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その4

本丸の中が綺麗な空気で溢れかえっている。
僕や一兄、薬研兄も、みんな傷を抱えて痛みに耐えながら日々を過ごしていたのが嘘みたいで、今日も僕は鬼事をするために庭へと降り立った。
新しく来た審神者は女の人で、手入れをしてくれたあとはずっと離れの屋敷に居る。
一度だけ見かけたことがあった。
庭に行こうと走っていたら、曲がり角のところで審神者にぶつかってしまった。
怒られてしまうかも、と身を竦めたけれど、それとは逆に優しく支えてくれた。
片手には打刀らしきものを持っていて、後ろに控えていた初期刀である歌仙兼定が僕のことを睨んでいたのが分かった。軽く手を刀に添えてもいたし、僕があの時敵意を見せていたら直ぐに斬られていたと思う。
「あ、ご、ごめんなさい…!」
急いで謝って、距離を少しとって頭を下げた。
「大丈夫ですよ。貴方は怪我はないですか?」
心配をしてくれた声が降り注いで、僕は目を見開いた。
やっぱり、この人はとても優しい人なんだ。
「はい…ありがとうございます!」
「怪我をしたら大変ですから、廊下は極力歩いたほうがいいですよ」
それでは、と小さく頭を下げられてそのまま審神者は離れのほうへと歩いていった。
あの人の纏う綺麗な霊力はとても心地が良かった。
なによりも、あの人の霊力を間近で受けることができる初期刀である刀剣が少しだけ羨ましくなった。
「秋田ー!どこだー?」
「あ、いま行きます!」
厚兄の声が聞こえてきて、僕は少し声を張り上げて返事を返した。
また走り出そうと思ったけれど、あの人の言葉が頭を掠めて、走らないで早歩きで向かった。
「なんか嬉しそうな顔してるけど、なんかあったのか?」
「えっと…」
さっきの話をしようと口を開いたけど、なんだか言う気にもなれなくて、
「なんでもありません」
また今度見かけたら、少しだけでも良いからお話できないかな。






「ねえ待って」
「なんだい?」
「なんですか?」
「なんだ?」

私はテレビ画面に映されたその文字から目を背けたかった。

「なんで、なんで…!
私が最下位10回連続なのよぉぉぉおお!!!」
「主が弱いからだね」
ゲーム歴は私のほうが圧倒的に長い筈!こちとら10歳ぐらいからゲームに嵌りっぱなしで社会人になってからもゲームや漫画は手放せない系女子だったのに!!
「俺のピカチュウは最強でチュウ」
「何言ってんだ大倶利伽羅。真顔でそういうの言うのほんとやめてくんない」
私の腹筋が大変なことになるから本当にやめてほしいです。
「主命でも…俺は大乱闘で手を抜きたくは…ありません……」
「…じゃあ全裸でフライングゲット踊ってって言ったら?」
「主命とあらば」
「お前はそろそろ主命を選んだほうがいいよ」
違う、全裸でフライングゲットを断れ。大乱闘手を抜くぐらい造作もないだろう。
「主!手を抜かれた大乱闘で1位を取って、そこに意味はあるのかい?!」
「それは……」
「主は僕達に言っただろう?ゲームが下手でもゲームを上手に楽しめばいいんだよ。って。
その言葉があったから僕達はここまで(ゲームの)練度が上がったんだ!」
「兼定…」
「だからそのままでいてよ、主」
ぎゅっと両手を握られた。その手は暖かい。でも、
「騙されないぞ!お前ら示し合わせたかのように私をハメ技でふっ飛ばしまくりやがって!!」
「示し合わせたかのように、じゃなくて示し合わせたからな」
「審神者ちゃん泣いてもいいかな!!??」

何故かこいつらは大乱闘が強かった。なんでだ。

「こうなったら、私より大乱闘が弱い刀剣を呼ぶしかないな!!!!」
「主ってば考え方がクズの極みだよね。雅じゃない」
「うるせえ!キノピオを雅と感じる貴様なぞ雅を語る資格はない!!」


刀帳を開いて、それと共に本丸にいる刀剣をもう一度見比べる。
「同じ子出したりしたらなんだか申し訳ないしなあ…同じ子が出た場合は刀解か連結が良さそう。打刀でこの子オススメ!みたいなの居ないの?」
同じ打刀仲間でしょ、という目で長谷部と歌仙を見ればうーんと考え込まれてしまった。
「打刀同士だったとしても、刀として扱われている時に交流のある刀でないとなかなか難しいかもしれないね」
「ええ…?でもきっと太刀レシピ回してみても1時間半の呪いとかよく聞くし、だぶらない太刀が来る可能性も低いし、そんなに考えなくても大丈夫か」
逆に太刀レシピで回したほうが打刀率が上がるのではないか?!
そうだ、そうに決まっている!!

