甘々文字書きワードパレットBL
お題:ポップコーン 堀川国広×加州清光
ワード『手を伸ばす』『輝き』『笑顔』
照明を落とした薄暗闇の洋室。煌々と光るテレビの液晶だけが、二人の顔を青白く照らしている。二人の前には特大サイズの菓子袋――市販のポップコーンが開けてあり、中身は三分の二ほどに減っていた。
塩の香りをまとったポップコーンを一口分つまんで、加州はそれを堀川の口元に運ぶ。
テレビ画面いっぱいに美しい女優が大写しになり、彼女が切々と語る感情のこもった台詞を聞きながら、堀川は薄く口を開いてポップコーンを咀嚼した。加州が満足げな笑顔を見せる。
「これ、けっこう面白いね。借りて良かった」
「そう?」
「うん。個人的に今年見た映画で好きなやつ上位に入るかも」
「清光くん、今年まだ二、三本くらいしか見てないでしょ」
笑う堀川に、加州はむっとした表情で「これからまたいろいろ見るかもしんないけど、この映画を超えるのは、なかなかなさそうって意味ー」と唇を尖らせた。
「意地悪言うならあげない」
言って、加州はつまんだポップコーンを自分の口に運ぶ。堀川にあげるより多めの量を頬張り、リスのように頬を膨らませて画面を見る横顔に、堀川はくすくす笑いを漏らした。
「ごめんごめん。でも、これそんなに気に入った?」
軽いトーンで尋ねると、加州は少し驚いた様子で目を丸くした。ややあって、眉を八の字に下げて堀川に問い返す。
「堀川は、この話あんまり好きじゃない?」
なぜか泣きそうな顔をしている加州の前、流れ続ける映像の中の女優も、泣きそうな顔をしていた。映像から目を離して加州の方を向き、堀川は言葉を選びながら曖昧に答えた。
「うーん……面白くないわけじゃないんだけど、僕としてはピンとこないかなぁ」
「好きでも嫌いでもないって感じ?」
重ねられた問いへ素直に頷くと、加州は残念そうに肩を落とした。「そっかぁ」
塩気の強いポップコーンを一口かじり、加州は堀川から画面の女優へと視線を移す。女優は泣き出しそうな笑い出しそうな表情で、この世界は幸せで溢れているんだと繰り返していた。
「雰囲気は、けっこう好きだけど」
繕うように言った堀川に、加州は首を傾げて、女優と堀川を見比べるように顔を動かした。
「あー、まあ、雰囲気は好きそう。でも、内容はそんなに?」
指についた塩を舐める加州。堀川は目を細めて首を縦に振り、加州は苦笑して「たしかに、堀川ってこういう話は好きじゃなさそうだね。うん」と納得したように呟いた。
女優が「この世界は幸せだらけなんだよ」と泣き笑うシーンを見ながら、加州は堀川の肩にそっともたれかかる。耳からさがるイヤリングが、テレビの液晶を反射してきらきら光った。
物語はそろそろ終盤に差し掛かる頃合いで、結末に向けて予想外の方向へ展開するストーリーを追いながら、堀川は加州の口にポップコーンを入れてやる。加州がもぐもぐと口を動かし、「あっ、歯に挟まった」と眉を寄せ、片手で口元を覆ってもごもごやった。
それから何十分かして、映画は主人公の微笑と共に幕を閉じた。穏やかでどこか寂しい感じのするエンディングテーマが流れ、スタッフロールが映画の終幕を飾る。加州は薄くにじんだ涙で目元を赤くして、堀川は加州の頭をぽんぽんと撫で、立ち上がって部屋の電気をつけた。白い光が点滅し、人工的な蛍光灯の明かりが室内を満たす。
「あー、最後のシーン、なんかすごい泣けちゃった。シリアスな場面でああいうふざけた感じの、なんか、胸にぐっとくるよね」
鼻をすすり、抽象的かつ感覚的な感想を述べる加州に、堀川は映画を見る前と同じけろりとした顔で「うん、あそこはけっこう面白かったかな」と同意した。
加州は万屋の袋から新しいポップコーンを出して、開けている袋の隣に置いた。新しい方はキャラメル味で、先ほどから食べている塩味の方とは違って普通サイズの大きさだ。塩味は、あまり積極的に食べない堀川と、終盤に近付くにつれて手が止まっていた加州のせいで、三分の一ほど中身が残っていた。
「次は堀川の好きなやつだよね。またホラー系?」
「ホラーっていうか、ちょっとグロ系?」
