阿川せんり

「アリハラせんぱいと救えないやっかいさん」

著者:阿川せんり
発行:株式会社KADOKAWA
初版発行:2017年2月2日


いわゆる「こじらせ系」な青春小説。

真の変人と出会わんがために北大へ進学した主人公・コドリタキ。
しかし世の中には「変人だと思われたいだけ」「特別視されたいだけ」の存在「やっかいさん」もいて、コドリはそんなやっかいさんに振り回されてもいる。


体を張って変人研究をしている奇妙な先輩、アリハラと邂逅するコドリ。
はたして先輩は本物の変人なのか、それとも単なるやっかいさんなのか見極めるため奔走する彼女は、やがて浮き彫りになる自分自身の気持ちとも向き合っていく。


面倒くさいやっかいさんたちの生き様。コドリ本人の自意識。アリハラせんぱいの目的。
大人は過去の自分を思い出し、若い読者は自分と重ね合わせてしまいそうな生々しさ。誰しも覚えがあるだろうリアルな青臭さが癖になる。

以下ネタバレ

出だしの展開で興味を惹かれ、少しずつ最後までダレることなく読み終わった。
けど人によって好き嫌いが分かれそう。個人的には、テーマも雰囲気も好きなタイプ。ただし結末がご都合主義っぽくてそこだけ微妙だった。


「偏差値の高さと人種の多様さは比例する」
(ここでの人種は国籍や肌の色で区別されるものでなくて、オタクとかパリピなど軽い意味での種類)
めっちゃ共感するけど、自分は頭いいわけじゃないので実感が薄い。

真の変人を求めるコドリは、結局やっかいさんが羨ましいだけだった。
オチとしてはベタだなと思ったけど、王道といえば王道。

登場人物が個性豊かだから話の展開が突飛(現実的な範囲)で面白かった。
とくに後半、アリハラせんぱいがコドリの話を本にしていたくだりは、周囲の反応も含めてジェットコースターみたいな急展開。

ときどきカタルシスあり、変人について考えさせられるところもあり。
メインキャラみんな若者だからか説教臭さもなくて、改めて「普通」と「変」とはなにか、極端な例を踏まえつつ自分なりに整理する良いきっかけになったと思う。


なにが「変」かって個人差が大きいし、少なくとも最初から「やっかいさん」と「真の変人」に固執してるコドリの問題点、つまり本のテーマは比較的わかりやすかった。

「かわいそうに。やっかいさんにすらなれないんだ」
アリハラせんぱいの本に出てきた言葉。初めて読んだときはブチギレてたコドリが、後に自嘲気味に繰り返していたのがとても良い。


個人的にマイ先輩にアリハラせんぱいが生肉をぶち込むシーンが好き。
あとやっかいさんとか抜きに、マイ先輩とミレイさんはリアルでいたら普通に苦手だと思った。アリハラせんぱいがいちばん好きかも。

惜しむらくは最後の告白・お付き合いシーンがいきなりすぎたところ。
コドリがせんぱいを恋愛的に好きになったとは、どうしても思えなかった……。
救えないやっかいさんだった主人公が、大好きなせんぱいの特別になれた。っていう流れは凄く良いけど、ちょっと無理やりというか。

そこだけもっと説得力があったらとは思うけど、総合的には面白かった。
他の作品も読んでみたい。

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