「よぉおおし!!君に決めた!!!」
どさーっと資材を投げ込んで、時間の表示が現れる。

3時間20分


「なん…だと…?」
3時間20分で出来上がるものは4振だけ。そのうちの2振は既に本丸に居る…だと…?
「しかも太刀じゃん?!1時間30分の呪いって何!?」
っていうか呪いって言われてる割には1時間30分を見たことないぞ!!
長谷部って打刀だったけど2時間30分だったし、大倶利伽羅は3時間だったし!!1時間30分の呪いなんて幻やったんや……
「引きが良いのか悪いのか分からないな」
「うるせえ!つーか音ゲーしながら移動できるお前を本当に尊敬するよ!!」
赤いヘッドフォンをつけてGSBでガチャガチャと華麗なる指捌き。指の動きが怖いです。
まあいいや…さっさと手伝い札を使って終わらせてしまおう。
みるみるうちに出来上がり、現れたのはやっぱり太刀。
「よし、さっさと離れに戻ろう」
歩きながら音ゲーする大倶利伽羅、柱にぶつかってしまえ!!と念じてみてもぶつかることなんてなかった。わざと前を歩いていきなり立ち止まったりしてみてもぶつかってくることはない。どういう反射神経してんの。
「ゲーム弱い系男士を求めます」
「主!この長谷部、主命ならばカートマリオやパーティマリオで本気を出さずにゲームをしてみせましょう!」
「…大乱闘は?」
なんで目ぇ逸らした。なんでそんなに大乱闘やりたいのお前。
あとピクミソプレイ中にピクミソを食べられて殺しちゃうことはあるけど、迷子ピクミソを出さないのが長谷部流だよね。
ピクミソをやり始めた頃、一匹だけどうしても見つからなくて、日没が来てしまいオリマーや他のピクミソを乗せた宇宙船が空に飛び立った時に迷子だった赤ピクミソが宇宙船の方に向かって走ってきたけど、乗り遅れ結局チャッピーに食べられる。
ピクミソやったことがある人なら分かるであろう、あの後悔。
なぜピクミソをもっと必死になって探してやれなかったのかと…
長谷部ガチ泣きしてたよね。「赤ピクミソーーー!!」っていきなり叫んだから何事かと思って、テレビ画面見て納得したもん。
それから長谷部は、迷子ピクミソを出す事をやめた。

って違う。なんで長谷部のピクミソ実態を語っているんだ私は。

太刀を持ってそそくさと本丸から離れへと持ち帰る。
そしていつものようにリビングでその太刀へ霊力を込めた。


「……江雪左文字と申します。戦いが、この世から消える日はあるのでしょうか……?」
「これは勝つる」
何にって?ゲームですよゲーム。

戦嫌いの刀剣さんらしいけど、ステータスの総合があの綺麗な人と同等らしい。
これで戦いが嫌いってあれだよね「口で言っても体は正直じゃねえか…」みたいなエロ同人誌みたいな!エロ同人誌みたいな!!!
こんなに戦いが嫌いならば、きっとゲームでの戦いも嫌いになり、あまりゲームが上手にならないんじゃないかな!!
パズルゲームとかなら戦い!っていう感じはしないし、好きになってくれるかもしれない。


「では、新人歓迎会恒例、大乱闘の説明をします」
おい歌仙、そこでコソコソと「ああやって来る刀を全てゲームの沼に落として行くんだ」とか言わない。大倶利伽羅も頷かない!!
新しいコントローラーと、大乱闘はなんと8人対戦が可能になったので5人になってもラクラク!負けた人が交換ー!!とか決めなくていいんだぜ!すげえ便利だよな!!
「キャラクターどうしようか…」
説明を終えて、とりあえず一戦やってみるぞ!という事になったものの、やはりキャラ選択が迷うところだよね。
「何か気になるやつとかいる?」
「…これ、でしょうか…」
アイスクライマー
「なんか、すごく可愛いの選んだね」
「色が桃色と青色で、弟を思い出しました」
「弟さん…」
たしかに、左文字っていう短刀と打刀が居たような居なかったような。
「でも、さっき説明したように、ちょっと色々あって本丸のほうはあまり近付かない方が良いかも…」
いくらレア太刀といわれる江雪でもまだ練度は1のまま。あっちはあっちで短刀も脇差もちょっとずつ戦場に出るようになったみたいで練度が上がってきている。
「わかっています。それが和睦への道に繋がるのでしたら」
和睦への道…?つなが…つな…繋がってるか?(困惑
3ヶ月ぐらいが経ってるけどそこまで接触があるわけじゃないんだぜ…?
手入れだって最初の時やったぐらいだし、刀装のおかげで傷を負ってくることも少ない。
吃驚だよな、本当にぐーたらしてるだけだもん…
「ウン。和睦和睦。審神者、和睦だーいすき」
とりあえず和睦への道に繋がるかもしれないので、ゲームやりましょう。って言っておいた。


