クリスマスであれやこれ

「楽しかったねークリスマス会!」
「そうだな」
 校舎から寮までの雪降る帰り道を、トパーズとバムは白い息を吐きながら、並んで一緒に歩いていました。
「ああいうのって子供の頃以来だったから懐かしくなっちゃったなあ」
「お前が子供の頃は、あんな風に集まってパーティでもしていたのか」
「子供会のクリスマスパーティとかしてたよ? それが終わったら家族でパーティしてたけど」
「そうか」
 短く言ったバムはひらひらと降ってくる雪を眺めていました。
 ことり並に感情表現が乏しい彼が何を考えているのか、交際からしばらく経った今でもトパーズは分かりません。退屈しているのか何かを考えているのか別に何も考えてないのか……未だに即座に答えにたどり着くことはできず、とうとう居た堪れなくなって。
「そ、そういえばバムくんってさ!」
「なんだ」
「えっと、バムくんって和風なお家なんでしょ? スイミーくんから聞いただけだけど……バムくんって実家にいた頃はクリスマスって毎年どうしてたのかなって疑問で……」
「ああ」
 短く言ってから、バムは答えます。
「毎年、奴の家で開催されているクリスマスパーティに招待してもらっていたから、実家でクリスマスをしたことがないな」
 彼が少しだけ発音強めに言う「奴」には心当たりしかありません。よってトパーズ、即座に反応。
「ルンルンちゃんちで!?」
「ライトミュラー家は母同士と兄同士が仲が良いからな。俺や姉はそれに便乗する形で参加していた」
「本当に家族ぐるみのお付き合いなんだね、ルンルンちゃんとは……」
 家族同士は仲がいいのに当人同士はどうしてここまで……と、言おうとしてやめました。バムにとってルンルンの話題など地雷以外の何者でもありませんからね。
「イベントごとが好きな家族だからな、誘われたら大腕を振って喜んで行くのが俺たちだ」
「しっかり自分も含めてる……」
「……で、お前は?」
「へ? アタシ?」
 素っ頓狂な声を出して自分を指せば、バムは静かにトパーズを見下ろして。
「お前は、家族とどのようなクリスマスを過ごしていた?」
 興味があるのかないのか判断に困るトーンで尋ねられ、トパーズは驚いて少しだけ飛び跳ねます。
「あっアタシの!? アタシのクリスマスの話なんて面白みなんてないよ? 普通だもん! 想像できる通り!」
 最後まで謙遜たっぷりで言いましたがバムはミリも引きません。
「面白くないかは俺が決める。そもそも、俺はお前のような一般家庭のクリスマスの過ごし方など知らんぞ」
「言われてみれば……」
 芸術家一族で莫大な富を得ている、俗にいう上流社会の人に言われてしまえば反論できません。
 トパーズはほんの少しだけ記憶を遡りながら、彼の疑問に答えます。
「テーブルいっぱいにクリスマスのケーキとチキンとかのごちそうが並べられて、みんなで一斉にクリスマスのお祝いをして……たくさんをご飯を食べてから、アタシと弟に両親からのクリスマスプレゼントを送ってもらってたなあ。毎年それがね、すっごく楽しみで……」
「ご馳走の中にシャケは無いのか?」
「なんで!?」
 絶叫。しかしバムは答えてくれずに頷いて納得しています。
「……まあ、なるほど。一般的なクリスマスはおおよそ俺の予想通りだったということか」
「ご期待に添えられてよかったよ……そういえば、バムくんは何を貰ったの?」
 何気なく尋ねると、バムは言葉ではなく行動で答えてくれます。ポケットから紙切れを一枚出して。
「え? なにこれ?」
「あの有名な児童書“セミ太郎の大冒険”シリーズ、全十巻セットの引換券だ。図書室で交換してもらえる」
「はえ!?」
 なかなかの声量で驚愕するトパーズと違い、バムは静かにチケットに書いてある文字を見つめていました。
