その4
自分から離れの屋敷に向かうだなんて、彼女が作成した書類に目を通すためであったり、刀装の在庫が無くなってきた時に作ってもらえるように進言する事意外にしないから、なんとなく緊張した。
大倶利伽羅と話がしたい。話をして何がしたいという訳ではないけれど、このままあの審神者との距離が開いたままで居るのは間違っている。
宗三くんと小夜くんは、二人の兄である太刀の江雪左文字の神力を感じ取って、どこか落ち着きの無い様子だった。
僕と同じように会いに行こうと思えば行けるけれど、その勇気が出せないままなんだろう。
僕自身、大倶利伽羅と話をすると決めてから、数日経った今になってやっと動き出すことが出来た。
離れの屋敷の戸を緊張しながらトントン、と叩いた。
けれど何の反応も無くて首を傾げながらもう一度今度は少しだけ強めに叩いてみた。
「あれ…?本丸のほうに行ってるのかな…」
踵を返そうとしたところで、屋敷の裏手から風に乗って声が聞こえてきた。
何か作業をしているのだったら引き返すべきなんだろうけど、今ココで引き返してしまったら、またここに来るための決心が鈍ってしまう。
そう考えて僕はそのまま屋敷の裏手に回った。
「大倶利伽羅…」
審神者と、彼女の刀である歌仙兼定・へし切長谷部・江雪左文字、
それと見慣れない、小柄で目立つ髪の色をした少年が小難しい動きをしているのに対して、大倶利伽羅は近くの木陰で何かを弄っていた。
大倶利伽羅のほうへと近付くために足を動かしながら、審神者のほうを見た。
どこからともなく音が聞こえてきて、それは審神者の近くにある箱のようなものから流れている。
そして、見慣れない少年に首を傾げる。
最近、あの人は鍛刀部屋を使った形跡は無かったように思うし、敵が持っていた刀を彼らが拾ってきたのだろうか。
打刀にしては幼い気もするし、短刀にしては成長している。ということは脇差?
さくり、と草を踏み鳴らして彼…大倶利伽羅の前に立った。
「…なんの用だ?ぴ…光忠」
ぴ?ぴってなんだろう…
「君と、話がしたくて」
「俺はお前と話すことなんてない。
それに、お前にとって俺と会うのは二度目かもしれないが、俺はこの姿でお前に会うのは初めてだ。そんな相手に何を話すことがある?」
彼女の大倶利伽羅は、少々饒舌のようだった。
僕の知っている彼はいつだって寡黙であったし、時々前任者に連れられて演練というものに参加した時に目にする彼も同じく群れることを嫌って部隊の一歩置いたところで立っていることが多かった。
ここの本丸にいた彼は前任者を睨みつけ、いつだって反抗的な態度を取って、戦場で一人折られてしまった。
「それでも、僕は君と話がしたいんだ」
「…だったらさっさと言え」俺は忙しい。
そう言いながらまた手に持っている物に向き直って指を動かしている。
「じゃあ、ひとつだけ。君があの審神者に降ろされたって知ってからずっと気になっていたんだ」
彼はやはり僕を見ない。でも、こんな泣きそうな顔、カッコ悪いからちょうどいいかな、って。
「大倶利伽羅、君はいま、幸せかい?」
僕の知る彼だったらきっと、眉を顰めて、苦虫を潰したような顔をして、首を振っただろうね。この質問をあの本丸に居るみんなに聞けばきっと全員が全員同じ反応をするだろう。
でも、もう違う。
本丸の空気は随分と変わったし、僕らの気持ちも変わった。
傷を負っていて、体の痛みで深く考える事が出来なかった。ただの言い訳でしかないけれど、そんな言い訳をしたとしても、僕達を治してくれた彼女に対して行った仕打ちは許されないだろう。
体が軽くなって穏やかに日々を過ごしていくうちに考えることを覚えた僕達は離れから決して出てこないで、約束を健気に守り続ける彼女は悪ではない、とやっと気付くことが出来た。
だからこそ、彼の答えはわかりきっていた。
一言も話さないけれど、僕の質問に彼はしっかりと頷いてくれた。
やっぱり、彼女は素敵な審神者なんだね。
「ありがとう、大倶利伽羅」
何に対してのお礼か自分も分からない。だけどなんとなく言いたくなった。
僕はそっと本丸へと戻った。
いつかきちんと、彼女と話ができると良いな。
「…それにしても……」
先輩全裸って叫んでたけど、一体なんだったんだろう。
「主、刀を拾ったよ」
「これって脇差?だよね…」
脇差は全部揃ってたし、この子は連結になっちゃうかなあ…
同じ子を降ろすのはやっぱりなんだか忍びない。
「ん…?」
「どうしたの、長谷部」
「いえ、これは多分ですが、あちらの本丸にいる脇差4振とは別のものかと」
「別?!」
そんな馬鹿な!現在確認されてる脇差は全部で4振のはず!
