なんの変哲も無いバイトの話
・転生現パロ
・友人という名のオリキャラもちらり
自分は何の変哲もないただのバイトである。高校2年生になったただのバイトである。
遊ぶ金の欲しさ…と言っては何となく聞こえが悪いが、単純にゲーム買ったりとか漫画を買ったりだとか、そんなお金の欲しさ故にこの個人営業をしている小さなカフェでお世話になっているのである。
カフェは若い夫婦が営んでいて、沢山のケーキとコーヒーや紅茶や普通のドリンクなどを売っている、変哲も無いただのカフェなのである。
変哲も無いとか言ったけど、ここは知る人ぞ知る、みたいな場所であるためそうそう客は来ない。
来るとしても常連さんだったりするのでいつも頼むものをそっと出す作業なのだ。
若い夫婦と私と私以外の数人のバイトで成り立つカフェである。
カランカランと鈴が鳴ってお客さんが来たことを告げる。
「いらっしゃいませー」
イケメン4人組だ。全員が全員タイプの違うイケメンである。
何よりもそれって地毛ですか?って真顔で聞きたくなる髪色をしているイケメンだった。
「4名様ですね、こちらの席へどうぞ」
別のバイトの子がそのお客さんを席に案内してメニュー表を見せた。
午後の静かな時間にやってきたため、そして何よりイケメンさん4人しか居なかったため声が良く聞こえた。
「まさかこんな所にカフェがあったなんてな、驚きだ」
全身真っ白なイケメンさんが口を開いた。儚げ美人だったからその男前な口調に吃驚である。
「そうですな。あとで弟達を連れて来てみるとします」
水色の髪の王子様風イケメン。敬語で穏やかな口調。イメージそのものだ。
「茶が飲みたいところだが…こういう場にきた時、大包平なら何を頼むか…」
緑色っぽい人の言葉。大包平って誰だ。どこから出てきたんだ大包平。
「私は…よく分からないので…なんでも良いのですが……」
水色髪で髪の長いイケメン。伏目がちでこちらもなんだか穏やかそうな人。
こんなイケメンパラダイス一生に一度味わえるかも分からないね。
それぞれの注文が決まったらしく、別の子が飲み物を用意しているので私は注文されたケーキを4つショーケースの中から取り出した。
ケーキと飲み物を運び、注文通りにイケメンさんたちの前に置いていく。
小さく礼をして立ち去ろうとした時に腕を引かれた。
「あの…?なにか…?」
注文間違えてしまっただろうか、
私の腕を掴んでいる王子様風のイケメンさんを見れば彼は正気に戻ったようで顔を赤くさせて腕を放してくれた。
「す、すみません…!知り合いに似ていたもので…」
「いえ、大丈夫ですよ」
新手のナンパかと思った。まあこんな地味顔の私をナンパする人なんているわけがないか。地味顔をどうにか派手にしようと髪を茶色にしてみたけど、まあなにも変わりはしなかったです。
「一期、ナンパか…」
「違いますっ!主に似ていたので少し気になってしまって…」
主…?主ですか。上司とかかな?随分古風な言い方するんだなあ。
客が来ないため暇している私達はバイト同士静かにお喋りしながらもイケメンたちの会話に耳をすましていた。
「確かに、主はまだ見つかっていないしなぁ…」
「しかし…本当に主は転生しているのでしょうか…我々だけが、転生したという可能性も…」
「江雪、その可能性も確かに無くはないが、同じ主に仕えた自分達が同じ世界に転生しているんだ。これは主のための世界と言っても過言ではないだろう」
大包平と喋りだしていた男の人が今度は大層なことを言い出したぞ。
転生とな。この人達はアイタタタな人達なのか。
成人済みであろう4人が厨二病から抜け出せずにそのまま社会に出ちゃった感ですね。
「真名を知っていれば囲えたというのに…」
「まさか歴史修正主義者のやつらが本丸にまで乗り込んでくるとは思わなかったよなあ」
あんな驚きはいらなかった。と儚げ美人さんが呟くとあそこの席がズドーンと暗くなった気がする。
暗い!何のお話かは知らないけど暗いです!!
