江戸川乱歩
「孤島の鬼」
著者:江戸川乱歩
発行:――
初版発行:――
まだ三十歳にもならないのに、不思議な白髪の主人公・箕浦金之助。
彼は自らの白髪を「奇怪至極な」「世にためしのない大恐怖」のためと前書きし、人から質問されることも多い白髪頭の理由を一冊の本に書き記した。
それが、独白の形で語られる本作品「孤島の鬼」の本編。
主人公は小説を読むのは好きだけど書く方は苦手ということで、けっこうじれったい感じの前置き。
勤め先の商社で出会った女性・木崎初代との可愛らしい恋物語から始まり、しかしそれは思いがけない殺人事件を皮切りにミステリの様相を呈していく。
わりと早い段階から、主人公に関わる同性愛要素を含んだ(というかそれがメインまである?)別の恋物語も展開される。序盤~中盤は恋愛&ミステリ、中盤後編~終盤は恋愛&冒険譚のような雰囲気があって飽きなかった。飽きないというか、途中でやめられなくなって一晩で読みきったくらい面白かった。笑
以下ネタバレ
孤島の鬼は名作BLとしても有名(?)らしく、その辺のことは読む前からネットやBL紹介漫画などの情報でなんとなく意識してた。某BLソムリエのお兄さんとか。
それに関しては詳しい経緯や主人公のスタンスが最初の方で描写されていたので、するっと理解して読むことができた。しかし話が進むにつれ、そっちの恋物語も紛れもない純愛だなぁと思えて切なくなることしきり。
殺人事件を発端とした巨大な謎を追う様子は、主人公たちの置かれた状況も相まってハラハラしっぱなし。謎が解けるにつれて想像を絶する醜悪な事実が浮き彫りになり、そこに主人公へ思いを寄せる某氏の複雑な心情が絡んで情緒が滅茶苦茶にされる。
作品が書かれた時代を感じさせる、独特な世界観に登場人物たち。同性愛を始めとした諸々の要素から当時の時代背景にも思いを馳せつつ、最後は大団円ながらも忘れられない悲しみを残してくビターエンドだった。
あらゆる意味で現代に読むからこそ生じる価値観の違いなどもあると思うので、気になってる人には一刻も早く読んでもらいたいと思う。人によっては読み難い描写もあると思うけど、こういった作品はいくら時代が移り変わっても「その時代の傑作」として読み継がれていってほしい。
ちょっと古めかしい言葉遣いが好きなので、そういう意味でも楽しかった。孤島の鬼は昭和四年に書かれたらしく、元号だけ見ると近いような錯覚を覚えるけども、あと五、六年したらちょうど百周年。……昭和が長すぎる。調べたら歴史でいちばん長い時代らしい。いちばん短いのは直前の大正時代。面白。
話が脱線したけど、総合的に大満足の作品だったー。最後の文章なんかは涙ぐむくらいだった。
いろんな人と感想を語り合いたい。箕浦についてと諸戸やその他の人々について。いろんな人の意見を聞きたい。
個人的に、男性の同性愛を『BL』と一括りにするのがあまり好きじゃなくて、諸戸道雄の恋も、やっぱりBLというか性別を超越したような愛に感じられた。まあ明確に女性を嫌悪して男性を選んでいるわけだから、そういう意味ではBLで間違いないのかもしれない。
にしても箕浦、ちょっとナルシスト気味というか。
容貌が美しく聡明な諸戸に言い寄られて「彼の眼鏡にかなっている」と自信を持つのはわかるけども、口説かれるのはOK・友人としてはすごく尊敬してる。でも触れられたり求められるのはNGって、なんかめちゃくちゃ気位高い女のひとみたいだなと(言い方)。
たぶん時代的に同性愛なんて異常者の変態行為と思われてたレベルだったんだろうし、受け入れられないとか気持ち悪いと思うのはわからんでもないけど……自分に都合の良い好意には甘えて、一線を越えそうになったら突き放す、ってのはわりと自分勝手では??
