☆クリスマスが今年もやってきて
四季の「し」の字も無いオオガラスの迷宮は今日も今日とて殺風景。雪なんてあったものじゃない。
ちょっとでも季節感を出したいオオガラスの意地か、それとも新手の攻撃か、突然の寒波のごとく気温が落ちた日もありましたが、ベイラン以外の大半のメンバーが体調不良を訴える事なく乗り切ったのでした。ベイランは風邪をこじらせたそうです。
時は12月某日。世間で言えばクリスマス間近。
街はイルミネーションで溢れツリーにはきらびやかな装飾がほどこされ玩具屋が大変忙しくなる時期ですが、ここはオオガラスの迷宮内なのでそんな物は皆無。いつも通りの壊れた馬車小屋と魔道具のミニチュアハウスのお屋敷があるだけで、変わり映えなんてしていません。
今日の探索を早めに切り上げ、お屋敷の中でそれぞれくつろぐ旅団の人形兵たち。これもいつも通り。
ダイニングのソファーでくつろぎながら、湯呑みに入ったお茶に舌鼓を打っていたアルスティがふと、壁掛けカレンダーに目をやり今日の日付を確認した時、物語は始まるのです。
「もうすぐクリスマスねぇ」
一言の中に色々な思いを滲ませてぼやく彼女の頭の中には何が過っているのでしょうか。世間一般的な人はある程度のラブストーリーを考えるモノですがこの旅団のリーダーは恋愛経験は皆無なのでそういった話は期待できないでしょう。きっともっと殺伐とした何かです。
ぼやきをしっかり耳にしていたニケロとレグ、お茶を飲みつつ頷いて、
「ついこの間寒波が来たと思ったら、もうそんな時期なんだね~」
「オオガラスの迷宮内じゃ全然分からないからな。実感すらねぇや」
「ハロウィンはそこそこスルーしていましたが、クリスマスはちゃんとお祝いしなくてはいけませんね」
お次に昼食の食器を片づけ終えたミーアが笑顔で後ろから割り込んできて、
「お祝いするの?」
ソファー手前の白いカーペット上でポメと積み木遊びをしていたルテューアが首を右に傾けました。それと同時に円柱2つと三角を組み合わせただけの積み木の家が完成して歓声が上がりました。ポメだけ。
「ぴゅいめ!」
1つの仕事をやり遂げた彼女は得意げに胸を張り、渾身のドヤ顔を決めていますが、周りの大人たちは誰も見てくれていません。皆の頭の中にあるのはクリスマスの事。
「う?」
「一応そういうイベントだからな。てかお前、ハロウィンも知らなくてクリスマスも知らないって言うんじゃないだろうな?」
呆れるレグが思い出していたのは、10月31日の出来事。自身の首がゴアって丸一日放置されていた日です。
ハロウィンの「は」の字も知らなかったルテューアが「ハロウィンは子供が大人にお菓子をたかりに行く日」だと知ったのは今からおよそ2カ月前。生前が貧乏だったという境遇もあって、世間一般的なイベントには少々疎いため、生まれて11年目にして始めてハロウィンを経験したのでした。
まあ、ハロウィンの一件は故郷の文化の違いという点もありますが、さておき。
「むう。クリスマスは知ってるよ、何かのお祝いをするんでしょ?」
馬鹿にされたと感じたのでしょう、ちょっとだけ頬を膨らませてご機嫌斜めに。積み木を見てもらいたいポメがマフラーを引っ張っていますが気付かない様子。
「とんでもなくアバウトな返答だけど大体合ってるわね」
「神様の誕生日を縁もゆかりもない人間たちが散々好き勝手騒いで~ピンク色のカップルが町中に跋扈していて独り身には中々辛い光景が目に映っちゃうけど~おめでたい日だからまあいっか~ってなるイベントだよね~概要だけなら知ってるよ~僕」
悪意しか感じないニケロの解説は、隣でお茶を飲んでいた彼女の心にクリティカルヒット。心当たりがありすぎるため深刻なダメージに襲われました。あと少しでゴアっていた。
「うっ……クリスマスに予定がないってだけで可哀想な人だと見られるあの視線が……辛いっ……」
「じゃあおじさんと予定作る?クリスマスだけとは言わずいつでもどこでも大歓迎だけど」
