☆牢獄と人形兵
久しぶりの豪勢な夕食にありつけた旅団一行は一心不乱に料理を食し、娘をなんともいえない複雑な感情によって涙を流させてから粛々と元の世界に戻っていったのでした。
そして、久しぶりの馬車小屋。
魔女ノ旅団一行は早速「一体どこをほっつき歩いていたんだ」とドロニアから大目玉を喰らいました。地上と地下迷宮は時間の流れるスピードが異なっているとはいえ、1日以上は過ぎていたらしくルカには泣きつかれるしで大変だったそうです。
怒鳴り声を適当に聞き流し、泣きじゃくるルカを宥めた頃にはすっかり夜も更けていました。ネルドはまだ戻って来ていません。
「無実の罪を着せられて3日間閉じ込められていただけであれだけ怒る必要もないと思うけどねぇ」
月明かりに照らされた人形作業台の上に座りこみ、アルスティは呆れるようにぼやいてウンブラの赤ワインが入ったグラスを傾けていました。時刻は深夜10時過ぎ、ドロニアたちは2階で就寝中。
人形兵たちは馬車小屋の中では全身約30センチほどの人形サイズに戻り、小屋の中でだけ好き勝手動くことが許されています。当然、馬車小屋から出てしまうと魔法は消え、ただの人形に戻ってしまう不便極まりない体ですが、再び生を謳歌させてもらっている以上文句は言えません。
彼女の隣にいるのはレグとニケロで、
「あー久々の酒が素体にしみる……まー魔女様の心配は俺らじゃなくてレキテイだけだったけどな。この世に1つしかない希少なシロモノがなくなっちまうのをあの方は何よりも恐れているみたいだ」
「地下迷宮の探索ができなくなっちゃうみたいだもんね~」
レグはウンブラの赤ワインを直のみ、ニケロはベリータルトを食べて小腹を満たしながら3日ぶりの安息の時間を堪能していました。
「明日からまたヴェルトトゥルムの探索だけど……正直気が重いわー完全に重罪人扱いだもの」
「キングアリスの件は理不尽だったとはいえ、他にもやっちまったからな、俺たち」
「さもさもがベイらんみたいに鬱モードこじらせるぐらいには暴れたね~確か」
空腹の限界による暴走は非常に恐ろしいモノでして、1分1秒でも早く食べ物を摂取したかった人形兵たちは手当たり次第に暴れ回ったのです。レストランの1件以外にも色々やらかしているのですよ。
「これからどうなっちゃうのかな~ヴェルト全域で僕たちが指名手配されて~魔獣が手当たり次第襲い掛かってきたりするのかな~しんどそうだね~」
「うえ~あの覆面ハンマー苦手なのよねー、謎の青い液体をばら撒いてくるんだもん」
「あーたんせめて謎の白い液体って言ってくれない?おじさんが喜ぶ」
「断る」
キッパリ拒否した後、しっかりレグの足を踏みつぶしておきます。ゴアまでしないのは彼女なりの優しさでしょう。
「ぎゃあ!」
思わず赤ワインが入ったボトルを落としそうになりますが、ギリギリのところで踏ん張って悲劇を回避しました。
「霧のヴェールを使えば見つからずに進めるけど、リィンフォースはできるだけ温存したいのよね。この前新しい結魂書手に入ったばっかだし」
「節約は大事だもんね~、ヴェルトの魔獣たちの勢いを弱らせることができたらいいんだけど~」
「勢い……勢い……」
左手を顎に当ててアルスティは考え始めます。とにかく思いつく限り全ての事柄を考え、思案し、静かにシンキングタイム。
「勢い……手下……指揮……ボス……」
ニケロは黙ってタルトを食べ続け、レグはまだ足の痛みに耐えている中、
「ひらめいた!」
突然立ち上がった彼女の瞳は輝いていました。希望たっぷりの美しい青色の瞳でした。
翌日、ヴェルトトゥルム議会の扉前にて。
「な、なんとか、ここまで、昇って、これたわ、ね」
肩で息を切らしながらアルスティは扉に手をついていました。後ろにはそれなりに疲弊している旅団一行の姿が見えます。
