☆クリスマスが今年もやってきて
何をすればいいのか説明されないまま、レグはオディロンと共にヨゼの部屋の前へと連れて来られました。
「どうして俺はこんな事をしているんだろう……せめてあーたんと一緒だったらよかったのに……」
「嘆いている暇などないぞ、戦いは既に始まっているのだからな」
現在サンタコスプレ中の自称闇の王は訳の分からない事を口走っている様子、面倒なのでできるだけ相手をしないと誓います。
「よし行くぞ」
「ありぇ?すんなりドア開いちゃってるけど鍵かかってなかったんだな」
「まさか、奴には寝るときぐらい部屋に鍵をかけろと口酸っぱく言っておいたからな」
「過保護ダネー」
「主である我はいつでもどこでも出入りできるように合鍵を持っているがな」
得意げにするオディロンの手には鍵が握られていたのでした。
まるで独り暮らししている子供の部屋の合鍵を持っている親のようだとレグは思い、話のネタにしてやろうとひっそり思った所で、静かに入室。
「おじゃまシマウマ~」
「……」
おっさんの親父ギャグも無視を貫く闇の王。
さほど広くない部屋は驚くほど殺風景で、ベッド以外は本当に何もありません。興味の矛先の9割がオディロンという結果がこれです。
「地味って感想しか出てこねぇな……」
始めて彼の部屋に入ったレグ、目を白黒させながら辺りを見回していると、先に入ったオディロンが急に足を止めて、
「……よし、そろそろいいか」
「は?」
「出番だぞ」
「あの、本当に意味が分からないんだけどさ、俺は何をすればいいの?」
「強いて言えば死なないように努力しろ……ぐらいか」
「は???」
そしてこちらを振り返らない。
早く行けと急かされ、訳が分からないままレグは部屋の奥に向かってゆっくり足を進めていきます。どうしてこんな野郎に命令されて働かないいといけないんだろうと、心の中で愚痴をこぼしながら……。
「あ~あ……あーたんと一緒だったら楽しいクリスマスを過ごせたハズなのによぉ……痛みを伴うかもしれないけど、それもまた一興……」
あり得る可能性の高い妄想をしながら、ベッドの半径1メートル以内に足を踏み入れた時でした。
背後から凄まじい殺気を感じたのは。
「うわっとぉ!?」
振り向くと同時に相手が武器を振りかざして来て、慌てながらも刀剣で攻撃を防ぎなんとか応戦。いつもは二刀流で戦うレグですが、不意打ちだったせいで一本しか抜けません。
「なになになに!?なんなんだよ!?」
「やはりこうなったか……」
「はぁ!?」
絶叫する男に答えず、オディロンはどこぞかから取り出したランタンに火を入れ、部屋の中を照らしてやります。
オレンジ色の光に照らされたのは、右手に装備されている星嵐鎌の刃。それはレグの刀剣によって防がれています。
そして、慌てながら防ぐレグを押し倒してやろうと迫ってきている、ヨゼの姿も一緒に照らされたのでした。
オディロンは無言のままですが、レグはビックリ仰天で、
「ええええええ!?ヨゼくん!?君ってばなんてことしちゃってんの!?おじさんは敵じゃないよ!?同じシノブシじゃあないか!」
「……」
ヨゼからの返事はありません。珍しく無言。
「不法侵入した事は謝るけど!それは君のご主人様に命令されて無理矢理連れ出されただけであって、おじさんの意志じゃなーい!」
説得の甲斐なく、ヨゼは無言のまま右手の力を強めます。片方だけだというのにものすごい馬鹿力で、ここでの戦闘経験が豊富なレグが少しずつ押されてしまうほどでした。
必死なレグとは対照的に、ほとんど何もしていなくて涼しい顔をするオディロンはため息をつき、
「何を言っても無駄だぞ。我がシモベは今現在、深い眠りに落ちているからな」
「どう見ても起きてんじゃん!?この力は眠りながら発揮できるようなもんじゃないでしょ!」
「…………」
まだまだ無言のヨゼ。抗議によって一瞬だけ油断したレグの隙を突き、即座に右手の離すと一歩下がり、顔面に向けて回し蹴り。
「ふおっ!?」
とっさに上半身を逸らしてギリギリで避けるも、右足の星嵐鎌の刃が鼻の上をかすり、少し血が流れました。
