その8
「キターーーー!!!!」
待ってました、公式ニート刀剣。
あの演練の時に自分やる気ないのが売りですからなあ…とかなーんもやる気ありまへん。とかもうこの刀剣は我が離れに来て一緒にニートを満喫するためだけに生まれてきた刀剣だと信じて疑わなかったからね!!!
「おお?今回の主はんはえらい別嬪さんやないですか」
別嬪さん、だと…?
「おい、みんな聞いたか今の。容姿記述が少なかった私に別嬪という設定来たぞ」
容姿設定が細かに設定されていなかった私。だけど明石国行さんが付け足してくれた別嬪!そう、この言葉があるだけで世界が変わるわけですね!!
「別嬪に優しく接しろよ!」
「自分で言っちゃう辺りが雅さに欠けるよね」
「もっと雅に主と接しろ!!」
主を主と思っていないこの扱い!
「っていうわけで、本丸側の刀剣とは接する機会が殆ど無いので、ご了承ください」
「ちょい待ち」
「なんでしょう?」
「蛍丸は居らんの?」
「ほたるまる…」
長谷部が私の端末で刀帳を開いたかと思うと一人のショタの画像を見せてきた。
「来派の大太刀で大太刀の中で唯一幼い少年の姿をしている刀剣ですね。
しかしその見た目と反して大太刀の中で一番強いです」
一言で片付けるならレアです。とカタカナに強い離れの刀剣に言われ納得。
あと江雪は自分もレアなんですよ?離れ唯一のレアですぞ?みたいな顔しなくていいから。
それにしても、眩しい太腿の彼でしたか。
「居るけど、接する機会ないよ?」
「ほんまですか」
「ほんまほんま」
「アカン…もうやる気なーんも出ませんわ…」
ばたりと部屋に倒れた明石国行は思ったとおりのニートっぷりだった。
「本丸に行きたいなら止めない」
そう告げると兼定達が驚いたような目で私を見てきた。まあ驚くのも当然だよね、あれだけ欲しがってた刀を離れから出ることを簡単に承諾したんだから。
止めることはしない、けれど…
「本丸は通常運転で内番・遠征・出陣を行っている。必然的にあちらに行けばあなたは馬当番や畑仕事、出陣に連れまわされると思う。
だけどここは内番と遠征は無い。出陣だってそこまで多いわけではない。そして暇な時間にやることといえばこの室内でだらだら過ごしたり皆と遊んだりするだけ」
そう。あっちが週休2日制の通常会社だとしたら、こっちは週休5日制のダラダラ系不規則会社である。いくら明石国行が固執している蛍丸があちら側に居たとしても…
「さあ、蛍丸とだらだら過ごせる日々、どちらを取る?」
答えはもう出ているでしょう?明石国行。
「主はん最高っすわー」
「おう!跪け、崇めろ、奉れ!!」
勝者は弱者を支配できるのだー!
テニミュって言えばたぶん誰かが反応してくれると思うの!!
「さあ、これを手に取りなさい」
そしてお約束のコントローラーですよね。
「何させる言うんです?顕現一日目は寝るって自分の中で決まっとるんですけど」
「二日目は?」
「寝る」
「三日目」
「寝る」
だめだこいつ、はやくなんとかしないと。
「いい?これをするだけで元気になれるし、疲れも吹っ飛ぶ、嫌なことも忘れられる、それにこの離れではみんなやってるんだよ」
「おい、それなんか別の売り込みになってないか」
ダメ、絶対。のフレーズが頭を過ぎるような言い回しだったが、まあ、間違いではないよね。
「いいからやりなさい!主命」
「主命とあらば!」
「お前じゃない」
もともと素質があった彼です、皆さんもお分かりいただけただろうか…?