レコーダーからDVDを取り出し、他のDVDを入れて閉じた堀川は、万屋の袋からカレー味のポップコーンを取った。再び部屋の電気を消して、オープニングが再生される前に袋を開ける。途端に、スパイシーな香りが部屋中に漂った。
「ポップコーンってさ、塩はともかく、カレーとかキャラメルは匂い凄いよね」
キャラメル味の袋を開けてさっそく食べている加州が呟き、堀川も「なんか、甘い匂いと辛い匂いが混ざってるね」と笑った。
暗い画面に映画制作会社のロゴが表示され、おどろおどろしいオープニング映像が流れ始める。恐怖を煽る演出と、見るだけで痛覚を刺激されそうな映像は、刀剣男士の目から見てもたしかにグロテスクだった。
「こういうグロいやつ見るときに辛い味食べるの、なんか嫌じゃない?」
赤と黒で構成された画面を眺めつつ加州が堀川を見て、堀川は「甘いもの食べる方が、雰囲気に合わなくないかな」と返す。
「映画自体が怖い系だから、甘いものでバランスとってんの」
言い返して、加州は先ほど残した塩味のポップコーンをキャラメル味の袋に入れて軽く混ぜた。「塩キャラメルみたいになるかな……うん、けっこう美味しい」
堀川にも「一口いる?」と分け与えると、堀川は「あー、しょっぱいのと甘いのとで美味しいね」とまんざらでもない口調で首肯する。「こっちも食べる?」と堀川がカレー味の袋を差し出して、加州は「俺、辛いのとか苦手だって」と首を横に振る。
映画は序盤から不穏な空気を醸し出して、加州はキャラメルの甘みを意識しながら、ごくりと唾を飲みこんだ。話自体は王道のホラーで、しかし物語が進むにつれて、その真相には主人公を始めとした人間が深く関わっていると言及される。血や肉片が散るグロテスクなシーンで加州は「うわ、」と気持ち悪そうな声を出し、それでも食い入るように画面を見つめていた。
二時間と少しが、長いようで短い奇妙な時間に感じられながら、物語はテンポ良く進んだ。怪奇現象および猟奇的な事件の黒幕はやはり人間で、この映画のテーマは人間自身の恐ろしさらしい。
起承転結の転にあたる部分で、殺人鬼が暴虐の限りを尽くす様を見て、加州は思わず本音を漏らす。
「結局、いちばん怖いのは人間ってやつ?」
ベタっていうか、ありきたりっていうか、と続けた声は呆れた調子で、けれど堀川は「まあ、こういうのは昔から、なんだかんだ人気だし」と苦笑いする。
「堀川って、こういう『人間がいちばん怖い』系のやつ好きだよね」
グロから目を逸らし堀川の顔を見る加州に、「そうかも」と堀川が事もなげに肯定する。
「人間がいちばん怖いって当たり前だと思うんだけど、それでも定期的にその恐怖を再確認しようとする人間の作るものに惹かれるっていうか」
「んー……よくわかんない」
率直な言葉で首を捻り、加州は「っていうか、殺人鬼と怨霊が一緒に出てくるホラーグロ映画ってシュールじゃない?」と未だ画面内で暴れる殺人鬼を見て薄く笑った。
「オカルトとグロって、混ぜるのはどうなの」
「まあ、面白ければなんでもいいんじゃないかな」
言いながら堀川も笑って、血飛沫と人間の断面が映されるクライマックスシーンで、二人は実に和やかな雰囲気で会話を続けた。
映画を二本、立て続けに見終わって、今度は加州が部屋の電気をつける。蛍光灯の明かりがポップコーンの袋を照らし、銀のアルミがきらきらと輝きを放った。
部屋の隅に寄せていたテーブルをテレビ前に戻して、テーブルの上に袋を置き、加州は食べ残ったポップコーンの中身に手を伸ばす。
「それにしても、俺たちってけっこう好み違うよね。食べ物も、映画もさ」
複雑そうな顔で呟いた加州に、堀川は「そうだね」とあっさり返して、「でも、違ってる方が面白いんじゃないかな。似た者同士よりは刺激があると思うし」と加州を見た。「清光くんって、もしも清光くんみたいな人とか刀がいたら、なんか毛嫌いしそうだし」
「あー……同族嫌悪ってやつ? それはちょっとわかるかも……自分に似てる奴とか、考えるだけで嫌じゃない? 堀川も、なにげに同族嫌悪とかしそう」
けらけらと笑い、加州はふと綺麗に食べきったポップコーンの袋に目をやった。
定番の塩味に、甘いキャラメル味と、スパイスの効いたカレー味。どれも元は同じトウモロコシのはずだが、その味わいはどれも個性的でばらばらだ。
