ととモノ2
「リーダーを決めようと思う」
学園、ダンジョンの入り口。
さあ! これからダンジョンに入るぞ! というところでノームでレンジャーで面白いことを誰よりも愛する少年、スイミーはそう言いました。
彼を除いた五人の仲間がぽかんとしている中、熱弁は続きます。
「ダンジョンを探索してて思った、やっぱり最前線で状況を把握してみんなに的確な指示を出せる人がいるって。戦闘中だけじゃなくてダンジョン内でどの道を進むか、宝箱を開けるか、一旦休むべきか、その辺りの判断もできる司令塔のような役割を持っている人がいるんじゃないかって」
「じゃあお前がなればいいだろ」
即座に冷静に口を出したのはディアボロスのバム、人形使いでいつも持っている人形は世界一カッコいいと自称している変人。
ひとりを除いた全員が頷く最中、スイミーは鼻で笑い、
「ぜええええええええったいにイヤだね! だって周りを見て状況判断とかしてたら面白いシーンを見逃すかもしれない! 僕が考えたさいきょうにおもしろいパーティなのに!? その味を! 旨みを! 噛み締められないなんて耐えられない!!」
「お前レンジャーだろうが!!」
ど正論でしたがスイミー本人が首を縦に振りません。それどころか左を向いて対話拒否の意思。
言い出しっぺが何も言わなくなってしまったので、ドワーフで格闘家トパーズが遠慮がちに手を挙げてます。
「ええと……リーダーを決めるのはアタシも賛成かな? 言い出しっぺのスイミーくんがしたくないって言うなら……」
と、言葉を濁しつつ、
「バムくんかルンルンちゃんが適任なんじゃないかな? 頭もいいしみんなのことちゃんとよく見てくれて」
「コイツの言うことは聞きたくない」
意見が全て出る前にバムとルンルン、二人は一切目を合わせずお互いを指して拒否反応。スイミーが吹き出しました。
トパーズが絶句する中、最初に意見を述べるのはセレスティアのルンルン、魔法使いでもある彼女は杖を持ったまま、穏やかな表情の裏に怒りとストレスを滲ませながら言うのです。
「私をリーダーに相応しいと推薦してくれたのは嬉しいですけど、リーダーになったとても絶対に指示を聞かない者がひとりいるのであれば、リーダーとしての勤めを果たすことができなくなるのではなくて?」
「俺もこんな女の言うことを聞くなんて御免だね。生命の危機レベルの事態にならないと絶対に話なんて聞かないし奴が右に行くと言えば俺は左に突き進んでやる!」
「あっもういいです」
即座にダメだと判断したトパーズはさっさと目を逸らしました。どうして仲が悪いのに同じパーティなんだろう……と思い、口に出さずに。
「じゃあアタシがリーダーになるしか……」
「わかったのです! では私がリーダーになるのです!」
全て言い切る前に元気の良い声が飛び出します。フェルパーのネネイです。
正義感の強い剣士でもある彼女は皆を見ながら高らかに続けます。
「私がリーダーになってみんなを導いてあげるのです! 大丈夫なのです! りぃだあとしてのつとめ? はちゃんと果たすのです! 任せるのです! いつものお掃除とお料理のついでなのです!」
元気いっぱい、これから探索が始まるのにここで体力を使うなと言いたくなるほど腕を振って大声で叫びながら主張しています。うるさくてバムが呆れた顔で耳を塞いでますが気にせずに。
トパーズが何かを言いたげに口をぱくぱく動かす中、ルンルンは静かにネネイの目の前にやってきて、
「ではネネイさん、リーダーが務まるかどうか簡単なテストをしましょう」
「テストですか? やるのです!」
「ダンジョンの中に宝箱があります、それには“この箱には罠があるけど開けていいよ”と書いてあります。さて、貴女は宝箱を開けますか?」
「開けていいとあるなら開けていいはずです!」
「さてリーダーは誰にしましょうか」
ルンルンはネネイに背を向け、話を戻しました。
