その8
「うーん…」
「燭台切殿、こんなところで何を…?」
燭台切光忠がある方向を見たまま頭を悩ませていたので一期一振が声をかけた。
そして視線の先にある離れの屋敷を見て察したようで、
「主殿のことですか?」
「うん、そうなんだ」
演練で燭台切光忠と薬研藤四郎が離れ側の刀剣達と共に出陣してから二週間が経っていた。演練に連れて行かれるぐらいだから、少しは距離が縮まったかと思ったがそんなことはなかったらしく、あれからやはり女審神者は本丸の方へ顔を出さない。
「前に、主がこっちにちゃんと顔を出してくれる、って話をしてくれたけど…やっぱり僕達のことが怖いのかな」
「こればかりは…」
「そうだよね…」
二人で顔を見合わせて溜息を零した。
自分達はなかなか怪我を負わないため手入れのためにこっちに来る事もあまり無いし、最近では鍛刀することも無くなったらしく鍛刀部屋にもやってはこない。
あっちの刀剣も出陣をするために刀装を必要とするが、その刀装はいつ持って行っているのかも分からない。もしかして皆が寝静まった頃にわざわざ取りに来ているのかもしれない。
そこまで考えて、また重い溜息が口から零れてしまう。
「やっぱり、自分達から動かないとダメ、だよね…」
「そうかもしれませんが…」
一期が気まずそうに顔を下に向けるその気持ちは燭台切にもよくわかる。
自分達が彼女を邪険にしたのは半年も前になるかもしれないが、あの出来事で彼女の胸に深い傷を負わせてしまった。
「でも、このままじゃ何も変わらないよ。
一度大倶利伽羅に会うために僕は離れのほうに行った事があるんだ。彼女に会うことはなかったけど、離れの皆が何不自由なく暮らしてることは分かった」
それと同時に、とても楽しそうに過ごしていることもよく分かった。おこがましいかもしれない、彼女にしてしまった仕打ちは覚えている、それでも彼女と彼女の刀剣達と一緒になって笑いあえたらいい、と思ってしまう。
一日の報告書を渡す時だって顔を見ずに紙を提出するだけだ。そして彼女は週に一度の政府へと提出する報告書を律儀にこちらに確認をしてもらっている。
あの始まりの日にした約束…下手なことを書かれては困るから、という事で自分たちの誰かに報告書を確認させるように。という約束を守り続けている。もう誰も彼女のことを疑ったりなんてしていないが、それを彼女はずっと守っていた。
「ちゃんと話をしなきゃ、格好悪いよね」
「そうですね…明日の朝…皆にその旨を話してみましょう」
「うん、そうしよう」
そして、次の日の朝に離れへと赴く刀剣が決まることになる。