甘々文字書きワードパレット
お題:ポップコーン 審神者と秋田藤四郎
ワード『手を伸ばす』『輝き』『笑顔』
白い雲が映える、澄んだ蒼穹の下。
本丸裏手に広がる畑の一角。秋田藤四郎は麦わら帽子を深く被り、トウモロコシ畑をがさがさと掻き分けていた。辺りを駆ける音がざわめきを生み、風もないのに草木が激しく揺れる。
普通のトウモロコシよりも長めに、半ば放置状態で植えっ放しにされている爆裂種のトウモロコシ畑は、生き生きというよりも少し枯れたような雰囲気の佇まいだ。
しかしその中を忙しなく動き回る二人分の人影は、意気揚々とトウモロコシの収穫に励んでいた。
爽やかな夏の朝は好天に恵まれて、審神者の青年は首にかけたタオルで額を拭った。
「まだまだ真夏だなぁ。今日も暑くなりそうかな……」
呟いた声に、背の高いトウモロコシの群れの中からひょっこりと秋田が顔を出す。
せっかく被った麦わらは頭から外れ、白いゴム紐でかろうじて首に引っかかっていた。額に玉のような汗をかいて、両腕にはやや細身ながら立派なトウモロコシを何本も抱えている。
上がった口角から白い歯を覗かせ、「大収穫ですよ、主君!」と誇らしげな笑顔を見せる秋田。
主君と呼ばれた青年も、笑みを返して彼の頭に麦わら帽子を被せ直してやる。ふわふわした桃色の髪が風に揺れて、麦わらの下にすっぽりと収まった。
収穫したトウモロコシを、二人は手分けして縁側に並べていく。ぱりぱりになった髭ごと根元まで皮を剥くと、光沢のある粒がぎっしりと並んだ状態で現れた。秋田がそろりと表面を撫でてみると、指の腹に思いのほか硬い感触が当たる。
玩具のプラスチックのような質感に、秋田の大きな瞳が丸くなる。それに気づいた青年が、トウモロコシに紐を結び付けながら笑った。
「ちゃんと乾燥させないと、上手く弾けないからな。粒が硬いのは、美味しくなる証拠ってことだな」
「そういうものなんですね」
秋田はトウモロコシを不思議そうにまじまじと見つめて、青年を真似て紐を手にトウモロコシを括った。しばし静寂が辺りを包み、二人は日陰の縁側で黙々と作業をこなしていく。
作業をしている間に、他の刀剣男士たちが縁側を通りかかった。彼らは「楽しそうなことしてるじゃん」と腰を下ろし、縄の気配を敏感に察知した貞宗の打刀も手伝いに参加して、やがて本丸中の刀剣男士が集まってくる。
男士たちは畑のトウモロコシを収穫する係と、収穫されたものに縄を結び付ける係とに分かれ、手際よく役割分担して作業に加勢した。
トウモロコシ畑はすっかり丸裸にされ、「すっきりデスね」と満足げに微笑む村正の打刀に、彼と刀派を同じくする槍が「お前まで裸にならんでいい!」と声を荒らげている。
かなりの量のトウモロコシが収穫されて、その山にどんどんと紐が括りつけられていく。
あらかた括り終えると、青年はトウモロコシに結び付けた紐を持って縁側の軒下や使われていない物干し竿に吊るしていった。夏の陽射しを燦々と浴びて、黄金の粒が庭や軒先で眩しく輝いている。それは、金色のカーテンか波のようにも見えた。
「さて、あと半月ほどの我慢だな」
「楽しみですねぇ」
ゆらゆらと風に吹かれるトウモロコシの群れに、青年と秋田は目を細めてにこりと笑った。
それから二週間以上が経った日の午後。
「もういいかな」
そう呟いた青年に、秋田が喜びで目を輝かせた。本丸のあちらこちらに吊るされたトウモロコシを何本か下ろして、二人は厨へと向かった。
二人きりの厨で、青年と秋田はフライパンや油などの調理器具を用意してトウモロコシの種を指で剥いていく。ぽろぽろと落ちる粒々は普通のトウモロコシの粒よりも固く、フライパンに硬質な音を立てて散らばっていく。
油を引いたフライパンに粒を落とし終えると、青年は軽く炒ってから蓋をした。
数秒も経たないうちに、力強く、軽やかに弾ける爽快な音が響く。
