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☆クリスマスが今年もやってきて

一方その頃、ラミーゾラとニケロの金髪コンビはマサーファの部屋の前にいました。
「悪いね、深夜に突然お邪魔してしまって」
「気にしなくても大丈夫よ、早く見つかるといいわね」
それじゃあ。と言い残し、マサーファは扉を閉めました。部屋から漏れていた灯りが完全に無くなり、廊下は薄暗さを取り戻します。
2人残された金髪コンビは互いに顔を見合わせて、
「まっふぁの部屋にもポメはいなかったね~」
「やれやれ、一体どこにいるのやら……」



遡ること数分前、具体的にはレグとオディロンがヨゼの部屋に到着する直前ぐらい。
ラミーゾラは後ろにニケロを引きつれ、人気のない廊下をなるべく足音を立てずに歩き、小声で言葉を交わしていました。
「僕はポメ担当なんだけど、知っての通りポメは自分の部屋を持ってないからいつも自分の好きな場所で寝ている。だからまず、あの子を探さないといけないんだ」
「僕を無理矢理協力させたのはそういう事だったんだね~ちょっとでも人数を増やして効率よく探すために~」
「そういうことだよ。馬車小屋に集合する前に僕の部屋を確認してみたけどいなかったから、他のメンバーの部屋を片っ端から当たるしかないんだよね」
やれやれとぼやく彼女は白い袋を担いでおり、猫耳(髪型)と尻尾があるにしても見た目はほぼ完ぺきなサンタクロースです。着け髭があれば完成度は更に増したことでしょう。
その袋をのんびり眺めていたニケロは、彼女がサンタコスプレ集団の中で一番大きな袋を持っていた事実を思い出し、早速質問してみます。
「大きそうな袋だけど、何が入っているの~?」
「ポメにとってすごく良い物だよ。サモと一緒に作った」
「手作りなんだ~しかもさもさもと」
ポメと同じピアフォートレスで、ファセットの関係で彼女と同じカヴンに配置されているサモも、ラミーゾラ程ではないにしてもポメを可愛がっている節があるのでニケロ納得。防御面では彼と並んで優秀ですからね。
頷くニケロに見向きもしなかったラミーゾラは、
「今頃、場酔いしたナノコの相手を無理矢理させられて苦労しているハズだから、彼の分まで僕が頑張らないといけないんだよ」
「さもさもは犠牲になったのか~」
「真面目なサモがおふざけ上級者のナノコによるストレスで倒れるか、キレたサモがアルスティから学んだ手刀でナノコを仕留めるか……どっちもあり得そうな気がしてね」
「うんうん。お酒飲んでなかったのにテンション高かったよね~鬱陶しいぐらいに」
さらりと言い切ったニケロでしたが、ラミーゾラはここで足を止めるとゆっくり振り返って、
「……彼女の事、嫌いなの?」
「まさか~」
笑顔で否定されたものの、どこか説得力に欠けていました。
彼の笑顔の裏に何があるのか、読める人間はレグぐらいです。



やりとりの後、まだ起きている人たちの部屋を手分けして訪問したのですが、どこに行ってもポメの姿形はなく、クリスマスパーティの後から姿を見ていないという話しか聞きません。
マサーファの部屋を訪問した際に合流したのは良いものの、捜査は暗礁に乗り上げてしまったのでした。
「これからどうする?」
「どうしようかな~」
「最終手段として、プレゼントは僕がサンタから預かった事にしてポメに渡すのも考えてたんだけど」
「ロマンがない展開になるね~るーくんやヨーゼフは枕元にプレゼントが置いてあったのに自分だけ手渡しってなんか可哀想だよ~」
「うっ……それもそうか……」
完全に途方に暮れていると、
「あらあら、こんな所にいらっしゃいましたか」
突然2人を呼び止める声がしたので振り向くと、ミーアの姿が目に留まりました。
台所で仕事をしていたのでしょうか、青色のエプロンを着けています。なお、エプロンにより谷間が見えません、残念ながら。
「みーさん?どうしたの~?」
「お2人に来てもらいたくて……」
『へ?』
「とにかくこちらへ……」
キョトンとしたままミーアに案内され、廊下からエントランスに出ます。2階と1階を繋ぐ階段はここしかありません。
階段を降りて扉をくぐり、着た先はダイニングです。冒頭と同じ場所。
つい先ほどまで行われていたクリスマスパーティによってかなり散らかっていたのですが、今のダイニングは床ぴかぴかテーブルも汚れ1つありません。ツリー等のクリスマスの飾りつけはそのままになっていますが、それ以外はほとんど片付いていました。
泥酔したメンバーが床の上に転がっていますが、それらは片づけられておらず放置されています。ベイランとか。
「すっかりキレイになってるね~みーさんご苦労様~」
「いえいえ……と、それよりこちらですわ」
テーブルの下を見るように促されたラミーゾラ、きょとんとしたままテーブルの側でしゃがんで覗いてみると、
「……いた」
シャンパンのボトルを抱き枕にして熟睡しているポメを発見しました。
「いつの間にこんな所にいたんだろうね~」
「見つからないワケだよ。また鎧を着たまま寝て……」
やれやれと呆れつつ袋を置き、四つん這いになってテーブルの下に入ります。ごつん、頭をぶつけた。
その音にはあえて触れず、ニケロとミーアはのんびり会話。
「どうしてシャンパンのボトルを抱いて寝てるのかな~ポメは」
「子供用のシャンパンをとても気に入っていた様子だったので、恐らくそれかと」
「中身は空っぽなのにね~分かっているのかな?」
真意はポメ本人のみ知る。
話している間に、熟睡しているポメを抱えたラミーゾラがテーブルの下から出てきました。
「くーぴー……」
満足そうな寝顔です。この二頭身ほどの可愛い生き物がオオガラスの化身の攻撃を戦術甲1つで受け止めるのですから、見た目だけで人は判断できませんね。
ラミーゾラはしっかり抱えられているシャンパンの瓶を引きはがし、ミーアに渡すと、
「このまま僕の部屋まで運ぼう、ニケロは袋を持ってきて」
「わかったよ~」
軽やかな言動で袋を持ち上げたニケロでしたがそれは想像以上の重さで、穏やかだった彼の表情が一変して真顔に。
「重っ……」
いつも片手で鈍鎚を振り回しているだけのことはあるようです。ファセットの能力が全く違うんだからちゃんと考えてほしいと心の中で愚痴を零したニケロ。口外はしません、こじれるので。
「じゃあミーア、お騒がせしたね」
「お気になさらず。素敵なクリスマスを~」
笑顔のミーアに見送られ、ポメを抱えて涼しい顔をするラミーゾラと、袋を抱えて苦しい顔をするニケロはダイニングから外に出たのでした。