「あっぶねぇぇぇぇ……もうちょっとで首ゴアるところだった……今のは本気で殺しにかかってきてたよな?あーたんにセクハラして腕折られるのは仕方がないなーって思って許すけど!何もしてないのに理不尽な暴力を振るわれるのは我慢できねぇよ!?」
「…………」
「なんか言えよ無言は怖い!」
何度叫んでもヨゼは無反応。目を閉じたままレグに顔を向けているだけ。
下手に傷つけるわけにもいかず、どうしたものかと冷や汗をかく最中、オディロンといえばちゃっかりベッドの横まで移動しており、
「今のコイツに何を語りかけても無意味だ。騒がしいだけだからやめておけ」
とってもとっても涼しい顔で忠告してくれたのでした。被害がないので当たり前ですが。
「あのさあ、俺がこの状況を把握できてないって言うのに、分かりきってるように言われるのってすげぇ腹立つんだけど」
「む?知らないのか?」
「今までずっと知ってるつもりだったのかよ!アンタどんだけ天然さん!?性格高慢と冷静のクセに!」
気分は情報を全く伝えられないまま戦場に放り込まれた兵士です。今できる精一杯の暴言が炸裂してもやっぱりオディロンは涼しい顔、自称闇の王はちょっとやそっとの罵詈雑言では激昂しないのですよ。
言い争っている間にも、ヨゼは両手の星嵐鎌を振り回してきます。全く読めないデタラメな動きでとても戦っているとは思えませんが、ギリギリの所で刃を回避したレグにそれを考える余裕はなく、
「こんな所で立ち話できるか!プレゼント置いたならとっとと部屋から出る!」
「分かっている」
やるべき事は終わらせたので長居は無用、逃げるように部屋から出てドアを閉めました。念のため鍵もかけました。
レグはとっさにドアを背で抑えるようにして張り付き、しばらくして物音がしなくなったと確認すると、
「ふぅ~蹴破ってまで追いかけて来たりはしないみたいだな……えがったえがった」
「任務完了だな」
疲れ1つ見せない闇の王。レグを囮にしている間にベッドにプレゼントを置く事しかしていないので当然です。そのまま踵を返そうとして、
「待てや」
首元に刀剣の刃がぴったり突き付けられました。あと少しでもどちらかが動けば、たちまち首が斬り落とされてしまうでしょう。
「あれなんなの」
淡々と発したレグの言葉は、冷静さの中に底知れぬ怒りを含んだ声色でした。
しかし、オディロンは表情1つ変えません。レグの方を見ようともしません。前だけ見て、
「人にモノを尋ねる前に、まず礼儀があるのではないか?」
「礼儀もクソもあるかあ!女の子のワガママに振り回されるのは大歓迎だけど、野郎の暴走を笑ってすませる程心が広くねぇんだよ俺は!」
「そうか」
いやにあっさりした返事。このままアルスティみたいにセルフクリティカルゴアを出しても叱られないんじゃないかと思い始めます。次に腹立つ台詞を言われたら遠慮なく斬り落とそう……そんな決心すら抱く始末。
殺意に気付かないオディロンは答えます。
「奴は……寝相が非常に悪い」
「は」
寝相?ねぞう?NEZOU?
「寝相が悪すぎて、熟睡時に近寄るとあのように斬りかかって来る悪癖がある。治そうにも無意識の域が成す技だからどうしようもできなくてな……我も非常に手を焼いている」
やれやれとため息を吐くのですから相当困っている様子。
「あ~……なるほどね?だから俺に斬りかかってきたのかヨゼくんは……はーへー……納得」
納得したので武器を直しました。
「俺は寝相に殺されそうになったと?」
「そういう事になるな」
「えぇ……マジで囮だったの……?」
「囮ぐらい使わないと眠っているシモベには近付けん」
反省の色は皆無だった闇の王。楽天家のレグでもそろそろ本当にキレそうです。
「お前なあ……3年ぶりにキレるぞ俺……」
ようやくちらりとレグを見たオディロンは、今まで見た事のない怖い顔をしている彼を視界の端に収めたのですが、闇の王の顔色は変わらず、
「寝相の対策についてアルスティに相談したら〝じゃあレグを囮にしちゃえば?しぶとそうだから絶対生き残れると思うわよ?”と言われたんだが」
昼間の出来事を伝えました。非道ともとれる扱いの酷さに見えますが、常日頃セクハラされている身としては当然の処置だとアルスティは語っている。
オディロンの暴走に愛しのあの子が関与していたとは夢にも思ってなかった男は、その場でがっくりと膝を付き、
