漆黒クリスマス
さて、子供たちが屋敷の外に遊びに行っている間、テーブル周辺から全く移動しなかったアルスティたち、再びテーブルを囲んでブラックサンタの話題を取り上げていました。
「それにしても、おじさんがブラックサンタの話をするなんて意外だね〜」
「そうか?」
「しかも無駄に詳しかったわね、どうして?」
唐突にブラックサンタの話を子供達にしたレグの行動にニケロとアルスティの疑問は尽きません。いつもは女の子の話ばっかりするようなオッサンだというのに。
とはいえ、レグ本人はそこに疑問を持たれるとは思っていなかったのでしょう。一瞬だけキョトンとした後「あー、まあそれはなぁ……」と、少々濁しながらも話を始めます。
「おじさんの故郷っつーか、育った施設の恒例行事だったというか」
「恒例行事?」
「施設〜?」
「あれ?おじさんが生まれて間もなく施設にボッシュートされた話ってまだ2人にしてなかったっけ?」
『してない』
真顔で否定。
「てか重い」
さらにアルスティから苦情。
「そうか?まあ、そんな理由もあっておじさんは施設育ちでねぇ、そこでは毎年クリスマスになると、普通のサンタクロースに混じってブラックサンタが来てたんだよ」
「……へ?」
「どゆこと〜?」
「って言っても、悪戯ばっかりしたり、先生たちの言う事を聞かないようなやんちゃな問題児への戒めとお仕置きだな。よくあるだろ?大人が子供に“悪いことばっかりしているとナントカされるぞ!”って脅すやつ。それと一緒」
「そっか〜ブラックサンタは実在してなかったんだね〜」
お忘れかもしれませんが、ニケロは子供たちほどではないにしてもサンタクロースの存在を信じている貴重な大人です。幼少期から死ぬまでの長い年月、ずっと病院という閉鎖的な空間にいたのですからそう考えてしまうのも無理ありません。
去年のクリスマスが終わってからそれを知ったアルスティとレグ、少し顔を引きつらせてはいますが真実を伝えるつもりはありません。というかタイミングがわかりません。
「……ま、まあ、脅し文句って言ってもウチでは信憑性を持たせるために毎年1人2人がブラックサンタからのプレゼントを貰ってたけどな。子供ながらに残酷な光景だと思ったぜ?ワクワクしながら開けたプレゼントの中身が生ゴミばっかりだったのは」
「トラウマ不可避だね〜」
「そりゃあ子供ならみんな怯えるわよねぇ……何をしてどうしでかしたら生ゴミばっかりのプレゼントがもらえるのか気になるけど」
「おじさんは貰ってないんだよね〜?ブラックサンタからのプレゼント」
さっきも聞きましたが確認のためにもニケロが尋ねると、レグはどや顔。
「おじさんは子供の頃から大人の言う事をちゃーんと聞く良い子だったからブラックサンタからプレゼントが来たことはない!どや!」
「でも完成した大人がこれだから信憑性がないんだよね〜」
「笑顔でディスらないでー?」
中年のハートがほんの少し傷つけられた時でした。
「なに真顔でサンタの話してんの?」
「ないわー」
登場と同時にディスってきたのはミアリとエトスのシアスタコンビ。その手にはお菓子の袋が握られており、キッチンからいくつか拝借してきた様子です。
「うおっ!?思春期コンビか!」
「思春期コンビゆーな」
「コンビ名はともかく、そんな軽蔑するような目で見ないでくれない?心が痛むから」
やんわり言ったアルスティでしたが、ミアリはあからさまに「はあ?」と言いたげな顔。いつもローナを罵倒する時に向けているのと同じ表情でした。
「だって大の大人がサンタって……私たちだってサンタを信じる歳でもないし、そんなに興味ないんだけど引くんだけど」
「信じる?」
首を傾げたのはもちろんニケロでした。彼の中ではサンタクロースは実在する人物ですから。
彼の反応にシアスタコンビがキョトンとしながらも「信じるも何もサンタクロースは存在しない」と、どちらかが事実を口に出す直前、
「信仰制度のある地域もあるんだよなあーたん!!」
「そーよねー!!地域によってサンタの認識ってバラけてるのよねー!!お雑煮みたいな感じで!」
事実を覆い隠す勢いの大声で誤魔化す2人。夢を守るのは大人の仕事です。顔はやや引きつっていますが。
「は?」
「何言ってんだこの大人……」
『いいから!!』
とにかく必死。ニケロが子供の頃から純粋に信じ続けたモノを守るため、思春期コンビからの哀れみの視線も甘んじて受け止めましょう。
「必死すぎて引くんだけど」