皆の表情から疲労の色が見え隠れする中、ルテューアはあまり疲れていない様子でアルスティの元までやって来ると、
「あーたん、本当に乗り込むの?仕返しなんてあんまりやっちゃいけないんじゃ……」
心優しい少年のもっともな台詞に首を縦に何度も振っているのはベイランだけでした。
「アナタの気持ちももっともよ、ルテューア……だけどアイツらは犯罪は未然に防ぐと言う名目で私たちを無理矢理地下牢に閉じ込めた挙句濡れ衣まで着せられたのよ?これは立派な反社会的行為、権力の暴走によって発生してしまった悲劇なの。私たちはその被害者として彼らを制裁し、正しい方向に導く使命がある……これは結果としてヴェルトトゥルムのためになるのよ」
「な、なるほど……意味はよくわからないけど頑張るよ!」
誰がどう聞いてもデタラメを吹き込んでいるだけに見えますが、ルテューアはあっさり信じてしまい、あーたんとヴェルトのためなら!とやる気満々、目を輝かせるのでした。
「でも場合によっちゃ本当にキングアリスを暗殺するんだよな?だったら別に冤罪ってワケでも……」
そこまで言ったベイランですがマサーファに足を踏まれてしまい発言は続けられなくなりました。
「い゛い゛っ」
「純真無垢な少年の健やかな成長を邪魔しちゃダメよ」
「あれは健やかな成長とは言わない気がしますが」
痛みに悶えて動けないベイランに変わり、反論したのはサモでしたがマサーファ、聞く耳持たず。
「というワケで!今から報ふ……じゃなくて議員の奴らの目を覚まさせるために議会に殴り込みよ!アイテム足りた?DP大丈夫?回復忘れてない?」
『問題なーし!』
「よしいざ行かん」
微妙な表情の人形兵もいますがそれらは無視してアルスティは武器を握りしめて議会の扉を開け、絶賛議論中だった議員たちを大層驚かせることになるのですが、それは別の話。
余談ですが、例のレストランは壁の崩壊を期に本格的な改装を行うことになり、結果としては店を増改築できたからよかったとあの父親は喜んでいたそうな。
END
2017.2.19
そして、久しぶりの馬車小屋。
魔女ノ旅団一行は早速「一体どこをほっつき歩いていたんだ」とドロニアから大目玉を喰らいました。地上と地下迷宮は時間の流れるスピードが異なっているとはいえ、1日以上は過ぎていたらしくルカには泣きつかれるしで大変だったそうです。
怒鳴り声を適当に聞き流し、泣きじゃくるルカを宥めた頃にはすっかり夜も更けていました。ネルドはまだ戻って来ていません。
「無実の罪を着せられて3日間閉じ込められていただけであれだけ怒る必要もないと思うけどねぇ」
月明かりに照らされた人形作業台の上に座りこみ、アルスティは呆れるようにぼやいてウンブラの赤ワインが入ったグラスを傾けていました。時刻は深夜10時過ぎ、ドロニアたちは2階で就寝中。
人形兵たちは馬車小屋の中では全身約30センチほどの人形サイズに戻り、小屋の中でだけ好き勝手動くことが許されています。当然、馬車小屋から出てしまうと魔法は消え、ただの人形に戻ってしまう不便極まりない体ですが、再び生を謳歌させてもらっている以上文句は言えません。
彼女の隣にいるのはレグとニケロで、
「あー久々の酒が素体にしみる……まー魔女様の心配は俺らじゃなくてレキテイだけだったけどな。この世に1つしかない希少なシロモノがなくなっちまうのをあの方は何よりも恐れているみたいだ」
「地下迷宮の探索ができなくなっちゃうみたいだもんね~」
レグはウンブラの赤ワインを直のみ、ニケロはベリータルトを食べて小腹を満たしながら3日ぶりの安息の時間を堪能していました。
「明日からまたヴェルトトゥルムの探索だけど……正直気が重いわー完全に重罪人扱いだもの」
「キングアリスの件は理不尽だったとはいえ、他にもやっちまったからな、俺たち」
「さもさもがベイらんみたいに鬱モードこじらせるぐらいには暴れたね~確か」
