桜並木に君を想う
大勢の審神者や刀剣男士が行き交う、商店街の一角。万屋の自動扉が開いて、二人の刀剣男士が現れた。左腕で買い物袋を抱えた黒髪の少年が、右手に袋を提げる桃色の髪をした少年の手を引いて歩いている。
「今日は、やたらと人が多いな……秋田、はぐれないようにね」
黒髪の少年――加州清光は、そう言って秋田藤四郎の手を軽く握りなおす。秋田と呼ばれた少年も、笑いながら加州の手を優しく握り返した。
「迷子になったら困りますもんね」
ぐるりと辺りを見回せば、万屋の周辺には他にもたくさんの『加州清光』と『秋田藤四郎』がいた。きっと彼らもどこかの本丸の初期刀であり、初鍛刀なのだろう。
彼らにもそれぞれの物語があるのだろうが、元々は同じ刀剣から生まれた存在であることに変わりない。見た目はどの加州や秋田もよく似ていて、この中で万が一にもはぐれてしまったら、お互いを見つけるのはそれなりに大変そうだ。
「でもまあ、うちの秋田のこと、絶対見つける自信はあるけどね」
不思議だよね、と笑う加州。秋田も満面の笑みで応じる。
「やっぱり、僕にとっての加州さんは加州さんだけですし、加州さんにとっての秋田藤四郎も、僕だけですから」
「……そうはっきり言葉にされると、恥ずかしいもんがあるな……」
わずかに頬を朱色に染め、加州は秋田と共に本丸への道を仲良く歩いていく。
道中、並木道に咲く桜の花を見上げて、二人は感嘆の声を上げた。
「綺麗だねー」
「……きっと、この花を植えた人たちも、どれが自分の植えた花かっていうのは一目でわかるんでしょうね」
爽やかに晴れた青空の下、鮮やかに咲き誇る桜の花々は、この世界に無数に存在する本丸のようでもあった。どの花木にもそれぞれの物語と思い出があり、始まりの存在があるのだろう。
もちろん加州と秋田にも、彼らだけが紡いできた特別な歴史があり、かけがえのない絆がある。
「……誰かが種を蒔いてくれて、ときどき冷たい雨が降っても、そのおかげで大きく成長することができたりして」
「歴史って、ほんと面倒くさくて……でも、だからこそ俺たちがここにいるんだよな」
秋田の言葉を加州が継いで、どちらからともなく笑う。そして、繋いでいる手に優しく力を込める。
涼やかな風に包まれながら、二人は舞い散る桜花を眩しい想いで見つめていた。
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