなんでしょうねぇ〜きっと」
第1迷宮。森林の遺跡
キキョウ「ダンジョンだぁーーー!!」
アオニ「懐かしの不思議のダンジョンよーーー!!」
ナギット「前世で兄弟だったのかよお前ら」
クロ「実際久しぶりなんですよねぇ不思議のダンジョン。フカ子がはしゃぐのも当然ですよ」
ナギット「あれ、そんなに長いブランクがあるんですか?」
クロ「ええ、アスラーガを出てから1度タルシスに戻ったり色々していたので。1年と少しぶりだったりするんですよね」
ナギット「…………」
クロ「そんな不安そうな顔をしないでください。確かにブランクは長いかもしれませんが、不思議のダンジョンの過酷さや危険性は体にしっかり刻み込まれているので、ダンジョンに潜っている内に私もフカ子も感覚を取り戻していきますよ」
ナギット「まあ、それは、わかっていますが……」
クロ「それに、貴方が迷宮踏破を志す理由は知りませんがフカ子は間違いなく世界樹踏破のために全力を尽くします。目指すべき場所が同じ者同士、協力しない手はありませんからね。フカ子は他人を蹴落とすような非道な真似は決してしません、だから信じてくださいな」
ナギット「……そこまで言ってません」
クロ「顔に書いてありますよ。この人達と組んで本当に大丈夫だったのかな……と」
キキョウ「あー!剣が落ちてる!俺が装備したい!」
アオニ「ダメー!剣はソードマンたるアタシが持ってこそ意味があるの!そもそも君は刀がメインでしょ!今は我慢しなさい!」
キキョウ「ちくせう!!」
ナギット「兄弟というより親子の可能性出てきましたね」
クロ「魂の波長合いすぎですものね」
ちょっとずつ絆を深めながら、一行はダンジョン内を進む。
キキョウ「順調じゅんちょー♪」
アオニ「ダンジョン内の動き方とか色々なことは説明がめんどくさいからカットするね!」
ナギット「誰に言ってるんですか誰に」
キキョウ「あれ?あの青いのは何だ?」
クロ「あれは結晶床。踏むと不思議な力によりTPを回復したり、ブラストゲージがたまったりと良い効果が得られますよ。ちなみにブラストとは結晶床を踏んだり敵を倒したりすると増えるゲージが溜まるごとに使える特殊なスキルのことです、ダンジョン探索する上では非常に便利ですよ」
キキョウ「ほ〜なるほど〜さっすが経験者!頼りになるぅ!」
クロ「いやいや、それほどでもありませんよ」
ナギット「この辺りの魔物は大した事なさそうですね」
アオニ「序盤だからねー」
クロ「おや、次は例のお宝フロアみたいですよ」
キキョウ「お宝!なにが落ちてるんだろ!」
一行はお宝フロアに足を踏み入れた!
アオニ&キキョウ『おおおおおおおおお!?』
アオニ「お金!お金落ちてるよ!いっぱい!」
クロ「さまよう宝箱(ターン経過で消滅する宝箱)が金色ですよ!すごいですね!」
キキョウ「鈍器落ちてるッスよナギットさん!持っといたらどうッスか!?」
ナギット「なんだこのはしゃぎっぷり……」
お宝フロアで劇的にテンションを上げた一行はダンジョンをずんずん進む。
アオニ「なんか臭くない?」
キキョウ「まるで甲虫が腐ったような臭いがする」
クロ「わかるんですか?」
キキョウ「うん、1回食わせられかけたことあったし」
ナギット「おい待て初耳なんだが」
天井から蟻のような魔物が降りてきた!
キキョウ「わーお!」
クロ「この迷宮の主でしょうねぇどう考えても」
アオニ「最初のダンジョンからボスがいるなんて聞いてないよ!!どこまでも新しいなぁもうっ!」
ナギット「それよりどうするんですか!階段も塞がれてしまいましたし撤退できませんよ!」
アオニ「この奥にいるラジムって人がいるかもしれないのに逃げるなんてできるかぁ!このまま迎え撃つよ!ボス戦は普通のダンジョンと違ってターンごとにそれぞれのメンバーが操作できるんだから慌てなくて大丈夫!」
キキョウ「操作?」
アオニ「こっちの話!まずは近づいて」
大顎マントンマは大顎投げを使った!アオニとキキョウにダメージ!