ミアリが毒を飛ばしてきますがローナじゃないので喜びません。
「大人っつーのはなぁ……子供の夢を守る義務があるんだよ……!純粋に信じている子供の心を踏みにじってまで現実を押し付けるなんて残酷な好意、おじさんは死んでもできねぇ……!」
「何の話〜?」
「ルテューアたちのことよ、きっと」
2時の方向を見てアルスティは答えたのでした。
普段ならここで話が終わるところでしたが、今日は思わぬ所から変化球が飛んでくるわけでして、
「だけどよ、夢を夢のままにさせておいていつまでも現実を教えないのも残酷な行為だと思うぞ?」
発言の主はエトスでした。ミアリも「言われてみればそうね」と納得の表情。とても現実的に生きる10代ですね。
「まさかの辛辣な意見におじさん動揺を隠せない!」
「じゃあととくんもみっちーも〜クリスマスとサンタさんを心の底から純粋に楽しみにしているるーくんたちにも現実突きつけられるの〜?」
『無理』
「だよね〜」
即答でした。
さらにミアリとエトスは続けます。
「久しぶりに見たわ……あそこまでクリスマスを楽しみにしている子供を……」
「つーか余計なことを吹き込んだりしたらアルスティに五体不満足にされるだろ、おっさんみたいに」
「よくわかってるじゃない」
パキパキと指を鳴らす我らが旅団のリーダー。一体この手で何度レグをゴアさせてきたのでしょうか、数えるのも馬鹿らしい。
なぜか誇らしげな顔をしている自業自得がとても似合うおっさんは無視するとして、
「まあ、幼児2人とルテューアがクリスマスを純粋に楽しむのはまあわかるんだけどさぁ……ヨゼはなくない?マジドン引きなんだけど」
「勘弁してやれよ。ヨゼもルテューアも育った環境が特殊すぎるんだからさぁ」
あの2人が平凡な人生とは程遠い環境の中、ギリギリを保って生きいたのは旅団内共通認識です。特にヨゼなんて死ぬまで野良犬みたいな生活してましたし。
それを出されたらミアリでも文句を言えません。苦い顔をしていますが話を変えるのです。
「……まあ、いいわ。てかさっき話してたブラックサンタって何?」
「ん?みっちー知らないの〜?」
「全然、エトスは?」
「俺も知らねー」
互いに首を振るシアスタコンビに説明をしたのはレグではなくアルスティです。
「ブラックサンタっていうのは、クリスマスの夜に悪いことばかりしている子供にゴミやら汚物やら内臓やらをプレゼントしたり、時に拉致も平気でやっちゃうような闇堕ちしたサンタのことよ」
「あーたん的に解釈するとそうなっちゃうの?怖っ……」
間違ってはいませんが言い方が少々邪悪ですね、アルスティ本人にそのような自覚はないらしくキョトンとしていますが、レグもニケロも引き気味です。
「ふーん、つまりサンタの真逆ってことね」
「酷いことするんだなぁ」
引いてる大人とは違い思春期コンビは冷静な対応。珍しいけど驚くようでもないモノを見るような表情で話を聞いていました。
そこにすかさず食いついてくるのがレグで、
「だろだろ?子供にとってはまさに恐怖の対象!2人だって、自分がもうちょっと子供の時だったらきっと怖がってただろ?」
『いや別に』
「………………え?」
想定外の反応にレグ硬直。
「迷惑な話だけど、怖いかって言われたら別にーって感じだし?そもそもいるわけないじゃんそんなの」
「えっ?えっ?」
「この世の中、ブラックサンタよりも怖いモノなんて山のようにあんだろ」
「えええ……?」
レグ、動揺するあまり「え」としか言えなくなっています。自分の幼少期の思い出を踏み潰されたような虚しさが胸を突き抜け、心に木枯らしが吹いてます。
動揺しっぱなしのレグを無視したニケロは、エトスに向かって、
「ととくんのブラックサンタよりも怖いモノってなに〜?」
「首絞めプレイ強要してきた中年ジジイ」
「そりゃあ怖いね〜」
解説についてはノーコメントです。気になる方は確実責任を持って調べてくださいね。
ミアリの顔が若干引きつる中、アルスティだけは首を傾げています。
「首絞め?プレイ?」
「あー……うん、知らなかったらそれでいいんだよ、それで。その方が幸せだからさ」
「はあ……?」
言葉の意味もエトスの話の内容もサッパリですが、今彼らに尋ねても誰も答えてくれないでしょう。だから後でミーアに聞く予定。
「今時の若者がそんなのに怯えるワケないでしょおっさん、時代遅れなんじゃない?」
「昔のトラウマを共有したい気持ちはわかるけどさ、相手を見て言ったほうがいいぞ、おっさん」
