甘々文字書きワードパレット
お題:ジェラート 日向正宗と小夜左文字
ワード『混ざり合う』『吐露』『滴る』
「……暑いね……」
「……暑いですね……」
中天に白い太陽が昇りきった晴天の下を、日向正宗と小夜左文字が歩いていた。
天気は快晴、八月の午後。燦々と降り注ぐ陽光を受けて、それぞれ両手に重い荷物を持っている二人の額には、文字通り玉の汗が浮かんでいる。
じりじりとうなじを焼く陽射しに、日向は「参ったねぇ」と苦笑した。
小夜はただでさえ普段から目付きが鋭く、また三白眼のために悪く見えがちな人相が、強い陽射しに目を細めているので余計に悪人面になっている。
一筋、頬を伝った汗が顎先から地面へ落ちる瞬間、「あ」と日向が道の先に小さな店を見つけた。つられて、小夜も顔を上げる。商店街の外れには、道に濃い影を落としながらも涼しげな佇まいの喫茶店があった。
「……買い出しのお釣りはお駄賃にして良いって言われてるし、ちょっと休憩しようか」
日向が提案し小夜は素直に頷いて、二人は店を目指して歩を進めた。
店先には大人が五人ほど並んで座れそうな長椅子があり、今は誰も座っていなかった。店の軒先と地面を繋ぐように張られている布の看板には、『じぇらぁと』の文字が可愛らしい和風の書体で書かれている。軒先には透明な風鈴が吊り下げられていて、二人を誘うようにチリン、と鳴った。
「ジェラート……氷菓子の一種だったかな」
日向が看板の文字を読み上げ、長椅子の上に荷物――万屋の買い物袋を下ろす。端に荷物を寄せて置き、日向と小夜は店頭の台に乗ってショーケースを覗き込んだ。
「わぁ……!」
クーラーが効いているのだろうか、店内から吹く風に二人の前髪が揺れる。小夜は青い瞳を大きく見開き、日向も感嘆の声を漏らして微笑んだ。
ショーケースには、色とりどりのジェラートがケースに詰められてぎっしりと並んでいた。バニラ、チョコ、ミント――鮮やかな氷菓が、二人を誘うようにきらきらと輝いている。
「いらっしゃいませー」
彩り豊かなジェラートへ見惚れる二人に、ショーケースの向こうから明るい声がかけられる。店員らしき女性に会釈して、日向はケース上に飾られているメニュー表を手に取った。
透明なフィルムでラミネートされたその紙には、ずらりと鎮座するジェラートの種類と値段、本日のおすすめといった基本的な内容が記されている。小夜と共に表を眺めた日向は、特に目立つ表記でアピールされているメニューに目を留めた。
「カスタマイズかぁ。自分好みにいろいろと組み合わせられるみたいだよ」
「果物やお菓子がたくさん……なんだかカラフルですね」
メニュー表の裏に載っているトッピング一覧を見て、小夜が興味深そうに目を輝かせる。
ふと、日向が何か思いついた様子で「そうだ」と口角を上げた。
「せっかくだから、お互いをイメージして作ってみるとか、どうかな?」
「お互いを?」
「そう。僕が小夜くんをイメージしたジェラートを作って、小夜くんは僕をイメージしたジェラートを作る、ってこと」
怪訝な声音で返した小夜は、しばらくメニュー表と楽しげな日向の瞳を交互に見比べて、ややあって小さく頷いたのだった。
嫌いなものや食べられないものがないことを確認し合い、小夜は店員が新しく出してくれたもう一枚のメニュー表を真剣な顔つきで見つめていた。
カスタマイズの手順はかなり単純で、ショーケース内のジェラートからベースとなるものを一つ選び、さらにそこへ加えるトッピングを三つまで選ぶ。
見本の写真を見たところ全体的に小ぶりなカップに入るためか、豪華な見た目に対し値段はそう高くはなかった。小夜は安心してカスタマイズに取りかかった。