空腹の限界による暴走は非常に恐ろしいモノでして、1分1秒でも早く食べ物を摂取したかった人形兵たちは手当たり次第に暴れ回ったのです。レストランの1件以外にも色々やらかしているのですよ。
「これからどうなっちゃうのかな~ヴェルト全域で僕たちが指名手配されて~魔獣が手当たり次第襲い掛かってきたりするのかな~しんどそうだね~」
「うえ~あの覆面ハンマー苦手なのよねー、謎の青い液体をばら撒いてくるんだもん」
「あーたんせめて謎の白い液体って言ってくれない?おじさんが喜ぶ」
「断る」
キッパリ拒否した後、しっかりレグの足を踏みつぶしておきます。ゴアまでしないのは彼女なりの優しさでしょう。
「ぎゃあ!」
思わず赤ワインが入ったボトルを落としそうになりますが、ギリギリのところで踏ん張って悲劇を回避しました。
「霧のヴェールを使えば見つからずに進めるけど、リィンフォースはできるだけ温存したいのよね。この前新しい結魂書手に入ったばっかだし」
「節約は大事だもんね~、ヴェルトの魔獣たちの勢いを弱らせることができたらいいんだけど~」
「勢い……勢い……」
左手を顎に当ててアルスティは考え始めます。とにかく思いつく限り全ての事柄を考え、思案し、静かにシンキングタイム。
「勢い……手下……指揮……ボス……」
ニケロは黙ってタルトを食べ続け、レグはまだ足の痛みに耐えている中、
「ひらめいた!」
突然立ち上がった彼女の瞳は輝いていました。希望たっぷりの美しい青色の瞳でした。
翌日、ヴェルトトゥルム議会の扉前にて。
「な、なんとか、ここまで、昇って、これたわ、ね」
肩で息を切らしながらアルスティは扉に手をついていました。後ろにはそれなりに疲弊している旅団一行の姿が見えます。
皆の表情から疲労の色が見え隠れする中、ルテューアはあまり疲れていない様子でアルスティの元までやって来ると、
「あーたん、本当に乗り込むの?仕返しなんてあんまりやっちゃいけないんじゃ……」
心優しい少年のもっともな台詞に首を縦に何度も振っているのはベイランだけでした。
「アナタの気持ちももっともよ、ルテューア……だけどアイツらは犯罪は未然に防ぐと言う名目で私たちを無理矢理地下牢に閉じ込めた挙句濡れ衣まで着せられたのよ?これは立派な反社会的行為、権力の暴走によって発生してしまった悲劇なの。私たちはその被害者として彼らを制裁し、正しい方向に導く使命がある……これは結果としてヴェルトトゥルムのためになるのよ」
「な、なるほど……意味はよくわからないけど頑張るよ!」
誰がどう聞いてもデタラメを吹き込んでいるだけに見えますが、ルテューアはあっさり信じてしまい、あーたんとヴェルトのためなら!とやる気満々、目を輝かせるのでした。
「でも場合によっちゃ本当にキングアリスを暗殺するんだよな?だったら別に冤罪ってワケでも……」
そこまで言ったベイランですがマサーファに足を踏まれてしまい発言は続けられなくなりました。
「い゛い゛っ」
「純真無垢な少年の健やかな成長を邪魔しちゃダメよ」
「あれは健やかな成長とは言わない気がしますが」
痛みに悶えて動けないベイランに変わり、反論したのはサモでしたがマサーファ、聞く耳持たず。
「というワケで!今から報ふ……じゃなくて議員の奴らの目を覚まさせるために議会に殴り込みよ!アイテム足りた?DP大丈夫?回復忘れてない?」
『問題なーし!』
「よしいざ行かん」
微妙な表情の人形兵もいますがそれらは無視してアルスティは武器を握りしめて議会の扉を開け、絶賛議論中だった議員たちを大層驚かせることになるのですが、それは別の話。
余談ですが、例のレストランは壁の崩壊を期に本格的な改装を行うことになり、結果としては店を増改築できたからよかったとあの父親は喜んでいたそうな。
END
2017.2.19