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なんの変哲も無いバイトの話



「はーちゃん、購買に行こう」
「別にいいけど…」
はーちゃんとは渾名である。苗字の長谷部からはーちゃん。安直。でも分かりやすいからまあいいか。
中学からの友達であるこの子は面食いという奴で、イケメンを見かけると足を止めて見蕩れている。それを私が腕を引っ張って目的地へと運ぶのが常だ。
「今日は何があるの?」
「なんと、今日は月イチ限定極上ヤキソバパンが発売だから、和泉守先輩が来る!はず!!」
「はず、なのか…」
これで購買まで行ってその先輩が現れなかったら意味無いよね。
「大丈夫、絶対に来ることはリサーチ済みだから!」
「あ、はい」
そのリサーチする体力を是非とも別のところに使っていただきたい所存。

そしてお昼になってやってきました購買。
ヤキソバパン目当てらしい行列が出来上がっていて私は若干引いた。
友人は目をギラつかせてヤキソバパンを狙うわけではなく、お目当ての先輩を探している。
ちょうど空いた席に座ってもしゃもしゃと兄作のお弁当を頬張る。本当に我が兄はなんでもできる人だ。勉強で分からないところを聞けばなんでも教えてくれるし、料理も掃除もなんでもござれ。そして会社でも頼りにされているらしく良い地位に居るらしい。
ハイスペックな兄をもって妹ちゃん嬉しいです。
友人がいる方向を見ればまだお目当ての人に出会えないらしくふらふらと彷徨い歩いていた。
戻ってくるまではここで待ってたほうが良さそうだな。
携帯を弄りつつお弁当をもしゃもしゃ。

「ココ使ってもいいか?」
「え?ああ、どうぞ」
「おう、ありがとな!」
大きなテーブルだから一人で使ってるのなんだか悪いしね。
学年色を見れば自分のリボンと同じ色のネクタイを緩めてつけていた。同じ学年の人か。でもこんな派手な金髪の人見たことないし、遠いクラスの人なのかな。
「御手杵ーこの席取ったからあいつらに伝えてきてくれー」
「わかったー」
どうやら他にも人が来るみたいだ。
私はいそいそと友達用の席を一つ確保して端っこに寄ると金髪の派手な人は「ありがとな」と笑ってくれたイケメンだわー。不良っぽいけどこんな輝かしいイケメンが居て良いものか。
「あ、おかえり」
「ただいま…って、ちょっと待って!」
「うん?」
友達がこしょこしょと耳元で話し出すのでお弁当を食べていた手を止めて耳を傾ける。
「ちょっと、獅子王くんじゃない!どうして居るの!」
「テーブル使いたいみたいで、空いてたから譲っただけだけど」
どうやらこの金髪さんも面食い友人の好みの人だったらしい。
面食いと言っても本当にただ目の保養にするだけであって、話しかけるほどじゃないらしいけど。キャーキャー言いながらその人に侍るわけでなく、遠目から見て満足するのがこの友人だ。
彼女にバイト先で出会ったイケメン4人組の話をしたら食いついてきたのであとで詳しく教えようと思う。

「んで?和泉守はヤキソバパン手に入ったのか?」
和泉守、とな。顔に傷のある男前系イケメンさんに話しかけられているのはとても綺麗な顔をした人だった。
友達を見ればやはりお目当ての人物だったらしく見蕩れていた。どうでもいいけどさっさとご飯食べなよ。お昼休み終わっちゃうぞ。
「当たり前だろ」
ドヤァという効果音付きでヤキソバパンを掲げる和泉守先輩は手に持っている物がヤキソバパンであっても顔が良ければ絵にもなるもんさ。
お弁当を食べ終えて包みに戻せば友達はマッハでパンに食らい付いていた。
だから早く食べろとあれほど…
「そういや大倶利伽羅は?」
「弁当持ってこそこそしてたからまた燭台切にキャラ弁でも持たされたんじゃねえの」
「あいつ分かりやすいよな」
キャラ弁。不良仲間の一人がキャラ弁持ってるの?なんだそれ可愛いな。
「キャラ弁持たされると恥ずかしくて一緒に食べようとしないからなあ…
嫌なら燭台切から弁当貰うの止めればいいのに、それをしようとしない辺りが育ちの良さ感じられる」
金髪くん…たしか獅子王くんだったか。獅子王くんの言葉に彼の友達は一斉に笑い出した。賑やかな人達だなあ。総じて顔面偏差値高いし、その近くにいる私達にまで注目されてしまう。
友達も食べ終わったらしく私達は席を立った。
「あ!席譲ってくれてありがとな!」
「いえいえ」
譲るも何も使わない場所だったし全然構わないんだけども。