「……同族嫌悪って言ったけどさ、今の俺たちって、どこまでが『加州清光』や『堀川国広』なんだろうね」
唐突な言葉に、堀川が「……って言うと?」と詳しい説明を促した。加州は、赤い瞳をぼんやりと細めてポップコーンの袋を丸め、ゴミ袋に入れる。
「このポップコーンだって、最初は全部ただのトウモロコシでしょ? それをわざわざ乾かして加熱して、塩とかカレーとかでいろいろ味付けして……そしたらもう、全然別物みたいな味になっちゃうじゃん?」
そういう感じ、と締めた加州に、堀川は納得したように「あー」と頷いた。
「顕現してからどんな本丸で過ごしたか、みたいな……環境による個体差? 個体差が大きかったら、確かに同族嫌悪とかは抱きにくいかも」
顎に手を添えて頷く堀川に、加州はやや不安げな眼差しを向けた。
「個体差があってもなくてもさ、俺以外の『俺』のこと、好きになったりしないでよね」
ぎゅっと腕に抱き着き、赤くなった頬とすがるような視線で堀川を見つめる加州。
右腕を封じられた堀川は、ふっと笑って、加州の頭を優しく撫でた。
「大丈夫だよ。僕にとっての加州清光は清光くんだけだから」
その一言で、加州は柔らかく頬を緩ませて照れくさそうに笑う。
「俺も。俺も、堀川だけが堀川って感じ、するなぁ」
機嫌良く堀川の腕に頭をすりつける加州の髪に触れながら、堀川は加州が捨てたゴミ袋の中のポップコーンの袋を見た。
贅沢なほどに、いくつもの種類で溢れるその味を、たった一つしか知らないというのは勿体ないのかもしれない。もっといろいろなものを食べてみれば、今よりも美味しく感じる味に出会うことが出来るのかもしれない。……それでも。
「――清光くん」
耳元で囁いて名を呼べば、加州が「なに?」と顔を上げる。その唇に素早くキスをして、堀川は「好きだよ」と甘い告白を口にした。
「なに、急に……俺もだけど、」
真っ赤になってうつむいた加州は、やり返すとばかりに積極的に堀川へ口付けを返す。
唇から伝わるキャラメルの甘みを感じながら、他の味なんて知らなくてもいいやと、堀川は柔らかい微笑みを浮かべるのだった。
ワード『手を伸ばす』『輝き』『笑顔』
照明を落とした薄暗闇の洋室。煌々と光るテレビの液晶だけが、二人の顔を青白く照らしている。二人の前には特大サイズの菓子袋――市販のポップコーンが開けてあり、中身は三分の二ほどに減っていた。
塩の香りをまとったポップコーンを一口分つまんで、加州はそれを堀川の口元に運ぶ。
テレビ画面いっぱいに美しい女優が大写しになり、彼女が切々と語る感情のこもった台詞を聞きながら、堀川は薄く口を開いてポップコーンを咀嚼した。加州が満足げな笑顔を見せる。
「これ、けっこう面白いね。借りて良かった」
「そう?」
「うん。個人的に今年見た映画で好きなやつ上位に入るかも」
「清光くん、今年まだ二、三本くらいしか見てないでしょ」
笑う堀川に、加州はむっとした表情で「これからまたいろいろ見るかもしんないけど、この映画を超えるのは、なかなかなさそうって意味ー」と唇を尖らせた。
「意地悪言うならあげない」
言って、加州はつまんだポップコーンを自分の口に運ぶ。堀川にあげるより多めの量を頬張り、リスのように頬を膨らませて画面を見る横顔に、堀川はくすくす笑いを漏らした。
「ごめんごめん。でも、これそんなに気に入った?」
軽いトーンで尋ねると、加州は少し驚いた様子で目を丸くした。ややあって、眉を八の字に下げて堀川に問い返す。
「堀川は、この話あんまり好きじゃない?」
なぜか泣きそうな顔をしている加州の前、流れ続ける映像の中の女優も、泣きそうな顔をしていた。映像から目を離して加州の方を向き、堀川は言葉を選びながら曖昧に答えた。
「うーん……面白くないわけじゃないんだけど、僕としてはピンとこないかなぁ」
「好きでも嫌いでもないって感じ?」
重ねられた問いへ素直に頷くと、加州は残念そうに肩を落とした。「そっかぁ」
塩気の強いポップコーンを一口かじり、加州は堀川から画面の女優へと視線を移す。女優は泣き出しそうな笑い出しそうな表情で、この世界は幸せで溢れているんだと繰り返していた。
「雰囲気は、けっこう好きだけど」
