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漆黒クリスマス

マサーファの部屋では、クリスマス恒例聖夜の麻雀大会が行われていました。
「ロン」
シバが牌を捨てたと同時にマサーファの上がりが確定。今は彼女が親なので高得点が獲得できますね、シバから根こそぎ奪えます。
「ゲーッ!なんでそう何度も上がれるんだよお前!」
得点を奪われた男の悲痛な叫び、隣のベイランは全く気にせず真顔で黙々とシバの得点棒をマサーファに渡してました。
するとマサーファ、得意げに鼻を鳴らし、
「いい質問ね。それは、私の日頃の行いがとても良いからよ」
「えっ?」
「へ?」
ほぼ同時に疑問符を浮かべたのはベイランと、マサーファに無理矢理連れてこられて麻雀に参加させられたメラージュです。理由は不明ですが最近マサーファにとても気に入られており、今日もこうして振り回されている真っ最中。拒否権なんてあっても拒否する度胸が彼にはない。
「……リアクションに異議あり」
いつもの仏頂図で静かに苦情を飛ばすと、シバが突然麻雀台に伏せてしまい、
「あー!もう!何が悲しくてクリスマスにロリみ0%の空間で麻雀しなくちゃいけねーんだよぉぉぉぉぉぉ!!」
なんて嘆くロリコン。加えて一番得点が少ないという現実もあり彼の嘆きは止まることを知りません。ベイランが心なしか嬉しそうだったのはメラージュだけ知っている。
「いつものメンバーがいなかったんだもの、だから暇そうな人たちをとっ捕まえたのよ」
「僕もそれに含まれているんですね……」
「もち」
最近のマサーファの傾向からして、いつものメンバーがいてもメラージュを連れて来ていそうですがさておき、
「えっと……いつもはどんな方が参加しているんですか?」
「いつもはレグとニケロを誘っているんだけど、今日はどうしても都合がつかないって断られたんだ」
質問に答えたのはベイランでした。彼は嘆くシバを無視して牌を混ぜており、一通り混ぜ終わったらさっさと自分の分を積み始めていました。
「用事?クリスマスの夜に……ですか?」
会話をしつつメラージュも自分の牌を積み始めます。もちろんマサーファも。
「らしいぞ。どんな用かは教えてくれなかったがな」
「怪しい……怪しくない?怪しいわよね……?」
「いや別に」
ひとりで謎の盛り上がりを見せるマサーファのボケを軽く流したベイラン、日々たくましくなってきていますね。良い傾向だとマサーファ談。
「ちくせう……俺もポメたんやパピたんのクリスマスをお祝いしたかったのにラミーゾラの野郎……」
「シバさんがここに辿り着くまでに何があったのか大体わかりました……」
また、いつものようにラミーゾラに妨害されたのでしょう。ロリコンという有害物質から愛しの子を守る保護者として当然のことをしているのは目に見えて分かりますが、シバにとって彼女は自分の喜びを妨害するお邪魔虫でしかありません。言うまでもなく仲が悪い。
「うんうん、ラミーゾラグッジョブだな」
「どこがだよ!こちとら幼女との触れ合いを潰されてんだぞ!一度だけじゃなくて何度も!」
「そんなことよりお前も牌を積め」
「うるせぇ!」
隣同士で喧嘩が始まる数秒前。こういう状況には慣れていないメラージュがオロオロしていますが、マサーファは冷静でした。
「保護者的立場から考えたらラミーゾラの行動は当然だと思うわ。1000人中957人はそう回答するわね」
自信満々に断言すればシバもベイランも一旦黙って微妙な表情。どうツッコんでいいのか迷っている顔です。
そんな中、メラージュは静かに手を挙げて、
「えっと……じゃあ、残り43人は?」
「ロリコンの意見」
「いやさすがにそれを一括りにするのは酷くないですか!?43人の中にはロリコンじゃない人だっているでしょう!?」
そこにツッコむのね……とマサーファがぼやくと同時に、
「テメェ!ロリを馬鹿にすんのか!!」
今の台詞のどこにロリを侮辱した部分があったのか不明ですが、自分が何よりも愛するモノを侮辱されてキレたシバの形相がおっかなくて、メラージュは悲鳴を上げてしまいます。
