死人に梔子


 鴨は絵の掛かっている壁へ飛んでいき、机の上に着地する。
 そして、絵画の下に貼られたプレートをくちばしで突いた。
 絵画のタイトルと思しき『くちなおし』の『お』だけがぽろりと外れた。

『くちな し』となったタイトルを見て、鴨は満足げに『お』の文字をくわえ壁に戻る。
 一連の出来事を見ていたカイが、「ふむ」と声を漏らした。
「……『お』取り、ということでしょうか」
「たぬきの宝箱みたいだね」
 呟く二人の眼前で、タイトルが変わった絵画が大きく反転する。
 額縁が回転し、裏側は別の絵になっていた。

 描かれていたのは、くちなしの花束だった。
 柔らかそうな白い花びらを持ち、甘い匂いを漂わせている。
 本物かな、とケイジが口にする前に、花が額縁からこぼれるように落ちてきた。

「……」
 拾い上げ、ケイジは花束の飾られている壁の花瓶を見る。
 墓石をかたどった花瓶。
 カイを見ると、ケイジの意思に同意するように頷いた。


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