ラミーゾラの部屋。
シンプルイズベストという言葉がとても似合う、生活する上で必要最低限の家具しか見られないような、悪く言えば殺風景な部屋です。ベッド以外の家具があるだけでも寝相の悪さに定評のある彼よりはマシでしょう。
ラミーゾラはニケロにドアを開けてもらって薄暗い部屋の中をすたすた歩き、ポメをベッドの上にそっと置いてやりました。
「よしっ」
「ふいー重かった~」
ドアを閉めて入り口付近に袋を置いて、ニケロは両手首を振りながらやれやれと一息。慣れない重い物を持ったのでもう手が悲鳴を上げていました。
が、元騎士副団長は遠慮と配慮を知りません。
「じゃあちょっと袋からプレゼントを出して、僕のベッドの横に置いてくれないかい?ポメを着替えさせるから」
「……はいは~い」
パシられているように感じていい気がしませんが、断る理由もないので言われた通りの仕事をします。袋の口を結んである紐をほどくことから始めますが、固く結んであるのか簡単に解けません。
その間、ラミーゾラはタンスの一番下の引き出しを開けており、
「今日のパジャマは……ミーアが渾身の作品とか言ってたピンクのネコでいいかな」
幼児用ピンク色のもこもこパジャマを取り出していました。フードにネコミミ、お尻のところには尻尾が着いている着ぐるみ風のデザインが施されている、ミーアの手作り寝間着です。
鎧を脱ぐのを嫌がるポメが少しでも気に入ってくれたら……と、可愛らしいパジャマを作り続けているものの、あまり成果は得られていない現状が続いています。詳しくは別の話。
可愛い服とか来てくれたらミーアたちが喜ぶのに……とぼやくラミーゾラを横目に、ニケロは言葉を投げかけます。
「ラムちゃんってさ~いつも進んでポメのお世話をしているけど、どうして?」
唐突だった質問に驚いたのか、彼女は目を丸くしてタンスを閉める手を止め、
「ラムちゃんゆーな……って、どうしたんだい突然」
「赤の他人……しかも幼児の面倒を率先して見ているラムちゃんの姿が僕的にど~しても疑問でね~何の義理があってお世話してるのかな~って」
「だからラムちゃんゆーな」
一蹴してから、ベッドで寝ているポメの元まで戻って来ると、彼女の兜を取り外しながら、
「ポメは旅団の中じゃ一番幼いし、ルテューアよりも物事に無知だ。そんな子を放置しておけないし、何より大人は子供を守る義務があるからね。だから義務感と責任感……が、理由かな?対して特別ってワケじゃあないよ、僕がそうしたいだけでもあるし」
そう語った彼女の横顔は、微笑んでいるようにも見えました。
「ふ~ん」
あまり興味がなさそうな返事をしたニケロ。固く結んであった紐がようやく解けると同時に、
「……どうしてここの旅団の人たちってお節介な人ばっかりなんだろう……」
「む?何か言ったかい?」
「別になんでもないよ~」
適当に誤魔化し、袋からプレゼントを取り出したニケロが見たのは……小さいベッドでした。
「およ?」
約二頭身サイズのポメに合わせて作られている可愛らしいベッドで、少しでもクリスマスらしさを出すためか、足に赤と緑のリボンが結ばれ鈴までついていました。毛布はクリスマスカラー。
「えっ?これが手作り?家具屋さんに置いてあるレベルだよね!?」
「素人芸だよ」
とは言うもののこれを作ったラミーゾラとサモの2人、几帳面で完璧主義で生真面目なので完成度が高いのも納得です。
「素人の域を出ている気がしてならない……」
意外な技術力を見せつけられたニケロがこれ以上の言葉を失ってる最中、ラミーゾラはパジャマに着替えさせたポメを小さいベッドの上に寝かせてやり、毛布もかけてあげました。
「これでよしっと。起きたらどんな反応をするんだろう……楽しみだなぁ」
ふとこぼれる嬉しそうな笑顔。彼女と知り合って大分経ちますが、こんな顔を見たのは初めてかもしれません。
保護者を通り越して親のような心境になりつつあるラミーゾラを眺めながら、ニケロはぼんやり、
「(本当は、ポメが可愛くて可愛くて仕方がないだけなんじゃないのかな……)」
なんて思わずにはいられなかったそうです。
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