「ヒッ」
それと同時に、
「お前は猫を馬鹿にするのかぁ!!」
何が起爆剤になったのでしょうか、突如キレたベイランが席から立ち上がって怒声を浴びせますがシバは全く怯みません。同じく立ち上がって彼の胸ぐらを掴んで応戦しました。
ガチで喧嘩する数秒前の光景に、メラージュはやっぱりオロオロするしかできません。お互い外野の声に聞く耳も持たない状態なのですから。
「はわわ……」
「いいぞもっとやれ」
「止めてくださいよ!?」
騒動が起きる寸前だというのにマサーファは楽しそうです。いつものネガティブで落ち込んでいるベイランとは違って、シバに突っかかっている時の彼はとても活き活きしているので、そういう彼を見ていることに喜びを感じているのです。これ本人談。
麻雀はまだ終わっていませんが、このままだと喧嘩により強制終了は免れないとメラージュとマサーファが思った刹那、
「メリクリ!!」
「クリクリ!!」
「ブラックサンタガーキターヨー」
ノックもせずに部屋に入ってきたシュザンナ、レグ、ニケロのブラックサンタ三人衆により、全員の視線はそちらに注がれます。
『………………』
しばらく唖然としていた4人でしたが、やがてマサーファが落ち着いた口調で質問します。
「……何してるの?」
麻雀断って。
「クリスマスの夜に悪い子に悪夢を運ぶ、ブラックサンタの降臨だ!さあ、我々に恐怖し、泣き叫び、今までの罪を懺悔するがいい!」
豪語したのはもちろんシュザンナ。後ろから「シュザンナちゃんチョー可愛い〜!マジブラックサンタ〜!」とレグの歓声が上がっておりシュザンナ本人ご満悦。ドヤ顔。
ところが、麻雀台を囲む4人はキョトンとするばかり。呆れた視線も、驚くリアクションもなく、静かにブラックサンタたちを見るだけでした。
「む?思ったよりも薄いリアクションだな」
これにはシュザンナもやや不満。分かりやすい反応が欲しいという訳ではありませんが、こう無反応に近い様子だと闇の女王として物足りなさを感じてしまうもの。
するとレグ、シュザンナに耳打ち。
「きっとブラックサンタが来るなんて夢にも思ってなかったから、驚きを通り越して動揺しちまって固まってんだよきっと」
「なるほど……そういう理由なら納得だ。だが安心するがいい、ブラックサンタの制裁が下る者はこの中で1人だけだ」
「え、誰……」
メラージュが最後まで言い切る前に答えは出ました。もちろんマサーファやベイランも、答えを出すと同時に視線は動いていたのです……そう、シバの方へ。
「……は?なんで全員こっち見てんの?」
「お前しかいないだろう。該当者は」
「はあ!?何で!?」
本人は心の底から信じられないといった様子ですが、周りはそれを認めません。ベイランはニヤケが収まらない様子。
「いや……その、他に該当者がいないといいますかなんというか……」
「いや絶対他にもいるだろ!?マサーファとか!」
刹那、マサーファの目がギラリと光ったかと思えば、その姿は一瞬の内に消え、
「どうぞ煮るやり焼くなり好きにしてください」
と言った時には既にシバは全身をロープでしっかり拘束されており、身動き1つとれない状態に。こうなってしまうともはや、情けない悲鳴が響き渡るだけです。
「ギャー!!」
もはや何をしても助からないでしょう。マサーファは拘束したシバの首根っこを掴んでシュザンナに差し出しました。差し出すと言ってもシュザンナの目の前にシバを放り投げただけですが。
しかし彼女、上半身だけ鎧をきた成人男性を片手で投げ飛ばしていましたね、ゴシックコッペリアだからできる芸当でしょうか。
目の前でプロのような縄裁きを目の当たりにしたシュザンナ、拍手喝采を送ります。
「おお!助かったぞマサーファよ。こちらが捕らえる手間が省けた」
「それほどでも」
どこか得意げに言う彼女の足元には、余ったロープが落ちており、先には「ベイラン、拘束プレイ用」と書かれたメモが貼ってあったのにニケロだけ気付きましたが、自分には無関係なのでスルーです。