アオニ「ふぎゅう」
キキョウ「アイタタ……アオニを投げて俺の顔面に飛び込ませてくるなんて、どこのラブコメ系ヒロインだよ……」
クロ「フカ子とのラブコメフラグなんて立てさせませんよ!!」
ナギット「いちいち食いつかないでください!」
アオニ「いきなり位置を変えてくる攻撃なんてしないでよねぇ全く、初心者が白目向いちゃうでしょうが」
クロ「フカ子、大丈夫ですか?」
アオニ「大丈夫だよアタシが頑丈なことぐらい知ってるでしょ?」
クロ「そうではなくキキョウのラブコメフラグが」
アオニ「ナギット挑発お願いね」
ナギット「わかりました」
クロ「ああんフカ子ー!!」
キキョウ「よくわかんないけど大変だなアンタたち」
アオニ「とにかく!ナギットが挑発してくれてるからしばらく攻撃がそっちに飛んでくれる!その隙にこっちで攻撃がしまくって……」
大顎マントンマは大顎投げを使った!ナギットとキキョウにダメージ!
ナギット「あでっ」
キキョウ「ほぎゃあ」
クロ「あっ。キキョウが倒れましたよ」
ナギット「しまった!挑発しているからといっても俺だけに攻撃か行くワケじゃないのか!」
アオニ「ああいう攻撃をされると嫌でも巻き添えを喰らうんだよね、にしてもケンカクの防御も低いなぁ」
ナギット「……妙に冷静ですね?」
アオニ「うん、だって世界樹の葉があるからね」
ナギット「は?」
キキョウ「ふっかーつ!」
ナギット「ええっ!?お前さっき倒れたんじゃ……?」
クロ「世界樹の葉が荷物の中にあれば倒れても自動的に復活できるんですよ」
アオニ「なかったらネクタルで代用ね」
ナギット「どういう仕組みなんだ……」
キキョウ「よくわからないッス」
倒れたりもしたがその後は苦もなく勝利した。
アオニ「倒したー!」
クロ「いい感じに燃えましたね」
キキョウ「死ぬかと思ったー」
ナギット「初陣にしては上々ですね」
「いや~ありがとう!助かったよ!」
キキョウ「誰」
クロ「もしや行方不明になっていたラジムという方では?」
ラジム「あれっ、聞いてたのか?武器の素材狩りでこっちに来てたって」
クロ「ええ、ガリさんがとても心配してましたよ」
ナギット「ヨボさんです」
ラジム「そっかー助かったよ!妙なところに来ちまって動くに動けなくってさあ!助けてくれてありがとうな!」
アオニ「アタシたちは当然のことをしたまでだよ。正義の冒険者としてね」
一行はダンジョンを後にして、船着場まで戻った。
ラジム「そっかー!街に来てまだ間もないんだね!道理で見かけない顔だと思……ってか!?太陽がだいぶ傾いてる!」
キキョウ「もう夕方だな、けっこー時間たってる」
ナギット「ダンジョンに入って一時間も経ってないように感じてたけど……まだ無事に戻ってきた感覚がない……」
キキョウ「怒涛の初めての連続だったもんな」
ラジム「来たばっかだし宿はまだ決めてないんだよね?」
アオニ「うん、これから探すとこー」
ラジム「だったら助けてくれたお礼にいいとこ紹介するよ!ついてきて!」
ラジムに案内されたのは温泉宿こもれびという宿泊施設だった。
ラジム「コヌアねーちゃん!お客さん連れてきたよー!」
コヌア「あらラジム。どうしたの?」
アオニ「こんにちはー」
ナギット「実はかくかくしがじか」
以下これまでの敬意を説明。
コヌア「まあ!それはそれは……本当にありがとうございました」
アオニ「いやいや、とーぜんのことをしたまでで」
クロ「そうですよ。冒険者たるものダンジョンに挑むだけではなくこれからお世話になる方や既にお世話になっている方が困っていたら助けなくてはいけません。助け合いは出会いに繋がり、まさに今!私は貴方と運命的な出会いを」
アオニは無言でクロの右足を踏みつけた。まさに静寂なる制裁。
クロ「ーーーーー!!」
キキョウ「なにあれ」