「嫌」
即答でした。
次の瞬間、穏やかな空気を一辺させる台詞がルテューアの口から飛び出します。
「あ!クリスマスってあれでしょ?サンタさんがやって来るの!」
大人たちの間に電撃が走りました。詳しくは電撃のような衝撃。
サンタ。子供たちの間では何よりも憧れられている存在。赤い衣装に白いおひげ、真っ赤なお鼻のトナカイが引くソリに乗って全国各地の子供にプレゼントを贈るあのサンタです。
×××××が×××××なのですが、子供の夢を壊さないためにも伏せておきましょう。
「ちーっすミーア!小腹がすいたから何かくれー!」
皆が口を噤むと同時にダイニングのドアを開けた男はヨゼでした。上半身には包帯を巻き、常に被っているうさみみフードが非常に目立ちますが、中身は純真無垢な馬鹿です。
数十分前に昼食をとったというのにもう小腹がすいた育ち盛りを披露する否や、ルテューアはその場で立ちあがって、
「ヨーゼフ!もうすぐクリスマスだよサンタさんだよ!」
「さんたさん?なんじゃそりゃ?」
「わぺ?」
ヨゼだけでなくポメもきょとんとして首を左に傾けました。大人たちの表情がやや引きつります。
「ポメもヨーゼフも知らないの?クリスマスの夜に全国の子供にプレゼントをタダでくれるおじさんだよ!」
意気揚々と話すルテューアですが「タダ」の部分が嫌に強調されていたような気がします。貧乏だった頃の影響が細かい所にちらほら出ている様子。
彼の解説だけではイマイチ分からないヨゼは、レグを指して、
「おっさん?」
「違うから」
静かに否定したレグの省略名「おじさん」です。
「おじさー?」
「だから違うって」
サンタとは何か想像もつかないヨゼとポメに、おじさん代表のレグが割と真面目に説明している最中、
「そうねぇサンタ……私は子供の頃サンタを捕獲すればプレゼント貰い放題っていう野望を抱いて、実家の庭とか自分の部屋のあちこちに罠をしかけてから外で夜通し見張ってたけどうっかり寝落ちして風邪を引いたから、悪い欲は出すもんじゃないって学んだ経験ならあるけど」
「さらっと言う所がまた恐ろしいよね~あーたん」
旅団内では「腕力ゴリラ」の二つ名までついてしまったアルスティの昔話はどこか常軌を逸しています。聞き流したニケロの表情がやや引きつっていました。
「やんちゃだった私はともかく、ルテューアは良い子なんだしきっと毎年素敵なプレゼントを貰えてたんでしょうね」
ニコニコしながらアルスティは言いましたが、ルテューアは目の輝きを失って視線を落としてしまいます。
「僕は……貰ったことないよ。プレゼント」
「え」
「へ~?」
「はい?」
アルスティ、ニケロ、ミーアの3人が一斉に目を丸くして、信じられない様子でルテューアを凝視。過去は、自分の将来を捨ててまで家族を守ろうとしていた健気な少年だったというのに。
「だって、サンタさんって悪い子と貧乏人にはプレゼントをあげないってじいちゃんが言ってたもん。サンタさん1人で全国の子供たちにプレゼントを届けるのは大変で、腰痛や関節痛が酷くなるからちょっと間引いてるんだって。だから、僕もお姉ちゃんもクリスマスプレゼントは貰ったことないんだ」
本人はいたって真面目に深刻な話をしている様子ですが、大人たちの心境は複雑そのもでして、
「(誤魔化すにしてももっと現実味を帯びてない話にしてよおじいさん!)」
「(プレゼントもないほどギリギリの生活だったのですね……ご家族の方々はさぞ胸が痛かったでしょう……)」
「(るーくんのおじいさんって何者なんだろう~?)」
かける言葉が見つからず、頭の中でそう思うだけに留めました。
すると、ルテューアの話を聞いていたのか、レグの必死の説明を無視したヨゼがふらふらと戻ってきて、
「じゃあ俺らはプレゼント貰えないな、死ぬまで貧乏だったし」
「うん。サンタさんも忙しいから分かってあげなきゃいけないんだぞって、じいちゃん言ってた」