「あれ?」
ネネイは首を傾げつつ何度もルンルンを呼びますが無視を決め込まれてしまったのか、最初からそこに存在していないように無視され続けるのでした。
「やっぱり言い出しっぺのスイミーだろ。ちなみに俺はやりたくない」
「イヤだ!! 僕もイヤでバムくんもイヤならルンルンちゃんがやるしかないと思う!」
「私がリーダーになってしまったら…………」
一旦言葉を止めたルンルン、スイミーとバムが疑問を感じつつ見つめます。
「ええと、決まらないならアタシがリーダーやるよ? 小さい頃は学級委員長とかしてたし……」
トパーズの意見は完全に無視されているのでさておき、ルンルンは杖ごと己を抱きしめて、
「ああっ! 私のために皆さんそのようなことにまで手を出されて! これも私がリーダーであるために生じた悲劇が! どうしてこのような悲惨な争いが生じてしまったの!? 運命とは残酷! とてもではありませんがリーダーなんてできません!」
まるで悲劇のヒロインのような芝居かかった口振り。そのまま地面に崩れ落ちてしまい俯き、肩を震わせてしまいました。
「今の一瞬でどんな物語が頭の中で展開されたの!? 役に入りすぎてて怖いよ!」
トパーズが悲鳴じみた叫び声を上げ、スイミーがワクワクしながらメモ帳を取り出しました。
「めちゃくちゃ面白そうだから起承転結全てを書面に残させてねルンルンちゃん! ちなみに宿敵のバムくんはどうなった?」
「バムは死んだ!」
「おい」
ドスの効いた低い声が響きますがルンルンは聞いちゃいません。
バムは苛立ちが隠せないのか頭を掻きむしりながら、
「スイミーもダメ! 俺もイヤだ! ネネイは馬鹿! ルンルンなんて以ての外!」
「馬鹿って失礼なのですよ!?」
「リーダー候補なんてもうことりぐらいしかいないだろ!」
と、バムはバハムーンの少女を指しました。バハムーンで戦士の彼女「ことり」を。
ちなみに「小鳥」という名前ですが背は高いです、バムよりも。
「…………」
名前を呼ばれましたが返答はありません。ことりは表情筋を動かさずに木の幹を見つめています。
呼びかけても反応がないなら次にやることは接触です。スイミーはメモ帳をしまうとことりの隣に立ち、
「ことりちゃんことりちゃん」
肩を叩くと我に返ったのか、少し驚いた様子で振り向きます。
「どうしたの? スイミーくん」
「ことりちゃん、このパーティのリーダーやらない? 前衛かつ先頭に立っていることりちゃんがリーダーにいいかなーって思うんだけど」
「そうなんだ、いいよ」
あっさり快諾。今までの言い争いが無意味に思えるほど簡単な返答。
スイミーは即座に振り向いて、
「リーダー確定! じゃあダンジョン行こう!」
満面の笑み。これから先に待っているであろう面白いことに期待と夢を膨らませた表情のまま、真っ先にダンジョンの入り口に向かって進み始めました。
「ことりさんがリーダーですか……バムがリーダーになるという最悪の展開が避けられただけでも良しとしましょう」
「その言葉、そっくりそのまま返してやる。俺もせいせいしてるわ」
「ことりちゃんがリーダーするなら私の出番はないのです」
ルンルンとバム、そしてネネイが足を進め始めた中でことりはふと足元に目をやり、
「あ、たんぽぽの綿毛」
白いふわふわについた種子を拾い上げ、ポケットに忍ばせたのでした。
ひとり置いてかれてしまいそうなトパーズは顔をひきつらせて、
「ええと、アタシはなんでリーダー候補にすら入れてもらえないのかな……? 何か変なこと、したっけ?」
恐る恐る尋ねると、トパーズ以外の五人は足を止めて振り向き、
「マスコットに危険なマネはさせたくない」
口を揃えての返答。
「アタシはマスコットじゃないよぉ!!」
悲痛な叫びを訴えたトパーズはリーダーになれなくても、注意力散漫なことりのフォローはちゃんとしようと決意したのでした。
