明日こそは、
私の友達はイケメンの友達が多い。
そんな私の友達も美少女なんだけども、なんでこんな普通の人間がこんな美人の友達と知り合えたのかは全く分からない。なんでだ?
類は友を呼ぶと言うが、美人の友達にイケメンの友達が大勢居るのは所謂類友だろう。しかし類友なんていう言葉では私が彼女と友達である理由にはならんぞ。
そんな友達はちゃんとした名前があるというのになぜかそのイケメン達に「主」と呼ばれている。大将とか主君とか呼び方に変動はあるけどもだいたいが主である。
知り合った中学生の頃に「なんで主って呼ばれてるの?」と聞いたらなんと前世にいろいろあったらしい。
「へーそうなんだ」と頷くと美人の友達は信じてくれるの?と驚いた風だった。
まあ確かに普通の人ならば信じがたいような内容ではあったけども、この子は嘘をつくような人でも無いし、それにそれが嘘でも本当でもざっくり言うと私には関係のない話なので、この子と友達になるうえでは特に重要性の無いものであった、というのが本音だったりするんだけども。
美人な友達のイケメンの友達の一人になぜか好かれている。
なんとも儚そうな外見であるそのイケメンは何故か私を気に入ったらしい。何故かは知らない。
聞いてみても本人にも分からないようで「何でだろうな?」と首を傾げるだけだ。
私が聞いてるんだから疑問を疑問で返してこないでほしい。私が聞いてるんだよ!
高校から知り合って大学生となった今でも交流は続いている。
「君は君が思うよりもずいぶんと美しい人間だと思うがなあ」
「人間に思えないような外見をしてる人に美しいって言われても…」
完全に嫌味じゃなかろうか、嫌味でしょそれ。
「美しいっていうのはあの子みたいな子でしょ」
あの子はまさに完璧である。外見もそうだけど気配りの出来る凄い子なのであるぞ。
「うーむ、確かに主は美しいが、俺が言いたいのはそういうことじゃあない」
「どういうこと」
「…口にしてしまうとそれはそれで軽いものになってしまいそうだしな」
じゃあどうしろってんだ。
「鶴丸達は主を覚えておるか?」
「君はいったい何を言っているんだい?覚えてなかったらああしてあの子の事を主、主、と慕ったりはしないだろう」
「うーむ、俺が言いたいのはそっちではないんだがなあ」
ずずず、とお茶を啜ったかつて三日月宗近という名だった男は鶴丸国永という名だった男を見たかと思うとまた茶を啜る。
「…そういえば君は主とあまり話をしたがらないな、なんでだい?」
「そうさなあ、俺の主はあの人ではないからだな」
「主があの人じゃない?」
その言葉を復唱して、首を傾げる。なぜ主があの人ではない?確かにこの三日月宗近という名だった三条三日月は、同じ本丸にいた者同士のはずだ。
本丸で起こった些細な出来事での話に食い違いは無いし、鶴丸と三日月は三日月が本丸に慣れるまでの間同じ部屋で過ごした仲であった。
そう、鶴丸と三日月は顕現された時間に大幅に感覚があいたのだ。
鶴丸国永はあの本丸でも古参に入る部類で三日月宗近はその希少性故かなかなか顕現される事が無く、鶴丸国永の練度がもうすぐ上限値まで上がりきる、といった頃に顕現された刀であった。
「ん…?」
そこまで思い出した五条鶴丸は首を傾げた。何かが、引っかかる。
「そういえば君は…顕現されたのは随分と後だったな」
「ああ、そうだな。あの時はとても歓迎されたものだ。うむ、懐かしい」
「そうそう、なかなか君が現れなくてみんなヘトヘトだったんだ。それでやっと君があらわれて、主に急いで持っていって、君を…顕現してもらう…よう、に…と」
そして、また、何かが引っかかった。
何かが引っかかるのだ。その何かが、何なのかは、分からない。
「まあ、ゆっくり考えるといい。無理に思い出しても何もいいことは無いさ。
何も、な」