「明石、ご飯って言ってるでしょ!」
「ちょお待ち!いまめっちゃええとこ!!」
「お願いだ主、もう少し待ってやってくれ…」
「今ムービー中なんだよ!」
テイルズ作品信仰勢(歌仙兼定・山姥切国広)の中に明石国行が追加された!というテロップが見えた気がする。
因みに明石がやっているのは選択が未来を変えるRPGである。
新入りに優先的にテレビを回すという条例をフル活用した明石国行は軒並みRPGをクリアしていってる。しかし、ダンジョンギミックが簡単なものしかやるつもりは無いらしく、簡単に言うと、V・G・X・X2をやっている。
Xまでクリアして現在X2というわけだ。
私の大好きなSはダンジョンが面倒そうで嫌だ。と断られた。つらい。Aについても同上。
「こ、これはあかんって…!この兄弟愛……」
X2も終盤のようで、主人公と主人公の兄のあの鼻歌のムービーシーンだ。うん、この話は良かったよね、泣いた。私も号泣した。
そして弟が兄を槍で貫く。お茶の間がみんなの嗚咽で酷いことになった。
「こんな、こんなことって…!」
明石は眼鏡を取って袖口を目元にやったかと思うとおいおいと泣き始めた。こいつ一番涙脆いんじゃねえのか。
一度X2をセーブしてもらってこの御通夜状態のまま今日の夕食、カレーライスを食した。
ぐすぐすと泣きながら明石は「なんやこれ、めっちゃ美味い…」って呟いてた。泣くかカレーライスに感激するかどっちかにしろよお前!いっそがしいな!!
テレビ何見ようかなーと思いながらカチカチとスクロールしていき、この御通夜状態のまま楽しいアニメを見てもきっと御通夜続行だろう。
もう銀魂の四天王篇でも見てさらに涙腺崩壊させようか、と思っていると浦島くんに無言で首を振られた。こいつ、私が考えていたことを理解してやがる。なんてこった。
「分かったよ、じゃあこれを見ようか」
「これは…?」
柔らかなタッチのアニメ、きっとこれはほのぼのアニメだろう、と皆は思ったはず。
君達の期待を裏切る主を…どうか許してほしい。
みんなのお皿が殻になっても誰もゲームや漫画に走ることはなかった。
そのアニメをはらはらしながら見ているからだ。
そして、終盤。
「パトラァァァアアアッシュ!!!!」
「ネロォォォオオ!!!!」
阿鼻叫喚
「なんなん?!なんでこのアニメ見せよう思ったん!?」
「いや、下手に明るいアニメ見せても御通夜不可避だったから、更に涙腺刺激してやろうかと思って…」
「なんでやねん!!江雪を見てみぃ!あの顔!ネロのこと苛めとった村人殺す勢いやんか!レア太刀に本気出させるのはあかん!」
和睦はありません…っと静かに涙を流しながら彼は本体を持っていた。あかん。レア度はともかく、貴様も一応レア太刀だからな。
ふらんだーすの犬。誰もが知る泣けるアニメである。
私が高校生の頃、夏休み中に暇でぼーっとテレビのチャンネルを変えていたらちょうどフランダースの犬がやっていた。泣けるという話は聞いていたけど見たことはなかった。有名な最後のシーンを知っているし、どういう展開でああなるのかも漠然と知っていた私は、大丈夫だと思っていたんだ。話の内容を知っているから泣くはずなんてない、と。だけどそれは違ったのだ。泣いた。もう号泣した。こんなのってないよ!と泣いた。流石泣けるアニメ、としみじみ思いながら鼻をかんだ高校二年生のあの夏。
「酷いよあるじさん…こんなことなら四天王篇のほうが傷は浅かったよ…」
あっちは救いがあったけど、パトラッシュとネロに救いはなかった。天に召されて終わりなんて、そんなの…
「カメ吉!お前は大丈夫だよね?!」
何がだ。何が大丈夫なんだ。カメ吉は足遅いからたぶん、ネロに辿り着く前にネロが先に力尽きてるぞ。パトラッシュ、僕もう眠いんだ…とか言えずに終わるよ。
「カメ吉ぃぃぃいい!!」
「カメ吉困惑してるから解放してやれよ」
そこらじゅうですすり泣く声が響くこの離れ。これは酷い。自分でやったことだけどこれは酷い。まさかこんなに反響があるだなんて思ってなかったんですよ…
「えーっと…とりあえず皆ゲームとか漫画とか、やったら?」
「こんな状態で出来るわけないだろう」
国広に冷静に突っ込まれた。
さて、そんな大変なことがありましたが、明石国行くんがやってきて新たなる挑戦をすることにしました。
「みんな、コレを見なさい」
「…マジらぶ2000%?」
大倶利伽羅の目が光ったのを私は見逃さなかった。
「そう。明石はやってないけど他の6人で踊ったあの曲の、云わば続編」
「新キャラですね、主…」
「そうよ長谷部。新キャラよ」
このどっかで聞いたことがある声。本丸側にいる刀剣にもこんな声のやついたような気がする、そんな声をしているこのキャラクター。
「これを、明石にやってもらって、マジらぶ2000%を踊ってもらいます」
「いや、意味わからんわ」
ビシッと突っ込みを決めてきた彼はまさに関西人。
「さっきの映像で見たあの動きせなあかんの?!」
「そうです」
「なんのために?!」
「私が見たいから」
「なんやねんそれ!」
私が見たいから!ただそれだけだ!!この刺激のない本丸生活…彼らの踊りを見て潤いたい!