口調は穏やかでしたがクリスマスに夢を見るのを完全に諦めた表情でした。「そんな顔……お前らにはまだ20年早いだろ……」と滲ませるようにレグがぼやき、目から水が出そうになりました。
「ふに?」
よく分かっていないポメ、レグの足元できょとん。
「でも、プレゼント貰えなくてもいいんだ。皆がいるし、毎日楽しいよ」
「あ、え、そ、そう……」
「クリスマスはプレゼントが全てじゃないし~まあ……うん」
「あーたん?ニケロ?なんでそんなに暗いの?」
無理して笑っていたルテューアがもう見れたものじゃないから。とは言えない大人たち。今まで自分がどれだけ恵まれた環境にいたのかと痛感しています。
やや重苦しい空気に包まれつつあるダイニングで、1人だけ燃え上がっている者がいました。
「では、クリスマスをあまり楽しめなかったルテューアやヨゼのためにも、腕によりをかけてごちそうを作らなければなりませんわね」
ミーアです。自身に焔舞を使って実際に燃えているワケでは決してなく、オーラのような何かをごうごうと燃やしている彼女、ブツブツと呟きながらダイニング奥の調理場へさっさと戻ってしまいました。
「れあふぇ?」
「みーさんもどうしたんだろうね?」
ポメとルテューアが一緒に首を傾げる最中、ヨゼは何も言わないままダイニングを出ていました。小腹が空いていたことはもうすっかり忘れています。
出た先は屋敷のエントランス。今は珍しく誰もいないためとても静かで、足音だけを響かせながら通り抜け、そのまま屋敷の外に出ました。
屋敷の外は壊れた馬車小屋の内部です。マナの独特な香りがかすかに漂う静かな空間でした。
「まおーさまー!」
中央テーブルの席について小説を読んでいたオディロンは、飼い主に飛びつく犬のごとく戻って来たヨゼに目をやらず、視線は文章に向けたまま生返事をするだけ。
全く気にしないヨゼは、彼の目の前で言葉を投げかけます。
「まおーさまに1個だけ聞きたい事があるんだけど」
「なんだ」
「くりすますって何だ?」
「………………はあ?」
本がテーブルに落ちました。
ちょっとでも季節感を出したいオオガラスの意地か、それとも新手の攻撃か、突然の寒波のごとく気温が落ちた日もありましたが、ベイラン以外の大半のメンバーが体調不良を訴える事なく乗り切ったのでした。ベイランは風邪をこじらせたそうです。
時は12月某日。世間で言えばクリスマス間近。
街はイルミネーションで溢れツリーにはきらびやかな装飾がほどこされ玩具屋が大変忙しくなる時期ですが、ここはオオガラスの迷宮内なのでそんな物は皆無。いつも通りの壊れた馬車小屋と魔道具のミニチュアハウスのお屋敷があるだけで、変わり映えなんてしていません。
今日の探索を早めに切り上げ、お屋敷の中でそれぞれくつろぐ旅団の人形兵たち。これもいつも通り。
ダイニングのソファーでくつろぎながら、湯呑みに入ったお茶に舌鼓を打っていたアルスティがふと、壁掛けカレンダーに目をやり今日の日付を確認した時、物語は始まるのです。
「もうすぐクリスマスねぇ」
一言の中に色々な思いを滲ませてぼやく彼女の頭の中には何が過っているのでしょうか。世間一般的な人はある程度のラブストーリーを考えるモノですがこの旅団のリーダーは恋愛経験は皆無なのでそういった話は期待できないでしょう。きっともっと殺伐とした何かです。
ぼやきをしっかり耳にしていたニケロとレグ、お茶を飲みつつ頷いて、
「ついこの間寒波が来たと思ったら、もうそんな時期なんだね~」
「オオガラスの迷宮内じゃ全然分からないからな。実感すらねぇや」
「ハロウィンはそこそこスルーしていましたが、クリスマスはちゃんとお祝いしなくてはいけませんね」
お次に昼食の食器を片づけ終えたミーアが笑顔で後ろから割り込んできて、
「お祝いするの?」
ソファー手前の白いカーペット上でポメと積み木遊びをしていたルテューアが首を右に傾けました。それと同時に円柱2つと三角を組み合わせただけの積み木の家が完成して歓声が上がりました。ポメだけ。