「今日もあーたんの愛が重い!!!」
「憎悪だろ」
「どうして俺はこんな事をしているんだろう……せめてあーたんと一緒だったらよかったのに……」
「嘆いている暇などないぞ、戦いは既に始まっているのだからな」
現在サンタコスプレ中の自称闇の王は訳の分からない事を口走っている様子、面倒なのでできるだけ相手をしないと誓います。
「よし行くぞ」
「ありぇ?すんなりドア開いちゃってるけど鍵かかってなかったんだな」
「まさか、奴には寝るときぐらい部屋に鍵をかけろと口酸っぱく言っておいたからな」
「過保護ダネー」
「主である我はいつでもどこでも出入りできるように合鍵を持っているがな」
得意げにするオディロンの手には鍵が握られていたのでした。
まるで独り暮らししている子供の部屋の合鍵を持っている親のようだとレグは思い、話のネタにしてやろうとひっそり思った所で、静かに入室。
「おじゃまシマウマ~」
「……」
おっさんの親父ギャグも無視を貫く闇の王。
さほど広くない部屋は驚くほど殺風景で、ベッド以外は本当に何もありません。興味の矛先の9割がオディロンという結果がこれです。
「地味って感想しか出てこねぇな……」
始めて彼の部屋に入ったレグ、目を白黒させながら辺りを見回していると、先に入ったオディロンが急に足を止めて、
「……よし、そろそろいいか」
「は?」
「出番だぞ」
「あの、本当に意味が分からないんだけどさ、俺は何をすればいいの?」
「強いて言えば死なないように努力しろ……ぐらいか」
「は???」
そしてこちらを振り返らない。
早く行けと急かされ、訳が分からないままレグは部屋の奥に向かってゆっくり足を進めていきます。どうしてこんな野郎に命令されて働かないいといけないんだろうと、心の中で愚痴をこぼしながら……。
「あ~あ……あーたんと一緒だったら楽しいクリスマスを過ごせたハズなのによぉ……痛みを伴うかもしれないけど、それもまた一興……」
あり得る可能性の高い妄想をしながら、ベッドの半径1メートル以内に足を踏み入れた時でした。
背後から凄まじい殺気を感じたのは。
「うわっとぉ!?」
振り向くと同時に相手が武器を振りかざして来て、慌てながらも刀剣で攻撃を防ぎなんとか応戦。いつもは二刀流で戦うレグですが、不意打ちだったせいで一本しか抜けません。
「なになになに!?なんなんだよ!?」
「やはりこうなったか……」
「はぁ!?」
絶叫する男に答えず、オディロンはどこぞかから取り出したランタンに火を入れ、部屋の中を照らしてやります。
オレンジ色の光に照らされたのは、右手に装備されている星嵐鎌の刃。それはレグの刀剣によって防がれています。
そして、慌てながら防ぐレグを押し倒してやろうと迫ってきている、ヨゼの姿も一緒に照らされたのでした。
オディロンは無言のままですが、レグはビックリ仰天で、
「ええええええ!?ヨゼくん!?君ってばなんてことしちゃってんの!?おじさんは敵じゃないよ!?同じシノブシじゃあないか!」
「……」
ヨゼからの返事はありません。珍しく無言。
「不法侵入した事は謝るけど!それは君のご主人様に命令されて無理矢理連れ出されただけであって、おじさんの意志じゃなーい!」
説得の甲斐なく、ヨゼは無言のまま右手の力を強めます。片方だけだというのにものすごい馬鹿力で、ここでの戦闘経験が豊富なレグが少しずつ押されてしまうほどでした。
必死なレグとは対照的に、ほとんど何もしていなくて涼しい顔をするオディロンはため息をつき、
「何を言っても無駄だぞ。我がシモベは今現在、深い眠りに落ちているからな」
「どう見ても起きてんじゃん!?この力は眠りながら発揮できるようなもんじゃないでしょ!」
「…………」
まだまだ無言のヨゼ。抗議によって一瞬だけ油断したレグの隙を突き、即座に右手の離すと一歩下がり、顔面に向けて回し蹴り。
「ふおっ!?」
とっさに上半身を逸らしてギリギリで避けるも、右足の星嵐鎌の刃が鼻の上をかすり、少し血が流れました。
「あっぶねぇぇぇぇ……もうちょっとで首ゴアるところだった……今のは本気で殺しにかかってきてたよな?あーたんにセクハラして腕折られるのは仕方がないなーって思って許すけど!何もしてないのに理不尽な暴力を振るわれるのは我慢できねぇよ!?」