「…あいつは……」
白いフードを深く被った男子生徒が隣を通り過ぎた女子生徒を見てぽつりと呟いた。
少し呆けていると友人から声がかかる。
「山姥切おっせえぞー」
「うるさい。四限が第三体育館で体育だったんだ」
「あー、第三体育館ってこっから一番遠いもんなあ」
「さっきなにか見てたけど、なに見てたんだ?」
「いや、主に似ているな、と思っただけだ」
髪の長い男子生徒は首を傾げる。
「でもあいつって茶髪だったし、他人の空似ってやつじゃねえのか」
「一期一振のやつだって今もあの髪色だろ?江雪とか、浦島だって【前】と同じ色だし」
「気のせい、か」
それにしたって、よく似ていた。と少年はその少女が去っていった方向を見つめた。







「いらっしゃいませー……あっ」
あの水色の髪。昨日のイケメンさんだ。
ぞろぞろと小学生から高校生ぐらいの男の子を連れていて、いち兄と呼ばれていた。兄弟を連れてくると言っていたけどまさかあんな大人数だなんて吃驚。
大家族の長男というやつだったのかあ、と思いながらショーケースにあるケーキを眺める彼らからの注文を受けるために決まるまでそれを眺めた。
「全員決まったのかな」
「うん!僕はショートケーキがいいなあ」
ひえ、なんだこの美少女。金のような桃のような不思議な髪色に青い瞳を持った美少女。ひえーすっごく可愛い。それにしても兄弟という割にはなんだか似てないなあ。
まあそういう兄弟も居るだろうし何か理由があるのかもしれないし、何よりお客さんに対して込み入った話をするのもどうなんだ、ということで気にしないことにした。
「ええっと、」
水色のイケメンさんからの注文を聞いてケーキを出して、持ち帰りということらしいのでソレをせっせと箱につめていく。
他のバイトの子はちょうど休憩に行っていたのでこの量を一人でつめなければいけない。
お金を受け取って箱詰めしたものを手渡して、ふと顔を上げればイケメンさんとばっちり目が合った。綺麗な金色の瞳をしていた。
「あなたは昨日の…」
どうやら腕を掴んでしまったことを覚えていたらしく「あの時はすみません」と恥ずかしそうに謝られた。
「いえ、気にしないでください。人違いは誰にだってありますよ」
ぞろぞろとお店を出て行く姿を見送って、有難う御座いましたーと声をかけて小さくお辞儀をした。イケメンさんも律儀にお辞儀を返してくれた。
兄にする土産話が出来上がったのであった。





「ってことがあってねー、凄い大家族のお兄さんだったっぽい」
「お前は、弟や妹のほうが欲しかったのか?」
アイス!と言おうとしたら無言で睨まれたので今日はアイスを強請るのを失敗した。また別の日にチャレンジしようと思う。
「んー?別にそういうわけじゃないけど、仲良さそうな兄弟だったなーと思って」
「俺とお前は仲が悪かったというわけか」
「違うから!一言もそんなこと言ってなーい!!」
激おこぷんぷん丸ですよ!と言えば「なんだそれは」とクツクツと笑いながら私の頭に手を乗せてきた。そしてさっきの言葉は冗談だ、と言うかのようにそのまま頭を撫でられる。
昔から兄妹喧嘩…といっても私が一方的に怒るだけなんだけども、それをされてしまうとすぐに怒っているのが馬鹿みたいに思えてきて喧嘩は終結する。
なんとも平和的な解決方法だ。
しかし自分でも何故それをされると自然と荒んだ心が穏やかになるのかは分からない。
そして今日もその兄の行動で言い争いは終わった。
「手を繋ごう!」
「なんだいきなり」
「恋人ごっこです!」
女子高校生とスーツを来た男が手を繋ぐとはなかなか誤解されそうな光景だけども、別に兄妹であるし、大通りから外れたこの道に人気はない。
「恋人か…もしお前に恋人ができたら…」
「できたら?」
「そうだな、俺の機動に勝てる奴でないと許しはせん」
「…機動?」
機動、とは……?

「いや、こっちの話だ」
「はあ…?」
よく分からないけど適当に私は頷くのであった。
どうやら私の彼氏になる人は我が兄、長谷部国重の機動とやらに勝てないとダメなようです。

 
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