今日こそは、
「最近鶴丸の様子がおかしいんだけど…何か知らない?」
美人な友人に聞いてみれば笑いながら冗談混じりに言った。
「もしかしてあなたに恋してたり」
「そんなアホなこと言えなんて私は言ってないよ」
「あははは、ごめんって。でも案外ハズレじゃないかもしれないでしょう?」
いやいや、君みたいな美人に恋するなら分かるけどこんな平凡の塊みたいな…というよりも平凡な私に恋をするなんて目を疑う。
むしろ病院につれていくレベルだよね、頭の。
「気になるなら自分から聞いてみちゃえば?」
「うーん…気が向いたらね」
その次の日に私は彼に前世を信じるか?と聞かれることになる。
あんな夢が前世だったりしたら本当に願い下げである。
楽しそうな声を聞いてご飯を食べる自分と空を見ている自分しか夢に見てはいないけど、あまり楽しくはなさそうな姿だなーと夢を見ながら思っていた。
しかし私の答えにショックを受けたような顔をした鶴丸は次の日からなにもなかったように普通に私に話しかけてきた。
「聞いてくれよ、今日は三日月のやつをあっと驚かせてやったんだ!」
「へー」
「そんな興味なさそうな顔するなって」
興味なさそうというか全く持って興味がないんだよね。
それにしても適当に相槌を打つ程度の私との会話なんて面白みもないと思うんだけど。
「楽しい?」
「ん?何がだい?」
「私なんかと話してて」
だって、どんなに面白いことを言われても面白い反応は返せないし、何よりもこの五条鶴丸という男は驚きに満ち溢れたものが好きっていう謎の習性を持っているわけで、そんなものとは程遠い場所にいる私と話をしていても退屈でしかないんじゃ…
「いいや、そんなことはないさ。俺は君とこうしてずっと話をしてみたかったんだ」
「…?いや、前もよく喋ってたじゃん」
「こういう取り留めの無い事、寝て起きたらすぐに忘れてしまうような内容でも、俺は君とずっと喋っていたかったのさ」
「……なんかよく分からないけど、話したいことがあるなら話せばいいんじゃないの?
適当な返事しか返せないのは謝るけど、別に話を聞いてないわけじゃないし…」
話を聞くぐらいなら出来るしね、と講義が終わってそのままだった筆記用具をペンケースに閉まってバッグに詰め込んだ。
ぐぅ~と頼りない音を出すお腹をさすりながら時計を見ればお昼にはちょうどいい時間だ。もう今日は講義も無いしゆっくりどこかでご飯でも食べて帰ろうかな、
「なんて顔してんの鶴丸」
今まで見たこともない頼りない顔である。
「あの時の君も、俺達が話をしていれば何も言わず聞いてくれたんだろうか、って思っただけさ」
「?」
鶴丸の様子がおかしくなってから私に対してよく分からない言葉を発するけど、それの意味はまったくもって謎。知ろうとも思わないわけだけど、まあ、話をされれば黙って聞くだろうな、とも思う。
「そうだ、一緒にご飯でも食べに行かないか」
「奢り?」
「君なあ……はあ、まあ俺が誘ったんだしな、男らしく奢ってやろう」
「やった。肉食べよう肉」
「本当に肉が好きだな」
「あれ、私がお肉好きって言ったことあったっけ」
「ああ、昔にな。これが出るといつもうきうきしながら食べてるとも言ってたな」
好物はまだしもうきうきしながら食べてるなんて言ったっけ…確かにうきうきしながら食べてるから間違いではないんだけども…
う~ん、確かに誰かに言ったことがあったようななかったような、
「ほら、この時間は店が混む。どの店に行くのか決めてさっさと行くか」
「あ、それもそうだね」
携帯をぱっと開けばメッセージが入っていた。
「お兄ちゃん達にお昼食べて帰るってラインしとかなきゃ」
「兄貴なんて居たのか」
「まあねえ。二人とも結構過保護でねー
一番上のお兄ちゃんなんて二番目のお兄ちゃんの名前よく忘れた振りしてからかってたりするんだけど、私が少し帰り遅くなると二人してすっごい目でどこ行ってたんだ、とか鬼退治の時間かな、とか変なこと言い出すんだよね」
「……」
「なんか顔青くない?」
「……いや、うん…いつか俺は君の兄貴二人に殺されるかもしれないな、と」
「流石に殺されたりはしないだろうけど…」
メッセージを送信し、よし肉だ肉!と意気込む。
この空腹感のうちに食べるとさらに肉が美味しくなる!
しかも奢りとは素晴らしいぞ、人の金で食う好物とハーゲンは最高だぞ!
その数年後に
「今日こそは君に言おうと思ってた。
……いや、前世から君に言おうとして言えなかった言葉があるんだ」
風呂上りのハーゲンを食べながらのんびりとテレビを見ていた時にまさかプロポーズをされるとは思っていなかったわけで、私はたいそう間抜けな顔をしていたことだろう。
そして我に返り、頷くのであった。