冒険者になったワケ

「この世とは、とってもとてつもなく理不尽なのです」
「そりゃあそうだよ、世の中ってのは理不尽の煮凝りみたいなものだ」
「ちょっと勉強が苦手だからって放課後に私を教室に閉じ込めるだなんて! 酷いのです! あんまりなのです!」
「人はそれを補修と言う〜」
 互いの机を付けて向かい合わせになったネネイとスイミーは机の上にそれぞれノートとプリントを広げていた。
「この量の課題をやりきれば赤点回避できるんだから、ファイトだよ!」
「やーなのですー! 勉強したくないのですー! 勉強しないで冒険したいのですー!」
「探索するにも無知と博識じゃあ生存率はダンチ」
「ういー……言い返せないことを……って、ことりちゃんはどうしたのですか? 私たちと一緒にプリントを渡されたはずなのです!」
「ルンルンちゃんに連れて行かれちゃった〜、成績首位のルンルンちゃんが勉強を教えてくれるならことりちゃんは大丈夫でしょ」
「む、共に苦労をする仲間が減ってしまったのです……ルンルンちゃんはたまにひどいことをするのです!」
「たまにかなあ? それより手ぇ動かした方がいいよー」
「分かっているのです! でも全然分からないのですー!」
「はっはっはっは、共に机の上にノートを広げて課題に苦戦するって状況もなかなか面白いね〜」
「私はちっとも面白くないのです! やっぱりスイミーくんはちょっと変なのです!」
「ちょっとかなあ?」
「お父さんのお仲間さんにノームの戦士さんがいるのです、その人もその人の家族もすごく真面目で冷静な人なのです。だからノームは大人しい人ばかりだと思っていたのです、でもスイミーくんは全然違うのです!」
「種族傾向としてはそういうのはあるかもね。なんせ僕らは他の人とは違った“つくり”をしているから、この体だって人工物だし〜」
「血肉がない肉体だと心も冷たくなってしまうとかそーゆーのです?」
「心が冷たくはないと思うよ? 人の情がないってことはないってのは断言できる。だた、僕たちはネネイちゃんみたいに肉体が本体じゃなくて魂が本体だから、どこか冷静で達観している人が多いってだけだと思う」
「本体が違うと考え方が違うようになるのです?」
「僕が勝手にそう思っているだけ。ノームの魂はね、一度死んでしまった生き物の魂がどっか浄化されて、生前の記憶も全て無くした状態の魂なんだ。それが作り物の肉体に宿ることでノームが生まれるとされている。国や地域によって若干異なることもあるらしいけど、少なくとも僕はそうだったね」
「りんねてんせーってやつなのですね。それじゃあ普通の人とあまり変わりないじゃないですか」
「そう。生まれ方が違ってるだけ、妙に冷静だったり感情表現が少なかったりするのは初めから人として完成されている肉体を得ているから……つまりは君たちのように子供時代ってのがないんだ。それで情操教育が追いつかずに感情表現が乏しいノームになってしまうってのも、僕らにとってはそう珍しくない話だね」
「んー……難しくてよくわかんないのです! 子供の頃がないから最初から大人ってことですね!」
「もうそれでいいよ〜」
「でもスイミーくんは魂が本体でもすっごく感情表現豊かなのですよ?」
「ああ、僕は特殊個体なんだよね。魂の浄化が不十分で生前の性格に引っ張られているところがあるみたいなんだ」
「そうなのですか!? じゃあスイミーくんはスイミーくんになる前のスイミーくんなのですか!?」
「違うよ〜前世の記憶なんて残ってないからね。ノームにしては異様に活発すぎるってことで調べてもらって発覚したってだけのお話、性格と考え方にちょっと影響が出てるみたい」
「じゃあスイミーくんの前世さんも面白いことが大好きだったのですか?」
「それは分からない。僕のこの趣味嗜好が前世のモノなのか僕自身のモノなのか……突き止めることもできないね〜前世の名前はおろか、性別も種族もわからないんだもん」
「なるほど! じゃあ前世さんと今のスイミーくんがほどよく混ざったのがスイミーくんということですね!」
「ちゃんと理解してくれたのか微妙だけど、ネネイちゃんの落とし所にうまくハマったならそれでいいや〜」
「はっ! もしかして……スイミーくんが冒険者を目指したのは前世さんのことを知るためなのですか! そうなのですね!?」
「全然違うよ? 前世さんのことは何も知らないし知ろうとも思わない。だって今の僕で十分に面白いからね」
「じゃあなんでなのです? 他に何かあるのです?」
「だって冒険者の方が普通に就職するより面白いじゃん」
「納得の理由だったのです。よく考えなくてもスイミーくんはそういうヤツなのです」
「一度しかない人生なんだからより刺激的なモノにしないと損じゃん? 人同士のぶつかり合いや関わり合いから発生する面白さも大好きだけどやり過ぎちゃうこともあるから、自分自身で面白くて楽しい場所に飛び込むことにしたんだよねー」
「やりすぎちゃったことがあるのですね」
「あるよー散々な目に遭ったからもう懲りたけど。あの時は僕も若かった……」
「だからバムくんとルンルンちゃんを煽って喧嘩に発展とかさせないんですね。そういう争いを見る面白さは求めてないんですね」
「懲りたって言ったじゃーん、僕はもう自然発生する面白さを味わうことに徹することにしたの。材料は適度に作るけど、起爆剤にはなりたくないからさー」
「失敗を活かせて偉いのです!」
「そりゃどうも。てか、バムくんとルンルンちゃんなら僕が何もしなくても同じパーティにいるだけで適度に争ってくれるから助かってるんだけどね!」
「やっぱり懲りてないのです。面白さジャンキーなのです」
「懲りてるけどジャンキーなのは認める。僕が集めたうちのパーティは“コイツ! 面白い子!”って直感した人だけを厳選した“僕が作った最強に面白いパーティ”だから! ネネイちゃんもとっても面白いよ? その独特な考え方が特に!」
「あー今バカにしたのです、絶対にバカにしたのです。おバカさんなのはスイミーくんもなのですよ、だって補修を受けているのです」
「確かに僕は補修を受けているけど、ネネイちゃんみたいに勉強ができなくて受けてるワケじゃないよ?」
「勉強できない人が補修を受けるモノなのですよ」
「これを見てもホントにそう言えるかね?」
「…………課題が、全部、できてるのです」
「思ったより簡単だったねー、冒険者育成学校で種族問わずに生徒を多く集めているから全体的に難易度を下げているのかも? どうしても勉強ができない子ってのはいるものだしー」
「え、え? スイミーくん……おバカじゃなかったのですか?」
「僕がどうして補修を受けているのか教えてあげよっか?」
「は、はいです」
「普通にテストを受けて満点を取るよりも、こうして補修を受けている方が面白いなって判断したから! テストの回答用紙を全部空欄にして提出したんだよね!」
「ひっでぇのです。そして誰に対しても失礼なのです」


2024.5.27
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