初めのうちは少しずつ、徐々に勢い良く破裂音を轟かせるトウモロコシの種たちを、秋田は頬を紅潮させて見つめている。その瞳は星を宿しているかのように煌めき、コーンが暴れる様子を興味深そうに観察しては、満面の笑みが輝きを増していった。
焦げ付かないよう時折フライパンを揺すっては、まだかまだかと楽しそうな面持ちで中身を覗き込む。フライパンの中で縦横無尽に跳ねまわる無数の粒は、やがて蓋を吹き飛ばすのではないかと思わせるほどに激しい音を立てた。
まるで無数の打ち上げ花火のような大爆発の後、コーンたちは作り始めの頃と同じように、少しずつ大人しくなっていく。先ほどの大暴れが嘘のように鳴りを潜めた種――もう充分に皮がめくれて膨れ上がったポップコーンを見て、秋田が期待を込めた表情で青年の方を振り向いた。
「もう、大丈夫でしょうか」
わくわくとポップコーンのように弾んだ声で問われて、青年は「いいんじゃないか?」と蓋の取っ手に手をかける。秋田が声には出さず「ああ!」という顔をしたので開ける役目を譲ってやると、見た目相応の子どもらしい顔でいそいそと蓋を持ち上げた。
ふわりと香ばしい匂いがあがり、余熱で飛び出したポップコーンが一粒、逃げるように床へ転がった。拾い上げて口に含むと、程よい熱さのかたまりがサクッと気持ちの良い音を立てる。
「あ、主君ずるいですよ!」
重さのある蓋をゆっくり布巾の上におろして抗議した秋田に、「開ける係は譲っただろー」と言いながら粒を二つ、三つとまとめて押し込んでやる。
あふっと声をあげたのも束の間。秋田は出来立てのポップコーンに、声が出ないくらいの感動の息を漏らした。
「っ……おいしいですね!」
初めての手作りポップコーンに、頬が落ちそうなほど破顔する秋田へ、青年もにっこりと笑って頷いた。
山ほど作ったポップコーンに塩をかけていると、香りにつられた男士や動物たちが集まってきた。
居間や厨に続々と集まってきた刀剣男士が、乾燥中のトウモロコシを下ろしたり調理したりする賑やかな声が響く。
出来立てのポップコーンは手分けして大皿に盛りつけられ、各々が小皿を出して思い思いの場所で八つ時に入る。鳴狐や白山、五虎退に獅子王などは、自分のお供にも専用の皿で分けてやっている――にっかり青江の皿から独りでにポップコーンが消えるのを、脇差仲間である浦島が亀に味付けのされていないコーンを与えながら、青ざめた表情で凝視していた。なにはともあれ、平和で穏やかな風景だ。
収穫、及び初めての調理の功労者である秋田と青年は、縁側に並んで腰かけていた。
後続たちが作ったキャラメルやチーズにカレー、醤油バターといった多種多様な味付けのポップコーンをちょっとずつ器に盛りながら、二人ともが一番多く手を伸ばすのは、やはり定番の塩味だ。
「……ポップコーンって、なんだか『夏』って感じがしますよねぇ」
コーンの隣に吊るされた風鈴の音を聴きながら呟く秋田に、青年も「あー、確かにそうだな」とポップコーンをかじりながら同意する。歯に挟まらないよう気を付けながら、さくっと小気味良い音を立てて味わうと、外を見ながら食べるポップコーンはいつもより何倍も美味しく感じられる。
「夏祭りでもよく見るし、そもそもトウモロコシの収穫時期が夏だからなぁ」
いつ食べても美味いけど、やっぱり夏が一番だなと笑う青年。
一向に減らないコーンの山は、よく見ると夏の風物詩にも似ている。
秋田はよく晴れた空を見上げて、自分の皿から大きなひとかたまりのポップコーンをつまみ、天空の向こうへと掲げてみせた。
「見てください、入道雲ですよ。主君」
群青の空に浮かんだ、山のように大きな白雲に、秋田のポップコーンが重なって見える。塩の匂いは海の潮騒を思い起こさせて、まだ指先に残る熱は、夏の陽射しにもよく似ていた。
膨らんで弾けたトウモロコシの粒は、溢れる好奇心をまとい生き生きと駆ける秋田の影を色濃く映しているように思えて、青年は口に含んだ一粒の欠片まで、大切に噛み締めるのだった。