まあでも人間関係ってある程度は自分勝手かもしれん。しかし受け入れる気も応える気もないのなら、相手の好意を突き放すべきだったのではと思ってしまう。
諸戸で自尊心を満たすな。
諸戸は一途だし生い立ちも可哀想すぎるし、しかしわりと言動が男前。かと思いきや洞窟の中では泣きそうな声で強がるなど、もうなんかどうにかして幸せになってくれ……。
健気すぎて最後の一文で涙腺を持ってかれた。諸戸が何をしたって言うんだ。
病について、「恋煩いで死んだのでは」と考察してる人がいて、不思議にすとんと腑に落ちた。
全体として奇怪な雰囲気、異様な展開が繰り広げられる作品だし、思いを募らせすぎて亡くなったというのでもあまり違和感ない。
孤島の鬼はおよそ現実に有り得なさそうな出来事が次々と起こるけど、でも自分が知らないだけで、世界の片隅ではこんなことが実際にあったのでは? と思わせられるから凄い。
みんなが幸せになった後の世界で、他の人を探すでもなく一途な愛を貫いて死んだ諸戸……ここだけで無限に思いを馳せることができる。箕浦くん、ちょっとくらい応えてあげても良かったのでは? 接吻とか。でも中途半端に期待を持たせるのも良くないかな。
俺は見た目が好みだったら、わりと性別関係なく恋愛対象に見れるのでそう思うけど、やっぱりこの時代でそれはえげつない異常性癖だったんだろうなー。諸戸、自分の父(だと思ってた)丈五郎はヤバいし、母親の影響もあって男色になったしで本当大変だなぁ。
丈五郎と言えば、やったことは極悪非道の非人道的な悪行で、作中もかなり恐ろしかった。
でも彼の生まれ育ちと境遇を考えると、むやみやたらに責め立てることもできない……てか諸悪の根源は単なる好奇心でせむし(くる病)の下女に手を付けた先代では。
身体障碍者についても容赦のない表現で書かれていて、いまとはまったく常識の異なる社会で、それでもこの話に出てくる彼らはハッピーエンドに収まりそうな結末で安堵。
話として孤島の鬼=丈五郎なんだろうけど、箕浦も充分すぎるほど鬼だと思う。
深山木も良いキャラしてたのに、わりとあっさり退場してしまって残念だった。でもそれで謎が深まり危機感が滲んで、ついでに箕浦と諸戸も急接近したので……必要な犠牲だったのか(残酷)。
あと、読んでて一番テンション上がったのは徳さんと再会するシーン。生きてたぁぁ!! 息子さんは死んでしまったんだろうか……ちゃっかりどこかに流れ着いて、のちのちひょんなことからみんなと出くわしてほしい。諸戸の分まで少しでもハッピーエンドを求める。
著者:江戸川乱歩
発行:――
初版発行:――
まだ三十歳にもならないのに、不思議な白髪の主人公・箕浦金之助。
彼は自らの白髪を「奇怪至極な」「世にためしのない大恐怖」のためと前書きし、人から質問されることも多い白髪頭の理由を一冊の本に書き記した。
それが、独白の形で語られる本作品「孤島の鬼」の本編。
主人公は小説を読むのは好きだけど書く方は苦手ということで、けっこうじれったい感じの前置き。
勤め先の商社で出会った女性・木崎初代との可愛らしい恋物語から始まり、しかしそれは思いがけない殺人事件を皮切りにミステリの様相を呈していく。
わりと早い段階から、主人公に関わる同性愛要素を含んだ(というかそれがメインまである?)別の恋物語も展開される。序盤~中盤は恋愛&ミステリ、中盤後編~終盤は恋愛&冒険譚のような雰囲気があって飽きなかった。飽きないというか、途中でやめられなくなって一晩で読みきったくらい面白かった。笑
以下ネタバレ
孤島の鬼は名作BLとしても有名(?)らしく、その辺のことは読む前からネットやBL紹介漫画などの情報でなんとなく意識してた。某BLソムリエのお兄さんとか。
それに関しては詳しい経緯や主人公のスタンスが最初の方で描写されていたので、するっと理解して読むことができた。しかし話が進むにつれ、そっちの恋物語も紛れもない純愛だなぁと思えて切なくなることしきり。
殺人事件を発端とした巨大な謎を追う様子は、主人公たちの置かれた状況も相まってハラハラしっぱなし。謎が解けるにつれて想像を絶する醜悪な事実が浮き彫りになり、そこに主人公へ思いを寄せる某氏の複雑な心情が絡んで情緒が滅茶苦茶にされる。
作品が書かれた時代を感じさせる、独特な世界観に登場人物たち。同性愛を始めとした諸々の要素から当時の時代背景にも思いを馳せつつ、最後は大団円ながらも忘れられない悲しみを残してくビターエンドだった。