まず、土台となるベースのジェラートを決める。数十種類の中から選ぶのは大変そうだと思ったが、バニラの色合いが日向の髪色に似ている気がしたのでそれにすることにした。トッピングは日向の瞳を思わせる宝石のようなキャンディチップと、彼の纏うポンチョと同じ色の、真っ赤なベリーソース。仕上げに、日向の好きな梅を使ったジャムを添えて完成だ。
想像するだけでも華々しいジェラートは、きっと日向も喜んでくれるに違いない。
意気揚々と店員に注文した小夜は、しかしまだメニュー表とにらめっこしている日向の姿を見てはっとなった。傷のある頬に、つう、と汗が滴る。
(日向さんは綺麗な姿をしているから、彼をイメージして考えるのはとても楽しかったけれど……)
自分の格好を見下ろして、小夜はしゅんと肩を落とす。一時とはいえ山賊の持ち物であった事実が色濃く反映された小夜左文字という短刀は、贈り物とされることが多かった日向正宗と比べて、あまりに粗野で貧相な容姿で顕現している。
こんな自分をイメージするなんて、きっと全く楽しくないに決まっている。言い出しっぺは日向だが、思いつきで提案したことを後悔しているのではないか……長椅子に腰掛けながら、小夜の表情はどんどん暗くなっていく。
「遅くなってごめんね」
濃い影の落ちる地面を見つめていると、戻ってきた日向が隣に座った。注文は無事に決まったようだが、小夜は「ううん……こっちこそごめん」と重い口調で返した。
疑問符を浮かべる日向に、小夜は三白眼を伏せて視線を落としたまま言葉を続ける。
「僕は、あなたと違ってあまり綺麗な見た目ではないから……僕をイメージして作るだなんて、難しくてつまらないことをさせてしまったような気がして」
暗い気持ちを吐露する小夜に、日向の星を散りばめたような瞳がぱちくりと瞬きをした。
気分を害してしまったかと、小夜が上目遣いで日向を見ると――彼は、穏やかな微笑みで小夜を見つめ返した。
「……そんなこと、考えもしなかったからびっくりしたよ。でも心配はその無用かな」
くすりと上品に笑うのと同時に、店内の女性が「お待たせしましたー」と二人を呼んだ。
代金を支払って注文の品を受け取り、再び長椅子に戻って、二人は互いに相手を考えながら作ったジェラートを渡し合う。
小夜とカップを交換して、日向は自分をイメージして作られた美しい色合いのジェラートに満面の笑みを見せた。ありがとう、とっても綺麗で美味しそうだねと喜びに声を弾ませ、それから自分のカスタマイズしたジェラートを小夜に渡す。
日向からカップを受け取った小夜は、手渡されたカップをそっと両手で包み込んだ。
小夜と同じく髪色から連想したのか、青いジェラートをベースに、黒っぽい茶色のソースがかけられている。全体に小石のような形のチョコらしきものが埋められていて、サイドには蜜柑の粒が二つ添えられていた。
「さすがに柿はトッピングになかったから蜜柑にしたんだ。……『年たけて、また越ゆべしと思ひきや命なりけり小夜の中山』。君の名の由来である西行法師の和歌も、命があることの有難さを詠んだものだし、蜜柑は昔から長寿に通ずる果物とも言われているから、あながち遠くはないと思って」
「……この、黒いソースは何ですか」
滔々と説明する日向に、小夜がおずおずと問いかける。日向は質問されたことが嬉しいとでも言うように、生き生きとした顔で解説を繰り広げた。
「それはチョコレートソースなんだけど、君がよく言っている『復讐の黒き道』っていう言葉を参考にさせてもらって……周りの小石みたいなチョコも、君が山賊の持ち物だったことがあるって聞いたから、険しい山道みたいな感じで」
「……」
ぽかんと口を半開きにして、小夜は手元のジェラートと、熱弁が止まらない日向をまじまじと凝視する。視線に気付き、日向が少し気恥ずかしそうに照れ笑いする。