「ぴゅいめ!」
1つの仕事をやり遂げた彼女は得意げに胸を張り、渾身のドヤ顔を決めていますが、周りの大人たちは誰も見てくれていません。皆の頭の中にあるのはクリスマスの事。
「う?」
「一応そういうイベントだからな。てかお前、ハロウィンも知らなくてクリスマスも知らないって言うんじゃないだろうな?」
呆れるレグが思い出していたのは、10月31日の出来事。自身の首がゴアって丸一日放置されていた日です。
ハロウィンの「は」の字も知らなかったルテューアが「ハロウィンは子供が大人にお菓子をたかりに行く日」だと知ったのは今からおよそ2カ月前。生前が貧乏だったという境遇もあって、世間一般的なイベントには少々疎いため、生まれて11年目にして始めてハロウィンを経験したのでした。
まあ、ハロウィンの一件は故郷の文化の違いという点もありますが、さておき。
「むう。クリスマスは知ってるよ、何かのお祝いをするんでしょ?」
馬鹿にされたと感じたのでしょう、ちょっとだけ頬を膨らませてご機嫌斜めに。積み木を見てもらいたいポメがマフラーを引っ張っていますが気付かない様子。
「とんでもなくアバウトな返答だけど大体合ってるわね」
「神様の誕生日を縁もゆかりもない人間たちが散々好き勝手騒いで~ピンク色のカップルが町中に跋扈していて独り身には中々辛い光景が目に映っちゃうけど~おめでたい日だからまあいっか~ってなるイベントだよね~概要だけなら知ってるよ~僕」
悪意しか感じないニケロの解説は、隣でお茶を飲んでいた彼女の心にクリティカルヒット。心当たりがありすぎるため深刻なダメージに襲われました。あと少しでゴアっていた。
「うっ……クリスマスに予定がないってだけで可哀想な人だと見られるあの視線が……辛いっ……」
「じゃあおじさんと予定作る?クリスマスだけとは言わずいつでもどこでも大歓迎だけど」
「嫌」
即答でした。
次の瞬間、穏やかな空気を一辺させる台詞がルテューアの口から飛び出します。
「あ!クリスマスってあれでしょ?サンタさんがやって来るの!」
大人たちの間に電撃が走りました。詳しくは電撃のような衝撃。
サンタ。子供たちの間では何よりも憧れられている存在。赤い衣装に白いおひげ、真っ赤なお鼻のトナカイが引くソリに乗って全国各地の子供にプレゼントを贈るあのサンタです。
×××××が×××××なのですが、子供の夢を壊さないためにも伏せておきましょう。
「ちーっすミーア!小腹がすいたから何かくれー!」
皆が口を噤むと同時にダイニングのドアを開けた男はヨゼでした。上半身には包帯を巻き、常に被っているうさみみフードが非常に目立ちますが、中身は純真無垢な馬鹿です。
数十分前に昼食をとったというのにもう小腹がすいた育ち盛りを披露する否や、ルテューアはその場で立ちあがって、
「ヨーゼフ!もうすぐクリスマスだよサンタさんだよ!」
「さんたさん?なんじゃそりゃ?」
「わぺ?」
ヨゼだけでなくポメもきょとんとして首を左に傾けました。大人たちの表情がやや引きつります。
「ポメもヨーゼフも知らないの?クリスマスの夜に全国の子供にプレゼントをタダでくれるおじさんだよ!」
意気揚々と話すルテューアですが「タダ」の部分が嫌に強調されていたような気がします。貧乏だった頃の影響が細かい所にちらほら出ている様子。
彼の解説だけではイマイチ分からないヨゼは、レグを指して、
「おっさん?」
「違うから」
静かに否定したレグの省略名「おじさん」です。
「おじさー?」
「だから違うって」
サンタとは何か想像もつかないヨゼとポメに、おじさん代表のレグが割と真面目に説明している最中、
「そうねぇサンタ……私は子供の頃サンタを捕獲すればプレゼント貰い放題っていう野望を抱いて、実家の庭とか自分の部屋のあちこちに罠をしかけてから外で夜通し見張ってたけどうっかり寝落ちして風邪を引いたから、悪い欲は出すもんじゃないって学んだ経験ならあるけど」