あらゆる意味で現代に読むからこそ生じる価値観の違いなどもあると思うので、気になってる人には一刻も早く読んでもらいたいと思う。人によっては読み難い描写もあると思うけど、こういった作品はいくら時代が移り変わっても「その時代の傑作」として読み継がれていってほしい。
ちょっと古めかしい言葉遣いが好きなので、そういう意味でも楽しかった。孤島の鬼は昭和四年に書かれたらしく、元号だけ見ると近いような錯覚を覚えるけども、あと五、六年したらちょうど百周年。……昭和が長すぎる。調べたら歴史でいちばん長い時代らしい。いちばん短いのは直前の大正時代。面白。
話が脱線したけど、総合的に大満足の作品だったー。最後の文章なんかは涙ぐむくらいだった。
いろんな人と感想を語り合いたい。箕浦についてと諸戸やその他の人々について。いろんな人の意見を聞きたい。
個人的に、男性の同性愛を『BL』と一括りにするのがあまり好きじゃなくて、諸戸道雄の恋も、やっぱりBLというか性別を超越したような愛に感じられた。まあ明確に女性を嫌悪して男性を選んでいるわけだから、そういう意味ではBLで間違いないのかもしれない。
にしても箕浦、ちょっとナルシスト気味というか。
容貌が美しく聡明な諸戸に言い寄られて「彼の眼鏡にかなっている」と自信を持つのはわかるけども、口説かれるのはOK・友人としてはすごく尊敬してる。でも触れられたり求められるのはNGって、なんかめちゃくちゃ気位高い女のひとみたいだなと(言い方)。
たぶん時代的に同性愛なんて異常者の変態行為と思われてたレベルだったんだろうし、受け入れられないとか気持ち悪いと思うのはわからんでもないけど……自分に都合の良い好意には甘えて、一線を越えそうになったら突き放す、ってのはわりと自分勝手では??
まあでも人間関係ってある程度は自分勝手かもしれん。しかし受け入れる気も応える気もないのなら、相手の好意を突き放すべきだったのではと思ってしまう。
諸戸で自尊心を満たすな。
諸戸は一途だし生い立ちも可哀想すぎるし、しかしわりと言動が男前。かと思いきや洞窟の中では泣きそうな声で強がるなど、もうなんかどうにかして幸せになってくれ……。
健気すぎて最後の一文で涙腺を持ってかれた。諸戸が何をしたって言うんだ。
病について、「恋煩いで死んだのでは」と考察してる人がいて、不思議にすとんと腑に落ちた。
全体として奇怪な雰囲気、異様な展開が繰り広げられる作品だし、思いを募らせすぎて亡くなったというのでもあまり違和感ない。
孤島の鬼はおよそ現実に有り得なさそうな出来事が次々と起こるけど、でも自分が知らないだけで、世界の片隅ではこんなことが実際にあったのでは? と思わせられるから凄い。
みんなが幸せになった後の世界で、他の人を探すでもなく一途な愛を貫いて死んだ諸戸……ここだけで無限に思いを馳せることができる。箕浦くん、ちょっとくらい応えてあげても良かったのでは? 接吻とか。でも中途半端に期待を持たせるのも良くないかな。
俺は見た目が好みだったら、わりと性別関係なく恋愛対象に見れるのでそう思うけど、やっぱりこの時代でそれはえげつない異常性癖だったんだろうなー。諸戸、自分の父(だと思ってた)丈五郎はヤバいし、母親の影響もあって男色になったしで本当大変だなぁ。
丈五郎と言えば、やったことは極悪非道の非人道的な悪行で、作中もかなり恐ろしかった。
でも彼の生まれ育ちと境遇を考えると、むやみやたらに責め立てることもできない……てか諸悪の根源は単なる好奇心でせむし(くる病)の下女に手を付けた先代では。
身体障碍者についても容赦のない表現で書かれていて、いまとはまったく常識の異なる社会で、それでもこの話に出てくる彼らはハッピーエンドに収まりそうな結末で安堵。
話として孤島の鬼=丈五郎なんだろうけど、箕浦も充分すぎるほど鬼だと思う。
深山木も良いキャラしてたのに、わりとあっさり退場してしまって残念だった。でもそれで謎が深まり危機感が滲んで、ついでに箕浦と諸戸も急接近したので……必要な犠牲だったのか(残酷)。
あと、読んでて一番テンション上がったのは徳さんと再会するシーン。生きてたぁぁ!! 息子さんは死んでしまったんだろうか……ちゃっかりどこかに流れ着いて、のちのちひょんなことからみんなと出くわしてほしい。諸戸の分まで少しでもハッピーエンドを求める。
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