エッセイ・ノンフィクション

「100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集」

編集者:福井県立図書館
発行:講談社
初版発行:2021年10月20日


レファレンスとは、図書館において「利用者が探している情報へ辿り着けるように、司書がお手伝いする」サービスのこと。
うろ覚えのタイトルや本編の大まかなニュアンス。合っているか分からない作者名。利用者の「こんな本を探してるんだけど」の声に応えるのも、図書館司書の業務の一つ。

そんなレファレンス事例をウェブ上に公開している図書館が、蒐集した「覚え違い」から、さまざまな例を厳選してまとめた一冊。


寄せられる依頼・相談は、探している本人からすれば大真面目なんだろうけど、傍から見るとユニークに表現されるものばかり。それに対する職員さんのコメントも秀逸。

「ぶるる? みたいな旅行ガイドの本はどこにある?」
(『るるぶ』。案内の後、思わず職員が「ぶるる」について言葉を交わした記録アリ)

「池波遼太郎の本を探しているんだけど……」
(池波正太郎か司馬遼太郎? 大御所がフュージョンしてますね)

「下町のロボットって本ありますか?」
(下町ロケットならございます。たしかに佃製作所ならロボットも作れるかも)


ちょっと変わったクイズとしても楽しい。
本が好きな人や読書家なら、いっそクイズ本の領域かもしれない。


一見すると面白さや可笑しさに目がいきがちだが、この図書館の狙いは「もっとレファレンスサービスを知ってもらうこと」「気軽に相談していいんだなと思ってもらうこと」。

くすっとしたり感心したりする事例を見ながら、もっと本や図書館に親しみたくなる良書。

以下ネタバレ

個人的に好きな質問と回答。


「夏目漱石の『僕ちゃん』お借りできます?」(『坊ちゃん』)
たしかに、下女の清からは「僕ちゃん」に見えてたかも。というコメントにちょっと笑った。決して甘やかされてたわけじゃないけど、主人公と清の関係が好きだから微笑ましい。


『IQ84」『1984』『1Q89』……(『1Q84』)
当時のクイズ番組とかでやたら出題されてた記憶。懐かしい。


「『いろんな客』っていう本ありますか?」(『うろんな客』)
めちゃくちゃ可愛くなった。笑 普通の絵本っぽい。
うろんな客の表紙も充分に可愛いけど。


「ドラマ化した『私、残業しません』って本ありますか?」(『わたし、定時で帰ります。』)
語感的に「これは経費で落ちません!」の方がぱっと浮かんだ。こっちもドラマ化してたはず。
司書さんはいろいろな本を知っててすごい。


「『俺がいて俺だけだった』みたいなタイトルの本」「ローリングって名前のホストが書いた本」(ROLAND『俺か、俺以外か。』)
問い合わせのタイトルの方が文学的というか哲学っぽい。ローリングは草。


「『ストラディバリウスはこう言った』って本ありますか?」(『ツァラトゥストラはこう言った』)
語感だけ合っててめっちゃ好き。「ツァラトゥストラはかく語りき」じゃなかったっけって思ったら、版によっていろんなパターンがあるらしい。かく語りきの方が格好良くて好き。


「ウサギのできそこないが二匹出てくる絵本なんだけど……」(『ぐりとぐら』)
辿り着いた司書さんが凄すぎる。ウサギのできそこないww
『リサとガスパール』はウサギっぽいけど架空の動物らしい。



最後の話で、「司書はやっぱりみんな活字中毒」「よその図書館の工夫を見るのは楽しい(そして「どこかの図書館の方ですか?」とバレる)とあって、本屋の書店員さんみたいだなと思った。オーラというか雰囲気でわかるんだろうな。

「本を読むことはあらゆる人に認められた権利です」
2019年には「読書バリアフリー法」(視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律)が施行された、というくだりで、芥川賞で話題になってた「ハンチバック」を思い出した。これもまた「ランチパックみたいなタイトル」とか「ハンドバック」とか覚え違いが発生してそう。

いつも利用してる図書館も、最近のお知らせで「リーディングトラッカー」という読書補助具を紹介してるのに気付いた。

ディスレクシアや視覚障害など、いろいろな事情で本を読みづらい人がいると思うけど、それでも読みたいって思う人のためにも楽しく読書できる環境が整っていくといいな。


この本が生まれたきっかけともいえる館長さんの話も良かった。
福井県立図書館では、15年以上前に当時の館長から「レファレンスサービスをもっとアピールするにはどうしたらいいか」という課題が提示されたらしく。本当に本が好きで、利用者のことを考えているんだなぁと、その部分だけでほっこりした。

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