そう言って、三日月宗近が、笑ったような気がした。
「君は前世というものを信じているのかい?」
「はい?」
講義が終わって今日はもう大学には用がない。
帰り支度を進めているといつのまにか現れたのか五条鶴丸が話しかけてきた。
「だから前世だ。主が言っていただろう。俺達と主は前世からの付き合いだと」
「ああ、そういえばそんなことを…」
確かに言っていたかもしれない。私も時々変な夢を見たりするし、それがもし前世とかそういうやつなのかもしれないとか思った事もあるわけだけども、あんなのが生まれる前の自分とか考えたくもない。
だって凄く退屈そうな姿をしていた。何をするわけでもなくぼーっと空見てたり、子供の笑い声や賑やかな食事の声を聞いて私は一人でご飯を食べていた。
家族と不仲な前世だったのだろうか、時々猫のおなかを撫でたりしてたけども飼い猫だったらしく手からすり抜けるあの残念さ、計り知れない。
「あの子の前世とかいう話は信じてますよ。あの子は嘘なんて言わないだろうし、あの前世とかいう話が嘘だったとしても私にはとくには必要の無い話だし…」
「…そうか、君はとても主と仲が良いんだな。
主にも前世で君のような友人と出会っていたらぜんぜん違ったのかもしれないな…」
「?なにかあったの?」
「ああ、本人が言わずに俺が言うのも随分とおかしな話だとは思うが…主ともっと仲良くなって欲しいんだ…
主は昔、本丸という閉鎖的な空間で仕事をしていてな…外の世界とは完全に隔離された施設のような場所で家族や友人にも会えなかったんだ。
そういう場所で数年を過ごす中で君のような友人がいたら、若くして病で亡くなった主も…もっと充実した人生を過ごせたと思うんだ」
「病気で亡くなったのね」
「一緒に居られたのは3年ぐらいだったんだけどな、凄く楽しかったな…」
3年であんなに懐くもんなのか…っていうか、そりゃあ病で亡くなった人が目の前にいたらあんなテンションにもなるか。
「確か、主は猫が好きでよく五虎退の虎を撫でながら猫が好きだと言っていた。それは虎だと何度も言ってるのに、ずーっと猫だと言い張ったり…」
虎っていう単語にも驚くんだけど何よりも、
「あれ?あの子って確か犬派だよね。猫派の私とよくそれで衝突するもの」
「…そう、だったか…?」
「そうよ。確か今でも犬飼ってた筈だけど…」
そう伝えれば鶴丸はなんだか腑に落ちない顔をしながらも頷く。
「……ああそうだな、確かに、犬が好きだった…
しかしなんで俺はあんな勘違いをしたんだ…?」
それからどこか鶴丸の様子が可笑しくなった。
「鶴丸殿、最近様子がおかしいと薬研や平野が心配しておりましたが…
何かあったのですか?」
大学のレストランでぼうっと空を眺めて、俺は何かを忘れている事に気付いていて、それを思い出そうと躍起になっていた。
最近、本丸での話をすると、時々食い違いが発生するのだ。
主の好物はアレだった、と口にすると「何を言っているんだ?」と変な顔をされて、口をそろえて俺の話したものとは違う言葉を発するのだから、堪ったもんじゃない。
「一期、君は…君の主は誰だい?」
そうやって聞けば不思議そうな顔をして、主の名を言うのだから、俺の思い違いか?とさえ思えてきた。
だけど、思い違いだとしたら三日月のあの反応はいったい何だっていうんだ、それの説明がつかないじゃないか。
答えが出せないまま一ヶ月ほど過ごしただろうか。
その答えはすぐに出た。
「そういえば…私はすぐに死んじゃったけど、きっと私のあとに後任の人が来たと思うのよね、後任の人はどんな人だったの?」
私は三日月宗近を顕現させることが無かったけど、今生で三日月宗近がいるのだから、きっと後任の人が呼んだんでしょう?きっと凄い優秀な人だったのね。
そうだ、思い出した。思い出して、しまった。