死人に梔子


 小ぶりだが、ほのかに良い香りを纏う純白の花。
 くちなしを墓石の花瓶に生けると、澄んだ水はみるみるうちに赤く染まった。

「……『死人に梔子』、ってことかな」
 言いながら、ケイジは注意深く花瓶を見つめた。カイも墓石をかたどったそれを注視する。
 水面は不安定に揺らいでいた。
「心なしか、水かさが増しているような……」
 カイの言葉に呼応するように、赤い水が少しだけ溢れて机を濡らす。
 そして、花瓶の底に沈んでいたなにかが浮き上がってくる。

 透明のビニール袋だった。
 中には唇の形をしたカードが入っている。
「……『死人に口無し』ですね」
 淡々と告げるカイ。ケイジは袋の口を開けて、カードを取り出した。
 やけにリアルな唇を模したカードを、何の気なしに裏返してみる。
 その瞬間、覇気の薄い目に、怪訝な色が混じった。

「これは……」

 呟きと同時に、地下室の照明が消えた。


脱出クリア 93ページ
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