ナギット「悶絶」
コヌア「えっと……」
アオニ「気にしないでいつものことだから。蜜蜂が花の蜜を集めてハチミツをつくることぐらい普通のことだから」
ナギット「普通の表現のためにわざわざ大自然の常識を持ってくるのか……」
コヌア「まあそうですか……小さい宿ですが今日はここでゆっくりしていってくださいね」
ラジム「街に温泉宿はたくさんあるけどここら格別なんだせ!じゃ!」
ばたばたばたばた
キキョウ「賑やかな奴だなあ」
アオニ「君が言うのそれ」
ばたばたばたばた
アオニ「あ、帰って来た」
ラジム「そうだお姉ちゃん!今日のこと父ちゃんや兄ちゃん達には内緒だよ!」
コヌア「内緒にしといてもすぐバレちゃうでしょ?冒険者さんに助けられてるんだから、早く帰って怒られなさい」
ラジム「やだな……でも仕方がない!じゃあ!」
ばたばたばたばた
キキョウ「潔いな」
コヌア「フフッ相変わらずせわしいんだから。とにかく、パレッテさんにはお世話になりました。すぐに温泉の用意をいたしますからゆっくり休んでくださいね」
クロ「温泉!!!!」
アオニ「うるさい」
初めてのダンジョン探索を無事に終えた一行は、温泉宿こもれびの温泉につかる。
……言うまでもなく混浴ではない。
アオニ「ぷはーいい湯―やっぱり温泉はいいねぇ〜」
クロ「そっちは1人で貸切状態なんですよね?どうですか?」
アオニ「いい感じだよー快適快適」
ナギット「露天風呂はこっちの声が届くのか……」
キキョウ「温泉って生まれて初めてー!ウヒョーたーのしー!」
ナギット「泳ぐのはマナー違反だろうが!」
アオニ「てか、キキョウってあのビジュアルで男湯って大丈夫なの?いや男なのは間違いないんだろうけど」
キキョウ「大丈夫って何が?」
クロ「大丈夫ですよフカ子。キキョウはこちら側で全く問題ありません、うっかり確認できてしまったので」
アオニ「そう……君にとっちゃ辛かっただろうに……」
クロ「理解してくれるのはフカ子だけですっ……!!」
キキョウ「なんスかあれ」
ナギット「知らん」
キキョウ「んん?ちょっと気になったんだけどさ、なんでクロってアオニのことフカ子って呼ぶんだ?文字数しか合ってないじゃん」
クロ「ああ、このあだ名ですか?実はアオニという名前は本名ではなくフカ子本人が付けた名前でして……フカ子は本名からとったあだ名なんですよ」
キキョウ「マジ?」
ナギット「偽名を使わないといけない事情でも?」
アオニ「そんな厄介な事じゃないよ……ただ、前の名前がどうしても好きになれなかっただけ。アタシだってもう19だし、自分で好きな名前を名乗ったっていいじゃない」
クロ「私は前の名前も好きですけどねーだから今でもフカ子と呼ばせてもらってますが」
キキョウ「名前変えたならあだ名も変えればいいのに」
クロ「出会った時から彼女はフカ子だったので。私にとってフカ子という呼び名はとても深い意味のあることなのですよ、ええ」
キキョウ「俺たち部外者にはわからないふかーい事情があるってコトかー仲良いんだなー」
クロ「それほどでもありませんよ」
アオニ「悪くはないよねそういえば……うん」
ナギット「(どういう関係なんだ……?)そういえば、拠点の宿はどうするんですか?今日はとりあえずここに泊まりますけど」
アオニ「温泉もいいし晩御飯も美味しかったし、コヌアさんは優しいし……ここにしちゃおうかなーって思ってるよ。また後で話してくる」
温泉で旅の疲れを癒した一行は、その後すぐに床に着いたのであった。
そして、次の朝。
コヌア「おはようございます。パレッテさん。昨夜はゆっくり休まれましたか?何かありましたら遠慮なく……」
クロ「はい、では早速……」
キキョウ「あれ」
ナギット「どうした」
キキョウ「今なにか変な感じが……」
地震だ!