「そういえば、今朝ゲームしているときに、お前のパソコンに政府からの通知が入っていなかったか?」
「あー…?」
たしかにそうかも…?
ゲームやってて、良い展開になってきたところでのメールだったから、後で良いか!って思ってそのままにしたんだった。
パソコンの電源を入れてみるとやはり政府からの電子メールが今朝届いていたらしい。
後から皆が覗き込んできているが、見られても別に支障のないものだろうしそのままにしておいた。
メールを開いてみるとなんとわりかし重要なことだった。
「第三の勢力と、その第三の勢力を撃破すると稀に打刀・脇差をドロップ、と…」
刀帳をいま確認してみれば、新たに穴開きの部分が二つ増えていた。
これは、もしかして…
「今回戦った敵でさ、なんか違くね?みたいなの居なかった?」
振り返って四人に聞いてみれば四人は顔を見合わせたかと思うと「あー」と声を出した。
「居たような?」
「いつもより手強かったような?」
「覚えてない」
「和睦の道はありませんでした…」
駄目だこいつら。
「え?なんであんたら無傷なのさ」
今さっき審神者情報交換サイト行ったら新しい敵怖い!って泣いてる審神者が大量だぞ。
「僕と長谷部くんで投げた石で敵が何人か倒れて、」
「一番厄介そうな槍は俺が倒しました」
さすが機動おばけと言われてるだけあるわ。
「あ」
思い当たる節があって、私は端末を開いて全員の練度を確認した。
歌仙兼定 28
へし切長谷部 26
大倶利伽羅 23
江雪左文字 12
「練度30未満の敵って刀装付けてこなかったり、なんだか異様に弱いらしい」
そりゃあ、投石ピッチャーの兼定と長谷部がいれば楽勝で倒せるわな。
っていうかそれなりに戦場に送り込んでる気がするんだけど、お前ら練度ひっくいな!!
まあゲームしかしてないしね!ごめんね!!
「とりあえず、この子呼んでみようか」
脇差に霊力を込めると部屋に桜が舞った。
「俺は浦島虎徹!ヘイ!俺と竜宮城へ行ってみない?行き方わかんないけど!」
大倶利伽羅と話がしたい。話をして何がしたいという訳ではないけれど、このままあの審神者との距離が開いたままで居るのは間違っている。
宗三くんと小夜くんは、二人の兄である太刀の江雪左文字の神力を感じ取って、どこか落ち着きの無い様子だった。
僕と同じように会いに行こうと思えば行けるけれど、その勇気が出せないままなんだろう。
僕自身、大倶利伽羅と話をすると決めてから、数日経った今になってやっと動き出すことが出来た。
離れの屋敷の戸を緊張しながらトントン、と叩いた。
けれど何の反応も無くて首を傾げながらもう一度今度は少しだけ強めに叩いてみた。
「あれ…?本丸のほうに行ってるのかな…」
踵を返そうとしたところで、屋敷の裏手から風に乗って声が聞こえてきた。
何か作業をしているのだったら引き返すべきなんだろうけど、今ココで引き返してしまったら、またここに来るための決心が鈍ってしまう。
そう考えて僕はそのまま屋敷の裏手に回った。
「大倶利伽羅…」
審神者と、彼女の刀である歌仙兼定・へし切長谷部・江雪左文字、
それと見慣れない、小柄で目立つ髪の色をした少年が小難しい動きをしているのに対して、大倶利伽羅は近くの木陰で何かを弄っていた。
大倶利伽羅のほうへと近付くために足を動かしながら、審神者のほうを見た。
どこからともなく音が聞こえてきて、それは審神者の近くにある箱のようなものから流れている。
そして、見慣れない少年に首を傾げる。
最近、あの人は鍛刀部屋を使った形跡は無かったように思うし、敵が持っていた刀を彼らが拾ってきたのだろうか。
打刀にしては幼い気もするし、短刀にしては成長している。ということは脇差?