「さらっと言う所がまた恐ろしいよね~あーたん」
旅団内では「腕力ゴリラ」の二つ名までついてしまったアルスティの昔話はどこか常軌を逸しています。聞き流したニケロの表情がやや引きつっていました。
「やんちゃだった私はともかく、ルテューアは良い子なんだしきっと毎年素敵なプレゼントを貰えてたんでしょうね」
ニコニコしながらアルスティは言いましたが、ルテューアは目の輝きを失って視線を落としてしまいます。
「僕は……貰ったことないよ。プレゼント」
「え」
「へ~?」
「はい?」
アルスティ、ニケロ、ミーアの3人が一斉に目を丸くして、信じられない様子でルテューアを凝視。過去は、自分の将来を捨ててまで家族を守ろうとしていた健気な少年だったというのに。
「だって、サンタさんって悪い子と貧乏人にはプレゼントをあげないってじいちゃんが言ってたもん。サンタさん1人で全国の子供たちにプレゼントを届けるのは大変で、腰痛や関節痛が酷くなるからちょっと間引いてるんだって。だから、僕もお姉ちゃんもクリスマスプレゼントは貰ったことないんだ」
本人はいたって真面目に深刻な話をしている様子ですが、大人たちの心境は複雑そのもでして、
「(誤魔化すにしてももっと現実味を帯びてない話にしてよおじいさん!)」
「(プレゼントもないほどギリギリの生活だったのですね……ご家族の方々はさぞ胸が痛かったでしょう……)」
「(るーくんのおじいさんって何者なんだろう~?)」
かける言葉が見つからず、頭の中でそう思うだけに留めました。
すると、ルテューアの話を聞いていたのか、レグの必死の説明を無視したヨゼがふらふらと戻ってきて、
「じゃあ俺らはプレゼント貰えないな、死ぬまで貧乏だったし」
「うん。サンタさんも忙しいから分かってあげなきゃいけないんだぞって、じいちゃん言ってた」
口調は穏やかでしたがクリスマスに夢を見るのを完全に諦めた表情でした。「そんな顔……お前らにはまだ20年早いだろ……」と滲ませるようにレグがぼやき、目から水が出そうになりました。
「ふに?」
よく分かっていないポメ、レグの足元できょとん。
「でも、プレゼント貰えなくてもいいんだ。皆がいるし、毎日楽しいよ」
「あ、え、そ、そう……」
「クリスマスはプレゼントが全てじゃないし~まあ……うん」
「あーたん?ニケロ?なんでそんなに暗いの?」
無理して笑っていたルテューアがもう見れたものじゃないから。とは言えない大人たち。今まで自分がどれだけ恵まれた環境にいたのかと痛感しています。
やや重苦しい空気に包まれつつあるダイニングで、1人だけ燃え上がっている者がいました。
「では、クリスマスをあまり楽しめなかったルテューアやヨゼのためにも、腕によりをかけてごちそうを作らなければなりませんわね」
ミーアです。自身に焔舞を使って実際に燃えているワケでは決してなく、オーラのような何かをごうごうと燃やしている彼女、ブツブツと呟きながらダイニング奥の調理場へさっさと戻ってしまいました。
「れあふぇ?」
「みーさんもどうしたんだろうね?」
ポメとルテューアが一緒に首を傾げる最中、ヨゼは何も言わないままダイニングを出ていました。小腹が空いていたことはもうすっかり忘れています。
出た先は屋敷のエントランス。今は珍しく誰もいないためとても静かで、足音だけを響かせながら通り抜け、そのまま屋敷の外に出ました。
屋敷の外は壊れた馬車小屋の内部です。マナの独特な香りがかすかに漂う静かな空間でした。
「まおーさまー!」
中央テーブルの席について小説を読んでいたオディロンは、飼い主に飛びつく犬のごとく戻って来たヨゼに目をやらず、視線は文章に向けたまま生返事をするだけ。
全く気にしないヨゼは、彼の目の前で言葉を投げかけます。
「まおーさまに1個だけ聞きたい事があるんだけど」
「なんだ」
「くりすますって何だ?」
「………………はあ?」
本がテーブルに落ちました。