アオニ「おおおっとお!?」
クロ「あわわわわわわ!!」
キキョウ「でかい揺れだなぁ」
ナギット「動じろ!」
揺れはすぐにおさまった。
アオニ「あーびっくりしたぁ。久しぶりだよこんなでっかい地震」
クロ「幸い、物は倒れなかったようですね、安心しました」
アオニ「まずテーブルの下から出てこい」
コヌア「……おさまったようですね……よかった……」
ナギット「お怪我はありませんか?」
コヌア「はい、ありがとうございます……それより、驚かれましたか?ここではよく地震が起きるんですよ。最近特に多くて、街のみんなはもう慣れっこみたいですが私は未だにハッとしちゃいますね」
アオニ「自然災害の慣れは怖いよ?大丈夫だと思ってたかを括ってたら予期せぬ被害が出て皆がパニックになるときだってあるんだから、コヌアさんぐらいの反応が丁度いいんだよ」
クロ「それはもしや経験論ですか?」
アオニ「どうだか……おさまったところだし、そろそろ出かけよう」
コヌア「今からおでかけですか?でしたらラジムがいるガラク工房へ行かれてみてはいかがでしょうか?ラジムも喜ぶと思いますよ。あと……不思議のダンジョンで倒れるとアイテムやお金がなくなると聞いています。弟を助けてくれたお礼です。こちらをどうぞ!」
アリアドネの糸を3個手に入れた!
アオニ「わあお!いいの!?やったね!」
キキョウ「この毛玉って何の意味があるんだ?」
コヌア「このアリアドネの糸は不思議のダンジョンから安全に脱出できるアイテムです。冒険にはひとつあれば十分かもしれません。残りは私共の倉庫に預けていただければ大切に保管いたします。アイテムだけでなくお金を預かるサービスもやっておりますので、その際には遠慮なく申しつけてくださいね」
アオニ「それじゃあ遠慮なく利用させてもらうよ。いやー助かっちゃうなー」
コヌア「それからサービスでこちらもどうぞ。なくなったらいつでもお作りしますのでじゃんじゃん食べてくださいね」
コヌアのお弁当を手に入れた。
クロ「美女の手作りお弁当!!」
アオニ「うるさい」
キキョウ「いつまでテーブルの下にいるんだよ」
美女の手作り弁当をひっさげ、一行はガラク工房を訪れた。
ラジム「あ!パレッテさん!来てくれたんだ!ありがと!あの後父ちゃんから大目玉食らってさあ~参ったよ」
クロ「想像通りのオチで安心しました」
ラジム「まあ、ダンジョンで素材がとれたからよかったよ。これがないと武器や防具が作れないからね。うちは冒険に必要な武器や防具を作って売ってるんだ」
キキョウ「ほうほう」
ラジム「父ちゃんや兄ちゃん達は奥で鍛冶仕事。んで俺はここで店番ってワケ、でも素材がないと作れない。だからダンジョンで採れた素材を冒険者さん達からいつも買い取ってるんだ!パレッテさんもダンジョンで素材が採れたらじゃんじゃん売ってね!リストも作っておくから!じゃん!」
アオニ「商売上手だなぁーでも正直なのは好きだし利用させてもらうよ」
ラジム「まいどどーも!」
キキョウ「うわー!すげー!武器がいっぱいあるなぁ!」
アオニ「うん?こういう所に来るのって初めてなの?」
キキョウ「まあな!武器って業者の人に頼んで作ってもらうみたいな感じだったから、自分で買いに行くのっていうのはやったことなかったんだよ」
クロ「ほうほう、なるほど……」
ナギット「だからペラペラ喋るんじゃねぇよ」
キキョウ「えーなんで怒るんスかー」
アオニ「そんなことより武器だよ!武器!アタシは突剣を持ちたかったからここでよーやく手に……」
クロ「よかったですねぇフカ子……って、どうしたんですか?突然固まって」
アオニ「突剣……高い……買えない……」
クロ「あらま」
ナギット「一番高い突剣が買えないだけでしょう?安いやつなら買えますよ」
アオニ「嫌だ一番高いのがいい!だって強いから!」
ナギット「えええ……」
ラジム「あっ!そうだ!パレッテさん!冒険者ギルドには行った?まだなら一度ギルドによってみるといいよ!俺を助けてくれた報酬がもらえるんじゃないかな!」
アオニ「ここって国の政をする施設ないの?」
クロ「あるとしても冒険者に協力しないスタンスかもしれませんね、珍しいです」
仕事の報酬を貰いに冒険者ギルドへ。
トラオレ「おっパレッテか。昨日はラジムを助けてくれたそうだな、ありがとう。これは報酬だ。受け取ってくれ」
500エン、大きなパン、アムリタを受け取った!