ワード『手を伸ばす』『輝き』『笑顔』
白い雲が映える、澄んだ蒼穹の下。
本丸裏手に広がる畑の一角。秋田藤四郎は麦わら帽子を深く被り、トウモロコシ畑をがさがさと掻き分けていた。辺りを駆ける音がざわめきを生み、風もないのに草木が激しく揺れる。
普通のトウモロコシよりも長めに、半ば放置状態で植えっ放しにされている爆裂種のトウモロコシ畑は、生き生きというよりも少し枯れたような雰囲気の佇まいだ。
しかしその中を忙しなく動き回る二人分の人影は、意気揚々とトウモロコシの収穫に励んでいた。
爽やかな夏の朝は好天に恵まれて、審神者の青年は首にかけたタオルで額を拭った。
「まだまだ真夏だなぁ。今日も暑くなりそうかな……」
呟いた声に、背の高いトウモロコシの群れの中からひょっこりと秋田が顔を出す。
せっかく被った麦わらは頭から外れ、白いゴム紐でかろうじて首に引っかかっていた。額に玉のような汗をかいて、両腕にはやや細身ながら立派なトウモロコシを何本も抱えている。
上がった口角から白い歯を覗かせ、「大収穫ですよ、主君!」と誇らしげな笑顔を見せる秋田。
主君と呼ばれた青年も、笑みを返して彼の頭に麦わら帽子を被せ直してやる。ふわふわした桃色の髪が風に揺れて、麦わらの下にすっぽりと収まった。
収穫したトウモロコシを、二人は手分けして縁側に並べていく。ぱりぱりになった髭ごと根元まで皮を剥くと、光沢のある粒がぎっしりと並んだ状態で現れた。秋田がそろりと表面を撫でてみると、指の腹に思いのほか硬い感触が当たる。
玩具のプラスチックのような質感に、秋田の大きな瞳が丸くなる。それに気づいた青年が、トウモロコシに紐を結び付けながら笑った。
「ちゃんと乾燥させないと、上手く弾けないからな。粒が硬いのは、美味しくなる証拠ってことだな」
「そういうものなんですね」
秋田はトウモロコシを不思議そうにまじまじと見つめて、青年を真似て紐を手にトウモロコシを括った。しばし静寂が辺りを包み、二人は日陰の縁側で黙々と作業をこなしていく。
作業をしている間に、他の刀剣男士たちが縁側を通りかかった。彼らは「楽しそうなことしてるじゃん」と腰を下ろし、縄の気配を敏感に察知した貞宗の打刀も手伝いに参加して、やがて本丸中の刀剣男士が集まってくる。
男士たちは畑のトウモロコシを収穫する係と、収穫されたものに縄を結び付ける係とに分かれ、手際よく役割分担して作業に加勢した。
トウモロコシ畑はすっかり丸裸にされ、「すっきりデスね」と満足げに微笑む村正の打刀に、彼と刀派を同じくする槍が「お前まで裸にならんでいい!」と声を荒らげている。
かなりの量のトウモロコシが収穫されて、その山にどんどんと紐が括りつけられていく。
あらかた括り終えると、青年はトウモロコシに結び付けた紐を持って縁側の軒下や使われていない物干し竿に吊るしていった。夏の陽射しを燦々と浴びて、黄金の粒が庭や軒先で眩しく輝いている。それは、金色のカーテンか波のようにも見えた。
「さて、あと半月ほどの我慢だな」
「楽しみですねぇ」
ゆらゆらと風に吹かれるトウモロコシの群れに、青年と秋田は目を細めてにこりと笑った。
それから二週間以上が経った日の午後。
「もういいかな」
そう呟いた青年に、秋田が喜びで目を輝かせた。本丸のあちらこちらに吊るされたトウモロコシを何本か下ろして、二人は厨へと向かった。
二人きりの厨で、青年と秋田はフライパンや油などの調理器具を用意してトウモロコシの種を指で剥いていく。ぽろぽろと落ちる粒々は普通のトウモロコシの粒よりも固く、フライパンに硬質な音を立てて散らばっていく。
油を引いたフライパンに粒を落とし終えると、青年は軽く炒ってから蓋をした。
数秒も経たないうちに、力強く、軽やかに弾ける爽快な音が響く。