「お前らのその美貌はなんのためにある!主を喜ばせるためだろう?!」
「知らんけど主を喜ばせるためじゃないことだけは確かやで!」
イケメンじゃなかったら共同生活なんかしねえよ!!全審神者、心の叫びを私が代弁しました。なによりも最近楽しいゲームが無くて手持ち沙汰なわけよ。テイルズシリーズなんてやってる本人は楽しいだろうけど、見てる奴らにとってはただ戦闘シーン見るだけだしね。ムービーまで進まないと暇なだけだからね。あと自分自身で何回もやってるからそこまで興味惹かれるわけじゃない。
大倶利伽羅がやる音ゲーに関してもそうだ。パーフェクト厨のハイスコア厨のヤツは同じ曲を永遠と続けるのである。もう何回もバーっとトラックが通っていったり、歌姫さんが消失したり、何回も恋に落ちている音がしている。分かったから!もう分かったからその曲をやるのはやめてくれ!違う曲を聞かせてくれ!という訴えも虚しく空に消える。つらい。
だけど踊りならば違う。イケメンが汗水垂らしながらも必死に踊る姿を見ることが出来るのだ。ミュージカル見てる気分になれますよ。ぷりんすおぶてにーーーす!!って一緒に叫んでやるよ!
「だから、踊ろうぜ」
「なんでやねん」
ニートキャラって、こんなに体力ないのか、と皆が思った。
「もう嫌や…踊りたくない…クーラーついた部屋でごろごろしたい…いまクライマックスなんやで…?火神が青峰と戦ってる、クライマックスなんやで…?」
「それって一回目の戦い?二回目の戦いのほう?」
「一回目のほう」
「誠凛負けるよ」
「ひっどいネタバレやな?!さらっと何言うてるん!?」
「いや、気になるんなら結末を知ってしまえば踊りに集中するかと思って…」
「そのクソ思考回路どうにかしいや」
「さーせん」
明石はまたばたりと倒れて今度は「ネタバレされてやる気出ないわー」とごろごろしだした。ごろごろするのは良いけど、そこ汚れない?土塗れにならない??
「おい、やる気を無くさせてどうする」
ダンス講師:大倶利伽羅先生に怒られてしまった。
「えー…私ネタバレ気にしない派だからさらっと言っちゃった」
因みに、ネタバレ気にするのは
兼定・長谷部・江雪
ネタバレ気にしないのは
大倶利伽羅・国広・浦島・私
となっております。
「ねえ明石ーなにがあればやる気出すの?」
「蛍丸」
「無理だな」
「ほーたーるーーー」
何ソレ?その外見とあいまって、Kとかいうアニメに出てきそうなあいつの真似?みぃさぁきぃ…みたいな感じですか?CV:マモ とかになっちゃいますか?
「分かったから、明日はだらだら過ごしてていいから」
「…ほんま?」
「おう。今日覚えるところまで覚えられたらね」
「任せとき!!」
立ち上がり、やる気を見せた彼に全員で拍手をしたが、君はやる気があるのかないのかよく分からないよね。
そう言ってやれば
「興味のあることにはやる気出ますやん?」
ぐうの音も出ない。
ブラック本丸で楽しい審神者生活
(ニートニート言われてるから期待したけど
わりと常識人?)