2024.4.28
学園、ダンジョンの入り口。
さあ! これからダンジョンに入るぞ! というところでノームでレンジャーで面白いことを誰よりも愛する少年、スイミーはそう言いました。
彼を除いた五人の仲間がぽかんとしている中、熱弁は続きます。
「ダンジョンを探索してて思った、やっぱり最前線で状況を把握してみんなに的確な指示を出せる人がいるって。戦闘中だけじゃなくてダンジョン内でどの道を進むか、宝箱を開けるか、一旦休むべきか、その辺りの判断もできる司令塔のような役割を持っている人がいるんじゃないかって」
「じゃあお前がなればいいだろ」
即座に冷静に口を出したのはディアボロスのバム、人形使いでいつも持っている人形は世界一カッコいいと自称している変人。
ひとりを除いた全員が頷く最中、スイミーは鼻で笑い、
「ぜええええええええったいにイヤだね! だって周りを見て状況判断とかしてたら面白いシーンを見逃すかもしれない! 僕が考えたさいきょうにおもしろいパーティなのに!? その味を! 旨みを! 噛み締められないなんて耐えられない!!」
「お前レンジャーだろうが!!」
ど正論でしたがスイミー本人が首を縦に振りません。それどころか左を向いて対話拒否の意思。
言い出しっぺが何も言わなくなってしまったので、ドワーフで格闘家トパーズが遠慮がちに手を挙げてます。
「ええと……リーダーを決めるのはアタシも賛成かな? 言い出しっぺのスイミーくんがしたくないって言うなら……」
と、言葉を濁しつつ、
「バムくんかルンルンちゃんが適任なんじゃないかな? 頭もいいしみんなのことちゃんとよく見てくれて」
「コイツの言うことは聞きたくない」
意見が全て出る前にバムとルンルン、二人は一切目を合わせずお互いを指して拒否反応。スイミーが吹き出しました。
トパーズが絶句する中、最初に意見を述べるのはセレスティアのルンルン、魔法使いでもある彼女は杖を持ったまま、穏やかな表情の裏に怒りとストレスを滲ませながら言うのです。
「私をリーダーに相応しいと推薦してくれたのは嬉しいですけど、リーダーになったとても絶対に指示を聞かない者がひとりいるのであれば、リーダーとしての勤めを果たすことができなくなるのではなくて?」
「俺もこんな女の言うことを聞くなんて御免だね。生命の危機レベルの事態にならないと絶対に話なんて聞かないし奴が右に行くと言えば俺は左に突き進んでやる!」
「あっもういいです」
即座にダメだと判断したトパーズはさっさと目を逸らしました。どうして仲が悪いのに同じパーティなんだろう……と思い、口に出さずに。
「じゃあアタシがリーダーになるしか……」
「わかったのです! では私がリーダーになるのです!」
全て言い切る前に元気の良い声が飛び出します。フェルパーのネネイです。
正義感の強い剣士でもある彼女は皆を見ながら高らかに続けます。
「私がリーダーになってみんなを導いてあげるのです! 大丈夫なのです! りぃだあとしてのつとめ? はちゃんと果たすのです! 任せるのです! いつものお掃除とお料理のついでなのです!」
元気いっぱい、これから探索が始まるのにここで体力を使うなと言いたくなるほど腕を振って大声で叫びながら主張しています。うるさくてバムが呆れた顔で耳を塞いでますが気にせずに。
トパーズが何かを言いたげに口をぱくぱく動かす中、ルンルンは静かにネネイの目の前にやってきて、
「ではネネイさん、リーダーが務まるかどうか簡単なテストをしましょう」
「テストですか? やるのです!」
「ダンジョンの中に宝箱があります、それには“この箱には罠があるけど開けていいよ”と書いてあります。さて、貴女は宝箱を開けますか?」
「開けていいとあるなら開けていいはずです!」
「さてリーダーは誰にしましょうか」
ルンルンはネネイに背を向け、話を戻しました。
「あれ?」