アオニ「……さっきキキョウの刀を買わないでおけば突剣が買えたのでは……?」
クロ「シーッ」
トラオレ「ここ冒険者ギルドでは冒険者たちをサポートするだけでなく……街で困ったことがあったらそれを仕事として冒険者たちに斡旋しているんだ。だから、なんか仕事が欲しい時はここを覗いてみるといい」
アオニ「ミッションとかの仕事はここで受け取れるのかーなるほど」
クロ「冒険者は冒険者でなんとかしやがれってことなんですかね、この国の政治は」
キキョウ「観光の商売で忙しいんだよきっと」
トラオレ「あと、もっと細かい仕事なら黄金の麦酒場でありつける。弟のヨボがコックをやっている酒場だ、後で行ってみたらどうだ?」
クロ「そっちはクエストですかね」
アオニ「んーじゃあここに仕事がなかったらそっちに……」
ばたん!
女ガンナー「トラオレさんいる!?ちょっと来て!」
四人『!?』
トラオレ「むっ、どうした?」
女ガンナー「さっき地震があったよね?たぶんそのせいだと思うんだけど探索に出ていた冒険者達から報告が」
トラオレ「わかった。案内してくれ」
トラオレは女ガンナーと共に出ていってしまった。
アオニ「お、女ガンナーのグラをそのまま使ってきた……文章だけのモブじゃなかった……!」
クロ「2PカラーのNPCがいるかと思いきや妙なところで豪華というか贅沢というかありがとうございますというか」
キキョウ「よくわからないけどすげーってこと?」
ナギット「たぶん」
トラオレがいなくなってしまったため、一行は黄金の麦酒場へ
「お客さん!いらっしゃーい!好きなテーブルにどうぞ!」
クロ「初めまして美しいひ」
刹那アオニがクロの右足を以下略
「ひ?」
アオニ「お気遣いなく」
ナギット「ええっと……僕たちはトラオレさんからここを紹介されて来たのですが」
「え?トラオレさんから?そっか!冒険者の人達か!」
驚いたような顔を見せた途端、カウンターの奥からヨボが姿を見せる。
ヨボ「おおっ!君達か!ラジムを助けてくれたそうだな!ありがとう!」
「あれ?マスターこの人達と知り合いなんですか?」
ヨボ「ああ、昨日ちょっとな。新人のパレッテだ」
ムッコラン「そっかー私はムッコラン。よろしくね。ここはマスターの料理が評判のお店なんだけど……やってきたお客さんからクエストと呼ばれる仕事がいつも集まってくるの。内容は素材探しから魔物退治まで様々よ。パレッテさんもよかったら食事のついてにクエストも引き受けてみてね」
クロ「ありがとうございますそうします」
アオニ「食事の値段的に最初はご飯じゃなくてクエストメインになりそうだけどね」
ヨボ「安心しろ、そういう時のためってワケじゃないが、たまーにうっかり作りすぎてしまうことがあるんだ!その時はタダで料理を出すぞ!」
キキョウ「おお〜!タダメシってやつか!しばらく食べ物には困りそうにないッスね!」
ナギット「宿の料理があるだろうが」
いくつかのクエストを引き受けてから、一行は冒険者ギルドに戻った。
アオニ「トラオレさん戻ったかなー」
「……あっ!」
アオニ「え?」
「こんにちは!初めまして!てへっ!」
アオニ「えっ、な」
動揺している間に少女は走り去ってしまった。
アオニ「い、今のは……?」
トラオレ「おおっパレッテ!突然なんだが頼みができた、砦を建て直してくれないか?」
女ガンナー「ゴメン、私がいけばいいんだけど今は手が離せなくて」
キキョウ「そりゃ別に構わないけど砦ってなに?」
クロ「砦は冒険者みんなで建ててきた拠点です。世界樹までの道は不思議のダンジョンが阻んでいるので一筋縄にはいきません。そこで、世界樹に少しずつでも近付けるようダンジョンに拠点を築いているのですよ」
トラオレ「山登りで言う山小屋みたいなもんだな」
女ガンナー「さっきの地震で第2迷宮B1Fの砦が壊れちゃったの。申し訳ないけど引き受けてくれない?」
アオニ「そりゃあもちろん!」
キキョウ「あれ、ここでわざといいえを選んで反応を楽しむやつするんじゃないのか?」
アオニ「ああうんぶっちゃけボタン連打しててつい」
ナギット「おい」
トラオレ「おおっ!引き受けてくれるか!ありがたい!1500エンやるから持っていくがいい」