言わせてもらう。


「え、江雪ってばめっちゃ上手くない??」
「よくわかりません」
そう言いながらも江雪の攻撃の手は止まない。
「ひぎゃあああ!!バリア割れる!割れる!!!」
そう叫んだ瞬間にバリアがパリーンと心地よい音で割れたかと思うとふらついた隙を狙って可愛い顔したピンクと青の物体が突っ込んできて、私のゼルダが軽々と吹っ飛ばされた。
アッーーーと言いながら星になるゼルダさん。
「江雪さんって素人だよね?!」
「このようなもの、初めて触りましたね」
「ですよね!!」
じゃあなんでこんなに強いんですかね?!ステータスの戦闘センスは格闘ゲームにも反映されます。ってか?!初耳だわ!!!

「もう一戦しましょう」
目を爛々と輝かせた江雪左文字さんは使いやすいキャラクターを探そうとしているらしく、アイスクライマーではなく今度はカービィさんを選んでいた。
「待って、話し合おう。和睦だよ和睦。格闘ゲー弱い系刀剣男士だと思ったら驚きの結果になってしまって私はとても混乱している。和睦しよ!
江雪だって戦を嫌っているんだから、こういう人を潰しあうゲームとか苦手だよね?!」
「戦は嫌いですが…これは別です」
「嘘でしょ?!」
おかしいでしょ!弱い刀剣男士を呼んで、私がフルボッコにしてやって、主とは何たるかをその身に刻ませてやろう計画が…!
「完全に物欲センサーだな」
「五月蝿いぞピカチュウ使い!!」
「主、おいたわしや…!」
「お前さっき私に遠慮なく爆弾ぶつけてきただろオリマー&ピクミソ使い!」
「もっと雅になりなよ主」
「お前の使ってたピットくんみたいに兼定の頭に花咲かせてやろうか!!」
頭花咲かせるってあれです。花でぶん殴ると頭から花生える。あれってどういう性能あるのか一瞬考えたけど、体力吸われてるんだよね。花に養分頭から取られていくって普通に考えておっそろしいわ。



「結局、それに落ち着いたのね…」
「ええ。とても使い勝手が良かったので」
アイスクライマーから何故かガノンドロフ使いになった江雪は巧みにガノンドロフを扱う。
「和睦の道は、ないのでしょうか…」
「それ、涼しい顔して溜め技キメながら言う言葉じゃないよ」
大倶利伽羅が操作してるピカチュウが吹っ飛ばされた。




「江雪って、踊れるの?」
「…踊るとは?」
いや、それ以前に袈裟纏ったままで踊れるのだろうか…?
でもこの格好で出陣するだろうし、戦いのほうが激しい動きをするんだから、踊るぐらい造作もない、かも…?
「ちょっと待って」
パソコンの電源をつけて、現在みんなで練習をしている踊りの動画を開く。そして音量を調整して、その動画を流した。
「これを、人数揃えて皆に踊ってもらいたい」
「……なぜですか」
「え」
なぜ…?何故といわれても…
「イケメンが踊ってるところを見ていたいから…?」
あと単純にゲーム生活が飽きてくると人間何に走るか分からないもんよ。それがただ、踊りだったというわけである!!
「和睦の道へと繋がるのでしょうか…」
「繋がる繋がる。もうこれを踊って世界中幸せになれるって。音楽は世界を救うんだよ」
「分かりました」
おお?

「完璧に踊りきってみせましょう」それが、和睦へと繋がるのでしたら。

ごめん。たぶん繋がらないと思う。





ブラック本丸で楽しい審神者生活4

(ゲーム練度がめきめき上がって行く彼らですが、

    最近は踊りの練度も上がってきたようです)

 
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