瀬尾まいこ

「強運の持ち主」

著者:瀬尾まいこ
発行:文藝春秋
初版発行:2009年5月8日


職場の人間関係をきっかけに、営業の仕事を辞めて占いの職に就いた主人公・ルイーズ吉田。本名は吉田幸子。

元々は占い師にも占いにも興味のなかった彼女が、持ち前のさっぱりした気質と直感、そして営業職にも通じるコミュニケーション能力を駆使して、訪れる客や周囲の人の運命に関わっていく話。登場する他のキャラクターたちも個性的。

といってもそこまでドラマティックすぎたりドロドロした展開はなく、ちょっと変わった題材なのにのんびりほのぼのした気持ちで読める一冊。
四本の短編はどれも長すぎず短すぎないちょうど良い塩梅で、一日一本ずつ読むのが寝る前の楽しみになるくらいだった。笑

主人公は序盤こそ「数字が苦手でよく計算を間違える」「表を探し当てて読み取るのがわずらわしい」といった、正直「大丈夫かこの人」感の漂う人物だったが、話の中で垣間見える責任感や面倒見の良さには好感が持てて嫌いになれない

占いはきっかけにすぎず、前を向く人の背を押すためのもの、というスタンスがとても心地良いと思った。今までに起きた出来事も、これから起きる出来事も、月並みな言葉だけどすべては自分の捉え方次第なんだなと改めて実感する読後感。
物語全体が押しつけがましくなく優しい調子なので、登場人物の一挙手一投足を素直に見守っていたくなる。

以下ネタバレ

「ニベア」
なんとなく途中で真相がわかったけど、お父さんの(ちょっとズレた)愛情が微笑ましくて好き。そんなお父さんの子どもだからか、少年も優しい子に育っているようでほっこり。
探偵みたいに見張ったりするシーンが一番わくわくした。

「ファミリーセンター」
前回のようには推理することが出来ず、しかしその真相を知ったときは「先に言えや!」って思った。義理の父親と好きな人じゃ、距離の縮め方も違うだろ。笑 まあ、そういう部分が思春期の難しさなのかなーと思いつつ、本当のことがわかってからは純粋に女子高生と父親の仲を応援する気持ちで読めた。
「悩みなんて、人に話せた時点で半分は解決だから」という言葉は確かにそうだなーと納得。ガチで相談したいことってなかなか他人には言えないものだと思うし、そういう意味でもやっぱり占いは人の背中を押すのがメインの職業なのかもしれない。

「おしまい予言」
癖の強い青年アシスタントが中心。個人的には超能力とかあんまり信じてないから、武田君の方がよっぽど凄い能力じゃんと思いながら読んでいった。

おしまいは悪いことばかりではない、いつか終わりがくるとわかっているからこそ力を尽くせることもある。そういったメッセージは自分にも当てはまって、たぶんこの本の中でいちばん響いた言葉だと思う。しんどいことも「今だけ」と思えれば、もう少し頑張るかっていう気になれるし。
実際はあとどれくらい頑張れば報われるかなんてわからないから大変なんだけども。

「強運の持ち主」
表題作。最後はちょっと煮え切らない締めくくりだったけど、日常や人生を進めていく中で本当に大事なのは運だけじゃなくて、自分の直感や意思の力、周囲の人たちとの関わり、自分にとって大切なもの(ルイーズにとっては占いもそのひとつ)たちの力を少しずつ頼りにしていくことなのかなぁと。
「おしまい」の内容が何なのかは気になるところだけど、あえてぼかしておくことで穏やかな波紋みたいな余韻の残る締めになっていると思う。登場人物たちのその後について、あれこれ考えてみるのも面白い。

感想を書いてて思ったけど、強運の持ち主っていうのは通彦のことだけじゃなくて、前向きな思考回路と良い意味で楽観的な性格で前に進むことのできるルイーズ自身のことも指しているのかもしれない。
物事も捉え方ひとつで違う風に受け止めることができるなら、できるだけ良い方に考える癖をつけられたらいいなと思う。


自分も以前、石切さん(石切剣箭神社)に行ったとき参道で手相を見てもらったけど、値段とか時間はあんまり覚えてないことに気付いた。まああれは旅行の記念なのもあったけど。
教師とか占い師に向いてるって言われて「ほう……」となった思い出(教師に興味はないけど、占い師はちょっとやってみたい)。

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