「あの……シバさんをどうするんですか……?」
怯えながらもメラージュが挙手しつつ質問すれば、シュザンナはシバを軽く蹴飛ばしながら答えます。
「これは頭から袋をかぶせて視界を奪った後にフェーヌムの小川に流す」
「処刑じゃないですか!?」
驚愕するメラージュでしたが、ベイランとマサーファは顔色1つ変えません。
『いいぞもっとやれ』
「乗っからないでくださいよ!」
「アイツどんだけ人望薄いの」
流石に可哀想だとレグはぼやきますが、彼を見つめるニケロもシュザンナも「お前だけには言われたくない……」と言いたくてたまらない表情を浮かべていました。言わないけど。
「もごごー!」
いつの間にか猿ぐつわされているシバが必死に抗議している様子ですが、もごもご言っているだけで何を訴えているのかわからず、周囲からスルーされることが確定されました。
彼が何を訴えようがどうんなに抵抗しようが、闇の女王は至って冷静かつ冷酷に、続けます。
「ブラックサンタは悪い子に制裁を下すのが役割であり、殺戮の類は目的としていない」
「もご!?」
「沈まなように板に縛り付けて流すからな、処刑とは違う……まあ、縛り付けられた上に目隠しをされて流されるのはかなりの恐怖体験だと思うがな」
「もごご!?」
一瞬安心したと思ったら一気にどん底まで叩き落とされました。この後も必死にもごもご訴えていましたが、ブラックサンタ一行は彼を川に流すまで無視し続けたといいます。
「クリスマスに島流しならぬ川流しなんて、よく思いついたわね」
「まあな……と、言いたいところだが我のアイディアではない。依頼主の要望によるものだ」
「もしかしなくてもラミーゾラかしら?」
「もしかしなくてもそうだ」
「もごごごごごごー!!」
相変わらず内容はさっぱりですが怒声らしき声を発しているのはわかりますね。敵が多いとふとした瞬間に身を滅ぼす時が来ると、メラージュは心に深く刻み込んだのでした。
「よし、早速フェーヌムへ向かうぞ。おっさんはコイツを持っていけ、我はアステルゴリラではないから担げん」
「あいほらさっさー」
「お邪魔しましたー」
返事はしたものの、女の子じゃないので担ぐ気にはとてもなれなかったレグはシバに巻きつけてあるロープを掴んで引きずり、ニケロは小さく会釈してからさっさと部屋を出て行きました。始終シバの篭った怒鳴り声が響いていましたが、人望がないせいで誰も耳を傾けませんでした。
ブラックサンタ一行が去った部屋はしばらくの間、まるで台風一過のように閑散としていましたが、やがてメラージュがぽつりと、
「……何がしたいんですかね?あの人たち……」
「さあ……でも、楽しそうなのは良いことよ」
そう答えたマサーファは横でチラリと、攫われたシバを嬉しそうに見ていたベイランを見ます。いつもネガディブで落ち込んでばかりの彼がここまで喜びの感情を露わにしているのはとても新鮮で、彼のことを気にかけている立場としては嬉しくもあるのです。
「シバさんを小川にどんぶらこさせようとしても、良いって言えますか?」
「ええ」
「うん」
これにはベイランも一緒に同意。確実に私怨でしょうね。
「さて、困ったことになったわ。シバが抜けてしまったから麻雀の続きができなくなってしまったわ」
「確か……3人でもできることには出来るんじゃなかったっけ?」
「できるけど、ルールがややこしいから無理、めんどくさい」
「さいでっか……」
シバには強気でもマサーファには強く言えないベイランです。現在暫定1位なので是非とも続けたかったのですが、マサーファが怖いので言い出せません。
「シバさんもいないですし、もう解散……」
「よし、ジェンガをしましょう」
期待しながら発言したメラージュの意見を無視し、マサーファは麻雀台の下からジェンガを取り出し、マットの上にどかんと置きました。用意のよさは人形兵イチです。
「…………」
メラージュ、絶句。
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