初めのうちは少しずつ、徐々に勢い良く破裂音を轟かせるトウモロコシの種たちを、秋田は頬を紅潮させて見つめている。その瞳は星を宿しているかのように煌めき、コーンが暴れる様子を興味深そうに観察しては、満面の笑みが輝きを増していった。
焦げ付かないよう時折フライパンを揺すっては、まだかまだかと楽しそうな面持ちで中身を覗き込む。フライパンの中で縦横無尽に跳ねまわる無数の粒は、やがて蓋を吹き飛ばすのではないかと思わせるほどに激しい音を立てた。
まるで無数の打ち上げ花火のような大爆発の後、コーンたちは作り始めの頃と同じように、少しずつ大人しくなっていく。先ほどの大暴れが嘘のように鳴りを潜めた種――もう充分に皮がめくれて膨れ上がったポップコーンを見て、秋田が期待を込めた表情で青年の方を振り向いた。
「もう、大丈夫でしょうか」
わくわくとポップコーンのように弾んだ声で問われて、青年は「いいんじゃないか?」と蓋の取っ手に手をかける。秋田が声には出さず「ああ!」という顔をしたので開ける役目を譲ってやると、見た目相応の子どもらしい顔でいそいそと蓋を持ち上げた。
ふわりと香ばしい匂いがあがり、余熱で飛び出したポップコーンが一粒、逃げるように床へ転がった。拾い上げて口に含むと、程よい熱さのかたまりがサクッと気持ちの良い音を立てる。
「あ、主君ずるいですよ!」
重さのある蓋をゆっくり布巾の上におろして抗議した秋田に、「開ける係は譲っただろー」と言いながら粒を二つ、三つとまとめて押し込んでやる。
あふっと声をあげたのも束の間。秋田は出来立てのポップコーンに、声が出ないくらいの感動の息を漏らした。
「っ……おいしいですね!」
初めての手作りポップコーンに、頬が落ちそうなほど破顔する秋田へ、青年もにっこりと笑って頷いた。
山ほど作ったポップコーンに塩をかけていると、香りにつられた男士や動物たちが集まってきた。
居間や厨に続々と集まってきた刀剣男士が、乾燥中のトウモロコシを下ろしたり調理したりする賑やかな声が響く。
出来立てのポップコーンは手分けして大皿に盛りつけられ、各々が小皿を出して思い思いの場所で八つ時に入る。鳴狐や白山、五虎退に獅子王などは、自分のお供にも専用の皿で分けてやっている――にっかり青江の皿から独りでにポップコーンが消えるのを、脇差仲間である浦島が亀に味付けのされていないコーンを与えながら、青ざめた表情で凝視していた。なにはともあれ、平和で穏やかな風景だ。
収穫、及び初めての調理の功労者である秋田と青年は、縁側に並んで腰かけていた。
後続たちが作ったキャラメルやチーズにカレー、醤油バターといった多種多様な味付けのポップコーンをちょっとずつ器に盛りながら、二人ともが一番多く手を伸ばすのは、やはり定番の塩味だ。
「……ポップコーンって、なんだか『夏』って感じがしますよねぇ」
コーンの隣に吊るされた風鈴の音を聴きながら呟く秋田に、青年も「あー、確かにそうだな」とポップコーンをかじりながら同意する。歯に挟まらないよう気を付けながら、さくっと小気味良い音を立てて味わうと、外を見ながら食べるポップコーンはいつもより何倍も美味しく感じられる。
「夏祭りでもよく見るし、そもそもトウモロコシの収穫時期が夏だからなぁ」
いつ食べても美味いけど、やっぱり夏が一番だなと笑う青年。
一向に減らないコーンの山は、よく見ると夏の風物詩にも似ている。
秋田はよく晴れた空を見上げて、自分の皿から大きなひとかたまりのポップコーンをつまみ、天空の向こうへと掲げてみせた。
「見てください、入道雲ですよ。主君」
群青の空に浮かんだ、山のように大きな白雲に、秋田のポップコーンが重なって見える。塩の匂いは海の潮騒を思い起こさせて、まだ指先に残る熱は、夏の陽射しにもよく似ていた。
膨らんで弾けたトウモロコシの粒は、溢れる好奇心をまとい生き生きと駆ける秋田の影を色濃く映しているように思えて、青年は口に含んだ一粒の欠片まで、大切に噛み締めるのだった。