繕うように言った堀川に、加州は首を傾げて、女優と堀川を見比べるように顔を動かした。
「あー、まあ、雰囲気は好きそう。でも、内容はそんなに?」
指についた塩を舐める加州。堀川は目を細めて首を縦に振り、加州は苦笑して「たしかに、堀川ってこういう話は好きじゃなさそうだね。うん」と納得したように呟いた。
女優が「この世界は幸せだらけなんだよ」と泣き笑うシーンを見ながら、加州は堀川の肩にそっともたれかかる。耳からさがるイヤリングが、テレビの液晶を反射してきらきら光った。
物語はそろそろ終盤に差し掛かる頃合いで、結末に向けて予想外の方向へ展開するストーリーを追いながら、堀川は加州の口にポップコーンを入れてやる。加州がもぐもぐと口を動かし、「あっ、歯に挟まった」と眉を寄せ、片手で口元を覆ってもごもごやった。
それから何十分かして、映画は主人公の微笑と共に幕を閉じた。穏やかでどこか寂しい感じのするエンディングテーマが流れ、スタッフロールが映画の終幕を飾る。加州は薄くにじんだ涙で目元を赤くして、堀川は加州の頭をぽんぽんと撫で、立ち上がって部屋の電気をつけた。白い光が点滅し、人工的な蛍光灯の明かりが室内を満たす。
「あー、最後のシーン、なんかすごい泣けちゃった。シリアスな場面でああいうふざけた感じの、なんか、胸にぐっとくるよね」
鼻をすすり、抽象的かつ感覚的な感想を述べる加州に、堀川は映画を見る前と同じけろりとした顔で「うん、あそこはけっこう面白かったかな」と同意した。
加州は万屋の袋から新しいポップコーンを出して、開けている袋の隣に置いた。新しい方はキャラメル味で、先ほどから食べている塩味の方とは違って普通サイズの大きさだ。塩味は、あまり積極的に食べない堀川と、終盤に近付くにつれて手が止まっていた加州のせいで、三分の一ほど中身が残っていた。
「次は堀川の好きなやつだよね。またホラー系?」
「ホラーっていうか、ちょっとグロ系?」
レコーダーからDVDを取り出し、他のDVDを入れて閉じた堀川は、万屋の袋からカレー味のポップコーンを取った。再び部屋の電気を消して、オープニングが再生される前に袋を開ける。途端に、スパイシーな香りが部屋中に漂った。
「ポップコーンってさ、塩はともかく、カレーとかキャラメルは匂い凄いよね」
キャラメル味の袋を開けてさっそく食べている加州が呟き、堀川も「なんか、甘い匂いと辛い匂いが混ざってるね」と笑った。
暗い画面に映画制作会社のロゴが表示され、おどろおどろしいオープニング映像が流れ始める。恐怖を煽る演出と、見るだけで痛覚を刺激されそうな映像は、刀剣男士の目から見てもたしかにグロテスクだった。
「こういうグロいやつ見るときに辛い味食べるの、なんか嫌じゃない?」
赤と黒で構成された画面を眺めつつ加州が堀川を見て、堀川は「甘いもの食べる方が、雰囲気に合わなくないかな」と返す。
「映画自体が怖い系だから、甘いものでバランスとってんの」
言い返して、加州は先ほど残した塩味のポップコーンをキャラメル味の袋に入れて軽く混ぜた。「塩キャラメルみたいになるかな……うん、けっこう美味しい」
堀川にも「一口いる?」と分け与えると、堀川は「あー、しょっぱいのと甘いのとで美味しいね」とまんざらでもない口調で首肯する。「こっちも食べる?」と堀川がカレー味の袋を差し出して、加州は「俺、辛いのとか苦手だって」と首を横に振る。
映画は序盤から不穏な空気を醸し出して、加州はキャラメルの甘みを意識しながら、ごくりと唾を飲みこんだ。話自体は王道のホラーで、しかし物語が進むにつれて、その真相には主人公を始めとした人間が深く関わっていると言及される。血や肉片が散るグロテスクなシーンで加州は「うわ、」と気持ち悪そうな声を出し、それでも食い入るように画面を見つめていた。
二時間と少しが、長いようで短い奇妙な時間に感じられながら、物語はテンポ良く進んだ。怪奇現象および猟奇的な事件の黒幕はやはり人間で、この映画のテーマは人間自身の恐ろしさらしい。
起承転結の転にあたる部分で、殺人鬼が暴虐の限りを尽くす様を見て、加州は思わず本音を漏らす。
「結局、いちばん怖いのは人間ってやつ?」