「ごめん、ちょっと熱くなっちゃったかな」苦笑する日向に、「いえ……嬉しいです」と小夜は白い頬をわずかに赤く染める。日向がそれほどまでに自分のことを考えてくれていたことへの嬉しさと、それなのに自分が先ほど日向へ向けてしまった言葉の申し訳なさで身が縮むような思いだ。
「僕は、あなたの見た目だけを表現したけど……あなたは、僕の内面を見て、正面からそれを受け止めてくれたんだね」
ぽつりと呟いた小夜に、日向は優しい笑顔で首を振る。
「見た目も中身も、僕たちを形作る逸話や物語で出来ているからね。小夜くんが作ってくれたジェラートは、贈り物とされることが多かった『日向正宗』らしく華やかで、とても綺麗だ」
だから、ありがとう。
再度礼を言う日向に、小夜も慌てて「僕の方こそ、ありがとうございます」と赤面した顔で頭を下げる。
「じゃ、溶けちゃう前に早く食べようか」
言って、日向は付属のスプーンを柔らかく突き立てた。深紅のベリーソースと混ざり合う、淡い色調のバニラが、小さな口に吸い込まれていく。「ん、美味しい!」甘いバニラと、それを引き立てるベリーソースの甘酸っぱい味わいに、日向が声を上げて破顔する。
小夜もプラスチックのスプーンを手に、群青色のジェラートを恐る恐る口に運んだ。途端に爽やかなソーダの味が口いっぱいに広がり、ほろ苦いチョコレートソースと上手く絡み合っている。
「わ、これなんだかすごくパチパチするよ」
「あ、それはキャンディチップというそうです。飴を砕いたもので……日向さんの目に似てると思って」
わいわいと楽しげに言葉を交わす日向と小夜。彼らを照らす太陽の陽射しは、いつのまにか随分と和らいでいる。
談笑する二人を包むように涼しげな風が吹いて、店の軒先に吊り下げられた風鈴がちりんと軽やかな音を立てて揺れた。
ワード『混ざり合う』『吐露』『滴る』
「……暑いね……」
「……暑いですね……」
中天に白い太陽が昇りきった晴天の下を、日向正宗と小夜左文字が歩いていた。
天気は快晴、八月の午後。燦々と降り注ぐ陽光を受けて、それぞれ両手に重い荷物を持っている二人の額には、文字通り玉の汗が浮かんでいる。
じりじりとうなじを焼く陽射しに、日向は「参ったねぇ」と苦笑した。
小夜はただでさえ普段から目付きが鋭く、また三白眼のために悪く見えがちな人相が、強い陽射しに目を細めているので余計に悪人面になっている。
一筋、頬を伝った汗が顎先から地面へ落ちる瞬間、「あ」と日向が道の先に小さな店を見つけた。つられて、小夜も顔を上げる。商店街の外れには、道に濃い影を落としながらも涼しげな佇まいの喫茶店があった。
「……買い出しのお釣りはお駄賃にして良いって言われてるし、ちょっと休憩しようか」
日向が提案し小夜は素直に頷いて、二人は店を目指して歩を進めた。
店先には大人が五人ほど並んで座れそうな長椅子があり、今は誰も座っていなかった。店の軒先と地面を繋ぐように張られている布の看板には、『じぇらぁと』の文字が可愛らしい和風の書体で書かれている。軒先には透明な風鈴が吊り下げられていて、二人を誘うようにチリン、と鳴った。
「ジェラート……氷菓子の一種だったかな」
日向が看板の文字を読み上げ、長椅子の上に荷物――万屋の買い物袋を下ろす。端に荷物を寄せて置き、日向と小夜は店頭の台に乗ってショーケースを覗き込んだ。
「わぁ……!」
クーラーが効いているのだろうか、店内から吹く風に二人の前髪が揺れる。小夜は青い瞳を大きく見開き、日向も感嘆の声を漏らして微笑んだ。
ショーケースには、色とりどりのジェラートがケースに詰められてぎっしりと並んでいた。バニラ、チョコ、ミント――鮮やかな氷菓が、二人を誘うようにきらきらと輝いている。
