星守る僕ら
クリスマスの朝は、目が覚めた瞬間から特別な雰囲気に包まれていた。頬を撫でる冷えた空気も、今朝はどこか神聖なものに感じられる。
澄んだ冬の匂いを肺いっぱいに吸い込んで、大和守安定は布団から起き上がり背を伸ばした。
ふと、枕元に赤い包みが置いてあることに気付き、そっと手に取って丁寧に包装を解く。緑のリボンでラッピングされたプレゼント中身を見て、大和守は青い瞳を輝かせて満面の笑みを浮かべた。
着替えて広間に行くと、昨日の夜クリスマスパーティーで使ったままの長机に、何人かの男士が着席していた。いつもより人数が少ないように見えて首を傾げ、短刀の姿が見えないことに気付く。
すでに席に着いている加州清光に声を掛け、「おはよ」「おはよー」と挨拶を交わし、盆に朝餉を載せて彼の隣に腰を下ろす。湯気の立つ味噌汁をすすりながら、大和守は広間の壁に寄せられたクリスマスツリーを見た。
昨夜は電飾できらきらと輝いていた作り物のモミの木は、今は松ぼっくりやジンジャークッキーの飾りを纏って静かに佇んでいる。
昨晩の祭り騒ぎが終わった寂しさを感じさせたが、これから年末に向けて忙しくなることが分かっているから、束の間の休息といった安らぎもあった。
「なんか静かだね」
広い部屋に数人が散らばっているせいで余計に静かに思える広間を見回すと、加州が沢庵をかじりながら答えた。
「短刀たちがまだ部屋だからね。今頃プレゼント開けて大喜びしてるんじゃない?」
「プレゼントかぁ……。お前、主に何貰った?」
大和守が何となしに尋ね、加州は「手袋と靴下~。最近冷えるって言ってたの、覚えててくれたみたい」と口角を緩めた。
そして少し声を潜め、「っていうかお前、主に貰ったとか短刀の前で言うなよ? サンタ信じてる奴いるみたいだし」と耳打ちする。
「で、お前は何貰ったの?」
気を取り直して質問を返した加州に、大和守もにっこりと顔をほころばせた。「まあ、聞かなくても察しは付くけど」と続けた加州へ、「新撰組の大河ドラマのDVD! えっと、平成? の時代のやつなんだって」と予想を裏切らない返答をする大和守。
加州は呆れた表情で笑い、「お前らしいなー」と呟いた。
朝食を終えて食器を片付け、広間に戻ると、ツリーの傍に星の飾りが落ちていた。金色のプラスチック製で、下側に太い突起が付いている。
拾い上げて、「わ、危ないな。踏んだら痛そう」と言う大和守に、加州がツリーを見やった。
「それ、ツリーのてっぺんのやつじゃない?」
言われてみると、モミの木の頂点にも星の飾りと似たような突起があった。爪先立ちをして手を伸ばし、星の突起をモミの木の先端に被せると、二つはぴったりと重なった。
「これ、いつまで飾ってるんだろうね」
「んー……まあせっかく出したんだし片付けは明日じゃない? ぼちぼち大掃除しなきゃだけど」
クリスマスツリーの星を見上げる大和守に、ふと加州が笑みを漏らす。
「なに?」
怪訝な表情を向けられて、加州は苦笑しながら目を細めた。
「や、何かお前犬みたいだなって。星守る犬」
「星守る犬?」
首を傾げた大和守へ、加州は「そ」と短く返して一緒になって星を見つめた。
「星を見上げてる犬みたいに、手が届かないものを求め続ける人のことなんだって」
軽い口調で言われ、思わず眉を寄せて加州を睨み付ける。
口を尖らせ、「お前に言われたくないんだけど」と言うと、「俺は今の主に愛されればそれで良いし」と淡白な声が返ってきた。
「薄情者」
深い溜息を吐いて苦笑いし、大和守は再びツリーの星を見る。作り物の星は照明を反射して硬質に光り、加州と大和守の瞳の色を表面に映していた。
「手が届かないとしてもさあ。せめて、沖田くんの生きた証は、出来るだけ多く知りたいよ」
こんな身体を得たんだし。
過去をなぞるように遠い目をして寂しげに微笑む大和守へ、加州もしょうがないなと言うような顔で嘆息して笑った。
「ま、それだけ愛されてたってことだしね」
「清光も新撰組のDVD見る? 長く愛される秘訣が分かるかもよ?」
冗談めかして尋ねられ、「はいはい」と笑いながら加州は大和守と共に大広間を後にする。
「DVD鑑賞会、長曽祢さんと和泉守と堀川も呼ぼうよ」
「みんな今日は非番だっけ? 暇してると良いけど」
大和守の無邪気に弾んだ声と加州の声が廊下に響き、少しずつ遠ざかっていった。
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