ベタっていうか、ありきたりっていうか、と続けた声は呆れた調子で、けれど堀川は「まあ、こういうのは昔から、なんだかんだ人気だし」と苦笑いする。
「堀川って、こういう『人間がいちばん怖い』系のやつ好きだよね」
グロから目を逸らし堀川の顔を見る加州に、「そうかも」と堀川が事もなげに肯定する。
「人間がいちばん怖いって当たり前だと思うんだけど、それでも定期的にその恐怖を再確認しようとする人間の作るものに惹かれるっていうか」
「んー……よくわかんない」
率直な言葉で首を捻り、加州は「っていうか、殺人鬼と怨霊が一緒に出てくるホラーグロ映画ってシュールじゃない?」と未だ画面内で暴れる殺人鬼を見て薄く笑った。
「オカルトとグロって、混ぜるのはどうなの」
「まあ、面白ければなんでもいいんじゃないかな」
言いながら堀川も笑って、血飛沫と人間の断面が映されるクライマックスシーンで、二人は実に和やかな雰囲気で会話を続けた。
映画を二本、立て続けに見終わって、今度は加州が部屋の電気をつける。蛍光灯の明かりがポップコーンの袋を照らし、銀のアルミがきらきらと輝きを放った。
部屋の隅に寄せていたテーブルをテレビ前に戻して、テーブルの上に袋を置き、加州は食べ残ったポップコーンの中身に手を伸ばす。
「それにしても、俺たちってけっこう好み違うよね。食べ物も、映画もさ」
複雑そうな顔で呟いた加州に、堀川は「そうだね」とあっさり返して、「でも、違ってる方が面白いんじゃないかな。似た者同士よりは刺激があると思うし」と加州を見た。「清光くんって、もしも清光くんみたいな人とか刀がいたら、なんか毛嫌いしそうだし」
「あー……同族嫌悪ってやつ? それはちょっとわかるかも……自分に似てる奴とか、考えるだけで嫌じゃない? 堀川も、なにげに同族嫌悪とかしそう」
けらけらと笑い、加州はふと綺麗に食べきったポップコーンの袋に目をやった。
定番の塩味に、甘いキャラメル味と、スパイスの効いたカレー味。どれも元は同じトウモロコシのはずだが、その味わいはどれも個性的でばらばらだ。
「……同族嫌悪って言ったけどさ、今の俺たちって、どこまでが『加州清光』や『堀川国広』なんだろうね」
唐突な言葉に、堀川が「……って言うと?」と詳しい説明を促した。加州は、赤い瞳をぼんやりと細めてポップコーンの袋を丸め、ゴミ袋に入れる。
「このポップコーンだって、最初は全部ただのトウモロコシでしょ? それをわざわざ乾かして加熱して、塩とかカレーとかでいろいろ味付けして……そしたらもう、全然別物みたいな味になっちゃうじゃん?」
そういう感じ、と締めた加州に、堀川は納得したように「あー」と頷いた。
「顕現してからどんな本丸で過ごしたか、みたいな……環境による個体差? 個体差が大きかったら、確かに同族嫌悪とかは抱きにくいかも」
顎に手を添えて頷く堀川に、加州はやや不安げな眼差しを向けた。
「個体差があってもなくてもさ、俺以外の『俺』のこと、好きになったりしないでよね」
ぎゅっと腕に抱き着き、赤くなった頬とすがるような視線で堀川を見つめる加州。
右腕を封じられた堀川は、ふっと笑って、加州の頭を優しく撫でた。
「大丈夫だよ。僕にとっての加州清光は清光くんだけだから」
その一言で、加州は柔らかく頬を緩ませて照れくさそうに笑う。
「俺も。俺も、堀川だけが堀川って感じ、するなぁ」
機嫌良く堀川の腕に頭をすりつける加州の髪に触れながら、堀川は加州が捨てたゴミ袋の中のポップコーンの袋を見た。
贅沢なほどに、いくつもの種類で溢れるその味を、たった一つしか知らないというのは勿体ないのかもしれない。もっといろいろなものを食べてみれば、今よりも美味しく感じる味に出会うことが出来るのかもしれない。……それでも。
「――清光くん」
耳元で囁いて名を呼べば、加州が「なに?」と顔を上げる。その唇に素早くキスをして、堀川は「好きだよ」と甘い告白を口にした。
「なに、急に……俺もだけど、」
真っ赤になってうつむいた加州は、やり返すとばかりに積極的に堀川へ口付けを返す。
唇から伝わるキャラメルの甘みを感じながら、他の味なんて知らなくてもいいやと、堀川は柔らかい微笑みを浮かべるのだった。