ネネイは首を傾げつつ何度もルンルンを呼びますが無視を決め込まれてしまったのか、最初からそこに存在していないように無視され続けるのでした。
「やっぱり言い出しっぺのスイミーだろ。ちなみに俺はやりたくない」
「イヤだ!! 僕もイヤでバムくんもイヤならルンルンちゃんがやるしかないと思う!」
「私がリーダーになってしまったら…………」
一旦言葉を止めたルンルン、スイミーとバムが疑問を感じつつ見つめます。
「ええと、決まらないならアタシがリーダーやるよ? 小さい頃は学級委員長とかしてたし……」
トパーズの意見は完全に無視されているのでさておき、ルンルンは杖ごと己を抱きしめて、
「ああっ! 私のために皆さんそのようなことにまで手を出されて! これも私がリーダーであるために生じた悲劇が! どうしてこのような悲惨な争いが生じてしまったの!? 運命とは残酷! とてもではありませんがリーダーなんてできません!」
まるで悲劇のヒロインのような芝居かかった口振り。そのまま地面に崩れ落ちてしまい俯き、肩を震わせてしまいました。
「今の一瞬でどんな物語が頭の中で展開されたの!? 役に入りすぎてて怖いよ!」
トパーズが悲鳴じみた叫び声を上げ、スイミーがワクワクしながらメモ帳を取り出しました。
「めちゃくちゃ面白そうだから起承転結全てを書面に残させてねルンルンちゃん! ちなみに宿敵のバムくんはどうなった?」
「バムは死んだ!」
「おい」
ドスの効いた低い声が響きますがルンルンは聞いちゃいません。
バムは苛立ちが隠せないのか頭を掻きむしりながら、
「スイミーもダメ! 俺もイヤだ! ネネイは馬鹿! ルンルンなんて以ての外!」
「馬鹿って失礼なのですよ!?」
「リーダー候補なんてもうことりぐらいしかいないだろ!」
と、バムはバハムーンの少女を指しました。バハムーンで戦士の彼女「ことり」を。
ちなみに「小鳥」という名前ですが背は高いです、バムよりも。
「…………」
名前を呼ばれましたが返答はありません。ことりは表情筋を動かさずに木の幹を見つめています。
呼びかけても反応がないなら次にやることは接触です。スイミーはメモ帳をしまうとことりの隣に立ち、
「ことりちゃんことりちゃん」
肩を叩くと我に返ったのか、少し驚いた様子で振り向きます。
「どうしたの? スイミーくん」
「ことりちゃん、このパーティのリーダーやらない? 前衛かつ先頭に立っていることりちゃんがリーダーにいいかなーって思うんだけど」
「そうなんだ、いいよ」
あっさり快諾。今までの言い争いが無意味に思えるほど簡単な返答。
スイミーは即座に振り向いて、
「リーダー確定! じゃあダンジョン行こう!」
満面の笑み。これから先に待っているであろう面白いことに期待と夢を膨らませた表情のまま、真っ先にダンジョンの入り口に向かって進み始めました。
「ことりさんがリーダーですか……バムがリーダーになるという最悪の展開が避けられただけでも良しとしましょう」
「その言葉、そっくりそのまま返してやる。俺もせいせいしてるわ」
「ことりちゃんがリーダーするなら私の出番はないのです」
ルンルンとバム、そしてネネイが足を進め始めた中でことりはふと足元に目をやり、
「あ、たんぽぽの綿毛」
白いふわふわについた種子を拾い上げ、ポケットに忍ばせたのでした。
ひとり置いてかれてしまいそうなトパーズは顔をひきつらせて、
「ええと、アタシはなんでリーダー候補にすら入れてもらえないのかな……? 何か変なこと、したっけ?」
恐る恐る尋ねると、トパーズ以外の五人は足を止めて振り向き、
「マスコットに危険なマネはさせたくない」
口を揃えての返答。
「アタシはマスコットじゃないよぉ!!」
悲痛な叫びを訴えたトパーズはリーダーになれなくても、注意力散漫なことりのフォローはちゃんとしようと決意したのでした。
2024.4.28