口々に言われてしまい「え」すら言えなくなってしまったレグは、その場で黙り込み、2人が去るまで硬直したままだったと言います。
「それにしても、おじさんがブラックサンタの話をするなんて意外だね〜」
「そうか?」
「しかも無駄に詳しかったわね、どうして?」
唐突にブラックサンタの話を子供達にしたレグの行動にニケロとアルスティの疑問は尽きません。いつもは女の子の話ばっかりするようなオッサンだというのに。
とはいえ、レグ本人はそこに疑問を持たれるとは思っていなかったのでしょう。一瞬だけキョトンとした後「あー、まあそれはなぁ……」と、少々濁しながらも話を始めます。
「おじさんの故郷っつーか、育った施設の恒例行事だったというか」
「恒例行事?」
「施設〜?」
「あれ?おじさんが生まれて間もなく施設にボッシュートされた話ってまだ2人にしてなかったっけ?」
『してない』
真顔で否定。
「てか重い」
さらにアルスティから苦情。
「そうか?まあ、そんな理由もあっておじさんは施設育ちでねぇ、そこでは毎年クリスマスになると、普通のサンタクロースに混じってブラックサンタが来てたんだよ」
「……へ?」
「どゆこと〜?」
「って言っても、悪戯ばっかりしたり、先生たちの言う事を聞かないようなやんちゃな問題児への戒めとお仕置きだな。よくあるだろ?大人が子供に“悪いことばっかりしているとナントカされるぞ!”って脅すやつ。それと一緒」
「そっか〜ブラックサンタは実在してなかったんだね〜」
お忘れかもしれませんが、ニケロは子供たちほどではないにしてもサンタクロースの存在を信じている貴重な大人です。幼少期から死ぬまでの長い年月、ずっと病院という閉鎖的な空間にいたのですからそう考えてしまうのも無理ありません。
去年のクリスマスが終わってからそれを知ったアルスティとレグ、少し顔を引きつらせてはいますが真実を伝えるつもりはありません。というかタイミングがわかりません。
「……ま、まあ、脅し文句って言ってもウチでは信憑性を持たせるために毎年1人2人がブラックサンタからのプレゼントを貰ってたけどな。子供ながらに残酷な光景だと思ったぜ?ワクワクしながら開けたプレゼントの中身が生ゴミばっかりだったのは」
「トラウマ不可避だね〜」
「そりゃあ子供ならみんな怯えるわよねぇ……何をしてどうしでかしたら生ゴミばっかりのプレゼントがもらえるのか気になるけど」
「おじさんは貰ってないんだよね〜?ブラックサンタからのプレゼント」
さっきも聞きましたが確認のためにもニケロが尋ねると、レグはどや顔。
「おじさんは子供の頃から大人の言う事をちゃーんと聞く良い子だったからブラックサンタからプレゼントが来たことはない!どや!」
「でも完成した大人がこれだから信憑性がないんだよね〜」
「笑顔でディスらないでー?」
中年のハートがほんの少し傷つけられた時でした。
「なに真顔でサンタの話してんの?」
「ないわー」
登場と同時にディスってきたのはミアリとエトスのシアスタコンビ。その手にはお菓子の袋が握られており、キッチンからいくつか拝借してきた様子です。
「うおっ!?思春期コンビか!」
「思春期コンビゆーな」
「コンビ名はともかく、そんな軽蔑するような目で見ないでくれない?心が痛むから」
やんわり言ったアルスティでしたが、ミアリはあからさまに「はあ?」と言いたげな顔。いつもローナを罵倒する時に向けているのと同じ表情でした。
「だって大の大人がサンタって……私たちだってサンタを信じる歳でもないし、そんなに興味ないんだけど引くんだけど」
「信じる?」
首を傾げたのはもちろんニケロでした。彼の中ではサンタクロースは実在する人物ですから。
彼の反応にシアスタコンビがキョトンとしながらも「信じるも何もサンタクロースは存在しない」と、どちらかが事実を口に出す直前、
「信仰制度のある地域もあるんだよなあーたん!!」
「そーよねー!!地域によってサンタの認識ってバラけてるのよねー!!お雑煮みたいな感じで!」
事実を覆い隠す勢いの大声で誤魔化す2人。夢を守るのは大人の仕事です。顔はやや引きつっていますが。
「は?」
「何言ってんだこの大人……」
『いいから!!』
とにかく必死。ニケロが子供の頃から純粋に信じ続けたモノを守るため、思春期コンビからの哀れみの視線も甘んじて受け止めましょう。
「必死すぎて引くんだけど」
ミアリが毒を飛ばしてきますがローナじゃないので喜びません。