「チケットの手書き文字の癖やプレゼントのセンスを考えると……ことりからのプレゼントと見て間違いないな。ヤツはこの児童書シリーズが好きだったはずだ」
「た、確かにそうかも……というか、バレちゃったらプレゼント交換の意味がないような……」
「その迂闊さも考えてことりらしい。ま、ヤツが熱弁するほど夢中だった書物には俺も興味があるからな、これを機に目を通してみるか」
「バムくんって小さい頃はああいう児童書って読んでなかったの……?」
「児童書に馴染みはないが、初等部にいた頃の愛読書は沢山あったぞ。パッチワークとか縫い物とか球体関節の人形の仕組みとか」
「好きなもの一色だね……」
 それも含めて彼らしいと思う反面、そこまで熱中できるモノがあるのを少しだけ羨ましく思うトパーズは小さく息を吐きました。白い吐息が生まれて消えました。
「アタシもちょっと興味あるかな、ことりちゃんの愛読書」
「読み終わったら貸すぞ。自分が好きなものを多くの者に知ってもらえることは、ことりにとっても喜ばしいだろうからな」
「だね、絶対に喜ぶよ……」
 表情変化は非常に少ないものの、感情表現が乏しいことはないことりが、普段より声のトーンを高くして話す姿が容易に想像がつき、トパーズは小さく笑ったのでした。
 すると、バムは足を止めたので、我に返ったトパーズも一緒に止まりまして。
「それで? お前は何を貰ったんだ?」
 淡々と尋ねられ、トパーズは答えます。
「あっ、えっとアタシはね? お茶の葉っぱが当たったよ。結構高級な緑茶」
「そうか」
 バムはどこからかマフラーと毛糸の帽子を取り出しました。
「ひとりじゃ飲みきれないほど沢山貰ったから、後でバムくんにお裾分けするね」
「そうか」
 バムはまず、トパーズの首にマフラーを巻きました。
「……えっと、バムくんって緑茶好きだっけ……?」
「緑茶も紅茶も好きだぞ」
 バムはトパーズの頭に毛糸の帽子をそっと乗せてあげました。ちょっと満足げでした。
「……ところでバムくん、さっきから何をしているの……?」
「マフラーと帽子を着けさせたが。見て分からんのか?」
「そ、それは見たら分かるよ!? アタシにそれを着けさせたのは……どうして?」
「クリスマスだからな」
 淡々と言われ、トパーズはようやく気付きます。
「あ、ええっ!? これ、アタシへのプレゼン……ト……?」
「他に何がある」
「そ、そ、そうだよね!? いつの間に編んだの!?」
「クリスマス会用のプレゼントを作る時に一緒にな。お前に見られるわけにはいかなかったから、作業場所が限られているのは少々不便だった」
「な、なるほど……でも、ええっと」
「今度はなんだ」
「ううん。手編みの帽子とマフラーはあるけど、手袋ってないんだなって思って。こういうのって手袋も付いてくるものだと思ってたから……って、図々しいよねアタシ! ごめん忘れて!」
「……ああ」
 バムは、慌てて首を振っているトパーズの手を取りました。
「ぴっ!?」
 交際しているとはいえ、彼から触れてくることなど滅多に無かったため、当然のように驚きを隠せず硬直してしまった直後。
 彼は、真っ赤になって立ち尽くしているトパーズの右手の甲に、軽くキスを落として。
「手袋をしてしまったら、お前の手の温もりが感じられなくなってしまうだろ?」
 そう言って、微笑んでくれて。
 色々とウブなトパーズにはもう、これ以上にないぐらいのときめきと恥ずかしさに襲われてしまい。
「……………………」
 全身がヒートアップしたことで頭から湯気が出てしまいました。寒いせいで熱がどれほど出ているかよく分かりますね。
「……もう少し、慣れさせておくべきだったか……」
 北風と雪の寒さでトパーズの熱が引くまで、バムはずっと隣にいてあげたそうな。


2025.12.25
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