「そういえば、主も見つかってないが、長谷部の話だれか聞いたか?」
長谷部?なんかいきなり普通の苗字になったな。さっきまでコウセツ?とか不思議な名前だったのに。長谷部さん。なんか親近感沸くね。
「…確かに聞かないな。一期と江雪、君達の弟は長谷部と前に繋がりがあった気がするが…二人からは何も聞いていないのか?」
「薬研はとくになにも…宗三殿は?」
「いえ、宗三は長谷部殿にはまだお会いしたことがないと、言っておりましたね…」
また沈黙が落ちる。
え、長谷部さん?って忘れられてたの?なにそれ可哀想。
「あー…すっごく言い辛いんだが……あいつまさかこの世界で主に会えなかったからとかいって、自殺とか…してないよな?…なーんて、はっはっは!流石にないよな!!」
「鶴丸殿!なに冗談にしては冗談になりきれないような事を言うんです!」
え!なに?!その長谷部さんってそんなに主?のことが好きなの?!
生まれ変わった先で会えなかったからといって自殺しちゃうほどそんなに精神状況やばい人なの!?
「この世には悲しみが満ちています…」
「茶が飲みたいな」
すみません、このお店は喫茶店なので流石に緑茶とかは無いんですよ…紅茶で我慢してもらいたいです。
そう思いながらふと時計を見ればそろそろ上がりの時間だった。
「店長、」
と声を掛ければ、すぐに上がっていいよーという声が厨房から聞こえてきた。
「はーい。それじゃあお先に失礼します」
他のバイトの子にも頭を下げて急いでバイトの制服から学校の制服に着替えてそそくさと裏口から出た。
裏口にはいつものように兄が仏頂面を引っさげて立っていた。
「そんな顔するなら迎えになんて来なくていいのに。お仕事だって大変でしょ」
「うるさい。だいたいお前がバイトをしたいと言い出すからだ。
終わる時間は遅いし、こんな路地裏にある喫茶店なんて…」
始まった小言に「はいはい」と適当に頷いて近くのコンビニが目に止まる。
「お兄ちゃんアイス食べようよ」
「夕食入らなくなるぞ」
「うーん…じゃあお父さんとお母さんの分も買って、お風呂上りに食べようよ」
「はあ…アイス買ったらすぐに帰るからな」
「やったー!さっすがお兄ちゃん!」
食べたいアイスを取って、お父さんとお母さんの分と、兄の好きなアイスも手に取る。
それをレジに持っていけば何だかんだ言いながらもきちんとアイスを買ってくれる兄に満面の笑みである。
アイスの入った袋は私が持って、お兄ちゃんは私の通学バッグを持った。
「そうそう、聞いてよ」
「なんだ」
「今日さーすっごいかっこいいお兄さん4人組がご来店したのよ」
「惚れたか」
「違うから!ちゃんと話聞いてよね!」
ぺしんっと兄の背を一発殴れば痛いと声が返ってきた。
嘘付け!背中を殴った私の手の方が痛かったわ!!なんでそんな無駄に鍛え上げられてるの!!
「その人達が転生とか主とか色々話しててねー」
「まあ、前世の記憶を持っているという人間も居るらしいからな。本当かは知らんが」
「うん。それで、人探しをしてたらしくて、その人探しに【長谷部】って名前が出てきてなんか親近感沸いちゃった」
よく見かける名前だっていうのもあるけど、まさか
「自分達と同じ苗字だからちょっと吃驚した」
「…ほう」
「お兄ちゃん?」
なんか微妙な反応を示したから顔を見上げればやっぱり微妙な顔してた。
「いや、なんでもない」
「そう?それならいいんだけどさ」
ふわりと夜風が流れてきて髪を抑えた。
視界に入る自分の髪は人工的な茶色にしているけども、兄の色は不思議な色だ。煤のような色をしていて、光に当たると鈍色に輝く。
今日やってきた4人組も日本人とは思えない髪の色してたけど我が兄もなかなかなモノである。
目の色だって薄青紫っていう凄く珍しい色してるし。羨ましい限りである。
私なんて黒髪を茶色に染めて必死に頑張っているというのに!
「今日の夜ご飯なんだろう」
「さあな」
明日もバイトはあるし、頑張らないとなあ。
夜のお楽しみアイスさんもあることだし、それを糧に生きるのだ。
「そろそろ潮時か」
十分に主の隣に居られた、何よりも確固たる兄としての地位がある。
ぱっと出の輩なんぞに渡すものか。
「お兄ちゃんアイス溶けちゃうから家まで競争しよう!」
「競争か。俺に勝負を挑むとはいい根性だ」
「元陸上部さん、ちょっと待って、なにそのガチ構え」
「ほら、帰るんだろう」
「酷い!置いていかないでよ!!お兄ちゃんの足に敵うわけないじゃない!!」
いまはこの距離でちょうど良い。
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