キキョウ「やった!前金ってやつ!?」
クロ「報酬の前金ではなく砦を建てるためのお金です。結構な額が動くんですよあれは」
キキョウ「……」
ナギット「そんな顔するな」
女ガンナー「ほんと助かる!第2迷宮B1Fに着いたら砦を建ててね!あと、地震のせいか第2迷宮のヌシが暴れてるの。ちょっと気が荒くなってるだけだから倒せば正気を取り戻して大人しくなると思う!だからヌシを見つけたらついでに鎮めといてね!シクヨロ!」
女ガンナーは走り去っていった。
ナギット「……はぁ!?面倒な仕事を押し付けるだけ押し付けて逃げたぞあいつ!!」
キキョウ「用事があるって言ったじゃないッスか」
ナギット「そりゃそうだけど!ヌシなんて大物の魔物の討伐をそう簡単に……」
アオニ「ついでぐらいの気持ちで言ったんだろうし大したことないんじゃない?」
クロ「警戒するにこした事はありませんが、可愛らしい女の子の頼みとあれば断れません。砦のついでにサクッと倒してしまいましょう!」
ナギット「……いいのかよ……」
キキョウ「いいんじゃないッスか?本人達がそう言ってるなら」
第2迷宮に行くため船着き場を訪れると、さっきの少女が近づいてきた。
「あっ!さっきギルドで会ったね!」
アオニ「あ、うん?そうだね」
キキョウ「なんだよその馴れ馴れしい態度!失礼だなー初対面相手に!」
ナギット「お前が言うか?」
クロ「可愛らしいお嬢さん。お名前は?」
ナディカ「私はナディカ。カナハルタから取材でやってきたの、世界樹に挑む冒険者の取材にね、こう見えても記者をやってるの!」
アオニ「カナハルタ……?聞いたことないなぁ、クロは?」
クロ「私も初めて耳にする土地です」
ナギット「僕もですね」
キキョウ「おなじく!」
ナディカ「ねえ君達!これから不思議のダンジョンに行くんでしょ?」
アオニ「うん。急いでるから取材は後で……」
ナディカ「私も連れてってくれないかなぁ?迷惑かけないから!お願い!」
クロ「はい!!」
アオニ「まっすぐな笑顔やめろ!ダメダメ!武器もない素人をダンジョンに連れて行って、もしも何かあったら責任とれません!」
ナディカ「ええーどうしても……ダメ……?」
クロ「そんなことありませんよ!」
アオニ「太文字やめろ!ダメだってば!」
ナディカ「そっか……足手まといにもなるもんね……仕方がない。今回は別の冒険者を当たってみるよ」
クロ「えっ……」
ナギット「すっげぇショック受けてる」
キキョウ「ロリコンすか」
ナディカ「じゃあこれあげる!冒険がんばってね!今度また取材させてね!」
アオニ「うんうん、取材だけならなんでもいいからまた別の機会にね」
アオニにアムリタを渡したナディカはそのまま去って行った。
アオニ「まあ他を当たっても結果はここと同じだと思うけどね」
ナギット「ちゃんと言ってあげててくださいよ……鬼ですかアナタ」
【次回予告】
アオニ「やっほーアタシアオニ!花もときめく可憐な女子冒険者!よろしくね!」
ナギット「えっ、何が始まったんです?」
アオニ「今日も元気に冒険だーって思った矢先!ダンジョンまでの道のりを塞ぐのは宿命のライヴァルギルドのみなさんだった!」
キキョウ「グフフフフ……お前たちをダンジョンに行かせなければいつまで経っても名声は貰えず人々は我らを讃え、崇め、お布施とかくれる!こんなぬるぬるのぬるま湯にぬくぬくと浸かる日々を邪魔されてたまるかぁ!」
ナギット「ライバルギルドってお前かよ」
アオニ「なにおー!アタシがこの程度の妨害に屈すると思っているのか!こうなったらその場のノリで変身よ!しゃらーんきらーんぴらららーん」
キキョウ「うおっまぶしっ」
アオニ「変身完了!美少女冒険者アオニちゃんの正体は!悪いことをする邪悪な冒険者達を成敗し、ダンジョンの秩序を守る魔法少女だったのだ!この魔法のキングスライサー(追加効果即死)で切り刻んんであげる!」
キキョウ「ギャー!タスケテー!せめて短冊切りにしてー!」
アオニ「次回!魔法冒険者アオニの軌跡、第2話!必殺!二刀流スライサーの悪夢!ダンジョンの平和はアタシが守る!」
ナギット「なんだこの頭の悪い会話……」