「いらっしゃいませー」
彩り豊かなジェラートへ見惚れる二人に、ショーケースの向こうから明るい声がかけられる。店員らしき女性に会釈して、日向はケース上に飾られているメニュー表を手に取った。
透明なフィルムでラミネートされたその紙には、ずらりと鎮座するジェラートの種類と値段、本日のおすすめといった基本的な内容が記されている。小夜と共に表を眺めた日向は、特に目立つ表記でアピールされているメニューに目を留めた。
「カスタマイズかぁ。自分好みにいろいろと組み合わせられるみたいだよ」
「果物やお菓子がたくさん……なんだかカラフルですね」
メニュー表の裏に載っているトッピング一覧を見て、小夜が興味深そうに目を輝かせる。
ふと、日向が何か思いついた様子で「そうだ」と口角を上げた。
「せっかくだから、お互いをイメージして作ってみるとか、どうかな?」
「お互いを?」
「そう。僕が小夜くんをイメージしたジェラートを作って、小夜くんは僕をイメージしたジェラートを作る、ってこと」
怪訝な声音で返した小夜は、しばらくメニュー表と楽しげな日向の瞳を交互に見比べて、ややあって小さく頷いたのだった。
嫌いなものや食べられないものがないことを確認し合い、小夜は店員が新しく出してくれたもう一枚のメニュー表を真剣な顔つきで見つめていた。
カスタマイズの手順はかなり単純で、ショーケース内のジェラートからベースとなるものを一つ選び、さらにそこへ加えるトッピングを三つまで選ぶ。
見本の写真を見たところ全体的に小ぶりなカップに入るためか、豪華な見た目に対し値段はそう高くはなかった。小夜は安心してカスタマイズに取りかかった。
まず、土台となるベースのジェラートを決める。数十種類の中から選ぶのは大変そうだと思ったが、バニラの色合いが日向の髪色に似ている気がしたのでそれにすることにした。トッピングは日向の瞳を思わせる宝石のようなキャンディチップと、彼の纏うポンチョと同じ色の、真っ赤なベリーソース。仕上げに、日向の好きな梅を使ったジャムを添えて完成だ。
想像するだけでも華々しいジェラートは、きっと日向も喜んでくれるに違いない。
意気揚々と店員に注文した小夜は、しかしまだメニュー表とにらめっこしている日向の姿を見てはっとなった。傷のある頬に、つう、と汗が滴る。
(日向さんは綺麗な姿をしているから、彼をイメージして考えるのはとても楽しかったけれど……)
自分の格好を見下ろして、小夜はしゅんと肩を落とす。一時とはいえ山賊の持ち物であった事実が色濃く反映された小夜左文字という短刀は、贈り物とされることが多かった日向正宗と比べて、あまりに粗野で貧相な容姿で顕現している。
こんな自分をイメージするなんて、きっと全く楽しくないに決まっている。言い出しっぺは日向だが、思いつきで提案したことを後悔しているのではないか……長椅子に腰掛けながら、小夜の表情はどんどん暗くなっていく。
「遅くなってごめんね」
濃い影の落ちる地面を見つめていると、戻ってきた日向が隣に座った。注文は無事に決まったようだが、小夜は「ううん……こっちこそごめん」と重い口調で返した。
疑問符を浮かべる日向に、小夜は三白眼を伏せて視線を落としたまま言葉を続ける。
「僕は、あなたと違ってあまり綺麗な見た目ではないから……僕をイメージして作るだなんて、難しくてつまらないことをさせてしまったような気がして」
暗い気持ちを吐露する小夜に、日向の星を散りばめたような瞳がぱちくりと瞬きをした。
気分を害してしまったかと、小夜が上目遣いで日向を見ると――彼は、穏やかな微笑みで小夜を見つめ返した。
「……そんなこと、考えもしなかったからびっくりしたよ。でも心配はその無用かな」
