死人に梔子
机の右端には、皿に乗ったショートケーキがあった。
白い生クリームに赤いイチゴが映えている。何の変哲もないケーキだ。
ケイジが、ふと懐かしそうに口調を和らげた。
「そういえば、子どもの頃は薬を飲んだ後に、ご褒美でおやつをもらってたな」
「ご褒美……ですか」
カイは、あまりピンときていない様子で繰り返した。
「けっこう薬嫌いだったからね。母親にも、ずいぶん手間をかけさせたよ」
苦笑するケイジの隣で、カイがケーキの皿を手に取ってみる。
「では、この男の子にも『ご褒美』をあげてみましょうか」
小さなフォークでケーキを切り分け、数回に分けて口元の空洞部分に落とし込む。
「……なんだか、食べ物を粗末にしているようで気が引けますね」
言いつつ、一かけらも残さず絵の男の子へケーキを食べさせたカイ。
皿が空っぽになったところで、絵に変化が起きた。
『美味しかった!』
どこからか子どもの声が響き、男の子の表情が満面の笑顔に変わる。
同時に、絵画の下に貼られているプレートに『くちなおし』の文字が浮かび上がった。
「『くちなおし』……この絵のタイトルでしょうか」
呟くカイ。
ケイジは辺りを確認したが、他に変化は見られなかった。
「まだ、なにかする必要があるのかな」
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