「大人っつーのはなぁ……子供の夢を守る義務があるんだよ……!純粋に信じている子供の心を踏みにじってまで現実を押し付けるなんて残酷な好意、おじさんは死んでもできねぇ……!」
「何の話〜?」
「ルテューアたちのことよ、きっと」
2時の方向を見てアルスティは答えたのでした。
普段ならここで話が終わるところでしたが、今日は思わぬ所から変化球が飛んでくるわけでして、
「だけどよ、夢を夢のままにさせておいていつまでも現実を教えないのも残酷な行為だと思うぞ?」
発言の主はエトスでした。ミアリも「言われてみればそうね」と納得の表情。とても現実的に生きる10代ですね。
「まさかの辛辣な意見におじさん動揺を隠せない!」
「じゃあととくんもみっちーも〜クリスマスとサンタさんを心の底から純粋に楽しみにしているるーくんたちにも現実突きつけられるの〜?」
『無理』
「だよね〜」
即答でした。
さらにミアリとエトスは続けます。
「久しぶりに見たわ……あそこまでクリスマスを楽しみにしている子供を……」
「つーか余計なことを吹き込んだりしたらアルスティに五体不満足にされるだろ、おっさんみたいに」
「よくわかってるじゃない」
パキパキと指を鳴らす我らが旅団のリーダー。一体この手で何度レグをゴアさせてきたのでしょうか、数えるのも馬鹿らしい。
なぜか誇らしげな顔をしている自業自得がとても似合うおっさんは無視するとして、
「まあ、幼児2人とルテューアがクリスマスを純粋に楽しむのはまあわかるんだけどさぁ……ヨゼはなくない?マジドン引きなんだけど」
「勘弁してやれよ。ヨゼもルテューアも育った環境が特殊すぎるんだからさぁ」
あの2人が平凡な人生とは程遠い環境の中、ギリギリを保って生きいたのは旅団内共通認識です。特にヨゼなんて死ぬまで野良犬みたいな生活してましたし。
それを出されたらミアリでも文句を言えません。苦い顔をしていますが話を変えるのです。
「……まあ、いいわ。てかさっき話してたブラックサンタって何?」
「ん?みっちー知らないの〜?」
「全然、エトスは?」
「俺も知らねー」
互いに首を振るシアスタコンビに説明をしたのはレグではなくアルスティです。
「ブラックサンタっていうのは、クリスマスの夜に悪いことばかりしている子供にゴミやら汚物やら内臓やらをプレゼントしたり、時に拉致も平気でやっちゃうような闇堕ちしたサンタのことよ」
「あーたん的に解釈するとそうなっちゃうの?怖っ……」
間違ってはいませんが言い方が少々邪悪ですね、アルスティ本人にそのような自覚はないらしくキョトンとしていますが、レグもニケロも引き気味です。
「ふーん、つまりサンタの真逆ってことね」
「酷いことするんだなぁ」
引いてる大人とは違い思春期コンビは冷静な対応。珍しいけど驚くようでもないモノを見るような表情で話を聞いていました。
そこにすかさず食いついてくるのがレグで、
「だろだろ?子供にとってはまさに恐怖の対象!2人だって、自分がもうちょっと子供の時だったらきっと怖がってただろ?」
『いや別に』
「………………え?」
想定外の反応にレグ硬直。
「迷惑な話だけど、怖いかって言われたら別にーって感じだし?そもそもいるわけないじゃんそんなの」
「えっ?えっ?」
「この世の中、ブラックサンタよりも怖いモノなんて山のようにあんだろ」
「えええ……?」
レグ、動揺するあまり「え」としか言えなくなっています。自分の幼少期の思い出を踏み潰されたような虚しさが胸を突き抜け、心に木枯らしが吹いてます。
動揺しっぱなしのレグを無視したニケロは、エトスに向かって、
「ととくんのブラックサンタよりも怖いモノってなに〜?」
「首絞めプレイ強要してきた中年ジジイ」
「そりゃあ怖いね〜」
解説についてはノーコメントです。気になる方は確実責任を持って調べてくださいね。
ミアリの顔が若干引きつる中、アルスティだけは首を傾げています。
「首絞め?プレイ?」
「あー……うん、知らなかったらそれでいいんだよ、それで。その方が幸せだからさ」
「はあ……?」
言葉の意味もエトスの話の内容もサッパリですが、今彼らに尋ねても誰も答えてくれないでしょう。だから後でミーアに聞く予定。
「今時の若者がそんなのに怯えるワケないでしょおっさん、時代遅れなんじゃない?」
「昔のトラウマを共有したい気持ちはわかるけどさ、相手を見て言ったほうがいいぞ、おっさん」
口々に言われてしまい「え」すら言えなくなってしまったレグは、その場で黙り込み、2人が去るまで硬直したままだったと言います。