くすりと上品に笑うのと同時に、店内の女性が「お待たせしましたー」と二人を呼んだ。
代金を支払って注文の品を受け取り、再び長椅子に戻って、二人は互いに相手を考えながら作ったジェラートを渡し合う。
小夜とカップを交換して、日向は自分をイメージして作られた美しい色合いのジェラートに満面の笑みを見せた。ありがとう、とっても綺麗で美味しそうだねと喜びに声を弾ませ、それから自分のカスタマイズしたジェラートを小夜に渡す。
日向からカップを受け取った小夜は、手渡されたカップをそっと両手で包み込んだ。
小夜と同じく髪色から連想したのか、青いジェラートをベースに、黒っぽい茶色のソースがかけられている。全体に小石のような形のチョコらしきものが埋められていて、サイドには蜜柑の粒が二つ添えられていた。
「さすがに柿はトッピングになかったから蜜柑にしたんだ。……『年たけて、また越ゆべしと思ひきや命なりけり小夜の中山』。君の名の由来である西行法師の和歌も、命があることの有難さを詠んだものだし、蜜柑は昔から長寿に通ずる果物とも言われているから、あながち遠くはないと思って」
「……この、黒いソースは何ですか」
滔々と説明する日向に、小夜がおずおずと問いかける。日向は質問されたことが嬉しいとでも言うように、生き生きとした顔で解説を繰り広げた。
「それはチョコレートソースなんだけど、君がよく言っている『復讐の黒き道』っていう言葉を参考にさせてもらって……周りの小石みたいなチョコも、君が山賊の持ち物だったことがあるって聞いたから、険しい山道みたいな感じで」
「……」
ぽかんと口を半開きにして、小夜は手元のジェラートと、熱弁が止まらない日向をまじまじと凝視する。視線に気付き、日向が少し気恥ずかしそうに照れ笑いする。
「ごめん、ちょっと熱くなっちゃったかな」苦笑する日向に、「いえ……嬉しいです」と小夜は白い頬をわずかに赤く染める。日向がそれほどまでに自分のことを考えてくれていたことへの嬉しさと、それなのに自分が先ほど日向へ向けてしまった言葉の申し訳なさで身が縮むような思いだ。
「僕は、あなたの見た目だけを表現したけど……あなたは、僕の内面を見て、正面からそれを受け止めてくれたんだね」
ぽつりと呟いた小夜に、日向は優しい笑顔で首を振る。
「見た目も中身も、僕たちを形作る逸話や物語で出来ているからね。小夜くんが作ってくれたジェラートは、贈り物とされることが多かった『日向正宗』らしく華やかで、とても綺麗だ」
だから、ありがとう。
再度礼を言う日向に、小夜も慌てて「僕の方こそ、ありがとうございます」と赤面した顔で頭を下げる。
「じゃ、溶けちゃう前に早く食べようか」
言って、日向は付属のスプーンを柔らかく突き立てた。深紅のベリーソースと混ざり合う、淡い色調のバニラが、小さな口に吸い込まれていく。「ん、美味しい!」甘いバニラと、それを引き立てるベリーソースの甘酸っぱい味わいに、日向が声を上げて破顔する。
小夜もプラスチックのスプーンを手に、群青色のジェラートを恐る恐る口に運んだ。途端に爽やかなソーダの味が口いっぱいに広がり、ほろ苦いチョコレートソースと上手く絡み合っている。
「わ、これなんだかすごくパチパチするよ」
「あ、それはキャンディチップというそうです。飴を砕いたもので……日向さんの目に似てると思って」
わいわいと楽しげに言葉を交わす日向と小夜。彼らを照らす太陽の陽射しは、いつのまにか随分と和らいでいる。
談笑する二人を包むように涼しげな風が吹いて、店の軒先に吊り下げられた風鈴がちりんと軽やかな音を立てて揺れた。
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