死人に梔子


 机上に並ぶ小物を眺め、ケイジはゼリーの器に手を伸ばした。
 ご丁寧にもスプーンまで添えられているそれを、一口分だけすくってみる。

「なんだか、絵がベタベタになりそうだね……」
「ゼリー、ですか?」
 不思議そうな顔で首を傾げるカイ。
 ケイジは、ゼリーを絵の口元に運びながら答えた。
「子どもの頃に、タチの悪い風邪をひいたことがあってね。粉薬って喉に引っかかるから嫌いだったんだけど、薬を飲みやすくするセリーってやつを母親が用意してくれてて」
「……ああ、ゼリーに薬を混ぜて苦みを抑えるものですね」
 カイも合点がいった風に頷き、「まあ、肝心の薬は見当たりませんが」と辺りを見回した。
「物は試しだよ」
 そんな言葉と共に、ケイジは一口分のゼリーを絵の空洞へ投入する。

 ゼリーがつるりと滑り落ちた瞬間、どこから子どもの声がした。
『さっき食べたよー』
 そんな台詞の後に、空洞へ落としたゼリーが跳ね返ってくる。
「……食べ物を粗末にするのは、いただけませんね」
「あー、床に落ちちゃったね。踏まないようにねー」


 他のアイテムを選ぶ 5ページ

 他の壁を見る 2ページ
17/93ページ