さくり、と草を踏み鳴らして彼…大倶利伽羅の前に立った。
「…なんの用だ?ぴ…光忠」
ぴ?ぴってなんだろう…
「君と、話がしたくて」
「俺はお前と話すことなんてない。
それに、お前にとって俺と会うのは二度目かもしれないが、俺はこの姿でお前に会うのは初めてだ。そんな相手に何を話すことがある?」
彼女の大倶利伽羅は、少々饒舌のようだった。
僕の知っている彼はいつだって寡黙であったし、時々前任者に連れられて演練というものに参加した時に目にする彼も同じく群れることを嫌って部隊の一歩置いたところで立っていることが多かった。
ここの本丸にいた彼は前任者を睨みつけ、いつだって反抗的な態度を取って、戦場で一人折られてしまった。
「それでも、僕は君と話がしたいんだ」
「…だったらさっさと言え」俺は忙しい。
そう言いながらまた手に持っている物に向き直って指を動かしている。
「じゃあ、ひとつだけ。君があの審神者に降ろされたって知ってからずっと気になっていたんだ」
彼はやはり僕を見ない。でも、こんな泣きそうな顔、カッコ悪いからちょうどいいかな、って。
「大倶利伽羅、君はいま、幸せかい?」
僕の知る彼だったらきっと、眉を顰めて、苦虫を潰したような顔をして、首を振っただろうね。この質問をあの本丸に居るみんなに聞けばきっと全員が全員同じ反応をするだろう。
でも、もう違う。
本丸の空気は随分と変わったし、僕らの気持ちも変わった。
傷を負っていて、体の痛みで深く考える事が出来なかった。ただの言い訳でしかないけれど、そんな言い訳をしたとしても、僕達を治してくれた彼女に対して行った仕打ちは許されないだろう。
体が軽くなって穏やかに日々を過ごしていくうちに考えることを覚えた僕達は離れから決して出てこないで、約束を健気に守り続ける彼女は悪ではない、とやっと気付くことが出来た。
だからこそ、彼の答えはわかりきっていた。
一言も話さないけれど、僕の質問に彼はしっかりと頷いてくれた。
やっぱり、彼女は素敵な審神者なんだね。
「ありがとう、大倶利伽羅」
何に対してのお礼か自分も分からない。だけどなんとなく言いたくなった。
僕はそっと本丸へと戻った。
いつかきちんと、彼女と話ができると良いな。
「…それにしても……」
先輩全裸って叫んでたけど、一体なんだったんだろう。
「主、刀を拾ったよ」
「これって脇差?だよね…」
脇差は全部揃ってたし、この子は連結になっちゃうかなあ…
同じ子を降ろすのはやっぱりなんだか忍びない。
「ん…?」
「どうしたの、長谷部」
「いえ、これは多分ですが、あちらの本丸にいる脇差4振とは別のものかと」
「別?!」
そんな馬鹿な!現在確認されてる脇差は全部で4振のはず!
「そういえば、今朝ゲームしているときに、お前のパソコンに政府からの通知が入っていなかったか?」
「あー…?」
たしかにそうかも…?
ゲームやってて、良い展開になってきたところでのメールだったから、後で良いか!って思ってそのままにしたんだった。
パソコンの電源を入れてみるとやはり政府からの電子メールが今朝届いていたらしい。
後から皆が覗き込んできているが、見られても別に支障のないものだろうしそのままにしておいた。
メールを開いてみるとなんとわりかし重要なことだった。
「第三の勢力と、その第三の勢力を撃破すると稀に打刀・脇差をドロップ、と…」
刀帳をいま確認してみれば、新たに穴開きの部分が二つ増えていた。
これは、もしかして…
「今回戦った敵でさ、なんか違くね?みたいなの居なかった?」
振り返って四人に聞いてみれば四人は顔を見合わせたかと思うと「あー」と声を出した。
「居たような?」
「いつもより手強かったような?」
「覚えてない」
「和睦の道はありませんでした…」
駄目だこいつら。
「え?なんであんたら無傷なのさ」
今さっき審神者情報交換サイト行ったら新しい敵怖い!って泣いてる審神者が大量だぞ。
「僕と長谷部くんで投げた石で敵が何人か倒れて、」
「一番厄介そうな槍は俺が倒しました」
さすが機動おばけと言われてるだけあるわ。
「あ」
思い当たる節があって、私は端末を開いて全員の練度を確認した。
歌仙兼定 28
へし切長谷部 26
大倶利伽羅 23
江雪左文字 12
「練度30未満の敵って刀装付けてこなかったり、なんだか異様に弱いらしい」
そりゃあ、投石ピッチャーの兼定と長谷部がいれば楽勝で倒せるわな。
っていうかそれなりに戦場に送り込んでる気がするんだけど、お前ら練度ひっくいな!!
まあゲームしかしてないしね!ごめんね!!
「とりあえず、この子呼んでみようか」
脇差に霊力を込めると部屋に桜が舞った。
「俺は浦島虎徹!ヘイ!俺と竜宮城へ行ってみない?行き方わかんないけど!」