「…………」
「なんか言えよ無言は怖い!」
何度叫んでもヨゼは無反応。目を閉じたままレグに顔を向けているだけ。
下手に傷つけるわけにもいかず、どうしたものかと冷や汗をかく最中、オディロンといえばちゃっかりベッドの横まで移動しており、
「今のコイツに何を語りかけても無意味だ。騒がしいだけだからやめておけ」
とってもとっても涼しい顔で忠告してくれたのでした。被害がないので当たり前ですが。
「あのさあ、俺がこの状況を把握できてないって言うのに、分かりきってるように言われるのってすげぇ腹立つんだけど」
「む?知らないのか?」
「今までずっと知ってるつもりだったのかよ!アンタどんだけ天然さん!?性格高慢と冷静のクセに!」
気分は情報を全く伝えられないまま戦場に放り込まれた兵士です。今できる精一杯の暴言が炸裂してもやっぱりオディロンは涼しい顔、自称闇の王はちょっとやそっとの罵詈雑言では激昂しないのですよ。
言い争っている間にも、ヨゼは両手の星嵐鎌を振り回してきます。全く読めないデタラメな動きでとても戦っているとは思えませんが、ギリギリの所で刃を回避したレグにそれを考える余裕はなく、
「こんな所で立ち話できるか!プレゼント置いたならとっとと部屋から出る!」
「分かっている」
やるべき事は終わらせたので長居は無用、逃げるように部屋から出てドアを閉めました。念のため鍵もかけました。
レグはとっさにドアを背で抑えるようにして張り付き、しばらくして物音がしなくなったと確認すると、
「ふぅ~蹴破ってまで追いかけて来たりはしないみたいだな……えがったえがった」
「任務完了だな」
疲れ1つ見せない闇の王。レグを囮にしている間にベッドにプレゼントを置く事しかしていないので当然です。そのまま踵を返そうとして、
「待てや」
首元に刀剣の刃がぴったり突き付けられました。あと少しでもどちらかが動けば、たちまち首が斬り落とされてしまうでしょう。
「あれなんなの」
淡々と発したレグの言葉は、冷静さの中に底知れぬ怒りを含んだ声色でした。
しかし、オディロンは表情1つ変えません。レグの方を見ようともしません。前だけ見て、
「人にモノを尋ねる前に、まず礼儀があるのではないか?」
「礼儀もクソもあるかあ!女の子のワガママに振り回されるのは大歓迎だけど、野郎の暴走を笑ってすませる程心が広くねぇんだよ俺は!」
「そうか」
いやにあっさりした返事。このままアルスティみたいにセルフクリティカルゴアを出しても叱られないんじゃないかと思い始めます。次に腹立つ台詞を言われたら遠慮なく斬り落とそう……そんな決心すら抱く始末。
殺意に気付かないオディロンは答えます。
「奴は……寝相が非常に悪い」
「は」
寝相?ねぞう?NEZOU?
「寝相が悪すぎて、熟睡時に近寄るとあのように斬りかかって来る悪癖がある。治そうにも無意識の域が成す技だからどうしようもできなくてな……我も非常に手を焼いている」
やれやれとため息を吐くのですから相当困っている様子。
「あ~……なるほどね?だから俺に斬りかかってきたのかヨゼくんは……はーへー……納得」
納得したので武器を直しました。
「俺は寝相に殺されそうになったと?」
「そういう事になるな」
「えぇ……マジで囮だったの……?」
「囮ぐらい使わないと眠っているシモベには近付けん」
反省の色は皆無だった闇の王。楽天家のレグでもそろそろ本当にキレそうです。
「お前なあ……3年ぶりにキレるぞ俺……」
ようやくちらりとレグを見たオディロンは、今まで見た事のない怖い顔をしている彼を視界の端に収めたのですが、闇の王の顔色は変わらず、
「寝相の対策についてアルスティに相談したら〝じゃあレグを囮にしちゃえば?しぶとそうだから絶対生き残れると思うわよ?”と言われたんだが」
昼間の出来事を伝えました。非道ともとれる扱いの酷さに見えますが、常日頃セクハラされている身としては当然の処置だとアルスティは語っている。
オディロンの暴走に愛しのあの子が関与していたとは夢にも思ってなかった男は、その場でがっくりと膝を付き、
「今日もあーたんの愛が重い!!!」
「憎悪だろ」